惑星ルビコン。
遠い遠い宇宙の果ての、寂れた星。
かつて、ルビコンには“コーラル”と呼ばれる物質が存在した。
それは、人類の文明にとって大きな飛躍を齎した。
だがそれは、ある事件によって消え失せた。
“アイビスの火”
ルビコン星系を巻き込んだその大破壊は、コーラルを焼き付くし、大地を削り、人々を滅亡に追いやるほどの大災害となった。
だがそれでも、人は絶えなかった。
そして、争うことも、諍うこともやめなかった。
ある傭兵とその主がルビコンに降り立つ、その少し前の物語。
名無しの傭兵と、乗っかった「大バカ野郎達」の、小さな小さな、計画の物語。
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グリッド086。
“RaD”と呼ばれる研究者たちの、活動の中心部。
地表から高く高く高く柱を延ばし、建造物を立てるという建築法の、ひとつの形。そこに、一機のACが降り立った。
武装はなく、背中には大きなバックパックを背負っている。その中には、ジャンク品がぎっしりと詰められていた。
「AC名“チャリオット” 傭兵名“エゲト” 確認」
「ゲート解放します」
機械音声と共に開け放たれた大きなゲート。鈍い灰色のACはそこへゆっくり歩んでいき、やがてひとつの装置の上に立つ。
脚部にロック装置が着けられ、ハンガーが降りてきて、吊る下げられる。
そのまま持ち上げられて、運ばれていく。
運ばれた先は、ひとつの工業施設だった。
鉄を溶かし、型に注ぎ込み精錬する、そんな場所。
チャリオットの背中のバックパックが、アームによって外されていく。そしてまた、運ばれて。
次なる場所は、ACやMTの整備施設のような場所。
頭部にあたるパーツが後ろに倒れるように開き、胴体のコアユニットが前後に割れるように軽くスライド。中からはパイロットスーツにバイザーユニット付きのヘルメットを被った人間が出てきた。
「よーぉ、帰ってきたなエゲト」
機械音を立ててエレベーターがACの至近距離まで来て、そこに立つ男性が声をかける。
「今日の入りは上々だ。ゴミ拾いも慣れたカ?“ビジター”」
「その名前は好きじゃない」
ヘルメットを外した黒髪のAC乗りの男、エゲトが眉間に皺を寄せつつ返した。
「もう何年RaDに居ると思ってる、いい加減ビジター呼びはやめてくれ」
「テメーの名前が支援システムのランクに登録されたら覚えてやらァ、あのラミーですら登録されてんのにヨ」
ヒヒ、と小馬鹿にするような笑いを漏らす、無精髭の男性。エゲトは不愉快そうなため息を着く。
「報酬はちゃんと支払われるんだろな」
「勿ィ論。後で振り込むサ」
「間違いなく頼むぞビアード。二割は差っ引いてくれ」
エゲトはその言葉にまた不愉快そうに鼻を鳴らし、エレベーターに降りるのだった。
エレベーターが無精髭の男、ビアードの操作で下がっていく。エゲトは降りながらACを眺めていた。
全高十一メートルほどの、鉄の巨人。アーマードコア。
これを駆り、多額の報酬と共に、何者にも与する事ない、自由の象徴。そのハズだった。
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「あ゛ぁ゛ーーー……やっぱりナマのコーラルァ、違ぇナ……」
「あまりキメすぎるなよビアード」
エゲトとビアードは、グリッドの片隅にいた。
片や火の着いたタバコを、片や小型の吸引器で、一服していた。
「俺の報酬の二割は確かにアンタのモンだ、でもコーラルキメんのにすぐ使うのどうかと思う」
「るっせぇよォ……飲む、打つ、キメる……俺にャ、これしかねぇー……ああ、パチパチすらァヨ……」
酩酊といった風の目で遠くを眺めるビアードの様子にかぶりを振った。
彼曰く、「俺はRaDで一番の技術者だ」「俺と組めば最高の傭兵に成れる」との話だったが。もう数年……エゲトがRaDに入ってからの仲だ。
“一体、何時になったらその最高の傭兵に成れるんだか”。エゲトは心の中でごちりながら煙草の煙を吸い込んだ。
曇天の空。何も変わらない日常。
ACで“ゴミ拾い”という戦火の残骸を拾い、納め、暮らしている。
時には戦うこともあるが、それすらも退屈の極み。
ふと思い返すのは、幼少の頃だった。
もう今は汚染に沈んだとある街で暮らしていた。ずっとずっと本を読んでいた。
“お父さん、この飛行機、なんて言うの”
“それはね、地球の飛行機なんだ”
“真っ黒い飛行機、だね”
“父さんも見た事ないんだ。でもそれはきっと―――”
「なぁ、ビアード」
遠い曇天を見つめながら、エゲトは口を開いた。
「もしも、もしもだ」
「このルビコンで」
「一ッ番速い、ACを作ったらさ」
「―――成れるのかな」
「“最高の傭兵”にさ」