ブラックバード・ドリーム   作:AC/弟子

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Third Name


サード・ネーム

 

「……エルカノって、あのエルカノ?」

 

目を丸くしてぽかんとした面持ちで返すエゲト。思わず手にした煙草の灰を落とすのすら忘れてしまう。

 

エルカノ・ファウンドリー。

ルビコンに根付く現地企業のひとつ。鍛造技術に長けた企業というのは聞いていたが、特徴として「ACやMTの開発設計には携わっていない」のだ。

 

「だってあそこは」

「オメーの言いたい事ァ分かるぞエゲト、“エルカノにはAC用パーツは存在しねェ”、が。俺がエルカノを辞める少し前に話題があっタ――AC開発部門を作るってナ」

 

煙草を口にし、吸い込んだ紫煙と共に言葉を紡ぐビアード。

 

「昔のツテの連中が行ってりゃァちょいと融通させてもらおうかねェ」

「おっまそんな……無茶な」

「使えるもんは使うんダ」

 

ヒヒ、と紫煙をくゆらせつつ笑うビアードに呆れた顔を浮かべるしかできない。幾ら何でも……そんな無茶、通るのか?そんなことばかり考えてしまう。

 

「お前も傭兵やってて学んだだロ、使えるもんは全て使う。その上で生き残るんだヨ、分かるカ?」

 

……頷くしかない。それは分かってる、嫌という程に学んだ。

 

「よろしイ。とりあえず俺ァエルカノの知り合いにコンタクト取って見らぁヨ」

「……分かった」

 

腑に落ちない訳じゃないが、そんなに上手くいくものなのだろうかと。……いやここは、任せよう。というか自分にはそれしかできないのだから。

 

「あぁ、そうダ」

 

何かを思いついたように、ビアードが口を開く。

 

「この俺たちのプロジェクト。その名前ハ―――」

 

------

 

数日後。音沙汰無かった「俺たちの計画」に進展があった。

 

「初めまして、独立傭兵エゲトさん。私はエルカノ・ファウンドリー第七工廠代表、キンバリーと申します」

 

今となっては普通となったリモートの面会、自室にてビアードと共にパソコン画面での面会となった。画面の向こうには、金髪の初老の男性がいた。

 

「久しいなァキンバリー。元気してっカ?」

「お久しぶりです、セ……いや、今は“ビアード”でしたっけ」

「あァ、それでいい」

 

どうやらこのキンバリーという男性が、ビアードのツテ、らしい。

本名で呼び掛けたところを見るに親しい仲と見える。

 

「で、お話にあったフレームパーツの件ですね。我々エルカノは数年前からACパーツの設計製造に手を伸ばしました。その第一号がこちらになります……今、そちらにデータを送信しました 」

 

画面に別ウィンドウでポップアップされたものを見る。

 

「……“EL-T-10 Firmeza”」

 

ウィンドウに映されたのは、軽量級通常タイプ二脚のAC。

 

「はい。こちらは我々の鍛造技術、その粋となるACです。鍛造がどういうものかはご存知かと思われますので、説明は省略させて頂きますが……軽く、硬く、強い装甲を持っており、一般的な軽量タイプのACと比較してもかなり高い性能を誇っております」

 

鍛造。金属を叩き、鍛え、造り上げる。鉄を溶かし型に鋳込む鋳造と違い、叩きあげる事で金属結晶の向きを揃え、より軽く硬い鋼へと仕上げる事が出来る。

 

エルカノ・ファウンドリーの鍛造技術ははっきり言って高い。日常にある鍛造製品でも、その実力は遺憾無く発揮されている。

そんな高い技術の粋を尽くしたACだ。データ上でもそのスペックは十分な程高い。

 

「データの方は初期ロットのFirmezaのモノとなっております。現在流通開始しているFirmezaの方が安定した性能となっておりますね 」

「それはまたどうして……?」

「まぁ所謂所のイメージ作りですよ。初期ロットの方が……言い方は悪いですが少々過激です」

 

比較用として映し出された後発ロットのデータを見比べる。……確かに、装甲が薄い。内部ユニットのジェネレータへの影響も高いように見える。

 

「ビアード、これ……」

 

しかしまぁ本職でない自分にはちんぷんかんぷんだ。ビアードに助けを求めようとして声をかけ顔を向けると、一瞬固まった。

普段見ることが出来ないような真剣な表情。まるで職人が素材を吟味するかのような張り詰めたものがあった。

 

「……キンバリー、コイツァ……まだ手に入るカ?」

「初期ロット、まだ在庫があります。とは言え数少ないですが」

「だったら、コアと脚。一本ずつ欲しいナぁ。フレーム単位で使うニャ、やや性能がトンガリすぎてらァ……にしてもヤベーの作ったナ?」

 

画面の向こうで苦笑いを浮かべるキンバリーが見えた。データとあの説明だけで何を見抜いたんだろうか。エゲトには理解出来なかった。

 

「了解しました、発注かけておきます。確認諸々もさせていただきますので、一週間から二週間ほどお時間頂きます、宜しいですね?」

「大丈夫です」

「構わねぇヨ」

 

返答とともに、ちらりと視線を横に外すキンバリー。カタカタとキーボードを叩く音が聞こえるあたり直ぐ様に手続きに取り掛かってるようだ。仕事が早い。

 

「……それにしても、態々初期ロットを狙って買うなんて。今度は何を企んでるんですか、ビアードさん?」

「ナイショ、だヨ」

 

“今度は”って。過去にも何かをやってるような、ビアードとキンバリーの会話。後で突っついてみようかなと考えてしまう。

 

企み、計画、プロジェクト。そうだ。俺たちのこの計画は。

ふと、数日前のビアードの言葉が、頭の中で蘇ってきた。

 

 

 

“この俺たちのプロジェクトの名前ハ――”

 

“プロジェクト・ブラックバード”

 

“お前は夢を話してくれタ。このルビコンを音速の戦闘機で飛びたかったってナ”

 

“だったら飛んでやろうゼ”

 

“このコーラルで灼けた空を、真黒い鳥を、見たことない速度で、ブッッ飛ばすのサ”

 

 

「……やってやろうぜ、ビアード」

 

この空間にいる誰にも聞こえない、自分にしか聞こえないような声で。

エゲトは、ポツリと呟いた。決意と、期待と、夢と共に。

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