ブラックバード・ドリーム   作:AC/弟子

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First sense


ファースト・センス

 

「……ハァ?」

 

ビアードの間の抜けた声が響く。今お前何を言った?そう言いたげな一瞥がエゲトに注がれた。

“このルビコンで一番速いACを作る”だと。

 

「…とりま、コーラルキメっカ?」

「やらねーよ大馬鹿野郎が」

 

次に返された言葉にエゲトは大きくため息をついた。我ながら馬鹿なことを言ったものだと。このルビコンで一番速いACを作る、とんだ絵空事だ。

 

だが脳裏に次々過ぎるのは、あの幼い頃の記憶だった。

本の中に描かれた、色々な飛行機。憧れた。空を自由に飛びたいと。そしてその中のひとつの真黒い戦闘機に目を奪われた。

 

流線型で、翼に当たる場所の中腹に取り付けられたジェット・エンジン。唯速く、依り速く飛ぶ為だけのその形、全てに心を奪われてしまったのだから。

 

「しかしどーしたヨ、お前がそんなこと言うなんてナ」

「自分でも分からない、でもさ」

 

エゲトはまた煙草を咥えて、ゆっくりと煙を吸い込んで、吐き出す。

 

「…………いや」

「忘れてくれ、ビアード」

 

吐き出して、望郷の目で呟いた。何を思い出してるんだ俺は。思い出を無理矢理頭から弾き出すように呟いた。

 

“お父さん、僕ね”

 

“この飛行機に乗って、ルビコンを飛びたいんだ”

 

――SR71-Blackbird。

思い出の中で指さした戦闘機は、エゲトの頭の中に張り付いて、弾き飛ばすことなんて出来やしなかった。

 

馬鹿らしい、もうそんな夢を見てる場合じゃないのにな。自嘲気味に笑って、高い高い建造物から、低い低い下界に向かってタバコを指で弾いて捨てた。

記憶の中の思い出の代わりに。

 

「さっきの、忘れてくれて構わないからなビアード」

「……ヘッ」

 

ビアードの小馬鹿にしたような顔を一瞥して、エゲトはその場を去ることにした。

 

 

「……っ、はぁ……ルビコンで一番速ェACなァ……」

 

吸入器に口を着け、気化させたコーラルを吸込みながらビアードは呟いた。

ビアードにとってエゲトは、最初から気に食わない男だった。

クソ真面目が服を着たようなヤツだと思ってた。

何をするにもキッチリしてる。そんな印象だった。だが。

 

「……ンもしれーことァ、言うんだねェ……」

 

ポケットに手を突っ込んで歩いていくエゲトの遠い背中を眺めてまた呟いた。

ヤツが何を見て言ったのかは知らない、でも。

“悪くない”、そう思えた。

 

------

 

「……ふぅ」

 

エゲトはシミュレータ室に籠っていた。日課のように、AC操縦の訓練だ。全ては“最高の傭兵”となる為に。

彼のACはベイラム製の頭部腕部に、RaD製コアと脚部を使用した重武装寄りの中量二脚ACだ。

 

右手にした重量型のベイラム製リニア・ライフルで確実に相手のACS負荷を蓄積させ、左手のパルスブレードで体制を崩したところを叩き切る。

肩部武装は六連装ミサイルポッドと縦二連装グレネードランチャー。あらゆる状況と交戦距離に対応し、必要とあればアセンブル変更も視野に入れた構成だ。

 

幾度となく試行錯誤し、組み替え、至った自分だけのアセンブリ。だがそれでも、まだまだだと言える。

 

日課の「弾薬及びAPが尽きるまで、リポップし続けるトレーナーACを倒し続ける」という訓練だが、今日に至っては中々どうして上手くいかない。二機を既に撃破してるものの、APは半分を切っていた。

 

雑念が浮かんでは消える。

先程思い浮かべた幼い記憶が浮かんでは消えて、エゲトの集中力を削いでいく。

 

“クソったれが”

 

頭の中で自分の至らなさに不甲斐なくなる。穴があったら入りたい。そんなことを思った刹那。

 

“マズ、っ”

 

トレーナーACのミサイルからACS負荷限界。体制を崩され、敵ACのリニア・ライフルのチャージショットが突き刺さる。そのままアサルト・ブーストで彼我の距離が一気に詰まり、蹴り飛ばされる。

 

シミュレータ故にコクピットへかかるGはない、だが一気に削り落とされたAPが焦りを加速させる。このままじゃ不味い、と。

普段なら五機六機と余裕ではあるはずなのに、今日に至っては半分以下だ。落ち着け、冷静に、状況を分析しろと言い聞かせるもそんな暇はない。動きは荒く、被弾が増えていく。

 

「……っ、クソが!!」

 

思わずコクピットで叫んだ。結局そのまま、トレーナーACに削り切られた。画面の中で膝を着き煙を上げる愛機と、“Break Down”の冷たい文字が機能停止を告げていた。

 

自分自身への怒りで沸騰しそうだ。憤懣やるかたない気持ちのままシミュレーターを出る。

 

「……よォ」

 

そこには、ビアードの姿があった。コーラル酔いしたような焦点のない目では無かった。

 

「随分まぁやられたようだナ、見てたゼ」

「……笑ってくれて構わない」

「だァれが笑うもんカ、戦いっつーのは非情だからナ」

 

何をわかったような口を。怒りに身を任せて言い返そうとすると、ビアードがすっと手のひらを向けてきた。

 

「……エゲトよォ……さっきのアレ、だガ……」

「聴いちまった以上、忘れられねーんだワ」

 

「……叶えてみねぇか、“ルビコン最速”」

 

ニヤリと、自称“RaDの天才アーキテクター”は笑ってみせた。




登録名:エゲト
AC名:チャリオット

アセンブリ
頭部:HD-012 MELANDER C3
コア:CC-2000 ORBITER
腕部:AR-012 MELANDER C3
脚部:2C-3000 WRECKER

右腕:LR-037 HARRIS
左腕:HI-32 BU-TT/A
右肩:BML-G2/P03MLT-06
左肩:SONGBIRDS

推進装置:FLUGEL/21Z
火器管制:FC-008 TALBOT
ジェネレータ:AG-T-005 HOKUSHI

追加装備:PULSE ARMOR
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