ブラックバード・ドリーム   作:AC/弟子

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Seventh Madness


セブンス・マッドネス

 

グリッド012。

惑星ルビコン開発初期に建てられた超大型建造物群。汚染区域に囲まれ、開発初期に建造されたグリッド故か崩壊した箇所の多いグリッドだ。

 

今はドーザーグループのひとつ“ジャンカー・コヨーテス”の根城となっている。

そのグリッドの最奥部。

 

「……ほう、成程……」

 

一人の男性が、地面に横倒しになっている鉄骨に腰かけながら画面にヒビの入ったタブレットを眺めている。

金の長髪に煤けたロングコートの男。

薄暗い中、唯一の光源はタブレットの画面だけ。そんな中で破顔した。

 

「……ああ、ああ……素晴らしい、素晴らしい試みですね……」

「“ルビコンで最速のAC”……素敵だ……心が踊ります」

 

タブレットを傍らにおいて、立ち上がる。

 

「どれだけ速いのだろう?どれだけ素晴らしいのだろう?どれだけ……素敵なのだろうか……」

 

両手を横に広げて天を仰ぐ。満面の笑みで、崩れかけたグリッドの天井を見つめている。

 

「……スロー」

「スロー……」

「クイック、クイック」

「スロー」

 

男は踊り始めた。軽いステップで、自分しかいない場所で踊る。まるでそこに誰かがいるかのように。

満面の笑みで、何かが起きるのを待ち遠しいかのように踊る。

 

「……こうしてはいられませんね」

「私も、彼らに花束を……いえ、そうですね」

「“大きな花火”を用意しなければ」

「彼らは、カーラは喜んでくれるでしょうか」

 

男の独白は続く。

 

「……待ち遠しいですね」

「“ミルクトゥース”」

 

目の前に安置されたACに、男は――“オーネスト・ブルートゥ”は笑顔で語り掛ける。

その笑顔はどこまでも――“狂って”いた。

 

------

 

グリッド086、その隠しガレージに三人の人物がいた。

 

RaDの頭目、シンダー・カーラ。

ドーザーの技師、ビアード。

無名の独立傭兵、エゲト。

 

三人は組み上がった漆黒の軽量二脚AC、“ブラックバード”を眺めていた。

 

「……とうとう完成したね。よくやったよ二人共」

 

カーラが呟いて二人の背中をばしりと叩く。

以前カーラがここに来た時とは違う、完全に武装されて内装パーツも組み付けられた状態。外装も磨かれて、ほんのりと艶が浮かんでいる。

 

「完成したナァ……」

 

ビアードも感慨深く呟く。

 

「…………」

 

一方のエゲトは何も言葉にすることなく、ただブラックバードを見ていた。

ACのデータを受け取った時、心が踊った。

それをシミュレーターに入れて、起動させた時。背筋が震えた。実戦じゃないのに。

それから何度も何度も、慣熟訓練。

自分は強化人間ではない、ただの人間だ。だからこそ死ぬ気で寝食も惜しんで練習した。

 

チャティやラミーに模擬戦の相手になってもらったこともある。……ラミーは正直相手にならなかったが。負けても負けてもコーラルでラリって勝敗なんて知らないなんて顔だったし。

今やもう、このブラックバードはチャリオットに続く第三の手足だ。

 

「……どーしたエゲト、何も言えねぇってカァ?」

「……そんな感じだぜビアード。コイツを動かすのが楽しみで仕方ない」

 

ブラックバードから視線を外さずに呟くエゲト。

早く、早くこのACに乗りたい。

そして、夢にまで見た世界を、超高速の世界を。

 

 

「……ハイハイ焦っても仕方ないよ!作戦会議と行こうじゃないか」

 

カーラがエゲトの背中をクリップボードで叩いて、簡素な机とパイプ椅子を引っ張ってきた。

 

「まずは二人ともご苦労だった。だがココからがアンタたちのチャレンジのスタートラインさ」

 

タブレットといくつかの書面資料を机に叩き付け、エゲトとビアードのふたりを座るように促す。

そこには、スペック表と立体投影された地図、何かの装置が映されていた。

 

「アタシも仕事をさせて貰ったよ。アンタたちのチャレンジの場さ」

「086から三時間くらいトレーラーでぶっ飛ばした先に、廃棄されたグリッドがあってね。そこには航空機やACを射出するためのカタパルトがまるっとそっくり残ってる」

 

カーラがタブレットを操作すると、映し出されたのはカタパルトの立体映像だ。くるくると回っている。

 

「ウチの技師たちに確認させたところ――まだ動く、しかも殆どの機能はバッチリ生きてる」

「電磁式のカタパルト、射出方向を調整するためのターンテーブル。きっちり使える」

 

エゲトが小さく生唾を飲み込む。おあつらえ向きのステージが残ってるとの言葉に興奮が隠しきれない。

それに驚いている自分も内心居た。

 

ただ、ルビコンの空を高速でぶっ飛ばすだけの行為。

到底兵器には求められない世界。愚者の挑戦だ。

それでも――愚かな血が隠せない。かつて夢にまで見て諦めた世界がすぐそこにあるんだから、と。

 

カーラが端末を閉じ資料を纏めつつ顔をビアードの方に向ける。

 

「ビアード、我らが“黒い鳥”の最終調整はどの程度で済ませられる?」

「一週間以内ニ」

 

「エゲト、練習はどれくらいの進捗だい?」

「チャティを無傷でですよね。……あと二割」

「よろしい。ならば決行は―――」

 

 

一週間後だ。

三人の声が重なった。

 

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