ブラックバード・ドリーム   作:AC/弟子

1 / 13
Start Line


スタート・ライン

 

惑星ルビコン。

遠い遠い宇宙の果ての、寂れた星。

 

かつて、ルビコンには“コーラル”と呼ばれる物質が存在した。

それは、人類の文明にとって大きな飛躍を齎した。

 

だがそれは、ある事件によって消え失せた。

 

“アイビスの火”

 

ルビコン星系を巻き込んだその大破壊は、コーラルを焼き付くし、大地を削り、人々を滅亡に追いやるほどの大災害となった。

 

だがそれでも、人は絶えなかった。

そして、争うことも、諍うこともやめなかった。

 

ある傭兵とその主がルビコンに降り立つ、その少し前の物語。

名無しの傭兵と、乗っかった「大バカ野郎達」の、小さな小さな、計画の物語。

 

 

 

------

 

グリッド086。

“RaD”と呼ばれる研究者たちの、活動の中心部。

地表から高く高く高く柱を延ばし、建造物を立てるという建築法の、ひとつの形。そこに、一機のACが降り立った。

武装はなく、背中には大きなバックパックを背負っている。その中には、ジャンク品がぎっしりと詰められていた。

 

「AC名“チャリオット” 傭兵名“エゲト” 確認」

「ゲート解放します」

 

機械音声と共に開け放たれた大きなゲート。鈍い灰色のACはそこへゆっくり歩んでいき、やがてひとつの装置の上に立つ。

脚部にロック装置が着けられ、ハンガーが降りてきて、吊る下げられる。

そのまま持ち上げられて、運ばれていく。

 

運ばれた先は、ひとつの工業施設だった。

鉄を溶かし、型に注ぎ込み精錬する、そんな場所。

 

チャリオットの背中のバックパックが、アームによって外されていく。そしてまた、運ばれて。

次なる場所は、ACやMTの整備施設のような場所。

 

頭部にあたるパーツが後ろに倒れるように開き、胴体のコアユニットが前後に割れるように軽くスライド。中からはパイロットスーツにバイザーユニット付きのヘルメットを被った人間が出てきた。

 

「よーぉ、帰ってきたなエゲト」

 

機械音を立ててエレベーターがACの至近距離まで来て、そこに立つ男性が声をかける。

 

「今日の入りは上々だ。ゴミ拾いも慣れたカ?“ビジター”」

「その名前は好きじゃない」

 

ヘルメットを外した黒髪のAC乗りの男、エゲトが眉間に皺を寄せつつ返した。

 

「もう何年RaDに居ると思ってる、いい加減ビジター呼びはやめてくれ」

「テメーの名前が支援システムのランクに登録されたら覚えてやらァ、あのラミーですら登録されてんのにヨ」

 

ヒヒ、と小馬鹿にするような笑いを漏らす、無精髭の男性。エゲトは不愉快そうなため息を着く。

 

「報酬はちゃんと支払われるんだろな」

「勿ィ論。後で振り込むサ」

「間違いなく頼むぞビアード。二割は差っ引いてくれ」

 

エゲトはその言葉にまた不愉快そうに鼻を鳴らし、エレベーターに降りるのだった。

エレベーターが無精髭の男、ビアードの操作で下がっていく。エゲトは降りながらACを眺めていた。

 

全高十一メートルほどの、鉄の巨人。アーマードコア。

これを駆り、多額の報酬と共に、何者にも与する事ない、自由の象徴。そのハズだった。

 

------

 

「あ゛ぁ゛ーーー……やっぱりナマのコーラルァ、違ぇナ……」

「あまりキメすぎるなよビアード」

 

エゲトとビアードは、グリッドの片隅にいた。

片や火の着いたタバコを、片や小型の吸引器で、一服していた。

 

「俺の報酬の二割は確かにアンタのモンだ、でもコーラルキメんのにすぐ使うのどうかと思う」

「るっせぇよォ……飲む、打つ、キメる……俺にャ、これしかねぇー……ああ、パチパチすらァヨ……」

 

酩酊といった風の目で遠くを眺めるビアードの様子にかぶりを振った。

彼曰く、「俺はRaDで一番の技術者だ」「俺と組めば最高の傭兵に成れる」との話だったが。もう数年……エゲトがRaDに入ってからの仲だ。

 

“一体、何時になったらその最高の傭兵に成れるんだか”。エゲトは心の中でごちりながら煙草の煙を吸い込んだ。

 

曇天の空。何も変わらない日常。

ACで“ゴミ拾い”という戦火の残骸を拾い、納め、暮らしている。

時には戦うこともあるが、それすらも退屈の極み。

 

ふと思い返すのは、幼少の頃だった。

もう今は汚染に沈んだとある街で暮らしていた。ずっとずっと本を読んでいた。

 

“お父さん、この飛行機、なんて言うの”

 

“それはね、地球の飛行機なんだ”

 

“真っ黒い飛行機、だね”

 

“父さんも見た事ないんだ。でもそれはきっと―――”

 

 

 

「なぁ、ビアード」

 

遠い曇天を見つめながら、エゲトは口を開いた。

 

「もしも、もしもだ」

「このルビコンで」

 

「一ッ番速い、ACを作ったらさ」

 

 

「―――成れるのかな」

 

「“最高の傭兵”にさ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。