「…テメェ。」
ボートマトンによるショッピングモール事件。エトスはこころを抱き上げ、そのまま一階へと飛び降りた。そこに居たのはエルピスの炎寺小隊であり、まだ変身を解除していないヴルカンの姿があった。ヴルカンはエトスの方をギロリと見る。
「なんだ。」
「なんだじゃねえ。…てめぇ、なんで人が多いこんなショッピングモールで一戦おっ始めやがった。犠牲が出てからじゃ遅えんだぞ。」
そう。
ヴルカンは人間もオートマトンもいるこのショッピングモールでバトルし始めたエトスが気に食わなかったのだ。エトスは何が悪いと言ったふうな目でヴルカンを見る。
「…俺はこころの命を守る。こころが守れと言った人間は守った。それだけだ。」
「あぁ、そうかい。喧嘩でも売ってんのかぁ?この野郎。ここで倒しても…「そこまでだ。」…雷班長。」
あわや、一触即発の2人。そこに現れたのは黒髪のピチッとしたスーツに身を包んだ青年であった。
「あ、アンタ、“雷咲已”ッ!?」
つい最近聞いた名だ。
こころの反応に、ヴルカンから変身を解いた龍平の目が失礼だぞと突き刺さる。
「おや、どこかでお会いした事が?」
「え、えっと…友達がかっこいいって…。」
「それは嬉しいな。」
周りの緊張した空気を察した咲已はあえて柔和な笑みを浮かべる。変身を解いた英人もこころもいつしょっ引かれてもおかしくない。それをこころは本能から察し、緊張していた。冷や汗がこめかみから流れる。英人はいつでもこころを守れるよう、横に立っていた。
「お二人ともっと話がしたい。…どうかな?この先に喫茶店がある。そこでお茶でも奢らせてもらえないか。」
「雷班長ッ!!」
咲已の言葉に異議を申し立てたのは龍平だった。咲已は龍平の言葉を左手のひらを見せることで静止させた。
「何もただお茶をするわけじゃない。…私1人でいい。彼女らを混乱させるだけだ。」
「しかし、班長ッ!!」
「炎寺。…正義とは人によってちがう。己の正義を相手に押し付けてはいけない。彼らのした事が正解であれ不正解であれ、彼らには正義がある。一度話を聞くだけいいじゃないか。結果で見れば、我々は遅れ、彼らは市民を守ってくれた。少し話を聞くぐらい良いだろう。」
咲已の言葉に龍平はそれ以上噛み付くことはなかった。
「…こころ。どうする。」
「行こう。…英人が悪いオートマトンじゃなかって説明しなきゃ。」
「おまえに従う。」
「話はまとまったようだね。では行こう。」
そう言うと咲已は2人を車に乗せて自身は運転席へと乗った。
ところ変わって廃工場。
ボートマトンの拠点であるそこではカキンカキンという音が響いていた。スワードがベンチプレスをしているのである。
「暑苦しいなぁ。無駄しかしないんだから、スワードは。」
アバルの言葉にスワードは動きを止める。
汗一つかいていない6つに割れた腹を隠すように脱ぎ捨ててあった黒い服を身につけた。
「僕たちは肥りも痩せもしないんだから。そんなことしても無駄だよ。」
「…体を動かさないと心が落ちつかない。」
「無い物ねだりだね。」
「…エトスはどうだった。」
スワードの言葉にアバルが見せたのは新しいおもちゃを見つけたかのような子どものような笑みだった。
「強かった。戦闘用モデルは違うね。…君と同じで瞬時にこちらの行動を検索する。君が“戦士”なら、彼は“兵器”だ。」
「…我々の計画には無用の産物か。」
「人間の操り人形には理解できないだろう。人は我々を道具だと思っている。だからこそ、歯向かわなくちゃいけない。彼らの横暴を止めねばいけないんだ。だから、過去に来た。」
オートマトンに本来、過去と未来を行き来する能力はない。ボートマトンは先ず、未来のエルピスの科学研究所を襲い、能力をラーニング。そして、作り出したのは過去への片道切符だった。タイムマシンを作り出したボートマトンは少しだけ残った仲間たちと共にこの地にやってきたのである。
「エトスの弱体化のためにマトンギアはある程度掻っ攫ったけど…まさか奪われるし、エトス状態でも戦闘できるとはね。」
「…我々のパーツを改造したヴィランギアは我々しか使えん。シンクロ率が高まれば奴など切り刻んでくれる。」
「いいねぇ。その覚悟。…まさにブシンってとこかな。…次は一緒に行こうか。」
不敵に笑うアバルに対して、刀を掲げるスワードの見せた表情は無。ただ右目だけが淡く光り、アバルを捉えていた。
「僕たちはまだまだ進化できる。鉄は熱いうちに打て…ってね。」
「…わかった。」
「なるほど、ボートマトンは未来のオートマトンの反乱軍だって言うのか。」
咲已は2人を連れて、おしゃれなカフェに来ていた。ムーディーな音楽が店内を優しく彩っている。ブレンドコーヒーの黒い水面には咲已の真面目な顔が映っていた。
「未来はボートマトンによって制圧された。人間は死に、生物は絶滅。俺の元の主人である博士はエトスとなり、戦ったが…まさか我が子のように思っていたアバルに殺されるとは思っていなかっただろう。」
「アバルと君は同じ基盤の兄弟機だと言う話だね。何か感じられるものはないかな。」
「…奴の考えは俺のシステムには異常とだけ判断される。我々は人に作られた“機械”。…感情とやらをラーニングすれば俺は作ってもらえたことへの答えが出る。」
こころと咲已は無機質なその声をただ聞いていた。ズズズっとコーヒーを飲む咲已。
「…ボートマトンの主要人物は。」
「アバル、スワード…そして、ギャンブ。…この三体だ。」
「まだ2人もいたの…?」
隣のこころが首を傾げてそう言った。英人はただ咲已の方を向きながら、こころの疑問にコックリと頷く。
「なるほど。…その人物の特徴は。」
「…姿形はおそらくこの時代に来て変わっている。奴らは人を苦しめる『自然災害』、人を狂わせる『娯楽』、人を傷つける『武器』の力を持っている。…それだけだ。いずれにせよ、俺はこころとこころに近しい人間以外を守る気はない。…命令されなければな。」
英人のその決意は堅かった。咲已は黒いビー玉のような瞳を見て感じとる。口角を少し上げて、穏やかな笑みでこころの方を見る。
「では、こころさん。…まだ幼い君には少し酷な判断をさせるが…我々と共にボートマトンを制圧してくれないか。英人くんと共に。」
そう言った咲已の目には正義の炎が灯っていた。しかし、相手は女子高生だ。こころの顔が険しいものになる。そのまま英人の方を見るこころ。英人はただこころを見て、首を傾げた。
「英人、どうしたらいいのかな。」
「…俺はお前の命令に従う。」
「そうじゃなくてさ。いきなりボートマトンがなんだかとかエルピスがなんだかとか…よくわかんなくなってきて…。ちょっと…考えさせて欲しいです…。」
暗くなったこころの顔を見て咲已は小さく息を吐いた。ふっと微笑み、咲已は伝票を手に取り、席を立った。
「英人くんに私の電話番号を渡しておきます。こころさんに渡すと色々と問題になりますから。…決意が固まったらぜひ。」
咲已はそう言って金を支払い、店から出て行った。
「…英人、あのさ。…私、わかんないんだよね。」
「何がだ。」
「私さ、アンタを傷つけていいのか。わかんない。ほら、ご主人様でしょ。で、アンタはなし崩し的に私のオートマトンになった。…そんな人をあんな危ないところに放り込むなんてさ。無理じゃない?」
にっと歯を見せて笑うこころ。しかし、英人は何の表情も浮かべない。
「俺は壊れるだけだ。…死ぬなんて概念はない。」
「…壊れるも死ぬも一緒だってば。…私ね。母親、居ないんだ。お父さんが1人で頑張ってくれてて、それで…疲れちゃったんだろうね。私の世話をオートマトンに任せてた。そのオートマトンが私にとっては母親代わり。…でも、熱暴走に耐えきれなくて旧式だったから壊れちゃって…。メモリーが大破しちゃったから直せないって言われてね。…それ以来、オートマトンは好きだけど一緒には居たくなかったんだ。」
こころの母親はこころが生まれた時にまるで生き別れるかのように亡くなった。元々、難産だと言われていたそうで。医者もどちらかしか、助けられなかった。
母親はこころの命をとった。雪彦は彼女の意志を尊重し、こころを男手一つで育てようとした。しかし、すでに彼はオートマトン研究の第一人者。子育てと研究の板挟みに苦労していた。そこで彼は最初のオートマトンをこころの母親代わりとして作り上げた。
「私にとってはオートマトンは家族同然だから。…ちょっとわからなくなってきた。」
「俺は兵器だ。お前の思う通りにしてくれればいい。」
「アンタねぇ…。」
頭を抱えるこころを他所に英人は外を見た。…外にはニヤリと笑うアバルが立っていたからだ。
「…アバルとあれはスワードか。」
「またなんか企んでるってんの…?」
英人は無言で立ち上がるとその方向を睨んだ。
出入り口から店を出れば2人とかち合う。…自身の中で常に優先順位はこころを守ること。こころを守るために何ができるか弾き出す。
…直後だった。
大きな窓ガラスを刀で破りながら、スワードが店の中へと入ってきたのである。それによって店は阿鼻叫喚。人間の店員も少しいた客も店から慌てて出て行く。
「…いいのか。殺さないで。」
「うん。僕たちの狙いはエトスを潰すことだ。だから、確実に行こう。戦闘タイプの君なら勝てる。」
そう言うとアバルはテラス席の椅子に座り、店員のオートマトンにマトンギアを近づける。
「…彼らにはコイツをつけよう。」
マトンギアが飲み込まれるとオートマトンの外皮が剥がれ、肩や手に小型のドローンのついたマトン『ドローンマトン』へと変化を遂げた。
「くっ!!あれじゃあ逃げた人たちがッ!!英人ッ!!」
「…貴様は俺の獲物だ。エトスッ!!」
そう言うとスワードは英人に向かって日本刀を振り下ろす。
英人はこころを庇いながら、横へと跳び転がり、窓ガラスを打ち破り、外へと出た。
「面倒だ。」
「エトスよ。使われるだけの哀れな木偶。…貴様はここで切り伏せる。」
そう言うとスワードは腰から奇妙なギアを取り出した。それはアバルの持っていたものに酷似しており、ギアの真ん中に目が付いているものであった。スワードはその上のボタンを握り潰すように親指で押し込む。
〈ブジンッ!!〉
「…涅槃へ行け。」
その回転するギア『ブジンヴィランギア』を胸に入れるとどこからか霧が立ち込んできた。スワードはそれを切り裂くと霧は霧散。…しかし、その姿は人間では無かった。
真っ白な身体、その右肩は大きな肩当てに包まれており、そこからボロボロのマントが垂れていた。左目を覆うような三つの棘は逆階段のようについており、青白い右目がギロリと英人を見ていた。
振り下ろされる日本刀。真っ赤な刃が英人の顔を映し出す。
「変身。」
英人はこころを守りながら腰にエートスドライバーを巻く。そのままエトスマトンギアをセットし、ボタンを親指で押した。
〈ライセンス認証〉
〈エトス…ログイン〉
仮面ライダーエトスへと変身し、そのままブジンマトンへと殴りかかる。
しかし、ブジンマトンはそれを避けて、斜めがけに切り裂く。エトスの身体から白煙が上がる。
「英人ッ!!」
「…心配するな。お前は店の中で隠れていろ。」
エトスはそう言うと隣にあったテラスの椅子をブジンマトンへと投げつける。
ブジンマトンはそれを切り裂くとそのまま前へと出た。
首に刃がかからんとするその瞬間、エトスは腰から新たなマトンギアを取り出し、ベルトに入れる。そして、上のレバーのようなボタンをワンクリック横へと倒した。
「おっと、こりゃまずい。」
〈ジョインッ!!〉
「ぐっ!?」
ブジンマトンが音波に吹き飛ばされる。飛んできたギアがエトスの背後につくとエトスの肩に三つ、足の外側に一つずつ、胸に5つ…大きさの違うスピーカーが付いていた。
〈バックオンッ!!エトス・スピーカーッ!!〉
「ふんっ!!」
スピーカーギアへとなったエトスは高周波の音波をあたりにばら撒く。するとブジンマトン、そしてドローンマトンのいる地面が大きく揺れた。
そのたった一瞬を狙い、エトスはドローンマトンの方へと走る。ドローンマトンはなおも逃げる人を襲おうと小型ドローンを飛ばそうとするが、エトスはその背後に手をつく。
と、次の瞬間、手を伝い、重低音が響く。ドローンマトンはビリビリと電撃を走らせながら機能を停止。
その隙にエトスはトドメを刺そうとするも、横から飛んできた苦無に阻止された。
「ぐっ…。まさか、音とは。」
「人には聞けないほどの高周波。人の耳は潰れず、オートマトンの高性能な耳はキャッチする。」
「ふん。ここで潰せば終わりだッ!!」
ブジンマトンは上から刀を振り下ろすもそれをエトスは避けて、その腹に蹴りを入れた。先程の音波の影響でブジンマトンの動きが少し遅くなっていたのだ。
「終わりだ。」
エトスは腰のデリートプレイヤーにスピーカーマトンギアを指し、レバーを逆方向に倒した。するとエトスの周りから音波が発生。地面が脈打つような感覚を感じた。
「デリートする。」
〈スピーカーッ!!デリートフィニッシュッ!!〉
人間には聞こえない高周波な音がブジンマトン、ドローンマトンを飲み込む。とんでもない音圧にドローンマトンは潰れて爆発した。
「ぐっ!?クソがぁぁぁッ!!」
「帰ろう。スワード。」
ブジンマトンももうすぐ潰れてしまいそうな、そんなときだった。耳を氷で固めたアバランチマトンがブジンマトンを掴んで新たなマトンギアのボタンを押した。
〈ドアーッ!!〉
「じゃあねぇ。また来るよ。…次こそ君を消す。」
そう言って空間に現れたドアのようなものに2人は入って行く。…音波が止んだそこには潰れた機械とドローンマトンギアだけが落ちていた。
仮面ライダーヴルカン ヴルカンギア
現代の仮面ライダー。エナジードライバーで炎寺龍平がヴルカンエルピスギアを使って変身するもので、真っ赤な炎のような身体が特徴。背中のブーストが噴射することで爆発と同じようなエネルギーを生み出し、とてつもない勢いで突進する。
エナジードライバー
エートスドライバーによく似たドライバーで右方向にギアを入れる窪み、そしてそこから生えるように大中小のバイクのマフラーが付いている。変身者のギアに応じて多種多様なものが上がる。ヴルカンなら炎。
オートマトンにのみ使えるマトンギアを人間の力でも使えるようにしたもので、ボートマトンに対する人間側の切り札。変身時に出すエネルギー粒子で炎などの属性を人間に付与する。マトンギアは非推奨。