終末世界のサバイバー -少女は異形世界で生き延びる-   作:レイサン

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過去作品よりグロテスクで残酷で、終始暗く重苦しい作品です。
たまに平和な回もあるかもしれませんが、暗いストーリーが苦手な方は注意してください。


滅びゆく世界 生き残った少女

20‪XX年 4月7日 午後4時23分

 

その時、地球に最悪が降り立った。

宇宙から世界各地に落下した謎の物体が、落下地点の周辺におぞましいウイルスを撒き散らしたのだ。

 

そのウイルスに感染した者は様々な異形の怪物へと姿を変えた。

ある者は内蔵が皮膚を突き破り、ある者はドロドロと溶けた皮膚が血と混ざり合い、またある者は全身に無数の目が作られた。

 

ついさっきまで普通の人間だった物達が、今や形容し難い異形の怪物となり果てていた。

異形になりはてた者達にはもはや理性も自我も無く、親友・恋人・家族の命さえも躊躇無く奪い、たとえその場から逃れたとしても感染者はさらなる感染者を生み出し続けた。

 

SNSが発達した現代において、こういった情報は瞬く間に世界へ拡散された。

そして、この異形化現象はついに日本でも目撃された。

 

逃げ惑う人々で道は塞がり、怪物の奇声と人々の悲鳴でもはやそれ以外の音は聞こえない。

平和だった日本は、たった一日で地獄へとなりはてた。

 

都会ではすし詰め状態だった人間達が一斉に異形化したため、避難所などなんの意味も成さなかった。

しかし、時代と共に過疎化が進行した田舎の町では、学校やマンションまで避難できた人は数名しかいなかった。

 

そして、そんな田舎の町のマンションに、一人の少女が取り残されていた。

 

 

「学校…今日も休んじゃった。暇だから動画サイトでも見てよう……ん?何この映像?うわグロ…流石にこれCGだよね?新作の映画か何か?ちょっと調べてみよ。」

 

 

彼女の名前は桜夜。

年齢は14歳で誕生日は8月27日。

普段から赤いスカートを好んで着用し、目の色と髪の色は生まれつき茶色。

家にいる時も外出する時も決まって三つ編みを赤いゴムで結んでいる。

 

容姿端麗・文武両道なクラスの人気者だったが、本人は学校生活を楽しめていなかったため小学校の高学年になった頃から、度々仮病を使って学校を休んでいた。

 

現在は両親の事故死をきっかけに完全に引きこもりになってしまい、両親が残したお金で買ったゲームで時間を潰す日々を送っていた。

 

 

「なに…これ…?マジでいってるの?ドッキリじゃないの?」

 

 

インターネットでも最初はデマ情報だと疑われていたが、桜夜が調べた頃にはもはやデマだと疑うことすらアホらしいほど世界の人々は絶望の縁に立たされていた。

 

 

「宇宙からウイルスが?人間が怪物になった?なにそれ、意味わかんないんだけど。ゲームやアニメじゃないんだからさ、あるわけないよね?」

 

そんな事は有り得ないと自分に言い聞かせるが、もし本当だったらという恐怖心が桜夜をベランダへと歩かせた。

そしてマンションの7階から、少し遠くにある学校の方へと視線を向けた。

その視線の先にあったのは、もはや建物その物さえも不気味な外見へと変形した信じ難い光景だった。

桜夜が来月から再び登校する予定だった中学校は、怪物達の餌場になっていた。

 

「は……?はぁ……?みんな……死んだの……?だとしたら……私はどう生きればいいの……?」

 

地元の人達や小学生の頃の友達が、いつでも桜夜を助けてくれていた。

その人達も、今では生きているかも分からない。

誰も頼れない。

 

「だめ…取り乱しちゃダメだ…!そうだよ!こんな状況で国が何もしないわけが無いじゃん!助けが来るまで生き続けないと!お金持ってコンビニでも商店街でも行って食べ物買ってこないとだよ!」

 

幸いマンション横のコンビニはパッと見では安全そうだった。

電気はマンション自体にソーラーパネルによる自家発電設備が備わっており、IHコンロや電子レンジも使えるので、食べ物さえあればしばらく外へ出なくても生きられる。

 

昼まで寝ていた桜夜と違い、他のマンションの住人は皆避難済みだったようで、マンションからコンビニまで誰にも遭遇する事は無かった。

 

「とにかくレトルト食品とか缶詰めとか日持ちするやつを買わないと…あと水も飲水以外に用意しとかないとダメだ…水道が止まったら水が使えなくなる…。買うものが多い…自転車で来て正解だったよホント。」

 

ブツブツと独り言を言いながらコンビニに入店すると、とにかく片っ端から保存食を詰められるだけ買い物かごに突っ込んだ。

 

「お金……店員がいないのに払っても仕方ないか。袋詰めの時間も無駄だ、カゴごと持って帰ろう。」

 

長居は禁物だ。

悠長にしていれば間違いなく怪物の餌食なのだから。

 

「よし、買ったものチャリのカゴに載せたしさっさと帰………ヒッ!!」

 

思わず息を飲んだ。

視界の隅に怪物の姿を見た。

 

(ヤバい!ヤバい!ヤバい!急いで帰らないと見つかる!死ぬ!!)

 

怪物に見つからないように全力で自転車をこいだ。

自転車の乗り降りの時間さえも命取りと考えて、自転車に乗ったままエレベーターに乗り、家の前まで向かった。

 

「ハァッ……ハァッ……!マジだった……!嘘じゃなかった……!死ぬかと思った……!」

 

玄関の鍵を閉めて呼吸を落ち着かせる。

コンビニに置いてあるレトルト食品や缶詰めをキッチンの戸棚に入れて、飲み水や日持ちしない食品は冷蔵庫に入れた。

 

「大丈夫…これで良いんだ…今までだって一人で生きられた…助けが来るまで耐えるくらいどうって事無いよ…。」

 

桜夜は自分に言い聞かせた。

本当は不安でいっぱいだったが、彼女を安心させられる人物はもはや存在しなかった。

 

 

 

4月14日午後7時33分

 

 

「いただきます……。」

 

あの日から1週間がたった夜、桜夜は一人寂しく夕食を食べていた。

たまに見ていたバラエティ番組も、最近推していたバーチャル配信者も、毎週楽しみにしていたゲーム動画も、あの日から全てが止まった。

 

あの日から毎日日記をつけているし、暇な時はひたすらゲームをしている。

日記の内容はいつも同じだし、先週手をつけたゲームはもうすぐクリアしてしまう。

 

「野菜の種買ってきたし…家庭菜園やろっかな…。」

 

 

6月30日午前10時21分

 

 

「あ〜トマトちゃん立派になったね〜!こんなに真っ赤になっちゃって〜食べちゃいたいくらい可愛い〜!ていうか食べ頃〜!」

 

桜夜はトマトと会話していた。

ゲーム画面の向こう側の女の子達と恋愛をするより、可愛いトマトに話しかけた方が気が楽だからだ。

トマトはロマンチックなBGMとともに胸がキュンキュンするセリフを返してきたりはしないが、桜夜の話をいつまでも黙って聞いていてくれる。

 

「フフッ!アサガオちゃんったらトマトちゃんに嫉妬しちゃって可愛いんだから!みんな大好きだよ!」

 

 

8月27日午後7時21分

 

「誕生日……もう15歳だ……私がこの世に生まれ落ちてから今日で15年だ……。」

 

プレゼントも無い。

ケーキも無い。

サプライズもパーティーも何も無い。

誕生日でさえ、桜夜はたった一人で孤独な思いをするだけだった。

 

「お父さん……お母さん……私今日15歳になったよ?ねぇ、凄いでしょ?私15年も頑張ったんだよ?……えへへ…嬉しい…うん…うん…私の事…産んでくれてありがとう。私ね……し……幸…せ…だよ?」

 

9月19日午前7時40分

 

桜夜は歯を磨き、顔を洗い、髪の毛を結んでいた。

洗面所で鏡を見て、何か娯楽を求めて母のメイク道具に手を出してみた。

そしてある事に気がついた。

 

「目……赤い……?」

 

目が赤い。

目が充血しているだとかそんな話では無い。

瞳の、虹彩の色だけが真っ赤に変色しているのだ。

しかも、不自然な事に左目は今まで通り茶色い目をしているのだ。

右目だけ、片方の目だけがなぜか真っ赤に染まってしまったのだ。

 

「は…?なにこれ……気持ち悪いんだけど……え?嘘でしょ?まさか……私もあいつらみたいになるの?」

 

背筋が凍った。

今まで一切変化が無かった自分の体に、今日初めて変化があった。

自分の右目が、まるで自分では無いかのように別物になってしまった。

 

「やだ……やだっ……!あいつらみたいに……なりたくない……!やだ!嫌だッ!!」

 

嫌だ。

怪物になんてなりたくない。

あんな醜い姿になんてなりたくない。

せっかくここまで一人で頑張ってきたのに、こんな終わり方は嫌だ。

その気持ちが、桜夜の思考を掻き乱した。

 

「ハァ……ハァ……ハァッ……ハッ……アッ……ハァァッ……」

 

 

桜夜は赤く染った右目に手を出した。

 

 

ぐにゅ

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!い"た"い"!!い"た"い"ぃ"ぃ"!!い"や"あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」

 

 

桜夜は自分の右目を素手で潰した。

えぐり取るつもりで指を突っ込んだが、呼吸の乱れと手の震えで自分の右目を握りつぶしてしまった。

冷静さなどとっくに失っていた桜夜は、目をえぐり取る痛みなど考えてもいなかった。

予想していなかった激痛に、足を踏まれた子犬のような獣の悲鳴を上げた。

 

 

 

9月19日午前7時43分

 

「ハァ……ハァ……クソが……クソが!!なんでこんな目に!!なんで私が!!なんで!!なんでなんだよ!!なんで!!なんで……!なんで……私だけ……生き残っちゃったの……?」

 

あまりに理不尽な仕打ち、そしてありあまる孤独から、地獄の始まりから5ヶ月が経過した今、ついに桜夜は泣いてしまった。

両目から涙が溢れて止まらない。

そう、両目から涙が流れてくるのだ。

三分前に自分の手で握りつぶした右目からも涙が出てくるのを、その右目で見ているのだ。

 

「右目…さっき潰した右目…治ってる…。」

 

その時、桜夜は壊れた。

何も考えたくなくなった桜夜は、その後数時間ただひたすら立ち尽くした。

 

 

9月19日午後1時31分

 

約6時間後、桜夜は再び動き出した。

もはや独り言すらも言わずにキッチンへと向かった。

お昼時、丁度お腹が空いてくる時間帯だ。

いつも通り棚から包丁を取り出した。

そして

 

 

ガンッ

 

 

桜夜はその包丁を、自分の左手首に振り下ろした。

包丁は手首を切断し、その下のまな板さえも切断し、その下の台にまで突き刺さった。

そして切断された手首からは少量の血が出たが、すぐに出血は止まり、骨が伸びて、筋肉が伸び、そしてそれらを再び皮膚が覆った。

確かに切断されたはずの左手首が、自分でも理解が及ばないうちに新しく生えてきた。

 

「わたし……かいぶつになっちゃった……。」

 

この瞬間、桜夜の目に光は無くなった。

不自然な赤い目、古びた包丁でまな板を両断する怪力、切断された手首が新しく生えてくる治癒力。

どう考えても人間では無い。

 

 

 

9月23日午後9時11分

 

桜夜はマンションの12階、屋上に来ていた。

 

「町はすっかり変わってしまった。下を見下ろせば私と同じ怪物達が大勢待ってる。みんな私とは姿が違うけど、またみんな私の事可愛いって言ってくれるかな?お父さん、お母さん、もうすぐ会いに行けそうだよ。」

 

桜夜は屋上の柵の上に立った。

 

「さよなら。」

 

桜夜が視線を下に向け、柵から片足を下ろした。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 

紛れもない人間の声。

悲鳴、助けを求める誰かの声だ。

桜夜が視線を声が聞こえた方に向け、柵から片足を下ろし、そしてその柵をもう片方の足で蹴った。

 

どう見ても100mじゃ済まない距離に、桜夜が住むマンションとは別のマンションがある。

方角からして声が聞こえたのはそのマンションだ。

あの一瞬で部屋の位置を正確にとらえ、頭で窓ガラスをたたき割りながら突っ込んだ。

 

「いや…だめ…来ないで…!それ以上私に近ずかないで!!」

 

緑色の服に黄緑色のリボンを身につけた金髪の少女、恐らく日本人では無い。

今目の前で、怪物に襲われている。

窓ガラスに突っ込んだ勢いで、ベランダの雨水を流すパイプが折れていた。

 

 

「えああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

桜夜は叫びながら怪物を殴り続けた。

何秒、何十秒、何百秒、数えていないので正確な時間は分からないがとにかく殴り続けた。

しばらくして、怪物の息の根が止まっている事に気がついた。

 

 

「人間……生きてる……人間……」

 

「ひっ!いやっ!来ないで!」

 

怪物の返り血を浴びて、さらには頭からも血を流して、それでもなお立ち上がり近寄ってくるその姿は、名も知らぬ少女にとって恐怖そのものだった。

 

「やだ!食べないで!いや!!いや」

 

 

きゅっ

 

 

「私を……一人にしないで……。」

 

そう言って桜夜は少女に抱きついた。

暖かく、優しく、そして血なまぐさい抱擁だった。

 

「……名前は?」

 

「……メアリー。」

 

「メアリー……私の家に来ない…?二人の方がさ…助け合えるから…。」

 

「うん…行く…。」

 

こうして桜夜は、メアリーと共に生活する事になったのだった。




約5000文字と一話目から詰め込みすぎてしまった。
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