ようこそ百折不撓の教室へ   作:烏兎 満

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第七話 中間テスト

 

 

 

 五月中旬に差し掛かり、入学から一ヶ月半が過ぎた。

 

 俺は坂柳から入手した過去問が本当に過去の定期テストと同じなのか確認するため、独自に入手した過去問と照らし合わせて、それが全く同じであることを確かめた。坂柳からもらった過去問が偽物だったらうちのクラスはおしまいだからな。

 

 それから、この過去問を念入りに調べたところ今知らされているテスト範囲がずれていることが発覚した。それがテスト10日前といったところか。

 茶柱に掛け合ったところ、悪い、失念していた、とのとても教師とは思えない失態を軽い謝罪で済ませたので、結構むかついたがこのくらいのトラブルはよくあること。しかし、Dクラスの担任である茶柱にも何か欠陥があるような気がしてならない。

 

 クラスメイトたちには過去問であることは黙っておき、俺が作ったテスト予想問題として配っておいた。前日になった時、それが答えそのものだと伝える予定だ。

 

 堀北たちは、3バカの勉強を教えるのに苦労していたようだが、今日また再結集して勉強に励んでいるらしい。俺の手助けはいらなかったな。

 

 そして、俺は今Dクラスの勉強会で井の頭と外村の勉強の面倒を見ていた。

 

「あの、佐崎くん、ここがわからないんだけど………」

「どれどれ………。ここは三平方の定理を使って、証明するところなんだが………」

「佐崎氏! ここの英語の翻訳がわからないでござる!」

「あー、それはまず単語を調べろー」

 

 井の頭は大人しげな生徒であり、結構人見知りな性格をしている。

 外村はどうやらアニオタらしく、口調も変だが機械に結構詳しかったりする。

 

 二人ともこの前の小テストは赤点ではなかったのだが、得点は50点付近と学力は低く、教えている側からすれば少し学習能力も低い。

 だが、一つ一つ丁寧に教えていけば着実に学力は上がっていくはずだ。

 

 このように、Dクラスの学力はゆっくりとだが着実に底上げされていっていると言えるだろう。

 

 そして、あっという間に試験がやってきた。

 

 

 

 

#

 

 

 

 試験当日、俺はいつも通り神崎と一緒に登校する。

 

「勉強の調子はどうだ、神崎」

「特に問題はない」

「ところで、この前お前が話していたCクラスからの嫌がらせはまだ続いているのか?」

 

 俺の質問に神崎は首を振る。

 

「最近はあまり聞かないが、絡んでくるCクラスの狙いがよくわからない」

「なるほどね。で、そっちのクラスは退学者とかでそうなのか?」

「俺たちは一之瀬を中心に学力に不安のある生徒を集めて勉強会を開いた。心配することはない」

 

 俺は神崎の口から出された一之瀬という言葉を見逃さなかった。

 

「へぇ、一之瀬ね。可愛いって噂だけど、どんなやつなんだ?」

「…………佐崎が女子に興味があるなんて意外だな」

「そう見えるか?」

「ああ、登校する時もお前はいつも俺と一緒に登校していて、学校で見かけても男子といることがほとんどだ。佐崎の性格から考えると女子が苦手というわけでもないだろう。だから、ただ、興味がないのかと思ってな」

「いやいや、俺だってスタイル抜群で可愛くて天使のように優しい一之瀬って女子にもちろん興味はあるさ。だから、教えてくれよ、何だったら今度紹介してくれ」

「………一之瀬はうちのクラスで委員長をしているBクラスのまとめ役だ」

「委員長?」

「それは、うちのクラスで勝手に決めたものだから気にしなくて大丈夫だ。そして一之瀬のことだが、明るく誰にでも優しいやつだ。だが、一之瀬を狙うなら考えた方がいいと思うぞ? ライバルは多い」

 

 神崎が言うには、どうやら一之瀬帆波はその持ち前の明るさと善人性でクラスの男子からモテているのだろう。

 人と関わりの薄そうな神崎でもモテていることがわかるのだから、一之瀬はBクラスでは少なくとも多くの男子からは人気を得ていることだろう。

 

「ふーん、今度紹介してくれよ」

「お前が今日退学しなかったらな」

「うるせぇ」

 

 薄く笑う神崎は、多分俺が女子だったら惚れていたことだろう。

 しかし、神崎もいうようになったものだ。

 意外にもこんな感じで接してくるので、中々面白いやつだと思う。

 

 俺はこいつのことを良き友人だと思っている。

 

 他クラスに友達を作るのはこれから先のことを考えると少し重い気持ちになるが、それは向こうだってそう思っているだろう。

 だが、俺が葛城のことを打算のために失脚させる取引をしたように、向こうもいつか俺に対して仕掛けてくることがあるだろう。

 その時、友達だから遠慮をする、なんてことはしないはずだ。

 

 なら、俺は友情など気にせずに打算的にAクラスを目指してやるだけだ。

 

 俺は神崎と別れてから、再びAクラスへの思いを強めるのだった。

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 教室に入ると、いつもの賑やかな雰囲気とは打って変わってピリピリとした緊張感が漂っていた。

 

 俺は席についてから後ろで過去問と睨めっこをしている須藤に声をかける。

 

「すどー、勉強のほどはどうだ?」

 

 須藤はこちらに一瞥をくれるとすぐに過去問に目を移した。

 いつもの須藤からは考えられないほどに必死に過去問を読み込む須藤に違和感を覚える。

 須藤の持つ過去問をのぞいてみると、それは英語の過去問であった。

 

 まさかこいつ、英語やってないのか?

 

 俺に返事をしないあたり、相当焦っていることが窺える。

 

 しかし、俺が声をかけるのはかえって邪魔になってしまうだろう。

 

 そう思い頑張れよ、と一言残してから俺も最後の単語のチェックを行っていく。

 テスト開始10分前、というところでどうやら堀北も須藤の焦り具合に気づいたらしく、須藤の席へと歩いてきた。

 

「須藤くん、あなたもしかして英語をやっていないのかしら?」

「………昨日寝落ちしたんだよ。他はやったんだけどよ、英語だけやってねぇんだよ」

 

 須藤のその言葉に堀北は呆れたように首を振る。

 

「んだよ、また馬鹿にすんのか?」

「ええ、私はあなたがどれだけ間抜けで自意識が足りない馬鹿なのか再認識したわ」

「んだと!!!」

 

 英語の過去問を見ることもやめて堀北の胸ぐらを掴む勢いで立ち上がる。

 しかし、堀北は一切動じることなく、須藤をまっすぐ見据える。

 

「でも、ここ一週間のあなたの勉強への姿勢はこれまでとは見違えるほどによくなった。それは、あなたが一歩成長した証でもある。そして、私が勉強を教えたからにはこんなところで退学にはさせないわ」

「お、おう。つまり何だよ?」

「…………この前はプロのバスケット選手になれない、と言ってしまったことを謝罪するわ」

「ほ、堀北………」

 

 堀北鈴音。

 中学では定期テストでいつも学年一位の座についていた孤高な生徒。

 俺はその頃関わりはなかったが、堀北はこの学校に入学してからも俺の目から見て独りでいることを好んでいた。

 多分、堀北は他人など不要と考えていた節がある。

 

 しかし、今この時須藤に声をかけている堀北は本当に他人を不要と考えているだろうか。

 

 そして、プライドの高いと思われる堀北は、きっと須藤に夢は無理だと一方的に彼の学力だけを見て否定していたのだろう。

 その堀北が謝ったのだ。

 

 俺は堀北の成長の可能性を垣間見た。

 

「須藤くん、なるべく配点の高い問題を覚えましょう。まずは────」

 

 須藤は堀北の自分を助けてくれる姿勢に戸惑いつつも、先ほどまでの怒りの表情はなりを潜めて真剣に堀北の話を聞いている。

 

 俺も少しだけ須藤の勉強をみたが、中学一年生の範囲もほとんど覚えていないため、それを取り戻すのは相当苦労するはずだ。

 だが、須藤はそれに落胆して諦めずにこの一週間堀北との勉強に励んできた。

 須藤の勉強に対する認識が変わり始めているとみていいだろう。

 

 やはり、堀北に須藤を任せたのは正解だったか。

 二人がここまで成長するとは想定していなかったが、いい方向に転がってくれてこちらとしては都合が良い。

 いや、しかし、なぜ反発し合いそうな二人がここまでお互いを認め合うだろうか。

 

 誰かがどちらかに入れ知恵でもしたか。

 

 そう考えるのが妥当か。

 

 しかし、誰なんだ?

 櫛田か、平田か、池か、山内か、綾小路か。もしかしたら、堀北学かもしれない。

 

 ここを詮索しても結局は俺がはっきりと知ることはできないだろう。

 

 そんなことを考えていると、すでにテストの時間らしく、教室に入ってきた茶柱が問題用紙を配り始めた。

 

 さて、俺も自分のテストに集中しようかな。

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 俺が用意した過去問が全く違っていた、なんてことはなく無事にテストが終了し、週末が明けた。

 

 茶柱が教室に入ってきた時、俺たちDクラスはすでに全員席についていて、結果発表を今か今かと待っていた。

 平田がクラスの代表として茶柱に発言する。

 

「テストの結果はいつ知らされるんでしょうか?」

「安心しろ、平田。それはこのホームルームで知らされることになっている。だが、少々手続があるため少し急ぎで発表していく」

 

 手続、という言葉にクラスメイトたちの緊張が高まる。

 それもそうだろう。

 その言葉はおそらく、退学者が1人以上は確定したといっているようなものだ。

 

 茶柱は手に持った五つの紙の筒を黒板に広げる。

 俺は上の順位ではなく、下の順位を念入りに確認していく。

 英語の須藤の点数は………41点。

 

 よし! 32点を超えた!

 

「お前たち、よくやった。ほとんどの教科の平均が他のクラスと負けず劣らず素晴らしい結果となった。どんな手を使ったのかはわからないが、褒めてやろう、おめでとう」

 

 わざとらしくパチパチと手を叩く茶柱に俺は思わず眉根が寄ってしまう。

 

 だが退学者は須藤じゃないのか?

 

「だが、須藤お前は赤点だ」

 

 茶柱は須藤の名前の上に赤い線を引いた。

 

 俺はそこで小テストの時なぜ32点未満が赤点だったのか、今ここで理解した。

 この学校での赤点は、クラスの平均の半分未満が赤点となるのだ。

 

 まずい、見落としていた。

 俺が英語の点数を50点まで落としていたら、もしかしたら須藤は赤点ではなかったかもしれなかったのだ。

 失敗した。

 

「ま、まじかよ………! まじで俺は退学なのか……?」

「残念ながら、現段階ではこれは覆すことのできない事実だ。須藤はこの後職員室に来るように」

 

 その言葉に平田が食い下がっているが、須藤の赤点自体を回避することは無理に等しいだろう。

 

 今ここで、俺は須藤を切り捨てるかどうかを利己的に俺の頭の中で考えるあたり、俺は薄情者で須藤の友達失格だ。

 だが、須藤の身体能力はきっと今後役に立つ。

 少なくとも、俺の中では山内や本堂、佐倉、池ならば迷わず切り捨てただろう。

 

 俺は頭の中で考える。

 退学を回避する権利。

 茶柱がこの学校では買えないものはない、という言葉を思い出す。

 

 俺は教室を出て行こうとする茶柱を呼び止めた。

 

「なんだ、佐崎」

「退学を、回避する権利はいくらですか?」

「佐崎、それに答え「いいえ、答えられるはずです」………確かに答えることはできるが、お前たちには到底用意することのできない値だ」

「どれくらいのポイントなんですか?」

「2000万prと300c Iだ」

 

 クラスの全員が唖然とする。

 そして、俺の中で須藤を見捨てる選択をせざるを得なくなった。

 そもそも、うちのクラスのクラスポイントは0だ。救済できるわけがないし、須藤の実力が釣り合わない。

 

 茶柱はもう済んだか、と一声かけてから教室を出て行った。

 

「クソっ! 俺があの時寝落ちしないかったら!」

 

 後ろの席からドン! という机を叩く音が聞こえ、須藤の後悔の声がする。

 

 俺は頭を回転させるが、退学を回避する手段が見当たらない。

 どうすれば、須藤は助かる?

 

 いや、もう腹を括って見捨てるしかないのか。

 友達を見捨てるという選択を受け入れなければならないのか。

 

 俺は避けられない耐え難い事実を受け入れてきたが、いつだってその事実を受け入れることは苦しく、慣れるものじゃない。だが、これを受け入れた先にはきっと一回り成長した自分がいることを、俺は知っている。

 

 だが、現実はあまりに残酷だ。

 

 俺は、後ろの席に座る須藤に声をかけることはできなかった。

 

 

 俺が諦めかけていたその時、喧騒に包まれる教室の後ろを歩いていく堀北の姿が視界の片隅に映った。

 

 俺は、直感によるものか、無意識による推測のせいか、気づけば堀北の後を追っていた。

 

 堀北は迷うことなく教室を出ていき、階段を降りていく。

 

「ついてこないでもらえるかしら?」

 

 どうやら、俺が堀北の後を追っていることが気づかれていたようだ。

 

「減るもんじゃないし、別にいいだろ」

「そういうのをストーカーというのよ? 知らなかったのかしら?」

「お前本当にあの堀北先輩の妹かよ。顔はともかく、性格は全然似てねーな」

「……なぜここで兄さんの名前がでてくるの?」

「そりゃ、俺が元〇〇中学だからな」

「………そう。兄さんとどういう関係なのか知らないけれど、ストーカーするならよそでやりなさい」

「はいはい」

 

 そう言いながら再び歩き出した堀北の後を追う俺は、堀北と共に一階に降りるとその奥の廊下から声が聞こえてくる。

 

 そっとのぞいてみると、そこには茶柱と綾小路が何やら話し合っていた。

 

「須藤をここで切り捨てた方が後々、楽になるかもしれないぞ?」

「いえ、今回は手を貸すことにしていますから、やれるだけのことはやります」

 

 綾小路はポケットから学生証を取り出す。

 

「須藤の英語のテストの点数を一点売ってください」

 

 綾小路の言葉を聞いた時、俺が見えていなかった須藤の退学阻止への道への可能性が浮かび上がる。

 

 まさか、そんなことができるのか?

 普通の高校では、賄賂を教師に贈るようなものだ。

 しかし、茶柱は入学直後この学校で買えないものはない、という言葉を残していた。なら、テストの一点くらい売っているはずだ。

 

 なんでこんなこと思い付かなかったんだろうか。

 いつもは視野が広いと自負している自分が馬鹿みたいに思えてくる。

 

 そして、それを当然のように思いつく綾小路とは一体何者なんだ? 

 学力はいつも50点付近、水泳の授業でもフォームは綺麗でも泳ぐのは遅い。

 

 それに、彼は事なかれ主義と自分ではいっていたが、今、綾小路は事なかれ主義とは程遠い行動をとっている。

 

 一体何なんだ、お前は。

 

 俺はいつも友達として接している綾小路が別人になってしまったかのような印象を受けた。

 

「ははははは、なるほど面白いな、綾小路。だが、テストの点数は一点だけでもお前一人が払える値段ではない」

「それはいくらなんですか?」

「そうだな、10万prで売ってやろう」

「意地悪っすね、先生は」

 

 確かに今の俺たちDクラスの一生徒では到底払うことのできないポイントだが、今ここには俺と堀北がいる。

 

 ここで堀北が二人に姿を現す。

 

「私も出します」

「堀北もいたのか。クク、やっぱりお前たちは面白い生徒だな。しかし、どういう心境の変化だ? お前なら須藤を見殺しにすると思っていたのだが」

「茶柱先生は私たちDクラスを不良品と言いましたが、私は不良品は修理することで良品となることも可能だと思います」

「お前がそれをいうとは。綾小路、何か堀北に言ったのか?」

「いえ、俺は何も」

「まぁいい」

 

 俺は二人から見えない位置で話を全部聞いていたが、そんな俺を堀北は耳を引っ張って二人の前に引き摺り出した。痛い痛い痛い!

 堀北の容赦のない暴力に俺は涙目になりつつ、二人の前に姿を現す。

 

「佐崎か。堀北はこいつのポイントのことを知ってて連れてきたのか?」

 

 そんな茶柱の言葉に堀北はどういうこと、という視線を俺に向けてくる。

 なるほど、教師たちは生徒たちのポイントの量をしっかりと把握してるのか。

 

「その表情から察するに、堀北は何も知らないようだな。佐崎はAクラスの坂柳から50万prをどういうわけか譲り受けている」

 

 うわー、この教師、生徒のプライベートを包み隠さず話しやがった。

 当然、堀北から疑いの目を向けられる。早くどういうことか説明しろ、と訴えかけてくる。

 

 しかし、Aクラスの坂柳に協力することは言えるわけがない。

 茶柱がどう言った理由でポイントのことを話したのか。

 おそらく、彼女の目に宿る野望のためか。

 

「その理由については話せないと言ったら?」

「………そう。なら、あなたはDクラスの裏切り者として排除しなければならないわね」

「それは困るな。じゃあ、正直に話そう。坂柳に過去問を売りつけて50万ってとこだ。もちろん、この50万はクラスのために使う」

「………色々と疑いたいけれど、ここで10万prを払ってくれるのなら少しは信用するわ」

 

 堀北は俺に疑いの目を向けてきたが、今は須藤の救済が先だと考えたのだろう。

 

「約束は守る。佐崎から10万prを徴収して須藤の英語の点数一点を売ってやろう」

 

 話は終わりだ、と言わんばかりに踵を返す茶柱の背中を見る。

 癖のある先生だな。これから色々と大変そうだ。

 

 須藤の退学は取り消され、これにてDクラスの最初の中間テストは無事全員が退学を免れたのだった。

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

「「「かんぱーい!」」」

 

 綾小路の部屋にて、数人の生徒たちが各々好きなジュースを手に持ち今回のテストで全員無事だったことに祝杯をあげる。

 なぜ綾小路の部屋なのかというと、須藤が綾小路のカードキーをポイントで買うことができたらしい。意味がわからない。

 まぁ俺も一応須藤からカードキーをもらったけど、普通に犯罪だからやばいな。

 

 池がコーラを一気に飲み干すと、ぷはぁ! と大きく息をついて気持ち良さげに言う。

 

「いやー! 何とか乗り切れてよかったわー!」

「調子乗んじゃねーよ、池」

「だって、今日から勉強しなくてもいいんだぜ!? 最っ高だろ!」

「お前まじ次退学しても知らねーぞ」

「なんだよ、奇跡的に退学免れたくせしてよ!」

「ぐ………確かにそうだけどよ、今回で身に染みた。勉強は俺にとってバスケと同じぐらいに必要なものだ。だから、俺は今日から毎日一時間は勉強する!」

「ま、まじかよ」

 

 なんとも素晴らしい勉強するぜ発言をした後に、須藤は堀北の方をチラリとみる。

 堀北は読書をしているものの、前の堀北だったらこの集まりに絶対に参加しなかっただろう。

 面白いものだ。

 俺は自分を変えることができても、他人を変えることは非常に難しいものと思っていた。しかし、堀北や須藤はこの短期間で大きく変わった。

 

 そんな二人に俺は人として好感を抱いている。

 これからの二人が少し楽しみだな。

 須藤も恋愛面でも勉強面でも色々と頑張ってほしいものだ。

 

 堀北は須藤のその発言を聞いて本から須藤に視線を合わせる。

 

「口だけなら何とでも言えるわ。それに、あなたが今の高校生レベルに追いつくには一時間だけでは少なすぎる。はっきり言って、睡眠時間を削って五時間は妥当ね」

「た、確かにそうだけどよ。もっとこう、励ますこととかできねーのかよ!」

 

 まぁ、堀北にしては突き放さないだけ成長とみれるだろう。

 

 俺は何やら楽しそうに話している櫛田と綾小路の会話に入ることにした。

 

「櫛田も綾小路も退学しなくてよかったよ」

「うん! 私は全然問題ないよ!」

「俺はぼちぼちだ。次はもう少し勉強しようと思ってる」

 

 二人とも特に問題なさそうだ。

 櫛田は普通に学力が高いから問題ないとして、綾小路も今回のような一件があったから、勉強も松下のように手を抜いている実力者の可能性が出てきた。少なくとも綾小路の今回のような奇策は、今後クラスが特別試験とやらで勝っていくためには必要な人材だと思う。

 

 それにしても、少しだけ櫛田の表情がいつもと違う。

 櫛田は確かにいつも通りの天使の櫛田だが、裏の顔も知る俺から見れば、妙な違和感を感じる。

 俺への視線が少し違う。怯えている? 迷い? 好意?

 

 

 もしかして、俺のことが好きになっちゃった!?

 と言う冗談は置いておき、でも、挙げた中のものを織り交ぜたような複雑な感情が瞳から見え隠れしている。

 

 この違和感を無視してはいけない気がする。

 そういえば、最近はテスト勉強で櫛田との密会は二週間ほど開いていたな。

 何かあったのだろうか。

 

「おい、櫛田。浮かない顔してどうしたんだ? 何かあったか?」

「……あれ? そんな顔してた? もしかしたら、ちょっとテスト勉強で疲れちゃったのかも。心配してくれてありがとうね!」

「………そうか、無理はしないようにな」

 

 まぁ、この場では答えられない内容ということもある。

 また今度カラオケで聞くことにしよう。

 

「佐崎は結構勉強できるのか?」

「うーん、ぼちぼちだな。クラス内で10位に入るか入らないかってとこ」

「俺よりはいいな」

「お前に関しては………あー、なんでもない」

 

 綾小路に関しては未だ謎が多い。

 綾小路が見せる感情の出し方が普通の人と比べるととても不自然だ。

 しかし、その不自然さも少しずつなりを潜めて言ってるが、それもまた違和感を感じる。順応していっているのか。

 綾小路はどんな環境で過ごしてきたのだろうか。今度生い立ちでも聞いてみるか。

 正直、綾小路については得体が知れない。

 

 そんなこんなと考えているうちに須藤たちとの会話を終えた堀北が全員に聞こえる声でいう。

 

「この学校は実力至上主義よ。学力はもちろん、他の様々な分野での能力が問われてくると思うわ」

「それは、俺も同感。実力とは何か。中々哲学的に難しいものをテーマとしている」

 

 櫛田は俺と堀北の会話を難しそうに聞いている3バカにわかりやすく励ましの言葉を送る。

 

「私たちDクラスでも、きっと頑張ればAクラスまで上がれるよ!」

「そ、そうだよな。俺たちならやれるぜ!」

「あなたたちにはまず勉強が必要だわ」

 

 水を差すような堀北の言葉に3バカの気分は落ち込んだ雰囲気を漂わせるが、そこばかりは頑張ってもらう他ない。

 

 さて、中間テストという節目を終えて、俺たちDクラスは未だクラスポイント0のままだが、Dクラスの生徒たちは成長している。まだまだ問題は見つかっていくだろうし、他クラスは少なくとも坂柳のように一筋縄じゃ行かない手強い連中ばかりだろう。

 

 だが、それが足を止める理由にはならない。

 

 そう考えながら、俺はまずはこの祝勝会を楽しもうと決めたのだった。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでくださった方々。いつもありがとうございます。

私にもそろそろ定期考査が近づいてきたということで勉強にシフトさせていただきます。
つまり、執筆が休憩中だけということになり、更新頻度がとても遅くなります。一ヶ月後には更新頻度が戻ると思うので、プロットも二学期までは立ってるので楽しみにしていてくれるとありがたいです。

いつも感想、評価をくれる方々にはとても力になっています!
では、また来月くらいに会いましょう!

by うと
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