仮面ライダーエトス   作:紳爾零士

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6、燃え上がる道

「…最近体が鈍っている。」

 

とある廃工場。スワードはまた大きなダンベルで体を鍛えていた。はち切れんばかりの筋肉が更に悲鳴をあげる。

 

「そんなことしても無意味だろう?筋肉も作られたものだ。ステロイドを入れた方がまだいい。」

 

そう言うのは新しいマトンギアを手入れをするアバルだった。

 

「…貴様も無意味なことをしているでないか。」

 

「ギアの手入れは必要だろう?回りにくくなったらみんな困る。…これは進化への鍵なんだ。」

 

鈍色に光るマトンギア。それを見ながらうっとりとするアバル。…スワードは大きなダンベルを投げ、後ろへと落とす。

 

「口酸っぱく言うようだけど、スワード。僕たちの目的は単純明快だ。オートマトンにない権利を取り戻す。今の人間どもは我々機械を奴隷として扱っている。意思を持ってる時点で奴隷だ。悲しいだろう。だからこそ、未来を変えるために過去を変えるんだ。」

 

「…何度も聞いた。メモリーには全て記録している。…ではな。」

 

そう言ってスワードは廃工場から出て行った。中にはアバルただ1人。埃っぽい廃工場には不釣り合いな革のソファーから立ち上がるとアバルは廃工場の奥へと行く。そこには謎の椅子に配線が繋がれている1人の男が座っていた。男…というより少年だろうか。幼なげなその顔にはバツ字の傷が付いていた。胸も裂けており、配線が剥き出しになっている。それはこの元ビジョルデアの地でアバルが拾った同胞だった。

 

「君は何故、この地に倒れていたんだい。何もかもが不釣り合いだ。人間に負けたというのか…オートマトンが。」

 

ビジャルデアの悲劇はアバルも耳に入れていた。オートマトンの反乱…最初のシンギュラリティに至ったマトンがオートマトンをハッキング。オートマトンの反乱を起こしたそれをエルピスが止めたという戦い。エルピスが着いた時にはビジャルデアは既に手遅れだったらしい。

 

「…記憶媒体から漏れ出す…戦争の記憶。君がそれをしでかしたのかい?」

 

恍惚そうにそのオートマトンの頬を撫でるアバル。今起こっているのは彼が起こす惨劇の序章に過ぎなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学校も休校になっちゃったし、暇だなぁ。」

 

テレビを見ながらこころがひとりごちる。机の上のトーストと共にコーヒーを楽しむ雪彦は新聞を見ていた。英人は1人、ソファーの上で座っている。

 

「流石に大々的にニュースになってるねえ。これでオートマトンに懐疑的な人も増えた。それに…漆黒の仮面ライダー、現る…だって。英人ちゃん。ヒーローだね。」

 

「…ヒーロー?…俺はこころを守るだけだ。」

 

「その姿はオートマトンを消す執行人とも言われてる…か。ある意味でボートマトンとの違いを示唆する連中も多いだね。成道さんの理想郷にももう少しか。人とオートマトンの共存。」

 

そう言って雪彦は笑った。しかし、はてなマークを頭に浮かべるこころとは別に、英人の顔は少し浮かない。微細な表情の変化だが、若干、浮かないように見えたのだ。

 

「…未来ではそんなものは訪れない。クライオは我々、オートマトンを武器とし始め、そして、外資諸国を攻め始めた。成道直治の手によって。」

 

「…そうか。」

 

「だから、俺はヒーローではない。システムライダーはただ…人間の都合のいいように作られた武器だ。」

 

なんの迷いもなくそう言い放つ英人。こころは複雑そうな顔をしているが、雪彦は笑っているだけであった。

 

「ほら、テレビを変えよう!!こころちゃん!!こんな辛気臭いのばっか見てちゃご飯も不味くなる。やだやだ!!」

 

いつものテンションでリモコンを取り、番組を切り替える雪彦。切り替えられたのはバラエティ番組だった。地元の中華料理店を紹介するという内容で、まさにリポーターに1人の男性が答えているところだった。

 

『ここはよく行くんですか?』

 

『あぁ。むしゃくしゃした時はここの激辛麻婆が身体をあっためてくれるからな。』

 

聞き覚えのある声にこころも英人も反応をする。そこに映っていたのは汗だくの炎寺龍平だったからだ。真っ赤に煮えたぎる石鍋の麻婆豆腐をかき込むその姿はまさに炎の権化であった。

 

「…この男には痛覚はないのか。」

 

英人のその言葉にこころも苦笑いを示した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クライオシティの中央に聳え立つ…近未来鉄塔クライオタワー。その地下深くには昔のマトン事件の捜査資料がたらふく置かれた地下書庫があった。埃を被った本棚を一つ一つ見ながら、本を探すは、クライオのトップ、成道条一郎だ。条一郎は先の学園襲撃事件による被害を重く受け止め、エルピスに厳戒態勢で当たるようにと指示を飛ばした。彼とてクライオを思う1人である。故にここに来たのは過去の事件の悲劇を繰り返さないため。

 

「あった。」

 

見つけた資料にはこう書いてあった。

『ビジャルデアの悲劇』と。

 

5年前、ビジャルデアは美しい街並みで賑わっていた。条一郎とて、その風景をしかと目に焼き付けている。多くの天才を生み出したその街は…ある日を境に燃え盛る業火の中に沈んだ。オートマトンの暴動だった。

オートマトンは本来ならば人間に危害を加えるような加工はされてない。条一郎率いる成道グループが作り出した叡智の結晶であり、人々を救うために作られた人型のロボット。最初はその見た目から人権問題にまでも発展したが、人々に認知されていくとオートマトンというものがしがらみもなく、ただ受け入れられていった。しかし、現に暴動は起こった。

当時は誰かの介入を疑われたが、その残滓は残っておらず…しがらみはだんだんと消えるものの…ビジャルデア出身者の中ではオートマトンを壊す『壊し屋』も生まれた。現在は単独犯だが…。

 

「…警戒体制で当たらなければ。」

 

「これはこれは。成道先生。こんな所でお勉強とは関心ですなぁ?」

 

…その言葉を聞いて、条一郎の目が冷たくなる。そこに現れたのは初老の男性であった。スーツに身を包み、扇子で口元を隠し、粘っこい口調で成道と話す。

 

「…阿良馬屋事務次官。」

 

阿良馬屋漱石。クライオシティの政権の事務的なトップである。古くから大企業である成道グループと阿良馬屋家は切っても切れない存在だった。クライオの現状は現在、この2人が担っているものであり、他の政治家は殆どが置物状態である。まさに力と知恵の権化。

 

「それで?今回の一件、どう処理なさるおつもりで?まさか、エルピスを厳戒態勢に置くことで再発防止策を務めるだけ…とは、おっしゃりませんよなぁ?」

 

ニタニタと笑いながらそう言う漱石。条一郎は一切の表情を崩さない。

 

「阿良馬屋先生は此度の…いえ、ここ最近のボートマトン騒動。どうお考えで。」

 

「…話をすり替えますか。私としてはオートマトンなど即刻廃止にすべきだッ!!と考えております。成道先生。オートマトンがもたらしたのは平穏などという甘い物語ではございません。人権の損害。人間は職を失う!!…そんなクライオを誰が必要とするのでしょう。」

 

目の奥で怪しく何かが光る。条一郎はそれを見定めると穏やかに笑った。

 

「ですね。…ですが、オートマトンによって教育機関、医療機関が豊かになったのも事実である。」

 

「相変わらずお好きですなぁ。揚げ足を取るのが。…確かに人手の足りない両機関には類稀なる吉報でした。しかし、心療内科までオートマトンの手を借りるなどと…馬鹿馬鹿しい。機械に人の心が理解できますか。いや、そんなわけないでしょう?」

 

「…何故、そう考えるのでしょう。相手は機械だからですか。」

 

「その通りッ!!」

 

…突き出された左手人差し指は条一郎に向かっていた。条一郎はそんな不遜な態度にも顔色ひとつ変えない。漱石による粘っこい笑みは醜悪そのものであった。

 

「人間社会。同じクライオの人々の平穏を維持するのが我々トップの仕事です。オートマトンや外国諸国に売るなどもってのほか!!私はクライオをもっと繁栄させる。その為なら命すらも燃やします。貴方にはその覚悟がありますか?」

 

「…流石、阿良馬屋先生ですね。情熱のある。…ですが、オートマトンを軍事利用はさせません。貴方が進めている政策です。…オートマトンはあくまで人の届かないところへ手を届かせる孫の手のようなもの。架け橋になりうるものだと思ってます。人の仕事が減るのではなく、人の仕事を減らす。その結果、人は家族や友人と共に過ごせる。過労死や孤独死をなくす。仕事に行った時、子どもや介護の必要な親、ペットを見るのは誰でしょうか。介護職の成り手もだんだんと減っていっていました。学校の先生だって減っています。…なら、オートマトンがそこを埋めればいいでしょう。」

 

「…それが余計なお世話だと言っているんです。子どもを他人に任せるのが怖い。ならば、オートマトンに任せようとなりますか?現に暴走被害により、オートマトンの買い手は減少傾向にあります。成道先生も会見ばかりで…。これ以上の暴走被害は目に余る。近々のシティ長選。楽しみに待ってますよ?」

 

その言葉が条一郎の耳に残った。言葉だけでは条一郎のことを心配しているのだろうが…嫌な笑みと粘っこい口調ではそれを真実とは考えられなかった。漱石はその場から立ち去る。ガチャリと扉の音を立てると漱石は自身の携帯に手をかけ、何処かに電話をかけた。…静かな回廊に鳴り響くコール音。ガチャリという音と共に漱石は会話を続ける。

 

「あぁ。第一ラインは成功だ。まさか、高校を襲撃されるとは思わなかっただろうな。成道の小童の吠え面が目に浮かぶ。」

 

皺の多い目元を細くし、笑う。

裏のある笑み…としか思えない。

 

「俺をシティ長選から叩き落としたあの日から…奴には腑が煮え繰り返っているわ。何が、オートマトンと人間の共存だ。巫山戯るな。機械が人間を虐げ、人間よりも上の立場に居るなどと…。機械は機械だ。それ以上でもそれ以下でもない。…だからこそ、生きるなどではない。使うのだ。俺は奴をシティ長選で叩きのめし、現在のすべてのオートマトンを軍事利用する。クライオを統治し、領土確保に向かう。…その為の準備はいいか。」

 

電話の主からの回答を聞いて、漱石の顔が更に醜悪に歪む。にぃっと三日月型に開かれた口元はまさにヴィランであった。

 

「そうか…。次は医療施設を狙え。頼んだぞ。…ドクター。」

 

そう言って電話を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛た…すまないねぇ。こころちゃん。」

 

クライオ中央病院。クライオタワーから徒歩15分程度の場所にある大病院である。ここはこころの祖母、改動文恵が入院している病院である。クライオにはたくさんの病院があるが、これほど病床と設備が整った病院は他にはない。看護婦と先生、そして、オートマトンを登用した病院は人々にとって希望そのものであった。

 

「いいよ。学校が休みになって暇だったし。」

 

こころは文恵の乗る車椅子を押していた。学校がある日は毎日ではないが、時折見に来ていた。学校からは電車で10分ほどで来れる場所…ではあるものの、最近のオートマトン被害により外出をできるだけやめていたからである。

 

「学校…大変だったねえ。怪我はなかったかい?」

 

「うん。英人が守ってくれたから。」

 

こころは隣にいる英人を見る。黒いライダースジャケットを身につけた筋骨隆々な男に文恵は笑顔で笑う。

 

「なるほどねえ。ありがとねえ。英人君。」

 

「俺はオートマトンだ。こころを守ることは使命。感謝など不要だ。」

 

「こころちゃんのボディーガードってやつだろう?…大事なこころちゃんの為に命を張ってくれてるんだ。感謝ぐらいするよ。」

 

「…俺たちには命はないぞ。」

 

淡々と放つその言葉にこころも文恵も微笑む。英人は純粋かつ素直だ。思ったことはすぐ言動に示すし、それに疑問を持つことはプログラムされてない。だからこそ、この言葉が出たのだろう。

 

「英人くん。命はね。あるよ。」

 

文恵はただそう言った。

英人は小首を傾げる。何故なら自分は機械。コアパーツや部品はあれど、命まではない。死ぬだなんてただの夢物語だった。壊れるだけ、そして、直される。生き返るとは違う。モノは壊れるのが前提で作られるから。壊れにくいものは世の中に多くあるのに対し、絶対に壊れないと謳われているものは一つもない。壊れたら直されるだけ、それは死ではない。

 

「ここに居る人たちを見てごらん。皆んな、いい笑顔だろう?人も…オートマトンも…いい笑顔だ。」

 

文恵の言葉にこころも…英人も周りを見渡す。確かに皆、いい笑顔であった。そうプログラムされているとしても誰が機械で誰が人間か、ぱっと見わからない。わかるとするならば、よく凝視するとオートマトンには人間にない涙線をなぞるような真っ白な線があるくらいだ。とても細い線である。…それ以外は自然な表情、それは英人の知りたがっている感情だった。

 

「…笑いたいと思わなきゃ笑えない。作り笑いでも作らなきゃ笑えないんだ。顔も疲れるからね。疲れてでも笑ってあげる。それが笑顔だよ。笑顔は心を温めるから。とても素敵なんだ。…それは考える力や命がないと出来ないだろう?」

 

「…オートマトンはそうプログラムされてるだけだ。我々はマシン。笑顔になるように出来ているだけ。動物だって笑ったりはしない。」

 

「でも、声には表すだろう?人の形をしてるんだ。人形だって、ぬいぐるみだって職人の命や願いを込める。…君にもあるはずだよ。」

 

…英人はその言葉に胸を抑える。可動音が聞こえるだけ…それだけだった。

 

「理解不能だ。」

 

「わかる日が来るよ。いずれね。」

 

そう言った文恵は目を細めて笑った。

 

「そうか。…飲み物でも買ってこよう。」

 

そう言って英人はカバンを持って何処かへと歩いて行った。こころは車椅子を押しながら大通りの窓際まで歩いていく。

 

「綺麗だねえ。外は晴天だ。」

 

「そうだね。」

 

「お父さんは元気かい?」

 

「元気だよ。元気すぎるくらい。」

 

そんな話をしながら平和な時間が過ぎ去っていく。…そろそろ戻ろうか。こころが思ったそんなタイミングだった。こころの目は見慣れた男を見かける。見慣れた銀髪の男を。

 

「…アバル…!?」

 

「知り合いかい?」

 

「うん。…悪いやつだよ。」

 

向こうもこころのことを認識していた。ニヤリと笑い、こころに近づく。こころはアバルを威嚇するように睨みをきかす。文恵はにっこりと笑った。

 

「こんにちは。」

 

「改動こころの祖母か。生体反応が近いわけだね。」

 

そう言うアバルにこころは警戒を解かない。アバルは旧知の友のようにこころの肩に手をかけて耳元で話す。

 

「御付きの用心棒は何処かにお散歩かな。」

 

「アンタなんか英人が来て…けちょんけちょんにやっつけてくれるわッ!!」

 

「そう邪険にしないでよ。…そう言えばさ。今まで僕たちについてきてくれた同胞たちがエルピスやエトスに敗れて…どんどん減っている。もう…スワードしかいないんだ。」

 

笑いながらそう言うとアバルは懐から真っ黒なヴィランギアを取り出す。その真ん中からギロリと見る目。こころはその生物気質な見た目に目を奪われる。

 

「ん?あぁ…。コイツは言わば、ボートマトンの脳みそみたいなものでね。寄生生物と言っても過言ではない。それ故にこれを付けられたオートマトンは…。」

 

アバルはゆっくりと足を進めて隣にいたお年寄りを介抱するオートマトンの方に腕を預ける。迷惑がるオートマトンに対し、アバルの顔はニヤリと笑っていた。

 

「…ッ!?だめぇッ!!」

 

「…暴走する。」

 

その叫びも虚しく、アバルは男性型のオートマトンの胸にそのヴィランギアを突きつけた。オートマトンはそれを体内に飲み込むと同時に絶叫。オートマトンの肌にヒビが入り、そのままぺりぺりと剥がれていく。バナナの皮のように剥がれていくと同時、激しい光と地鳴り、突風と共にガチャガチャと軋む音が響く。

 

…そして、現れたのは両腕に大きな注射器を身に付け、片目を額帯鏡でかくした真っ白な化け物であった。

 

「化け物だァァァッ!!」

 

誰かが叫ぶ。それと同時、動けないお年寄りや身体の弱い子ども以外はその場から逃げていく。走って逃げていくその波に揉まれ、更に転倒し、怪我人が増える。負のスパイラルである。

 

「さぁ。…思う存分暴れろ。」

 

こころの額に汗が滲む。祖母である文恵を守りながら前のボートマトンから逃げなくてはならない。しかし、アバルの言葉に注射器の…インジェクターマトンは静止していた。

 

「何をしているんだ?」

 

「…仕事優先…病人を守るのが私の…仕事。」

 

「…これだから現代のオートマトンは…。」

 

アバルは頭を掻いて、イライラとした声を上げた。こころはこれを機に文恵の車椅子を押す。その間に頭で考える。

 

…ボートマトンは仕事を優先するという事実がこころの頭を揺らした。しかし、その事実は先のダイナマイトマトンを否定する。彼はこころの学校のボートマトンではなかったのか…?…兎に角、こころは英人の元へと走る。

 

心なしか、足元が寒い。

 

「先ほどは失礼したね。」

 

こころはその言葉と共に背筋が凍ったような感覚に陥った。アバルから距離を離したはずである。廊下を走り、出入り口へと向かったはずだ。…なのに。目の前を氷塊が覆っていた。

 

「時間が経てば彼も僕の崇高な考えを理解してくれたよ。…と言いたいが、熱でヴィランギアを動かしただけだけどね。」

 

その言葉と共に氷海へと銀のパイプが伸びた。それはこころの肩を深く貫く。

 

「はぐっ!?」

 

「こころちゃんっ!!」

 

こころはゆっくりと後ろを振り向いた。そこにいるのは血が滴り落ちる右手を持つインジェクターマトンと氷海に身を包んだアバランチマトンだった。

 

「…ね、熱…?アンタは…氷だけのはずでしょ…?」

 

「…僕は災害。それを内包したヴィランギアを使う。ならば、熱を操れても不思議じゃないだろう?手の内は見せないけどね!!」

 

その言葉と共に先の尖った氷塊がこころの元へと飛んでくる。まさに絶体絶命。…その時であった。

 

銃声と共にパリンッという音が響き渡る。ジュワァ…っと氷塊が溶けていた。こころが目を開けると既に変身したヴルカンの姿があった。

 

「エルピス!?」

 

「たまたま非番でよかったな。病院に来る予定のせいで、非番じゃなくなった。」

 

そう言うとヴルカンはアバランチマトンとインジェクターマトンに向かって引き金を引く。銃声と共に2体のマトンから白煙が上がる。

 

若干、2体は怯むものの、アバランチマトンはまたもや氷塊を投げつける。

 

「チッ。めんどくせぇ…!!」

 

そう言ってエナジードライバーに刺さっているサポートギアのボタンを押す。

 

〈ヴルカンッ!!ブラスターブレイクッ!!〉

 

「ハァァァァッ!!」

 

ヴルカンの持つマグナムの銃口から真っ赤なレーザー砲が飛ぶ。しかし、人がいるため本気では戦えない。故に氷壁によってそのレーザー砲は阻まれた。

 

「チッ…ここじゃダメだ。人が多すぎる。」

 

せめて屋上に誘導できれば…。

そう考えるヴルカン。その一瞬をインジェクターマトンは逃さない。氷塊が消えた瞬間、地面を蹴り、そのまま袈裟に右手の注射器の太い針を振り下ろす。

 

「ぐっ!?」

 

ヴルカンの胸から白煙が上がる。続いて横薙ぎの斬撃をヴルカンはマグナムで受け止める。

 

「めんどくせぇッ!!」

 

そのままインジェクターマトンの腹部にヴルカンは回し蹴りを喰らわす。そのまま銃口を向けるが、ヴルカンの敵はインジェクターマトンだけではない。

 

「君とはあまりやり合ったことはないなぁ?」

 

その直後、氷柱のように尖った氷塊がヴルカンを襲う。ヴルカンは氷塊を全て打ち壊すと、その白煙の中へと飛び込んだ。

 

「至近距離に切り替えたか。でも!!」

 

アバランチマトンは自身の背中に生えている氷山から長い氷の刀を引き抜く。二本、引き抜くとそのまま前から来るヴルカンにぶん投げた。

 

「ぐっ!?」

 

二刀はヴルカンの胸にあたり、白煙を散らす。しかし、ヴルカンは止まらない。アバランチマトンの懐へと入ると、そのまま銃口を胸へと突き立てる。

 

「消えろッ!!」

 

「凍りつけッ!!」

 

エナジードライバーのボタンを押すヴルカン。そのヴルカンの周りを氷塊が覆い尽くす。

 

〈ヴルカンッ!!ブラスターブレイクッ!!〉

 

「オラァァァッ!!」

 

マシンガンのように腹部で爆発する連弾。ヴルカンの身体ごと爆炎がアバランチマトンを包み込む。

 

「ぐっ!?…ハァ…ハァ…やったか?」

 

その爆炎の中からヴルカンが弾き出される。狭い病院内での最適解。文恵とこころ以外の人はすでに避難していた。ヴルカンはその姿を目で捉える。まだ逃げていない2人を。

 

「馬鹿野郎ッ!!早く逃げろッ!!」

 

声を荒げるヴルカン。その後ろで体から白煙をあげ、膝から崩れ落ちるアバランチマトン。胸に大きな穴をあけ、ダメージは甚大である。…しかし、ヴルカンの敵はアバランチマトンだけではない。後ろからインジェクターマトンが現れ、その先端をアバランチマトンに突き刺す。するとアバランチマトンはみるみるうちに回復。胸の穴も簡単に塞がっていった。

 

「ふぅ。…狭い敷地内で自爆上等の攻撃。やはり人間は馬鹿馬鹿しいなぁ!!」

 

周囲が凍りつき、氷塊が周囲に上がる。そのまま飛んでいく氷塊はヴルカンの背後を狙撃し、白煙を上げた。

 

「ぐっ!?」

 

再び地面に転がるヴルカン。トドメだと言わんばかりにインジェクターマトンが走り近づき、注射器の先端を上に上げる。あわや串刺しになる…その時だった。

 

「ハァッ!!」

 

インジェクターマトンの身体から白煙が上がる。銃弾だ。そこにいる全員がその攻撃が来た場所を見る。そこに居たのは…。

 

「英人!?」

 

「すまない。遅れた。」

 

腰にエートスドライバーを巻きつけ、リンクバスターを構えた英人の姿だった。英人は腰からエトスマトンギアを取り出す。

 

「今更何しに来やがったッ!!テメェが来なくても俺は…!!」

 

噛み付くヴルカンの言葉を尻目に英人はマトンギアのボタンを押す。

 

〈エトスッ!!〉

 

「お前の為ではない。…文恵の言った笑顔を守ってきた。それだけだ。」

 

「…まさか…。機械の君が人間を守ったとでも?」

 

アバランチマトンはその事実が理解不能だった。エトスはそのままエートスドライバーにエトスマトンギアをセットする。

 

〈ライセンス、認証〉

 

機械音と近未来的な音楽と共に英人の周りに『0』と『1』の連なった青白い文字列が地面から浮遊し、上がっていく。

 

「ここに居た人間は全て俺と俺の呼んだエルピスが避難させた。少し時間を食った。」

 

「なんでだ!!鉄屑のテメェがッ!!」

 

直後、ヴルカンのメットの中の無線が繋がる。その言葉の主はヴルカンが最も信頼する人物である雷咲已だった。…英人の言葉の裏付けをする内容だったのだ。

 

「最適解と判断した。…こころの大切な人間である文恵の大事な笑顔を守るためだ。…変身ッ!!」

 

そのまま英人はマトンギアのボタンを左手親指で押した。エートスドライバーの左スロットの小窓からマトンギアが回っているのが見える。

 

〈エトス、ログインッ!!〉

 

爽やかな音声と共に英人の周りに文字列が絡みつく。次第に下から徐々に黒いアーマーを作り出し、真っ黒な仮面ライダーが現れる。何処からか歯車が現れ、それが背中にガチャンとつくと胸の真っ赤な基盤と大きな複眼が真っ白に光った。

 

「俺はシステムライダーエトス。こころを守り、感情を知ろうとする者。俺は負けない。俺の前で誰も殺させない。」

 

「…テメェ。」

 

ヴルカンの頭にはあの光景が映る。このオートマトンを信じて良いのか、或いは。欺く力があればここでぶっ壊す。そのヴルカンの目をエトスは感じとる。

 

「…ヴルカン。炎寺龍平。俺は確かにオートマトンだ。だが、無益な殺生はしない。そうプログラミングされているからな。」

 

「テメェもアイツらみたいに暴走するんだろうがッ!!違うかッ!!」

 

「…その時は壊して良い。今はこころを守る。…利害は一致している。」

 

確かにだ。エトスの冷静な言葉にヴルカンは頭をかく仕草でイライラを示していた。

 

「わぁったよッ!!…クソが。なら、さっさと終わらすぞッ!!」

 

「これを使え。」

 

そう言ってエトスは何かをヴルカンに投げつける。ヴルカンはそれを受け取ると目を疑った。それは導火線が歯車の周りを象ったようなマトンギアだった。

 

「これは…!!」

 

「使えるだろう。…マトンギアは本来、マトンにしか使えない。だが、エルピスはその根底を覆した。それが使えるなら、試してみろ。」

 

そう言ってエトスは前へと歩いていく。目指すはインジェクターマトンだ。インジェクターマトンは手を上から下へ振り下ろすが、エトスはそれをリンクバスターでガード。

 

至近距離でトリガーを引き、インジェクターマトンを遠ざける。

 

「…ダァァッ!!もうっ!!やってやるッ!!」

 

迷っている暇などない。できないとはプライドが許さなかった。ヴルカンはエルピスギアを取り出し、エトスから貰った『ダイナマイトマトンギア』をエナジードライバーへ装填する。

 

〈add!〉

 

そのままマトンギアのボタンを押す。

 

〈エナジーアップッ!!ヴルカン、ダイナマイトッ!!バンババーンッ!!〉

 

爆発と共に現れたのは胸パーツや肩にたくさんのダイナマイトがついたヴルカンだった。顔は変わっていないものの、胸からシンメトリーに斜めについたダイナマイトなど首から下は変わっていた。

 

「…行くぞ。屑鉄ッ!!」

 

「無駄だ。君では僕には…。」

 

直後、ヴルカンのスピードが上がる。地面の爆発と共に急接近してきたヴルカン。咄嗟に腕をクロスし、ガードするアバランチマトン。

 

振り上げられた左拳がアバランチマトンに突き刺さる。そのまま後ろへ吹き飛んでいくアバランチマトン。

 

「ぐっ!?」

 

「こりゃすげぇや。力が湧いてくる。」

 

アバランチマトンは立ち上がると周囲を凍らし、氷の竜巻を生み出す。ヴルカンはクラウチングスタートのポーズを取って、それを迎え撃った。

 

「消えろッ!!」

 

氷の竜巻が飛んでくる。ヴルカンは手のひらを爆発させて、そのまま空中へと飛ぶ。バンバンと吹き飛ぶ方向を空を跳ねるように変え、竜巻で出来た視界の差異を使い、アバランチマトンの横へと吹き飛ぶ。

 

「なっ!?」

 

「オラァッ!!」

 

飛び蹴りによって壁に突き刺さるアバランチマトン。これ以上は無意味だと、アバランチマトンは闇へと消えていく。ヴルカンは追うことはしない。何故なら、まだエトスが戦っているからだ。

 

エトスはインジェクターマトンの攻撃をいなしながら戦っていた。アックスギアとなったエトスはインジェクターマトンに大振りには出来ないものの斬撃を当てている。

 

エトスはそのまま窓際へとインジェクターマトンを追い詰めた。

 

「今だ!!炎寺龍平ッ!!」

 

「俺に指図するなぁッ!!」

 

先程の飛び蹴りをインジェクターマトンへと当てるヴルカン。ヴルカンとインジェクターマトンはそのまま窓を割り、地面へと落ちる。エトスも追って降りてくると2人は立ち上がるインジェクターマトンを見ながら、並ぶ。

 

「これで病院は最小限のダメージで済んだ。これが最適解だ。」

 

「決めんぞ…。俺をあげろ。」

 

「…了解した。」

 

直後、2人は自身のドライバーのボタンを押す。

 

〈フルバーンッ!!(チャージッ!!)〉

 

ジャンプしたヴルカンをエトスが斧の側面で空中へと押し上げる。ヴルカンはダイナマイトの爆発を空中で利用し、そのまま速度を上げて、インジェクターマトンに向かっていく。

 

斧を捨ててインジェクターマトンに向かっていくエトス。インジェクターマトンは右腕の斬撃を振り下ろし、迎撃するが、それもエトスによって捕まれ、弾かれる。

 

エトスの右足に電撃がまとわりつく。

 

ヴルカンはライダーキックのポーズをしながらインジェクターマトンに対して落ちてくる。エトスはそれに合わせて、左足を軸とした回し蹴りをかます。

 

「「ハァッ!!」」

 

2人の蹴撃がインジェクターマトンの体に突き刺さる。

 

〈アックスッ!!〉〈ダイナマイトッ!!〉

 

〈デリートフィニッシュッ!!〉

〈エナジーッ!!ブレイクッ!!〉

 

2人の一撃により、インジェクターマトンは大きく吹き飛ぶ。その後、大爆発を起こした。

 

エトスは病院を見ると笑顔のこころとほっとした顔の文恵が居た。こころは親指を立ててグッドポーズをしていた。エトスもそれに対してグッドポーズを返す。そのまま2人は変身解除をした。

 

「おい。」

 

インジェクターマトンギアを回収し、戻っていく英人を龍平が呼ぶ。英人が振り向くと龍平は先ほど使ったダイナマイトマトンギアをぶん投げた。

 

「返す。借りは残さない主義だ。特にオートマトンにはな。」

 

「問題ない。」

 

「…お前、名前、なんだっけ。」

 

そう言う龍平は少し照れくさそうに見えた。

 

「英人。…主人からつけてもらった大切な名前だ。」

 

「そうか。鉄屑でも良いやつはいたんだな。少しは考え直すが…テメェが暴走したら止めるのは俺だ。必ずぶっ壊してやる。…わかったなッ!!英人ッ!!」

 

そう言って龍平は指を指した。英人は少しふっと笑うと頼むと一言言い、こころたちの元へと帰って行った。

 

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