「……な、」
「あぁ、何言ってんだコイツって顔してるな分かるゼぇエゲト」
「俺は忘れろ、って言ったよな」
「だが忘れられなかっタ、それだけの話しヨ」
この男は何を宣ってるんだ。忘れろと言ったのに。そう言うかのように天を仰ぐエゲト。そのままちらりと視線を下にやれば、にまにまと笑ってるビアードが見えた。
「……バカにしてんのか?」
「する訳ねぇだろバーカ。クソ真面目に言ってんのサ」
返された言葉には嗤うような感情はなかった。本当にビアードは、真剣かつ真面目に応えているのだ。
「……とりあえずまぁなんだ。詳しい話は明日にしようカ。お前明日も仕事だロ?終わったら一服しつつ話しようヤ」
「……聴くだけなら付き合う」
「言ったのテメーだロ」
痛い所をつかれた。うぐ、と小さく声を上げるエゲトを見てニヤッと笑ったビアード。
「……ゆっくり休めや、お疲れさン」
ぽんとエゲトの肩を叩いて、ビアードは去っていった。……コーラルドーザーで、直近でコーラルを服用していたのにも関わらずその足取りは確かだった。
「…………忘れろって、言ったじゃねぇか」
恥ずかしくなってきた。あんな世迷い言、子供の頃の望郷と夢。忘れたはずの想い出なんて、恥ずかしいだけだ。
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今日も今日とて“ゴミ拾い”だ。グリッド086から下に降りて、向かう先はボナ・デア砂丘。荒廃した砂漠、未だ残る戦痕。当然そこには、戦いの後の“有益なゴミ”が沢山残っている。
「……とは言えまだまだここは第一線だけどな」
隙あらば誰かしら何かしらが戦いを繰り広げる、そんな場所でもある。今日の“紛争予報”によれば、砂丘は平和との事だが。
「……静かだな」
今日に至っては本当に静かだ。この砂丘での予報は当たらない、戦闘も想定して最低限、ベイラム製マシンガンとパルスブレードで武装してきたが……何も無い。
ジャンクを拾い、背部に搭載したバックパックユニットに詰め込んでいく。レア物が落ちてればいいが、そんなことを願いつつゴミ拾いに勤しむのだった。
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「帰ってきたナ」
本当に何事もなくゴミ拾いは終わり、グリッド086に帰ってきたエゲトを出迎えたのはビアードだった。
「で、考えてくれたカ?」
「考えるも何も、俺は忘れろって」
「ああ、言っタ、確実にそう言っていたヨ。でも」
「人の夢嗤う程、人の心捨ててねェんだワ」
「コーラルでラリった頭でもよ、人の夢を貶すなんて出来やしねェ」
「なぁエゲト。やらねぇカ」
「“ルビコン最速のAC”、作らねぇカ?」
ああ、本当に、この男は。大きくため息を着くエゲト。
「……いいよ、やってやる」
「ただ、もう引き返せねぇぞ」
頷いて答えた。呆れたけど、それでも、もう一度あの夢を追えたのならば。
「作ってやろうぜ、最速」
「そうこなくちゃなァ、相棒!」
ビアードがニカッと笑い、肩をばしんとひとつ叩く。
「……で、具体的なプランは?」
「無ェ」
「………………は?」
「無ェよ、ンなもン」
「っ……はぁ!?テメーが乗っかってきたんだろヤク中!!」
「ヤク中って何だコラ!……まぁいいとりあえず一服だ。あの場所誰もコねーから、ゆっくり話せる、そうするか、うん」
「…………まぁ、プラン無しってんは嘘ダ」
ガレージスペースを出て、いつも二人で一服するグリッドの端っこ。エゲトもビアードも煙草を咥えて、向こう側に広がる景色を眺めて話す。
「まず一つ目。これァ現実的じゃねぇ、確実に時間も金も食うプラン。“設計図からACを起こす”」
「……完全ワンオフ、ってことか」
「ゴ明察ダ」
本当の本当にゼロからACを作る。RaDの技術力をもってすれば容易いが、それはかなり険しく長い道のりだ。
幾つものペーパー・プランを起こし、数百、いや数千、もっともっと果てしない回数の試行錯誤を繰り返して作り上げる。
「……厳しー、な」
「金も時間も食いに食い尽くス――出来るもんは確実に最高のACだが、ナ」
「どうせビアードの事だ、もうひとつプランは用意してあるんだろ。言えよ」
ビアードはこういう時本命の計画は隠す。数年の付き合いだ、何となくわかるし、そういう人間なのは百も承知だ。
「……既存のパーツを組み合わセ。確かに限界値は見える、底なしのスピードは手に入れられなイ。だが、正解のパターンは確実に見えル」
「……成る、ほど」
既存のパーツの組み合わせ。今まで何回も何回もやってきたことだ。それにこういう尖った目的で試したことは一度もない。だが。
「……RaD製で軽量機のパーツなんて、見たことない」
RaDのACで軽量級のフレームパーツは無い。そこに匹敵するほどの性能を持った部品はあれど、どちらかと言うと重機のような堅牢性を求めたパーツばかり。自分の“チャリオット”の脚部パーツでさえ本来そういう用途の脚部だから。
「ンーーー…………」
悩むような声を漏らしてため息を着くビアード。
「……シゃーねぇ、頼るカ」
「頼るって、何を」
「……俺ァよ、RaDに来る前企業に属してたんだ。ルビコンの現地企業ダ」
「……それは?」
「エルカノ・ファウンドリー」
「ちょいト、コネでも使わせてもらおうかネ」