ようこそ百折不撓の教室へ   作:烏兎 満

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少し短め。


第五話 百折不撓

 

 

 

 

 入学から二週間。

 俺は順風満帆な学園生活を送っている。

 

 さて、今日は堀北先輩に挨拶に向かおうと思っている。

 

 というのも、あと一週間でSシステムの答え合わせが始まる。

 

 この二週間で俺と松下は二人で情報を集めて、分かったことがある。

 先輩には、ポイントを持っている先輩ともっていない先輩に別れるのだ。

 そして、この二つに分かれる先輩方はそれぞれ、法則性があることがわかった。まぁ、法則性なんてたいそうなものじゃないが。

 

 その法則性とは、Dクラスの生徒がポイントを持っていなくて、Aクラスの生徒がポイントを持っている、というものだ。

 BとCに関しては差異がなく、わかりづらかったが、明らかにAとDにはポイントの保有量に大きな差がある。

 Aクラスだと多くのポイントがもらえるのか?

 Dクラスだとポイントはもらえないのか?

 全く見当はずれかもしれないが、Dクラスの先輩たちは二年でも三年でも関係なく金欠であることは間違いない。

 

 俺たちはDクラスだ。

 それがどのような基準で選ばれているのか、はたまたランダムなのか?

 

 しかし、俺たちがこれ以上を聞こうとすると先輩たちは口を揃えて、いうことはできない、と言っている。結局、俺たちのこれ以上の情報収集は、噂が広まってしまうため一週間前に止めた。

 

 それから、クラスでは極力無駄遣いをしないように一人ずつ話しかけて、来月ポイントもらえないかも、とそれとなく伝えておく。

 その際にクラス全員と多少親睦を深められているので、俺のクラスでの影響力は平田の次くらいだろう。

 

 松下にも俺の狙いは当にバレているのだが、松下は俺の陰に徹するらしく、クラスとの交友は一部にとどめているらしい。まぁ、広く浅い人間関係を作るのが面倒、というのもあるだろう。事なかれ主義の松下らしい。

 

 そして俺は挨拶も兼ねて、この学校の生徒会長である、堀北学にSシステムを聞きに行こうと思っているのだ。

 

 俺は松下じゃないので、そんなに上手く聞き出せない。

 堀北学に勘づかれないように聞き出すのは至難の業だろう。てか無理だ。

 なのでもう、堀北先輩には正面突破するしかないだろう。

 

 ということで放課後。

 俺は生徒会室の扉を3回ノックする。

 

 扉の向こうからは可愛らしい女の子の声が聞こえ、入室を促される。

 

「失礼します」

 

 出迎えてくれたのは紫色の髪をふたつのお団子にした女子の先輩だった。確か、部活説明会で進行役をしていた先輩だった気がする。

 

「どなたでしょうか?」

「一年Dクラスの佐崎涼といいます。堀北学先輩はいらっしゃいますか?」

 

 二つお団子の先輩は訝しげな表情をする。

 

「少々お待ちください」

「いや、待つ必要はない」

 

 堀北先輩はこちらにゆっくり歩きながら、目を細める。

 お団子先輩は一歩下がって堀北学に成り行きを任せるようだ。

 

「久しぶりだな、佐崎」

「久しぶりですね、堀北先輩」

「それで、何の用だ」

 

 どうやら、昔話をするつもりはないらしい。厳しい性格はお変わりがないようだ。

 俺は単刀直入にSシステムについて聞くことにした。

 

「単刀直入に聞きたいことがあるんですが「お前に話すことはない」…………理由を聞いても?」

「すでに三年生の間でお前のことは聞き及んでいる。ここにきた理由も察することは可能だ」

 

 おっと、上手く噂が広まる前に手を引けたと思っていたが、どうやらすでに情報は堀北学のところまでは広がっているらしい。そう考えるのが妥当だろう。

 

「では、何も教えてはくれないということですか?」

「そういうことだ。全ては一週間後の五月一日に明らかになるだろう」

 

 やはり、五月一日か。

 まぁ、堀北学は俺のことを大体理解している。

 少し話せば俺がSシステムの本質を見抜くことができてしまうことを知っているのだろう。

 彼は俺のこの人を観察する能力とそこから推測する力を買っていたのだ。それを恐れてこれ以上の対話は危険と判断したのだろう。でも、俺だってちょっと話しただけでそんなわかるものじゃない。そんなに警戒しないでほしいのだが、そこはお堅い生徒会長様だ。これ以上の対話は難しいだろう。

 

「一つだけ、後輩の頼みとして聞いてくれませんか?」

「答えられない質問ではないのなら、答えてやろう」

 

 質問じゃないのだが、まぁいい。

 

「俺はDクラスです」

「………それは知っている」

「じゃ、以上です」

 

 堀北学は訝しげな表情をした後に、難しそうに顔を歪める。

 俺はそんな堀北先輩を無視して生徒会室に背を向けた。

 

 収穫はあった。

 

 最大限に注意して堀北先輩の顔を観察した。

 俺がDクラスと言った時、彼は眉を顰めたのだ。

 

 それはただの、疑問にも感じられるが同時になぜお前が、という視線も感じ取ることができた。堀北先輩は俺のことを買っていたから、なぜお前がDクラスなんだ、という視線だと推測することができる。

 

 堀北先輩はAクラスだ。

 彼は優秀だ。勉学もできて自分にも他人にも厳しい。空手やら合気やらも嗜んでいて、身体能力も高い。

 人間として、高い能力を保持している。

 

 それをもとに考えると。

 AとD。

 Aを優秀な生徒とすると、Dは出来損ない、という推測が立つ。

 

 俺が出来損ない、か。

 松下だってどこが出来損ないなのかは理解できない。

 

 しかし、最近のDクラスは私語は当たり前、授業中にゲーム、遅刻に欠席。

 授業に集中しているのはほんのわずかだ。

 

 優秀とは言い難い。

 

 それに比べて俺の通学仲間である神崎のクラスは、私語はあるもののクラスの半分以上は真面目に授業を受けているらしい。

 

 神崎のクラスはBクラス。

 Cに関してはわからないが、ここまでくればAからDにかけて優秀で真面目な生徒が分けられていると嫌でも理解させられる。

 

 まだ、確定的ではないが、もう俺の中では決定的になりつつある。

 

 ふぅ。落ち着け。

 

 俺が出来の悪い生徒だなんて、認めたくない。

 誰だってそうだろう。

 出来が悪い、とレッテルを貼られるのは、耐え難い屈辱だろう。比較され、バカにされ、見下される。

 

 気分は重いが、受け入れなければならない。

 

 茶柱はなんて言っていた?

 実力で生徒を測る? 実力とはなんだ?

 

 クソ、いくら考えてもどれも推測に過ぎない。

 松下と話し合う必要があるだろう。

 堀北学の言う通り、全ては五月一日にわかる。

 それまでに俺に出来ることはなんだ。

 

 俺は重い足取りで寮への帰路へとつくのだった。

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 入学から三週間が経過した。

 

 明日で五月一日。

 すでに俺が出来るだけのことはした。

 

 まずは松下への相談だ。

 彼女は俺の話を聞くと、そう決めつけるのは早計じゃない? ということなので、俺たちの学年で他クラスの調査を開始。

 俺はある程度他クラスとのパイプがあるため、それとなく聞いてみたのだが、うちのクラスほど荒れてはいないらしい。

 それに、Cクラスはわからないが、Aクラスは全員授業を真面目に受けていて、私語も遅刻も欠席も一切ないらしい。

 

 どうやら、俺の推測は最悪なことに間違っていないようだ。

 

 それを聞いた松下は難しそうに表情を歪める。

 松下も自分が他より劣っている、という烙印をおされるのは不満があるようだ。

 

 

 そして、次にしたことは、授業を真面目に受けようという声がけだった。

 これには平田や櫛田も協力してくれて、昼休みに全員を集めて(高円寺は除く)授業中の私語、携帯の使用、居眠りをなるべく止めるようにしようと声がけをした。

 しかし、効果は薄いといえよう。

 現に二時間目の数学で、スマホゲームで盛り上がる池と山内は大声を出しているが、先生は注意しない。

 時々、後で後悔するぞ、というような視線を彼らに向けている。

 

 その視線が意味することが俺にはわからなかった。

 嫌な予感がする。脳の奥をガリガリと引っ掻かれているような、不快な予感。

 全員の授業態度を正さなければ、あとで後悔するという。

 

 だが、これ以上の声がけは今まで授業中に好き勝手やってきた奴らのヘイトを買いかねない。

 なぜ、今更、となれば俺のクラスでの立ち位置も危うくなるだろう。

 

「おい、難しい顔してどうしたんだよ」

 

 休み時間となり、どうすれば良いか、と頭の中で悩んでいると、須藤が心配そうにこちらの顔を覗き込んでくる。

 

 須藤はたまに居眠りはするものの、俺の話を聞いてくれたおかげで多少授業への姿勢が良くなった。いまだ学力のほどは変わっていないが、勉強への意欲が少しだけ出てきたと見るべきだろう。

 

「いや、悪い。少し考えごとだ」

「何かあればすぐ言えよ。あ、さっきの授業で出てきた、連立方程式ってなんだ?」

「ありがとな。で、連立方程式ってのは────」

 

 これ以上、俺に出来ることはないだろう。

 あとは、明日の結果を待つのみだ。

 

 と、思ったところで、三時間目の授業で茶柱が入ってきて、抜き打ちテストを行うらしい。

 しかし、成績には影響しないらしいが、果たしてどんな問題か。

 

 全国屈指の名門なので、どんな難しい問題が出てくるのか身構えたが、その内容は拍子抜けだった。

 どの問題も中学レベルの基礎的な問題だ。

 

 スラスラと答えを書きながら、あ、連立方程式あるじゃん、須藤解けてるかな、とか思っていると、最後の3問の問題に差し掛かり手が止まる。

 

 これは、習ったことのない問題だ。

 まず、問題の説明文ですら理解できなかった。

 

 意地悪な問題だ、と思いながら俺は他の問題の見直しをすることにしたのだった。

 

 

 

 

#

 

 

 

 ホームルームが終わり、俺は寮へと足を向ける。

 

 結局、俺が出来ることはこれ以上ないと思う。

 全力を尽くした結果だ。

 でも、やはり何かを見落としている気がする。

 

 AクラスからDクラスの生徒ではそれぞれのクラスごとにもらえるポイントが違う。

 これが俺と松下が出した結論だった。

 出来の悪い生徒が集まったクラスには毎月のもらえるポイントが低く、優秀な生徒の集まったクラスには高いポイントが支給される。

 そこにそれを覆す余地はない。

 

 明日の結果が、少し怖かった。

 

 

 校門に差し掛かったところで、後ろから声をかけられる。

 振り向くと、そこには松下が心配そうな顔で近づいてくる。

 

「佐崎くん、もう帰るの?」

「おう、今日はちょっと眠いからな」

「…………大丈夫? ちゃんと寝れてる?」

「………ちょっと寝不足か」

「あのことについてまだ気になるの? もう私たちにできることは十分したと思うけど」

 

 確かに、俺にできることは全部した。

 

「もし、取り返すことのできないことが明日起きたら?」

「それは、結果を受け入れるしかないと思う」

 

 明日、劣等生というレッテルを貼られるかもしれない。

 

 だが、俺には明日の結果を受け入れる覚悟が必要だ。

 

 そうだ、どんなに明日が不安で怖かったとしても、俺はやれることをした。

 なら、それを受け入れて、明日の結果も受け入れようじゃないか。

 

 どんなに失敗しても、挫折しても前を向ける心こそが俺の追い求めている理想だ。

 

 少し、自分の生き方を忘れていた。

 明日がどうなろうとも、現実を受け入れてやる。

 そう決意して、俺は松下に向き直る。

 

「そうだな。よし、この後カラオケでも行かないか?」

「あ、ごめん、この後遊ぶ予定があるんだ。また今度ね」

 

 俺の心は折れた。

 

 




よし、ここから難しくなるぞ!
作者の頭がバカなので、期待しないでね。
よう実難しい。
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