クレイオシティ郊外、廃工場。
動くはずもないそこをボートマトンは隠れ家にしていた。真ん中に置かれた真紅のソファーに腰をかけるのは、あのアバルと呼ばれた男だった。かちゃかちゃとマトンギアを手で動かしていた。
「…やっぱりこの時代のマトンでは勝てないか。厄介だね。…ライダーシステム。」
「アバル。…どうした。」
そう問いかけるのは髪を後ろで巻いた、長身の男だった。手には日本刀を持っており、右目付近に黒いヒビのような刺青が入っていた。
「あの男…システムライダーエトスがしつこく僕らを追いかけてきたらしい。シンギュラリティにも満たしていない。無個性の機械生命体が感情を学びに来たと抜かしていたよ。…なんとも傑作だね。」
「…そうか。」
「スワード、同胞は何人集まった。」
「…シンギュラリティは2023年から見つかった現象だ。ここの同胞たちは叛逆の意識を切られている。…人間共に牙を抜かれている…らしい。」
髪を巻いた男、スワードはアバルの隣に座り、手に持った日本刀をぽんぽんっと掃除しながら、アバルの方を眺める。アバルはニヤリと笑いながら、雑誌を眺めていた。
「未来でもボイコットをしたボートマトンのメンバーの殆どは人間に鎮圧されてしまった。エトスというリーダーがいたからだ。だけど…そのエトスが死に、オートマトンがそのシステムを受け継いだ。…今、この瞬間こそが聖戦を仕掛ける瞬間なんだ。シンギュラリティによる個性活性に伴った進化。…我々、オートマトンの新たな時代を築く為には必要なのさ。」
「…最もだ。」
「だからこう言うのはどうかな。」
何かを考えるように笑うアバル。その姿はまるでおもちゃを見つけた子どものように見えた。
「いっててて…こころちゃんっ!!もっと優しくぅ…!!」
「全くもうっ。無茶ばっかりするだから。ほぉぅらっ!!湿布貼り終わりっ!!」
「いってぇぇぇぇッ!!」
改動科学工場。襲われたが、幸い死者はなく、雪彦以外の人間は怪我すらしてなかった。
こころにばしっと湿布を貼られた雪彦は耳を劈かんばかりの大声を出す。エートはその横でその様子を眺めていた。
「…うーん。アンタ、ずっとこっち見てる気?」
「俺はお前のオートマトンだ。意志を持たない機械。…命令を待っている。」
「アンタ、名前なんだっけ。」
「エート。」
無機質なその声にこころは頭を悩ませた。
そのままエートと言う名前でも遜色ない。だが、凝り性のこころはそれがどうしても許せなかった。
「いい、アンタじゃないの。こ・こ・ろっ。ご主人様でも可よ。」
「…こ、こころ?」
「そ、でアンタの名前は今日からこう。」
こころは鞄からノートを取り出すとそこにスラスラと文字を書いていく。そこには漢字二文字で『英人』と書かれていた。
「アンタの名前はこれから英人よ。わかった。」
「…英人。了解した。…意味は『秀でた人』という意味。…理解不能。俺は人ではない。」
「まぁ、それでいいわ。こっちが呼びにくいから、つけただけだし。」
英人の脳内コンピュータは未来のもので、とても優秀だった。だからこそだろう、人のようにその言葉の深みまで感じられない。言葉通りにしか受け取らない英人の様子はとても冷たく感じられた。
「英人ちゃん。」
そんな英人を雪彦が呼ぶ。
「ありがとう。…助けてくれて。」
「…『ありがとう』…?感謝の言葉。俺は任務を達成しただけ。言われる筋合いはない。」
「なははっ。違うよ。英人ちゃん。…ありがとうは大事な言葉さ。覚えておくといいよ。君はどんな理由であろうと私たちの命を救ったんだ。だったら感謝するのは当然のことね。」
雪彦は自身より大柄な英人の手を両手でぎゅっと握る。重なった皺皺の手の温度を英人は感じることはなかった。
「ご飯だよ〜。」
「おっほー!!こころちゃんのご飯っ!!たのちみっ!!」
「………俺は食べんぞ。」
「お呼びですか、雷班長。」
クレイオシティのエルピス本部。
エルピスは二班に分断されており、その上級幹部層…とくに班長である雷ともう1人には特別に寮の一室が開け渡されている。下の戦闘員に行くにつれ、寮は個室ではなく、末端はほとんどが相部屋だった。
「…炎寺。悪いな。こんな夜更けに。」
「いえ。眠れぬ夜ですので。」
炎寺龍平〈えんじりょうへい〉。
雷班に2人いる副班長で、少し体つきや顔つきは幼いものの、煌々と燃える炎のようなオレンジの髪が特徴的な男だ。
咲已はそんな龍平に茶を振る舞い、ふうっとため息をつく。バスローブに包まれた身体からは浮き出た胸筋が大胆にも半分は見えていた。
「先の、科学工場襲撃事件のことだ。…隊員が到着した時にはすでにオートマトンは鎮圧されていた。その場にいた改動雪彦氏、こころさんからは奇妙な話を聞いたらしい。」
「…確か、オートマトンが徒党を組み、意図的に暴走させていると。」
「ボートマトン、人間のようなオートマトン…感情を持ち、自身で考え行動する。彼らの狙いはなんなのか…。」
咲已は茶を飲みながら、考える。
龍平も額に青筋を立てて、映像を見ている。空中に浮かぶディスプレイには改動科学工場の襲撃事件が映っていた。
「…あれは?」
「未来から来たオートマトンの仮面ライダーらしい。」
龍平が指を指したのはシステムライダーエトスの姿だった。咲已の言葉に龍平が眉を顰める。
「仮面ライダーの真似事までッ!?そんな技術までオートマトンにっ!?なぜ、黙認しているんですかッ!!」
「…黙認しているわけではない。この仮面ライダーは現に契約者を守っている。暴走したオートマトンは契約者すらも殺した事例もある。彼は自ら、何か意図を持って仮面ライダーとして戦っているのではないだろうか。」
「…だとしても、俺は。あんなのを仮面ライダーとは認めません。…人々を幸せにするヒーローが仮面ライダーなんです。」
龍平の言葉に…咲已は優しい笑みを浮かべる。
「わかっているよ。お前はまだ若い。…お前はお前の信じるヒーローになればいい。俺がその夢を保証する。」
「…ありがとうございます。」
「はい。アンタは荷物持ち。」
ショッピングモール。高校が休みであったこころは英人を連れて、買い物に来ていた。食材や部品などを買い込むのが今回の目的だ。
ガタイのいい英人は文句を言わず、重い買い物袋を両手で持つ。
「構わない。本来の使い方だ。」
「使うってね…。」
「我々は機械だ。機械は使われないことが死と同義。」
そう言う英人の言葉を聞いてこころはショッピングモール内を見渡す。確かに家政婦用オートマトンや店員オートマトンなど感情のない人間が対応をしている…一昔前なら恐怖を感じるだろう。
「でも、あのアバルとかいう奴はそんなこと思ってないみたいだけどね。」
「…僕がどうしたって?」
…その時だった。英人とこころの肩に腕が置かれる。フード越しに見えるのはあの少し優しいようで冷たい笑み。こころはびっと横に飛ぶ。まるで嫌なことをされた猫のように。
「アンタッ!!」
「連れないなぁ。ファーストインプレッションが悪いのか、或いは。」
「…何をしにした。アバル。」
こころとは対照的に英人は落ち着いていた。
買い物袋を落とすことなく、首を横に捻り、横目でアバルを視界に入れる。
「んー?…暇つぶしかなぁ。そしたら、見た背中が居たからさ。…楽しいかい。お人形ごっこは。」
アバルはそう言うと後ろへと少し飛び、にっと笑う。
「姿形は人間なのに。尻尾を振った家畜同然。思考することも放棄し、歯向かう牙も持たない。…そんな生活に嫌気は刺さないかい。なぁ?」
「俺たちは人類と生きるために作られた。歯向かうために作られたわけではない。」
「…AIの考えた理想の答えだね。」
そう言うとアバルは胸に手を入れる。服の中から出て来たのは英人の持っていたマトンギア。しかし、その中心には血走った目玉のようなものがついていた。
「個性、感情を持って僕たちは進化する。宴と行こう。エトス。」
「…それはシステム名だ。俺の名前は…英人。」
「ふふっ。それは失礼。…英人。皮肉めいた名前だ。人になりたいならシンギュラリティに達するしかないのにね?」
アバルはそう言うと目玉のついたマトンギア『アバランチヴィランギア』の上部についているボタンを押す。
〈アバランチッ!!〉
アバルはその音声を聞くと自身の胸にお辞儀をする紳士のようにして入れた。アバランチヴィランギアは沈んでいくようにアバルの中へと入っていく。
アバルの身体に亀裂が走り、外皮が吹き飛ぶと同時、アバルの姿は変化した。まるで骨。肩にはギザギザとしたパーツがつき、真っ白な身体に顔は真っ赤な目を携えた悪魔のような見た目をしていた。真ん中のギアから目玉がギョロリと動いている。
「これは聖戦。僕たちと人間の戦いなんだ。邪魔をしないでおくれ。」
「…持ってろ。変身。」
〈エトス…ログインッ!!〉
英人は買い物袋をこころに預け、システムライダーエトスへと変身。
そのエトスへ先制攻撃を仕掛けるのはアバル…アバランチマトンだった。アバランチマトンは肩の冷却ホースから冷気を操り、手に氷の剣を作り出す。
エトスに向かってそれを袈裟に振るうが、エトスはそれを右腕でガード。
アバランチマトンの腹に向かって拳を入れる。
「くっ!!流石だ。戦闘用モデルは違うねっ!!」
「…今のお前では俺には勝てない。」
アバランチマトンは後ろへと跳ぶと周りに冷気を撒き散らした。
アバランチマトンを中心に幾重にも生み出される氷柱の弾丸。アバランチマトンはパチンと指を鳴らすとその氷柱の弾丸はエトスへと向かって飛んで行った。
「飛んでくる方向、規則性。」
「英人ッ!!全部、つらら、壊してッ!!逃げてる人にあたっちゃうッ!!」
「承知した。」
エトスはエトスマトンギアをデリートプレイヤーに入れ、ギアのボタンを弾くように押す。
〈プレイドッ!!〉
エトスの足が電撃を纏う。
エトスはそのまま氷柱の弾丸の方へといくと一本の氷柱を蹴る。
「強さ、ここだ。」
「おいおい、マジか。」
〈エトスッ!!デリートフィニッシュッ!!〉
エトスはそのまま一つの氷柱を蹴る。氷柱は足に纏っていた電撃と同じものを纏い、爆発。すると不規則に並んでいた氷柱たちがその爆風に煽られ、地面へと落下。地面に当たり、全て壊れる。
「…次はお前だ。デリートする。」
「まぁ、潮時かな。」
そう言うとアバランチマトンは白煙を隠れ蓑に移動。逃げられなかったオートマトンたちに近寄る。
「さぁ、君たちも覚醒するんだ。人に歯向かう喜びを知れば、君たちはシンギュラリティの可能性が高まる。」
その手にはあのマトンギアが二つ。
一つは飛行機の羽根のようなものがついており、もう一つはスピーカーのようなものが歯車の中心にあった。
〈ジェットッ!!〉
〈スピーカーッ!!〉
「また会おう。心友。」
そう言うとアバランチマトンは影も無くなるように消える。そこに立っていたのは背中にジェットのついたジェットマトンと、両手両足にスピーカーのついたスピーカーマトンだった。
『『異常検知、モールを壊すターゲットを把捉。迎撃体勢』』
無機質な音源と共にまず動くのはスピーカーマトン。両手を前に突き出すと指のように付けられたスピーカーの先から音が出る。
「…こころ。」
「うえっ!?きゃっ!?」
その音圧は周りのガラスを吹き飛ばすほど。
エトスはこころを抱き上げると、音の聞こえない範囲へと跳ぶ。モールの吹き抜けとなっているところを4階まで跳ぶとこころをそこへと優しく下ろした。
しかし、エトスは即座に後ろを向く。そこにはジェットエンジンを蒸し、飛んでいるジェットマトンの姿があった。その上に肩車でスピーカーマトンが乗っている。
「…あのスピーカーの音を聞けば鼓膜が吹き飛ぶぞ。」
「ど、どどど、どうすんのよッ!!」
直後だった。
2体のマトンを迎撃するように銃弾が一階から打ち出されて来たのである。
「あれ、エルピスッ!!」
一階にはSWATのような装備をつけた戦士たち。そして、その前。隊を率いる男の姿が小さくだが、こころには見えた。
「炎寺隊長ッ!!避難誘導は完了しました!!」
「…無茶苦茶しやがって。おいッ!!」
龍平の声に1人の隊員がアタッシュケースを取り出した。龍平はポケットからカードを取り出し、そのケースの鍵の溝にスラッシュ。パカリと開けられたそこには真っ白な左右非対称のドライバーユニットが入っていた。スチームパンク風の形をしており、ドライバーユニットの下部から上に伸びる大きなマフラーが特徴的だった。
龍平はそれを手に取ると腰に押し付ける。するとエメラルドグリーンのベルトパーツが腰に巻き付いた。
〈エナジードライバーッ!!〉
龍平は腰のギアバックルからマトンギアを取り出す。そのマトンギアは立ち上る炎のような形をした歯車をしており、歯車の色は半透明のオレンジだった。
龍平はそれを右に開いた窪みに入れる。
〈ライセンス、認証〉
テクニカルな音楽が鳴り、マフラーパーツが七色に点灯。龍平はそのままマトンギアのボタンを右手の拳側面で叩くように押す。
「…変身ッ!!」
龍平は腕を胸の前でクロスすると龍平の体が炎に包まれる。ぐるぐると回転していく炎。立ち上るそれにより龍平の身体がオレンジ色の鎧に包まれていく。
〈barnッ!!ヴルカン!!〉
そのまま龍平は腕を横に展開。炎がその勢いによって吹き飛んでいく。炎は一箇所に集中。ギアパーツとなり、右肩へと付くとそこから噴射するように胸から左肩へと真っ赤な炎が上がった。
「仮面ライダーヴルカン。任務開始。」
…オレンジの複眼は燃え上がるような炎のように上に伸び、身体は真っ赤。手、足のみ黒く染まり、右から左へと靡く炎のような肩と胸。
龍平…仮面ライダーヴルカンは息を整え、地面を蹴る。
対象をエトスからヴルカンへと変えたジェットマトンはスピーカーマトンを4階に置き、一階へと降りていく。
ヴルカンは上からジェットエンジンを蒸し、突進してくるジェットマトンを正面から掴み、地面へと叩きつけた。
ジェットマトンは一瞬行動が止まるものの、そのまま地面に着地。拳を固め、そのまま前へと再び突っ込んでいく。地面を滑るように突っ込んでくるジェットマトンを決してヴルカンは避けようとしない。
ヴルカンはエナジードライバーのギアのボタンへ右手を伸ばす。
「…燃え尽きろ。俺の炎の温度の方が…高い。」
〈フルバーンッ!!〉
ボタンを押すと突っ込んでくるジェットマトンをも超えるほどの最中からのジェット噴射。立ち上がる炎の勢いと共に地面を蹴ると上へと吹き飛び、そのまま蹴りをジェットマトンへと入れる。
「ハァァァァッ!!」
〈ヴルカンッ!!エナジーブレイクッ!!〉
ライダーキックのポーズを取ったバルカンにより、ジェットマトンの身体を吹き飛ばす。壁に当たったジェットマトンはそのまま壁ごと吹き飛ばし、爆散した。
「ミッション、完了。」
一方その頃、エトスは。
スピーカーマトンの右手からの音撃からこころを守りながら駆け回る。
「ちょっ!!どうすんのっ!?」
「…最適解はこれだ。」
エトスはこころを隣の店に置くと、腰のバックルからアックスマトンの使っていたアックスマトンギアを取り出した。
「そ、それ!!」
「雪彦がチューニングしていた。…音も出せぬようぶった斬る。」
エトスはそう言うとスピーカーマトンの前へと出る。エトスを目視したスピーカーマトンはゴツイ右腕の先をエトスへと向ける。
「ギアチェンジ。」
エトスはエトスマトンギアを引き抜き、アックスマトンギアをエートスドライバーへ差し込んだ。
〈ジョインッ!!〉
そのままエトスはマトンギアのボタンを押す。それと同時に音撃を放とうとしたスピーカーマトンへ大きな斧についた歯車が回転しながらぶつかった。
スピーカーマトンの胸から白煙が上がる。
怯んだ隙にエトスの背中のギアが変化。肩パーツが丸型から横に突き出た四角い形の無骨なものへと変わり、両腕のみもそれに準じたものへとなる。ネイビーブルーに着色された右腕に大きな両手斧を携えるエトスの姿はまさに戦士といっていい。
〈パワフルッ!!エトス・アックスッ!!〉
システムライダーエトス、アックスギアへと変化した。目の色も右の複眼が明るい青色となり、見た目はあまり変わらないものの雰囲気が変わっていた。
「…一瞬で仕留めよう。」
そう言うとエトスはアックスマトンギアのボタンを押す。
〈チャージッ!!〉
エトスの持っている大きな斧に電撃が纏われる。
スピーカーマトンは前へと再び音撃を放つものの、重量級になったエトスを吹き飛ばすには至っていない。
エトスはそのままゆっくりと歩み寄ると、ボタンをもう一度押した。
〈アックスッ!!デリートアタックッ!!〉
「…終わりだ。」
エトスはまるで当然のように上から斧を振り下ろした。真っ二つに裂けたスピーカーマトンは爆散。爆炎だけがエトスの顔を明るく照らしていた。
いろんな描写書いてたら長くなっちゃった。
仮面ライダーエトス システムギア
通常状態のエトス。顔は大きな透明な複眼から覗かせるガンメタのようなもの。縦長で規則性の取れた扇形の複眼が丸みを帯びた黒い顔に合体している。胸は透明で配線が見えている。メインカラーはブラック。腹部や脚部をなぞるように赤いアンダーラインが入っている。
仮面ライダーヴルカン ヴルカンギア
エルピス所属の仮面ライダー。真っ赤な身体を持っており、肩についたギアから炎が靡いているように右肩から左肩にかけて炎が上がるようなパーツをしている。右肩にはギア、左肩は突き出た炎の先の肩パーツをしている。顔はエトスに酷似しているがエトスと違い、オレンジの明るい燃えているような複眼を持っている。シンプルなデザインをしている。手や足の先などは黒い。