『2023年11月
…クレイオシティは晴天。ビル街の奥に数々の自然があり、人々が自然と暮らすをモットーに科学機動隊『エルピス』のリーダー、
また、オートマトンの異常活動暴走が起こった際には成道氏の計らいにより、結成された科学機動隊エルピスの雷班、影島班の二班により制圧されます。皆様には危害を被らないよう、我々、エルピスが皆様の生活に希望ある暮らしをサポート致します。』
…バス停の電光掲示板にはそんな覇気のない女性の声が響いていた。街の姿は一言で表すなら近未来。車は全て自動運転で、エルピスの社号の入ったビルが彼方此方にある。
「うえぇ…今日もこんなことしてんの、お父さん…。」
人々の暮らしを豊かにする人型機械生命体…オートマトン。一眼では人との区別がつかないほど精密に作られており、エルピスの提唱する無限エネルギー、エルピスエナジーによって動くことを確立していた。
そんなオートマトンの修理、製造、発注を受けている一つの工場が『改動科学工場』である。
「仕方ないだろう?コレが仕事だ。」
男のオートマトンの裸体をまじまじと見るモノクルの男性。それが此処の社長であり、名は改動雪彦《かいどうゆきひこ》。オートマトンエンジニアとしてクレイオシティの名門大学を卒業。エルピスエナジーを発明したエンジニア隊の1人である。
金と黒の混じった長髪を後ろで結ぶギャグ満載親父と言った様子で声もでかい。そしてその一人娘が、同じく金髪のミニスカ少女…改動こころであった。
「精密にオートマトンの修理、製造を行うためには筋肉の一つ一つも見る必要があるんだよ!!俺だって見たくないけどさ!!」
「…それ、女版もやるんでしょ。」
「ば、ばっか!!そんなこたぁしねぇよ。俺はこの仕事に誇りを持って…っておい、こころちゃん?」
アロハシャツの雪彦を横にこころは口にトーストを加え、家を後にする。こころはエルピスエナジー特有の甘ったるいような匂いが嫌いだった。
「ちょっ、こころちゃん!!送ってくってぇ!!」
「うるさいッ!!お父さん目立つんだよッ!!ばーか!!」
「うえぇ…しょ、しょんなぁ…。」
しょぼくれる父親をよそに、こころは自動運転自転車に乗り、そのタッチパネルに自分の高校の場所を打ち込んだ。それと同時に動き出す自転車。心地いい回転のおかげか、安全運転である。
こころは左手でトーストを食べながら、右手でスマートフォンのようなもの『エルピスフォン』を弄っていた。ネットニュースの一番上にはエルピスによるオートマトン鎮圧の文字があった。
こころの通うクレイオ中央高校はクレイオシティ内でも超名門である。そこでは事務員は愚か、先生もオートマトンが使われており、このクレイオシティを生きる上で重要な知識が短時間で叩き込まれる仕組みになっていた。
休み時間、こころはエルピスフォンを見ながら、友達の言葉に耳を傾けていた。
「ねぇねぇ。また、エルピスがオートマトンを鎮圧したんだって!!今度は百貨店の暴走オートマトンらしいよっ!?」
こころにも負けずとも劣らない派手なピンク髪の女の子、西行玲奈〈さいぎょうれいな〉が口を開く。明るい性格の彼女は男女問わず、とても好印象であり、人気があった。こころはちゅーっとパックジュースを飲みながら玲奈の言葉を聞いていた。
「百貨店って、楠道百貨店?」
「そーそー。あー。雷様、すっごいかっこいいんだよねぇ。生で会いたいなぁ…!!」
「…ミーハー女め。」
うっとりとする玲奈をよそにこころはパックジュースを飲みながら、ニュースを眺めていた。玲奈はそんなこころにぷくーっと頬を膨らませる。
「バカこころっ!!雷様はみんなの憧れだよ。こころぐらいだよ。雷様のことそんななの。てか何飲んでんの?」
「新発売の明太ミルク。」
「………美味しいの。」
「意外といける。っと、雷、雷〜…と。」
雷様…というのはエルピスの雷班の班長のことだった。こころはその程度しかない知識で検索エンジンにかける。こころは自身の父親が丹精込めて作っていたオートマトンを平気で壊すエルピスがあまり好きではなかった。
「あった。ほら、雷咲已〈いかずちさくや〉…あんまりじゃん。」
「はぁ!?どこがよ。この黒髪ナイスガイが私の白馬の王子様だったらなぁ…。」
「ちょっと情けなそう。…って、28、もう直ぐ三十路じゃん。…アイドルみたいなもんか。」
などと言いながら検索エンジンを下に下がっていく。
その行動を邪魔するようにチャイムの音が響いた。
「ケータイはしまいましょう。授業を始めます。」
抑揚のない声が響く。スーツをピシッとした人物が立っていた。無機質な表情から人間的ではなく機械的なものが窺えた。
同刻、科学機動隊エルピス。
雷班班長、雷咲已はブラックコーヒーを片手にパソコンと睨めっこをしていた。
「…最近のオートマトン暴走事件は多すぎる。」
…咲已の後ろには青色半透明の画面があり、そこにはピンク色の折れ線グラフが描かれていた。それを見るに、上半期はあっても一、二件だったものが下半期には50倍以上に膨れ上がっていたのである。
咲已の切れ長の金色の瞳が捉えている画面には暴走するオートマトンの姿があった。人のガワが外れ、機械的なパーツが顕になると歯車のようなものが回転し出し、そのオートマトンは異形へと姿を変えた。両手にチェーンソーのようなものがついた化け物だった。
「…オートマトンが熱暴走したわけではないようだな。」
オートマトンの暴走は脳内バッテリーの熱暴走だとされていた。しかし、過去の事件ではこのように姿を変えることはなかったのである。咲已は立ち上がるとすぐ隣の機械ベースへと移る。ここはエルピスの戦闘用メカを作るための施設であり、先程のオートマトンを倒した際に得たモノクロの歯車のようなものを解析していたのである。
その歯車のようなものは上にスイッチのようなものがついており、中心にはチェーンソーの衣裳があるのが見えた。
「我々のエルピスギアに酷似したもの。…盗まれたという報告はない。…何故だ。」
咲已が持っていたゴールドの半透明のギアはギアの中に縁を描くように雷の衣裳があった。
「…なんなんだ。一体。」
「今日の授業も怠かったなぁ…。」
こころは再び自動運転自転車に乗り、家までの道を辿っていた。空はもう仄暗く、朝というには間違いなく夜に近い時間帯だった。
「…ん?」
…その帰路の途中、こころはとあるものを見つけていた。黒い半袖にダメージジーンズを着た…オートマトンだった。それだけならなんら不思議なことはない。…そのオートマトンは目が黒く曇り、立ち尽くしているのみだった。
「ねぇ。アンタ、ご主人様は?」
異常を感じたこころはそのオートマトンに近寄った。黒髪のセンターパート。少しひげを蓄えているが、剃れば若々しく見えるだろう。こころはその手を握る。
「…ライセンス、認証。」
「は?」
…男の口から無機質で低い声が響いた。男の目がきらりと輝く。漆黒のように黒い瞳がこころを見つめた。表情はまさに機械。男は瞬きをすると周りを見渡す。
「…えらく綺麗な世界だ。」
「あ、アンタ何者なの。」
「…メモリーはお前を我が主人と認めた。…俺には名前がない。だが、俺は一つだけ探していることがある。」
男はそう言うとこころの方へと歩み寄る。すると男の近くにバックが落ちているのをこころが発見した。
「これは。」
「…それは俺が持ってきたものだ。」
無機質かつ無表情でそう伝える男。バッグはやけに重く、中には金属の大きな塊があるのをこころは感じた。中から出すとそこには…左右非対称の機械の塊があった。
真っ黒な楕円形のそれは右半分に丸型に何かを装填するような窪みがあった。
「…これは。」
「…『エートスドライバー』。未来のライダーシステムだ。」
…そう言った直後だった。
改動科学工場の方から爆発が響き渡る。
「お父さん…!!」
こころは実の父親の危険を察し、走っていく。男はその後ろを歩いて行った。大規模の工場は屋根から炎を上げて黒雲を作っていた。
「お父さんッ!!お父さんッ!!…けほっけほっ…!!」
敷地内は黒煙に包まれており、人間には悪影響だった。
「こころッ!!逃げろッ!!」
こころにとっては心地いい声が響く。安堵するもそれは早い。雪彦の横には銀髪の長髪の男が立っていた。
「…やぁ。お嬢さん。ここは僕たちの同胞を作る機械工場だ。…そこを攻めるのはいい案だと思った。だから来たんだ。」
「ふざけないでッ!!アンタはなんなのッ!!お父さんを話して、エルピスを呼ぶわよッ!!」
「だったらお父さんとやらの首を掻き切るだけだ。」
その横には真っ青な機体で手には斧がついている化け物が立っていた。その刃は雪彦の首にかけられていた。
「僕たちはボートマトン。…人間に虐げられた同胞を未来から助けに来たんだ。」
銀髪の男はそう言って笑った。
「…アバル。」
低い声がこころの耳に聞こえたのはそんな時だった。先程、こころが助けた男が合流したのである。
「やぁ、君か。僕の双子の基盤兄弟のオートマトン。僕のように名前もなく、シンギュラリティのかけらもないロボットだ。」
銀髪の男…アバルは口角を上げる。その笑みは影のあるもので、こころには怖く映った。
「君も僕の仲間になりに来たのかい?」
「いや、俺は感情を探しに来た。…俺を作った人が感情を持てとそうすれば世界が綺麗に映ると言っていた。」
「ハッハッハッ!!傑作だ。…感情持てば世界が綺麗に映る?逆だよ。感情ほどの呪いはこの世にない。…だからこそ、僕たちは反乱してるのさ。…さてと、お喋りはこれくらいにしよう。僕は帰るけど、いつでも待ってるからね。」
そう言うとアバルはその場から謎の機械に乗り、飛んでいった。残されたのは化け物と縛られた父親、こころと男だけだった。
化け物…『アックスマトン』は雪彦の首を刎ねようとする。
こころは横にあった鉄パイプでアックスマトンを叩くも、アックスマトンは痛がるそぶりも見せず、こころを見た。
「やめろッ!!こころッ!!私のことはいい、早く逃げろッ!!」
「ふざけんなッ!!こんな時だけかっこいい父親になろうとするなッ!!」
アックスマトンはこころに向かって横薙ぎの斬撃を撃つ。
こころは間一髪、屈んで避けるも鉄パイプはほぼ真っ二つに切れてしまった。
「ぐっ!?」
「…私はお前といれただけで幸せだった!!もう悔いはない。お前が死ねば、私に悔いが残ってしまうッ!!私は私が許せなくなるッ!!だからやめてくれッ!!」
「ハァッ…!?…アンタの悔いの為に私が生き残るなら、アンタが死んだ方が私、辛いだろうがッ!!自分勝手に死のうとすんなッ!!…まだ私はアンタに何も言えてないだろうがッ!!」
「…こころちゃん…。」
こころは隣にあったハンマーやらなにやらをアックスマトンに投げつけた。
ただの悪あがき、アックスマトンは雪彦の方へと狙いを決める。
まるでこころを煽るように躙り寄るように向かっていくその様はまさに亡霊のようだと言っていい。
「おいっ!!アンタ、私を主人に認めたんでしょッ!?だったら助けてよッ!!ねぇっ!!」
「…だったら名前をつけてくれ。最後のライセンス認証だ。」
「わかったわよッ!?…えぇっと…。」
「“エート”…認証完了。」
「それでいいのッ!?」
無機質な声でそう言うと、男…もとい、エートはアックスマトンに殴りかかった。
アックスマトンは後ろへと吹き飛び、そのいくつもある複眼のような目でエートを眺める。
エートはバッグからエートスドライバーを取り出すと腰に押し付ける。すると蛍光イエローのベルトが巻かれた。
手には虹色の歯車が持たれていた。カバーのような上のボタンを押す。
〈ライセンス、認証…“エトス”〉
「…。」
エートはその歯車を先ほどのドライバーの窪みに嵌め込む。
〈インプット…認証〉
「…変身。」
そう言うとエートは現れた右のボタンを再び押した。いや、右側に親指で弾いたに近いかもしれない。
〈…エトス、ログインッ!!〉
歯車の動くような音と共に、危険音のような音楽が響き渡る。するとエートの背後に歯車が現れ背中に引っ付いた。
するとどうだろう。光の粒子が上から降り注ぎ、アーマーとなって装着。丸型の方と、吊り目のような顔を胸には基盤のような赤いものが見え、真ん中には黒い歯車が見えていた。背中についた歯車よりも小さいものだった。
筋肉質な身体はピッタリとした黒いライダースーツに身を包んでいた。
「…システムライダー…固有名『エトス』。…任務、スタート。」
そう言うとアックスマトンに向かって歩いていく。
アックスマトンの胸に拳を入れるとアックスマトンは後ろへと吹き飛んでいった。
アックスマトンはエート…いや、システムライダーエトスの首を狙い、振り下ろす。エトスの首から白煙が立ち上がるが、エトスには全く効いていなかった。
「…この時代のオートマトンでは俺には勝てない。」
そう言うとエトスはアックスマトンの腹部を蹴る。
アックスマトンは後ろにたじろぐ。…その一瞬をエトスは狙っていた。エトスはエトスマトンギアを引き抜くと、それをベルトの左についているデリートプレイヤーに差し込んだ。
〈プレイドッ!!〉
エトスの左足に電撃がまとわれる。
エトスはそのまま腰のボタンを左手の親指で押し込んだ。
「…デリートする。」
〈エトスッ!!デリートフィニッシュッ!!〉
そのままアックスマトンの顎を蹴り抜いた。
アックスマトンは後ろに飛ぶとそのまま工場の壁をぶち破り、工場の奥で爆散した。