「ブルートゥ……!!」
カーラの憎悪が籠った声が零れ落ちる。
RaDから資金とカーラ謹製の秘密道具を“区画ごとぶち抜いて”盗んだ張本人。それが現れたのだから一気に沸点が上がる。
「……チャティ!手早く済ませてこちらに来な!MTだけじゃ耐えられない!」
「了解した、ボス。三分くれ」
「二分で済ませな!」
「……そのようにしよう」
「……クソッ、タレが!アタシとしたことが……」
思わず叫ぶカーラ。こうなる事は想定の範囲外だったようだ。
そんな様子を見たエゲトとビアードの二人は戦慄した。ここまで感情をむき出しに声を荒げたカーラは初見になる。
噂程度に聞いていたブルートゥの事件、相当なものだと察するに易いからだ。
「……どうする、エゲト」
「…………」
押し黙るエゲト。防衛のMT部隊は居れどAC相手にはやはり厳しいものがある。そうなれば、もう手段は限られる。
――このまま無抵抗に殺されるか、或いは。
「……ボス、ブラックバードを使おう」
エゲトがカーラを見て告げる。この事態では最早それしか手段は残されていない。だが。
「ダメだ」
それに対してキッパリとNOと言い放つカーラ。
「アンタたちがここに何をしに来たか分かってるのかい?」
「全てこの日のために用意してきた、そうだろう」
「MT部隊には無理を言うことになるが何とか耐えさせる、チャティが来れば追い返すことは可能なはずだよ」
未だに怒気を含んでいるカーラの言葉が放たれる。
「……調整は戦闘も視野に入れてまス、だから――」
「何度も言わせるな、笑えないよ」
ビアードの助け舟すらもその手で沈められた。その言葉に再び押し黙るしかない。
「……こんな事ならフルコースも用意しとくべきだったね……チャティ、まだか?」
「……済まないボス、こちらにもMTが数機。片付けられはするが合流が遅れる」
どうやら相手の方が上手らしい。しっかりと前方の地雷原地帯、チャティの方にも根回し済みなようだ。
「……万事休す、だね」
このままでは嬲り殺しになる、その光景は想像にかたくない。
「ボス、こちらMT部隊!ブルートゥの野郎がどんどん仲間達を殺しやがる!」
さらに追い打ちをかけるように、防衛部隊の被害が甚大であることを知らせる通信が入ってくる。
その通信を聞いたエゲトが、ビアードに口を開く。
「……ビアード、俺のメットくれ」
「ブラックバードを出す」
「おうヨ」
「……アンタ達」
行動に移し始めたエゲトとビアードを止めたのは、カーラの言葉だった。
「いい加減にしなよ、戦闘用の調整がされてるとはいえ相手はランカーだ。……アンタたちが殺されたら計画は元も子もない」
「だからって、ここで殺されるのを待つのかよ。俺は嫌です」
「ボス、行かせてやってくださイ。……俺もエゲトと同意見でス」
「それにボス……コイツは飛ぶ為だけのACじゃない」
「コイツは、兵器だ」
「戦うために作られた。だったら……コイツで“笑える結果”にしてやりたいと思いませんか」
戦うために作られた。“ルビコンの空をかっ飛ばす”という目的はある。だがそれでもブラックバードは兵器だ。
兵器は人を殺すためにある。それが本質だ。
そしてそういうものだからこそ、笑える必要がある。
それはエゲトが、カーラとビアードの二人から学んだことだ。
「俺は死ぬのだけは死んでも御免なんですよ。結果どうこう以前に笑えない」
「それに、ブラックバードが日の目を見ないまま終わるのも、嫌です」
例え損傷してしまってチャレンジに到達出来なくても。
生きていればいい。
それに何もしないまま死にたくない。
ブラックバードがその役目を何もしないまま終えるのも見たくない。だったら。
「……チャティが来るまで足掻きます」
「その後のことは、それから考えます」
せめて前衛にいるチャティが片付いてこちらに合流してくるまでの時間稼ぎになってやる。
更に続けてエゲトがニヤリと笑って言った。
「それに、です。……別にあのクズを、俺がぶっ殺しても構わないんですよね?」
隙が見えたらぶち殺す。無名の独立傭兵がランカーの傭兵を殺す。その上カーラからしたらRaDの宿敵のような存在だ。どれだけの大捕物になるだろう。
「……おいおい、言うようになったじゃないか」
その言葉を聞いてふっと笑みをこぼすカーラ。
そこまでいうのならばやってもらおう。そして、エゲトの言う“笑える結果”にしてもらおう。そのACの本質を以って。
「……行ってきなエゲト」
「死ぬ気で戦うんだ。相手はクズだがランカーだ」
「……但し、死ぬんじゃないよ」
「……了解!」
「ビアード、ブラックバードのオペに入れ!ついでに立ち上げ!MTが全滅する前に終わらすよ!」
「合点承知!」
エゲトが仰向けに寝そべるブラックバードの元へ。そのコア前面部にあるコクピットブロックへ、その中を覗き込む。
――狭い。
小型で、特殊な形状をしたFirmezaのコアは普通のACよりも狭く感じた。
普段乗ってるチャリオットのコアが大きく内部も広いから、違和感はある。だが変わらない。コイツはACだ。
「……大丈夫」
ひとつ呼吸を吐いて、滑り込む。ビアードから渡されたヘルメットを装着、酸素マスクも取り付ける。
「……こちらビアード、聞こえるカ?」
「良好だ」
「ならヨシ。……エゲト」
「死ぬなヨ」
「了解」
短いやり取り。だがそれで充分だ。
「……さぁ、ブラックバード」
パイロットスーツのギアをシートに固定、ベルトも締めてからコンソールに取り付けられた複数のトグル・スイッチを指で弾きながら呟く。
「……“仕事”の時間だ」
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トレーラーの上部ハッチが開く。
機械音を上げて、ハンガーユニットがゆっくりと起き上がる。
漆黒のACが、ハンガーユニットに拘束されて現れた。
「……おや」
一機のMTを左手にしたチェーンソーで葬りつつ、ブルートゥがそれを見ている。
「……ああ、とうとう出てきてくれたのですね……!」
歓喜に満ちた声で、うっとりと呟くブルートゥ。
ACがハンガーの拘束から解き放たれる。
「……ブラックバード」
「お前に、意味を与えてやる」
“メインシステム、戦闘モード起動”
無機質なCOMボイスが、一人呟くエゲトの座るコクピットに響く。
そして、赤く揺らめくカメラアイが確りとその獲物を見つめた。