ようこそ百折不撓の教室へ   作:烏兎 満

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こっからが本番です。
前哨戦長すぎ。


第六話 ようこそ実力至上主義の教室へ

 

 

 

 

 五月一日。

 俺はいつも通り神崎と待ち合わせをしてから学校へと向かう。

 

「神崎、お前何ポイント振り込まれた?」

「65,000ポイントだ。学校のミスにしては微妙なポイント量だな」

「俺は0ポイントだ」

 

 0、と聞いて、神崎は悩ましげに眉を顰める。

 

 今日朝起きてからポイントの確認をすると、なんと昨日と変わっていなかった。

 Dクラスは一生0ポイントで過ごしていかなければならないのか、と戦慄した朝だった。

 これから山菜定食や無料商品に頼りながら生活する日々………憂鬱だ。俺もあの先輩みたいになっちまう。

 

 それに神崎Bクラスは、65000ポイントも振り込まれている。やや少なくなっているが、それでも大金だ。羨ましい限りである。

 ちなみに俺の全財産は56420ポイントである。

 

 神崎はそれっきり何かを考えているのか黙ってしまった。

 

 学校に到着して、教室に入った時、クラスメイトはみんなポイントについて話し合っていた。

 教室に入ってきた俺に気がついた須藤が声をかけてくる。

 

「おい、佐崎。お前振り込まれたか?」

「いや、1ポイントも振り込まれてないな」

「やっぱり、学校のミスだよな?」

 

 始業のチャイムがなり、茶柱が手に筒のポスターを手にしてやってくる。

 その顔は普段も厳しいが、今日はより厳しい顔をしている気がする。

 池が生理ですかー? とデリカシーのかけらもない発言をしているが茶柱は一切無視して口を開いた。

 

「これよりホームルームを始める。だが、その前に聞きたいことがありそうだな。質問のあるやつはいるか?」

 

 数人が手を挙げてその中の一人である本堂が指名される。

 

「あの、今日1日なのにポイントが振り込まれてないんですけど、ポイントが振り込まれるんじゃなかったんですか?」

「いや、このクラスにはしっかりと今月分のポイントは振り込まれた。学校の不手際は一切ない」

「え、でも………」

「お前たちは本当に愚かだな」

 

 茶柱は先ほどまでの厳しい無表情を、俺たちのことを心底見下すような笑みへと変えていく。

 

「ポイントは振り込まれた。このクラスだけ忘れられた、なんてことはない」

 

 その言葉を聞いて、高円寺は全てを理解したかのように笑う。

 

「はは、なるほどねティーチャー。私たちDクラスには0ポイントが支給された、ということだよ」

「お前の態度に問題はあるが、その通りだ」

 

 クラスがざわめく。

 

 そんなクラスの不安を代表するかのように平田が手を挙げる。

 

「先生、質問をいいですか?」

「なんだ平田」

「僕たちのクラスだけがなぜ振り込まれなかったか、理由を教えてください」

 

 俺が一番聞きたい質問の答えがようやく聞ける。

 これ次第では挽回の余地はある。

 茶柱は呆れたようなため息をついた後、幼児に物事を教えるが如く、一つ一つ丁寧に教えてくれた。

 

「遅刻、欠席、合わせて90回。授業中の私語や携帯を触った回数352回。

全く、呆れたものだ。この学校では()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり、お前たちは今月振り込まれるはずだった10万ポイントを全て吐き出したのだ」

 

 クラスの成績? 10万ポイントを全て吐き出した?

 

────まさか!

 

「入学式の際に説明したはずだ。この学校は実力で生徒を測る。つまり、お前たちは学校から0という評価を受けたということだ」

 

 俺は苦虫を噛み潰した気分になる。

 俺が見落としていた部分、それはDクラスの成績、つまり授業態度が毎月振り込まれるポイントの量に直結していたのだ。

 

 しくじった。

 失敗した。

 授業態度を改善しようとした時、声がけだけでなく、クラスメイトからのヘイトを気にせずに、無理矢理にでも授業態度を矯正すればよかったのだ。そうすれば、その時集めたヘイトを今日解消することができただろう。

 いや、これは結果論か。あの時の俺は打算的にヘイトを集めるリスクを考えて、それをしなかった。それに、もしかしたら、あの時無理矢理にでも授業態度を矯正していたとしても、もう、俺たちにポイントは残っていなかったかもしれない。そしたら、ヘイトの解消は難しかっただろう。

 

 クソ、いまさら後悔しても現実は良くならない。

 昨日決めたじゃないか。受け入れると。

 だが、俺は監視カメラに気づいていたし、それが授業態度を監視するものだと予測したのだ。わかっていたのだ、ただ、クラスの成績につながっているということには気づかなかったが。

 

 あぁ、クソ! 後悔ばかり頭に押し寄せてくる。

 受け入れろ、俺が今すべきことをしろ。

 

 俺は自分の気持ちを噛み殺し、頭を無理やり回転させながら、手を挙げる。

 

「なんだ、佐崎」

「先生、ポイントが0なのは授業中の私語や遅刻欠席などによるものですよね?」

「ああ、その通りだ。そうだ、可哀想なお前たちにいいことを教えてやる。お前たちが「これから毎月振り込まれるポイントを今の0ポイントから増やす方法はありますか?」………私の話を遮るのは問題だが、まぁいい」

 

 茶柱のその先の言葉を遮り、俺はそのまま質問を通す。

 

 茶柱は手に持っていた筒のポスターを広げる。

 そこには、各クラスの成績表のようなものが示されていた。

 

 Dクラスは0、Cクラスは490、Bクラスは650、Aクラスは940。

 

 AからDまで綺麗に分かれていることにクラスのみんなは疑問を持っているだろうが、俺と松下からしたらすでにその情報を知っているため、問題の答えを提示されたようなものだ。

 

「なぁ、これ綺麗に分けられ過ぎてないか?」

「ようやく気づいたか。この学校は学校の判断基準で優秀な生徒ほどAクラスへ、ダメな生徒ほどDクラスへと配属される。つまり、お前はたちは学校から最悪の不良品と判断されてこの教室に座っている。この結果を見れば、自分たちがどれほどの不良品なのかわかるだろう?」

 

 茶柱は俺たちのことを嘲るように一々癪に触る言い方で皮肉と共に事実を淡々と伝えてくる。

 しかし、このことに関してはすでに俺の中では処理できている。

 だが、クラスの奴らはみんな自分たちが不良品という烙印を押されたことに不満があるようだ。

 

 茶柱はその不満をより増幅させるかのように話を続ける。

 

「このポイントは卒業するまでずっと継続する。だが、安心しろ、寮の利用は無料だ、それに無料の商品は探せばいくらでも見つかることだろう。死にはしない」

 

 俺はこのタイミングで手を挙げる。

 卒業までずっと継続する、解釈の仕方で見方は変わってくる。

 

「話は最後まで聞くものだと中学で教わらなかったのか、佐崎。質問は後だ」

 

 ちっ、今すぐ聞きたいんだよアラサー教師め。

 俺の挙手は無視されて、茶柱は続ける。

 

「このポイントの数値はクラスのランクに反映される。つまり、お前たちの成績が500だった場合、お前たちはCクラスということだ」

 

 なるほど、この情報は知り得なかったな。

 そもそも俺はクラスの成績という基準を知らなかったのだから、これを推測するのは少し無理があっただろう。

 

「さて、お前たちに伝えなければならない話はまだまだある。これを見ろ」

 

 クラスの成績が貼り出された紙の隣に、クラスの名前とその横に数字が印刷された紙を広げる。

 

 これは、先日やった小テストの結果か。

 俺の名前は3位となっており、80点であった。

 それにしても、あんなに簡単だったテストだったが80点台を取っている生徒が10人程度しか存在しない。

 学校の測る実力は学力も含まれている、ということだろう。

 しかし、俺のように80点を取っている生徒や高円寺や幸村、堀北のように90点以上の得点を叩き出している生徒もいる。実力は学力だけではない、ということでもあるのだろう。

 なら、このクラスの全員には何かDクラスに配属されるだけの欠陥がある、という認識でいいか。

 

 茶柱は赤いペンで須藤の名前の上に赤い線を引いた。

 

「これが本番ではなくて本当に良かったな。これが本番であったのなら、7人が退学することになる」

「「はああああああ!?」」

 

 池や山内といった赤点メンバーは驚愕で叫び声を上げる。

 

 た、退学?

 そんな、嘘だろ?

 学校の容赦のなさすぎる対応に俺も目を見開く。

 確かに、真面目にやれば赤点なんて馬鹿げた点数を取らないかもしれない。しかし、何かのミスで、例えば試験終了1分前に全ての解答欄がずれていれば、そのミス一つで退学…………。

 重すぎるペナルティだ。

 

 しかし、このようなシステムにすることで全員の学力が上がるのは間違い無いだろう。これが学校の狙いか。

 

「最後にお前たちに伝えておこう。この学校は国の管理下にある。お前らもこの学校に進学すれば就職率、進学率100%、というものを信じて入学したはずだ。しかしそんな甘い話、世の中あるわけがないだろう。この恩恵に授かることができるのは、Aクラスのみの特権だ。つまり、お前たちDクラスにはその資格がない、と言うことだ」

「ふ、ふざけるなよ!! こんな話あってたまるか!!」

 

 叫んだのは学力が非常に高い幸村であり、このシステムに我慢ならないらしい。

 

 なるほどな、確かにこんな授業態度の奴らが自由に将来を選ばせてもらえるわけがない。

 薄々疑問に感じていたが、やはり裏があったか。

 この点に関しては冷静でいられたのは、多分俺が100%の進学率に応えるというのをあまり間に受けていなかったからだろう。

 

 しかし、クラスの成績がクラスのランクになるのならば、Aクラスに上がる方法もあると言っているようなものだ。

 

 高円寺が色んな生徒に反感を買うような態度を見せているが、あいつは唯我独尊を貫くやつだ。学校からのDクラスという評価もそれがどうした、と言わんばかりの態度をとるに、納得がいかない、というよりも学校が自分の実力を評価しきれなかった、という傲慢な結論に至っているが、あながち間違ってはいない。欠陥としては、その態度によるコミュニケーション能力のことだろう。

 

 クラスからどうしよう、という悩む声やなぜ自分がこんな目に、と怒りを表す生徒も出始める。

 俺は話がひと段落したのを確認してから再び質問をする。

 

「そろそろ俺の質問に答えてもらってもいいですか?」

「なんだ?」

「先生、このクラスのポイントというのは三年間増えることはないのですか?」

 

 俺のこの質問にDクラスの面々の半数は未だ色々な情報が流し込まれて混乱しているが、まだほんの少しの冷静さが残っている生徒たちは固唾をのんでその答えを見守る。

 

「…………それは、いうことはできない」

 

 ふむ、言い淀んだな。

 ということは、この三年間で何かしらのクラスポイントを上げる術があると考えるのが妥当だろう。

 この茶柱という先生は、俺たちのことを徹底的に絶望させようとしてくる。きっと、この結果を受け止めて成長してほしい、という気持ちもあるのだろうが、受ける側としてはたまったものじゃない。

 しかし、このDクラスにはその絶望も必要だろうが、希望の光も必要だ。

 絶望を与えてそこから挽回する活路も与える。

 

「ほぅ、なるほど。ありがとうございます」

「………よし、これでホームルームを終わる。今日から三週間後には中間考査が行われる。しっかりと勉学に励み、退学を回避してくれ。お前たちが赤点を回避する方法は必ずあると確信している。できることなら、実力者として相応の振る舞いをもって挑んでくれ」

 

 茶柱はそれだけ言い残すと、長いホームルームを終えて教室から出て行った。

 

 出て行った直後、俺はこれ以上クラスの不満を増幅させないため、そして、これからのために席を立ち教壇へ向かう。

 もう、十分このクラスには絶望が与えられたことだろう。

 しかし、人間はこの絶望を糧に成長することができる。

 それは、俺の心にも刻まれている。

 なら、ここで行うべきなのは、希望の灯火で照らしてやることだ。

 

 クラスのみんなは俺が前に立ったことは気づかずに、今日の朝茶柱から伝えられたさまざまな情報に、不満や怒り、落胆を表情に浮かべ頭を抱えている。

 お通夜のように暗い雰囲気に、俺は声を張り上げる。

 

「みんな聞いてくれ!」

 

 高円寺は教室を出て行ったが、それ以外の生徒たちは何事かとこちらに視線を向けてくれる。

 

「まず、謝罪をしたい! 俺は入学初日からこうなることを予測していた。だが、授業態度がクラスの支給されるポイントになることを見抜くことができなかった! 本当にごめん!」

 

 俺は誠心誠意クラスのみんなに頭を下げた。

 クラスのみんなからは困惑したような雰囲気が漂ってくる。

 そんな中、平田がクラスのみんなの困惑を代表するかのように声をかけてくる。

 平田洋介。

 ここまでこいつが冷静なのは、なぜなのか。

 今まで、クラスのため、といえば絶対に協力するその姿勢は当たり前のように思えるが、普通の人にはできない行動だ。

 その本質は未だ見抜けないが、これからこいつには色々と世話になることだろう。

 

「佐崎君、どういうことか説明してほしい。まだみんな混乱していると思うから少し丁寧に説明してくれると嬉しいかな」

「もちろんだ。俺は入学初日に毎月10万ポイントをもらえる、とは茶柱先生がいっていなかったことに疑問を覚えた」

 

 それから、俺が気づいたことを全てクラスの全員に伝えた。

 もちろん、松下のことは言わない。俺一人で全て発見したかのように語らせてもらう。

 

「気づかなかった俺のミスだ。本当にごめん」

 

 俺はもう一度頭を下げた。

 その話を聞いて平田がフォローを入れてくれる。

 

「ううん、そんなことはないよ。第一佐崎君は授業を真面目に受けるように注意喚起してくれたし、一人一人にポイントを無駄遣いしないように声をかけてくれていたじゃないか」

 

 頭の回転が早く、うまい具合に俺へのヘイトを無くして、みんなを納得させる方向に持っていく平田には頭が上がらない。

 俺がなぜ何回も謝るのかと言うと、ここで誠心誠意謝罪して全てを話すことで、クラスのみんなに俺がこれから話すことに少しでも耳を傾けてくれるという打算半分。そして、マジでごめん、という謝罪の気持ちが半分だ。

 

 そんな平田の言葉に松下も上手い具合にフォローを入れてくれる。

 

「確かに佐崎くん、ずっと言ってたもんね。来月ポイントがもらえないかもしれないから、節約しようぜって。それを無下にしちゃったのは、私たちのせいだし…………」

 

 友達に言っているように聞こえるが、クラス全員に聞こえるくらいの声量に調節する松下は流石という他ない。

 松下の言葉を受けて、クラスの全員が俺の言っていたことを思い出したらしい。

 全員が、そういうことだったのか、と理解したところで俺は本題に移る。

 

「みんなの意思を聞きたいから聞かせてもらう。Aクラスに上がりたいものは手をあげてくれ」

 

 その言葉に、クラスのほとんどのものが手を挙げる。

 同調圧力もあるだろうが挙げていない生徒は、綾小路に堀北くらいだろう。

 まぁ、堀北に関してはあの顔を見れば心のうちを察することは可能だ。

 

「よし、全員だな。俺もAクラスに上がりたい。Aクラスに上がるためにはクラスの協力が必要不可欠だ。今からいうことを守ってほしい。まずは授業態度の改善だ」

 

 俺がそういうと、池が俺の言葉にくってかかってきた。

 

「でもよ! 授業態度をよくしてもポイントが増えるかどうかわからないんだろ!? それほんとにやる意味あるのか!?」

 

 そう喚く池は、多分冷静になりきれていないのだろう。まだ引きずっているか。

 

「意味はある。俺たちが授業態度を良くすることでポイントがもらえる可能性もある。茶柱先生はポイントの増減に関して明確にはしていなかったしな。俺たちが授業態度を正し、遅刻欠席を減らすことができれば、ポイントが減らないということはわかってるんだ」

 

 俺の言葉に池は納得したのか、言っている意味がわからなかったのかはともかく、渋々といった感じで座って行った。多分授業を真面目に受けたくないのだろう。

 

 すると、幸村が疑問を持ったようで、立ち上がった。

 

「佐崎、お前の言っていることはわかるが、もしそれでポイントがもらえなかったらどうする? そしたら、俺たちは一生0のままなんだぞ!」

 

 その言葉にクラスメイトたちはこれからの未来を思い浮かべたらしく、絶望したかのような表情を浮かべる。

 ちっ、まじ黙ってくれ。今そんなことをすれば不安が増長してまともに俺の話を聞かなくなっちまう奴も多くなる。

 俺は不安になる奴らにも聞こえるように、なるべく大きな声量でそれに答えてやる。

 

「落ち着け、幸村。茶柱先生は、ポイントが増える可能性を否定しなかった。つまり、これからポイントが増える可能性は十分にあるんだ」

「それがなんなのか、お前にわかるのかよ!」

 

 ああもう!

 俺だってわかんないよ!

 と叫び出したい気持ちを抑える。

 俺は彼がどうすれば納得するのか頭をフル回転させる。

 

「幸村が不安になる気持ちもわかる。だが目先の一番大事なことは、クラスポイントのマイナスを抑えて、ポイントがもらえた時のために準備することじゃないのか?」

「…………確かに、そうだな。悪い、冷静じゃなかった」

 

 なんとか幸村を納得させることには成功したようだ。

 俺は話の続きを行う。

 

「話を続けさせてもらうぞ。授業態度の改善、遅刻欠席、授業中の携帯の使用と私語の禁止。俺が思うにここら辺を徹底すればマイナスは無くなると思う。どれも難しいことじゃない。中学の時、みんな当たり前にしていたことだ」

「そうだね、佐崎君の今言ったことは簡単だし、きっと大丈夫だよ!」

 

 櫛田が俺の言葉に同調してくれたおかげか、クラスのみんなにやる気が見え始めた。落胆はまだ残っているが、今自分たちがやることを自覚し始めたのだ。

 やはり、櫛田はすごい。

 俺もクラスの大体には接触して交友を深めてきたが、櫛田のようにはいかない。櫛田には人の心を動かすための俺よりも深い交友関係の信頼がある。

 

「ありがとう櫛田。と言うわけだ。みんなでAクラス目指そうじゃないか!」

 

 俺がそう言ってクラスがまとまりかけた時、ガタッ!! と後ろの方の机が倒れた。

 みると、須藤が机を蹴りたおし、イラついた表情でこちらを睨んでいた。

 

「俺は納得がいかねぇ!」

「なににだ?」

「他から見下されることに納得がいかねぇんだよ! こんなことしてなんの意味があるんだよ」

「さっきも言ったが「ポイントが増える方法はわかってねぇんだろ? なら意味ねーじゃねぇか!」…………」

 

 ちくしょう。胃が痛いよ。

 一つの問題を解決すると、また次の問題の芽が出てくる。キリがないよ。

 どうやら、須藤には先ほどの俺と幸村とのやりとりが理解できなかったらしい。いや、理解はしてるけど、感情が追いついていない感じか。

 

 須藤の暴挙にクラスメイトたちは、俺と幸村との会話を大体が理解しているので、須藤にヘイトが向き始める。

 

「大体、須藤くんっていつも寝てたのに今更になってキレるとかほんと最悪」

「ほんとそれ」

「今頃須藤くんが授業中に寝てなかったらもっとポイント残ってたんじゃない?」

「うわ、まじそれな」

 

「須藤キレすぎだろ」

「あいつバカだからまだ話理解してないんだよ」

「ほんと、今ぐらい冷静になってほしいよな」

「あいつのせいだってのに………」

 

 須藤はのヘイトが膨らみ、それは陰口となって顕れはじめる。

 しかし、こいつらだって授業中の私語やゲームなんかやっていたのだ。こういうときだけ自分のことを棚に上げるのは、少しイラつく。

 ただ、須藤が寝てたり遅刻したりしていたのは事実なので庇うことはできない。

 

 須藤はそんなクラスメイトからの非難の視線を耐えかねたのか、舌打ちを一つ残して教室から出て行った。

 授業が始まるまでもうあと3分。

 俺は一つため息をついてから平田に声をかける。

 

「平田、勉強会のことやこれからの授業についてのまとめを頼んでもいいか?」

「うん、もちろんだよ。佐崎くんは須藤くんを追うんだよね?」

「ああ、授業には間に合わないだろうがやれるだけのことはしてくるさ」

 

 俺はあとのことは平田に任せて、教室を出る。

 俺は須藤の後を追いかけてみると、どうやら須藤はトイレに向かったらしい。

 あれ、もしかして、ただの便所だったのか?

 俺も須藤を追ってトイレに入る。

 

 用をたしている須藤の隣で俺も小便をする。

 

「なぁ、須藤」

「え、ここで会話するのかお前?」

「あ、一回用をたしてからでいいか」

 

 俺と須藤は用をたした後に、トイレから出る。

 

「わかってる、お前が言いたいことは」

「そうか、なら今から授業受けに行くよな?」

 

 須藤はバツの悪そうに顔を歪める。

 

「…………お前も悩んでたんだよな?」

 

 どうやら須藤なりに俺の苦悩を理解しているらしい。

 まぁ、一ヶ月友達やってるしな。

 

「まぁ、多少な?」

「そうか、…………すぐカッとなって悪かった」

「大丈夫、俺は気にしてない。だが、その短気な性格直していこうな」

「俺はどうしたらいい?」

「さっきも言ったが、お前の場合は授業を寝ないでちゃんと受けて、遅刻しないようにしないといけないな」

「………わかった、できるだけやってみるぜ」

 

 よし、須藤も問題なさそうだな。

 須藤の場合本当はクラスメイトに謝罪させることもしたいのだが、流石にそれは須藤も納得しないだろう。なら、授業をちゃんと受けさせて、クラスメイトたちにその姿勢を評価させればいい。行動で示せば、ヘイトだってなくなるはずだ。

 

 俺は須藤と共に教室に戻りながら考える。

 

 これはクラス間同士でのAクラスの座を賭けた競争だ。

 俺たちDクラスはスタートダッシュを大きく踏み外してしまったが、まだ挽回できる、と思いたい。

 

 Aクラスに上がりたい、というのは俺の本音だ。

 こんな不良品扱いされて落ち込んで何もしないのは死んでもごめんだ。

 俺だっていい大学に行きたいし、ポイントだってほしい。

 

 だが、何より俺がAクラスを目指すことは俺自身の成長につながると確信した。

 それに、少しワクワクした気持ちも抑えられない。

 俺は人を見返すことが大好きだ。

 この底辺から這い上がって、三年後に笑っているのが俺であるために、全力でAクラスを目指してやろうじゃないか。

 




人を動かすのは大変だぁ。
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