今回は前回に引き続き、後編になります。
お正月って…イチャコラさせるのが案外難しいですね
「おっそ~い!遅いわ!この程度の階段でなんでそんなに息切れしてるわけ?」
にこ社長に煽られているが、今はそれどころじゃない。新年だからと調子に乗り、彼女に乗せられて競争をしたのが間違いだった。序盤はいい勝負だったが…すぐに持久力のない俺が限界を迎え、次第に突き放されていった。
「はぁ…はぁ…階段つらっ…!」
「まったく…だらしないわね~」
「腐っても元アイドルか…っ!はぁ…はぁ…っ!社長ほど元気じゃないんですよ…それに人混みは嫌いなんですから…!」
~回想~
元旦、年越しそばを食べ、父親と話し合った後…俺はいつも通りの時間に俺は出社していた。しかし、仕事はなかった。
かさね達のスケジュール管理もほとんどと終わっているし、事務的なことももう済ませてある。もう次のライブの備えについて、かさね達と話し合うだけ…ということになっていた。
「にこ社長~」
スーツに身を包み、両腕を組んで空を眺めている 矢澤にこ 社長に話しかける。
「なに?」
「暇です」
「暇ね」
「やることがないです」
「そうね…」
「そういえばかさね達の今日の予定は?」
「確認済みです、一応全員午後は相手いるそうです」
「…わかったわ」
あまりに暇過ぎて、何か考え込んでいるにこ社長をからかってみたい気持ちが沸いてきた。
「せっかくの元旦です。初詣に行ったらどうです?」
「…あんた、馬鹿にしてるでしょ?」
案の定キッと睨み付けてくる
「冗談ですって…あははは~…」
「ふんっ!まあいいわ。柳沢、外に行くわよ」
「どこに行くんですか?」
「もちろん、神田明神に決まってるじゃない!」
「今から?」
「今から!さぁ!行くわよ!」
~回想 終~
地獄のような階段を上り終えた後は、初詣の列に並ぶという次の地獄が待っていた。いまからライブでもやるのかとさっかくするくらい人がたくさんいる。
「長い」
「まったく…文句ばかり言わないの」
「相変わらず元気そうで安心したわ」
一つ前に並んでいた女性が振り向くと、話しかけてきた。アイドル好きなら…彼女の名前はたいてい知っている。赤い着物に身を包んではいるが…彼女は間違いなく 西木野真姫 だ。そんな彼女に気付き、隣にいる男性もこっちを向いた。黒の羽織に青色の着物…誰だこの人。
「…真姫じゃない!やっぱり来てたのね!」
「あけましておめでとう、にこちゃん」
「あけましておめでとうございます、矢澤にこさん」
隣にいるさわやか系イケメンが誰なのかはわからないが、真姫さんと手を繋いでいる以上、ある程度進展した関係であるみたいだけど…誰なんだ一体…
「あけましておめでとうございます。
彼の顔を見ると、にこの顔が一気に凛々しくなって、仕事の時の「矢澤にこ」になった。
にこに頭をぐいっと引っ張られ、半ば無理やり頭が下がる。少し経った頃、彼女が相手に聞こえないくらいの小さな声で話しかけてきた。
「私たちのスポンサーなんだから!失礼があっちゃ駄目!」
「スポンサー」この言葉を聞いた瞬間に、一気に脳細胞がトップギアになる。相手はスポンサー…いわば俺たちの出資者のような人だ。粗相があってはいけない。
「…失礼しました!」
「そんなに改まらなくてもいいですよ、支援をしているのは真姫だし、僕は名前だけみたいなものだから」
一安心したのは…声色からして怒ってはいないということ。表に出ないだけなのかもしれないが…
「その話は後にしましょう、後ろ…詰まっちゃってるわ」
真姫さんに言われて頭を上げて見ると…後ろに並んでいる人達がこっちを睨んでいる。列の前を見ると、大分間隔があいていた。「後ろが詰まっているんだから早くしろよ」という表に出てこない言葉が、空気になって物語っている。
「あははは…すいません」
話を後回しにし、ひとまず急いで前に進んだ。
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参拝を終えると、すぐににこ社長と真姫さんは別の場所に移動。今はスポンサーである
「…あの、一つお聞きしたいことがあります」
「なんでしょう?」
「ありがとうございます。どうしてうちの会社を支援してくれるんですか?「スクールアイドル」を支える仕事なんて…金にもならないはずです」
「まぁ…そうですよね、確かにお金にはなりません」
「ならどうして?」
「真姫の思いが伝わったから…かな。そんなこと言ったら、柳沢さんもそうでしょう?聞いていますよ、あなたのお給料は、事務所の運営に使われてるらしいですね、しかも時間外労働もよくやっているとか」
「…よくご存じで。でもいいんです、これが俺の生きがいなんですから」
ふふっ と静かに笑うと、彼は淡々と話し始めた。
「僕がにこさんの会社に出資している理由…少し違うかもしれないですけど、もしかしたらあなたと同じ理由なのかもしれません」
「同じ理由…もしかして東さんもにこさんに巻き込まれたんですか?」
彼は少し考える素振りを見せると、一度だけ頷いて答える。
「…そうですね、巻き込まれたというのが正しいのかもしれません。でも僕の場合は…」
彼がようやく話し始め、話が進もうとした瞬間、かさねが背中に飛びついて来た。
「さ~ん!あっけおめ~!」
背中に衝撃と痛みが走る。こんなことをするのは新年になったとしても一人しかいない
「いてて…いい加減背中はやめろ、この人は…」
支倉かさね、音ノ木坂のスクールアイドルのリーダーにして、だいたいいつも突進してくる。
「あけましておめでとうございます」
彼は気にも留めていないのか、落ち着いた口調と笑顔で新年の挨拶をした。
「あ…あけましておめでとうごじゃいます…!!」
かたや、挨拶された方のかさねはテンパり、ボロボロだった。
「あのことは言わないで上げてください。僕はここで真姫を待っていますので」
「わかりました…失礼します」
「よいお年を」
そういうと、俺は彼と別れた。一言で言ってしまうなら…彼は不思議だ。察しがいい割には落ち着いているし、ある種達観しているといってもいいくらいだ。何も考えていないような素振りをして…怖い相手だ。
「…あのイケメンさん誰ですか?知り合いですか?」
「まず「あけましておめでとうございます」だろう、なんだその挨拶は」
「あっけおめ~!♪」
俺の右腕をしっかりと掴み、強引にグイグイと引っ張りっていく。
「新年の挨拶くらいしっかりしろ…まったく…」
「行きましょう!みんな待ってます!」
「おう!…ってどこにだよ」
「内緒です♪しずくちゃ~ん!理華~!」
甘酒を配っている屋台の前で、しずくと理華の二人を見つけた。甘酒を飲んでいる彼女たちの前に連行されると、ようやく腕の拘束が解放された。
「あけましておめでとうございます」
「あけこと」
「理華は略し過ぎだ。しずくを見習え」
「ほかのみんなが来たら!今日もがんばろー!」
「…新年あけたばっかりなのに、元気だな~…・」
「まだまだこれからです♪もっともっと!私たちは前に進むんですから!」
「…そのまえに、しっかり挨拶は覚えないとな。さっき噛んでたろ」
「聞いてたんですか!?」
「おう、ばっちり聞いてた」
喜怒哀楽がはっきりあらわれるかさねをいじるのも面白いが、事案になりそうなんである程度は控えておく。ある程度は。
「ふえぇ…忘れてください!今すぐに!」
「嫌だよ、勿体ない」
新年早々うるさい正月になった と思う反面…彼は、この空気を楽しいと感じていた。
もう一度9人で ―高坂穂乃果-
ことりちゃんのお母さんに学校に入る許可をもらった私は、音ノ木坂学院の屋上に立っている。ドアはやけに重たくって、屋上の空気は新鮮なはずなのに、とても懐かしい感じがした。
「9人で楽しく…だったよね」
屋上を見渡して…もう一度あの時のことを思い出す。私たちはここで学んで、頑張って、思いを一つにした。
「それでも…私たちはここで始まったんだ」
μ's と書かれていたの水はとっくに昔に乾いてしまっていて…もうあの時に戻ることは出来ないことを実感させる。心ではわかっていても…なぜかそれが寂しくて、やりきれない思いが募っていく。
「あれからもう…随分経ってしまいましたね」
「時間の流れって…早いね」
「ことりちゃん、海未ちゃんまで…」
「二人だけじゃないわ。みんな来てるもの」
絵里が扉を開けると、中からかつてのメンバーが出てきた。雰囲気は変わっているけど…ミューズが全員そろったのだと思うと、うれしい気持ちでいっぱいで、満たされていくように感じた。
「相変わらず、穂乃果ちゃんはせっかちやね~」
「まったく…どうしてこうも変わらないのかしら…」
「凛…!?くっつかないの!危ないから!」
「真姫ちゃん久しぶりー!」
「凛ちゃんあぶないよ~!」
「絵里ちゃん、希ちゃん、にこちゃん、真姫ちゃん、凛ちゃん、花陽ちゃん…」
「お久しぶりです凛、元気にしていましたか?」「元気にしてます!こう見えて、もう立派な教師なんですよ!」「すっかり大人になったみたいですね、安心しました」「え?え?それってどういう意味かにゃ?」「…やっぱりまだ治ってないのでしょうか?」
「花陽もひさしぶりね、仕事の方はどう?」「まだまだ大変です…園児たちの世話が特に大変で…」
「にこっちに会うのも久しぶりやね、新しい子たちはどうなん?」「まだまだ甘いわ、けど、私がいる以上絶対に優勝させてみせるんだから!」「にこはこう言ってるけど、にこが思っている以上の女の子達だから、大丈夫よ」「なっ…それってそういうこと!?」
「ねえ…ことりちゃん。こんなこと…もうないかと思っていた。この場所で、こんな話をして…本当に夢みたい」
「あれから時間が経って…もう私たちはあのころには戻れない。それでも、私にとって…みんなと過ごしたかけがえのない時間であったことは絶対に変わらないと思うんだ。どんなに時間が経っても…私にとっての大切な時間なんだから」
肩に入った力を抜き、懐かしい景色をもう一度思い出す。
そうだ、時間は過ぎるものだとしても、変わらないものはある…そう思って、私はここを、μ'sを卒業したんだ。
「ことりちゃん…うん、そうだよね」
過去を振り返っても仕方ないって割り切れるわけじゃない。でも、私たちは成し遂げたんだ。たとえミューズの文字は乾いてしまっても…あの時の記憶は消えたりしない。
「そろそろいいかしら、入ってきて」
絵里ちゃんが合図すると、ゆっくりと扉を開けて、9人の女の子達が出てきた。にこちゃんから聞いた話だと、今の音ノ木坂のスクールアイドルを担っているのは彼女たちだ。
「そんなに怯えなくても、いつも通りにしてればいいの。特にかさね、あんたはしっかりしなさい、リーダーなんだから」
にこちゃんが励まし…ているつもりなんだろうけど、ちょっとプレッシャーになっていた。ほかのメンバーもそう…顔はこわばっているし、肩に力が入っている。
「は…はいぃ…!」
「あの…」
話しかけようとした瞬間、凛ちゃんが私の前に出た。一回ウインクをし、彼女たちの方を向く。
「はいはいみんな~一回深呼吸して~」
凛ちゃんが9人の前に立ち、「彼女たち先生」になったみたいに話し始める。9人は困惑しながらも、息を吸って吐く。
「はい、もう1か~い!合わせてあわせて~」
少し困った顔をしながらも、少しずれているが、全員のタイミングを合わせながらの深呼吸。
「はいはいもう一回!今度は完璧に~」
困惑が消え、全員の息がぴったりあった深呼吸になった。
「穂乃果ちゃん、話して」
小声でそういうと、凛ちゃんは笑顔で横に下がって行った。
「リーダーだけじゃなくて、これは全員が聞いて、これは…私からみなさんに送る言葉です」
9人全員の顔を見て、ひとりひとりに話しかけるつもりで話しかける。さっきよりも格段に緊張の色は薄れているのがわかった。
「私たちは昔、音ノ木坂でスクールアイドルをやっていました。信じられないかもしないけど、私たちのライブはたった三人で…しかも観客のいない講堂から始まりました。そこから始めて…花陽ちゃん、凛ちゃん、真姫ちゃん、にこちゃん、希ちゃん、絵里ちゃん
…この9人が揃ってμ'sができたんだと思います。合宿に行ったり、笑いあったり、喧嘩もして…一度ラブライブに出るのを諦めたこともありました。でも私達9人は、誰かが挫ければ誰かが助ける。そうやってお互いに支え合って、この9人で、今までの人生の中で最高の時間を過ごすことが出来た。だからあなたたち9人にとって、ここが最高の時間であることを願っています。みなさ…じゃなかった。うん…こんな言葉じゃない」
一呼吸置き。とめどなく溢れてくる思いをまとめる。伝えるんだ、私の…今伝えたい想いを。
「やり遂げてください、最後まで。これが私達μ'sのメッセージです」
「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」
形は違っても…個性は違っても、彼女たちは私たちと同じなんだと、私は感じた。
最後の穂乃果の部分は実はやりたかっただけです。
この間一期と二期を続け見たので、ついつい書きたくなってしまったんです。
ご意見・ご感想など、こことよりお待ちします!
今年九月末くらいから始まったこの作品ですが…読んでくれているみなさんのおかげでモチベーション維持ができています。ありがとうございます。どうか来年度もよろしくお願いしますm(__)m
それではよいお年をノシ