「ねえ、マハト」
私は軽く話を振る。目の前に座り、紅茶を嗜んでいる大魔族『黄金卿のマハト』に対して。
「私は人類の研究をし続けてきたわ、気が遠くなるほどの長い時を。それで思いついたのよ、一つの仮説を……人類を理解する一歩を」
『人類の理解』という一言でこちら側に目線を移すマハト。
人類を理解し共存するという目的を持つ彼にとってはとてつもなく魅力的な一言だろう。
「その仮説とやらは何なんだ?ソリテール」
「……それはね」
「家族の存在よ、マハト。友人でも弟子でもない……真に『大切』な存在である家族こそが、魔族に心を与える鍵となる」
まあ、魔族である私たちには難しい話だけれど…と私は続けた。
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「……懐かしい夢を見ていたわね」
昔マハトと話していた内容の一部。
どうやらマハトは人類とともにとある都市に住んでいるらしいし、しばらく会うことはないのだろう。
私はというと近くに集落もない山奥で一つ小屋を建てひそびそと生活している。
少し前までは人間の造船所を拠点としていたが、人間の兵士が付近を経路として利用し始めたので引越しをしてきた。私はただ研究ができればそれでいいのだ。
「それじゃあ、朝ごはんでも作ろうかな」
そう思い食料箱を漁る…が
「……食料がない」
私は基本的にここからかなり離れた都市まで向かい生活用品を集めている。
最後に食料を買ってきたのは一週間前……今から行けば二時間はかかる。
「うーん、どうしよう。近くに人間がいればその子を食べるんだけど……しばらく人を食べていないし久しぶりに探しに行こうかな」
魔族は人間を食べなくても生きてはいける。
普通の料理が食べれないわけではないし、人類と同じ食事をし続けても餓死せず栄養として還元される。
ただ、ものすごくイライラしてくる。つまり魔族は本能的に『人肉依存症』なのだ。などと考えていると
コンコン…とドアをたたく音が聞こえた。
ここを訪れる者はそう多くない……年に2~3回程度だ。そしてその殆どが旅人や兵士などの魔族に敵対心を持った人類が多い。
餌がやってきたのだと考え私はゆっくりと扉を開ける。
「たすけて……ください、おねがいします……」
扉の前にいたのは少女だった。
5歳程度で体にぼろぼろの服をまとった無表情の人間の子。
「君は何処から来たの?助けてってどういう意味?何があったの?…ねえ答えて?」
「………」
珍しい人間を見るとつい質問攻めをしてしまう……私の好奇心からなる悪い癖だ。
そんな私の質問の数々に対して目の前の少女はだんまりしている。助けを求めてはいるが心を開かず、さも拒否されるのが当然だという諦めの感情で立ち尽くしている。
だが、何より気になるのが『助けを求めているのは本心』だという事。
人類も魔族も「助けてください」「見逃してください」「家族がいるんです」と言葉を巧みに使い命乞いをすることがある。だがそこに含まれるのは、相手の気持ちを同情や懇願によって変え、見逃してもらうための噓に過ぎない。
だがこの子は本気で私に助けを求めている。
ツノを生やし、膨大な魔力を放出している大魔族であるこの私に対して。小規模の村から大規模の都市まで、生まれて数年の子供から数十年を生きた老人までに『魔族は人類の敵』だと伝えられているこの時代なのにもかかわらず、魔族に助けを求める……
こんな人間は初めて見た。
「ごめんなさい、いきなりこんなに話されても困るよね。じゃあ……」
「中でゆっくりお話ししましょう?」