呪いで武器を扱う事しか性欲発散できない俺が人型の魔剣でようやく卒業するやつ 作:ギンギン丸
とある種族がいる。魔法や知能ではエルフに劣り、鍛冶や鉱石の加工技術ではドワーフに劣り、リザードマンのように星見によって未来を予知する事も出来ない。肉体の強度で優っているのは僅かな種のみ。多くの異種族と比べて貧弱、魔法も知恵も劣るそんな種族。
人間。そんな弱小種族がこの旧世界《オールドランド》で強豪種族に並び、張り合えている事実。強い繁殖力と、弱小種族だからこそ相互工夫して知識を集約し広め、他種族の技術を貪欲に人間でも扱える形に変化させていく。肉体能力に劣るのならば剣術で、魔法に、鍛治に劣るのならばそれらを組み合わせた新しい魔剣製造技術で。
種族として“弱い”事が人間種を他種族に匹敵せしめる“理由”でもある。
そんな弱々しくも強い人間が逞しく生きるこの世界。
主に人間が支配する地域である大陸中央部、その中でも南部のアバーランドの片田舎に俺はいた。腹は満ちている。
「失敗したか……」
さっき食べた魚の練り物の揚げ物。どうやら傷んでいたらしい。ゴロゴロと引いては押し返す波のように痛みが周期的に襲って来る。俺は屋台の可愛い店員に勧められて買ってしまった事を後悔していた。
「どうかした?ヨロズ」
隣で見下ろしてくるのは巨大な女。名前をタルタリス。2m近くあり筋肉も胸も尻もデカい。金髪の角の生えた男勝りの竹の割ったような性格の女だ。顔も日焼けでソバカスがぽつぽつ見えるが、それがワンポイントとなって下手な完璧美人よりもモテることうけあい。
実際めっちゃモテるしコイツ。
「いや、なんとも。それよりそろそろ護衛の時間だ」
「まだ少し早くない? 待つの嫌いなんだよアタシ」
「文句言うなって。金がいるんだよ俺は」
「……アンタは戦うついでに金も欲しいだけだろ」
ニヤつきながら答える巨女にフンと鼻息を鳴らして答える。どうせ俺が言ったところで真面目に聞きやしないんだ。あながち全部が全部嘘ってわけでもないし。
護衛の依頼で既に小さな街の広場は賑やかだった。南部名物栗毛の駿馬や東部の灰色毛の重種もいる。南部の栗毛は速さで有名だがこっちはその巨大な体で重装騎兵用だったり荷馬車用だったりによく使われている。
恐らく近年予定されている戦争にでも使われるのだろう。戦争相手は
人間は大陸の中央に位置して他種族から侵攻を受けやすい。そういう理由で軍の兵隊も忙しいので、人間の支配圏での物資の護衛なんかは俺たちのような傭兵でも受けやすい。
「良い馬だな。アタシが乗っても平気そうな馬なんて滅多に見ねぇ」
「こないだの仕事の報酬で買うって言ってなかったか?」
「あともうちょっとの所で一段階上の馬が買える所だったんだ! アイツ絶対イカサマしてたんだよ!」
よっぽどその事を思い出して苛ついたんだろう。タルタリスは愛用の武器である金砕棒をぶぅんと振り回す。巨漢の馬鹿力によって振り回された一撃は空気を薙ぎ払い、近くにいた馬をビビらせてしまった。いっけねと慌てて暴れそうになった馬を両手で押さえ込む彼女の様子を俺は眺める。
巨大な胸が動くたびに弾み、馬の体でグニュっと柔らかく変形するさまを。
正直俺は性欲が強いほうだ。
あれを揉みしだきたい。そういう気持ちは確かにある。
タルタリスは話してて気が楽だし、かといって女っ気が無いわけじゃない。あの豊満な身体で女を意識しないほうが失礼ってレベルだ。転生前の俺が普段仲の良い女のあんな無防備な姿を見れば意識してしまうに違い無かった。現に他の傭兵連中がタルタリスを見る姿はニヤニヤしてて逸物をズボンの下から突き上げてる奴もいる。
しかし俺の股間のマイサンはピクリとも反応しなかった。
最初に否定させてもらうが俺は断じてEDじゃない。心は確かにあの胸を見て反応してるのだが、体の方に全く反応が見られないってだけだ。
──いや、ますますEDへの誤解を深めてしまったかもしれない。
「おいヨロズ」
「うん? 何だよ」
「おい聞いてなかったのか? 馬を連れて出発するって馬主が号令かけてたぞ」
「あ、そうか。悪い」
「おいおいしっかりしなよ」
背中を一瞬息が止まるぐらいの勢いでどつかれた。混ざり者らしい力強さだ。傭兵稼業には彼女のような混ざり者が多い。単純に身体能力で優れていて、生まれからしてまともな教育が受けられない事が殆どだが味方にした時の頼もしさは凄まじい。
俺のような純粋な人間種のほうが傭兵として珍しいんじゃなかろうか。混ざり者という蔑称をつけられる側からしたら煩わしい存在といえる。いまだに差別意識の強い人間も多くいるんで強い彼女達のほうが純粋な人間種より安い賃金で雇われることもある。
そうした理由から同じ傭兵仲間からは嫌われる事が多いのが純粋な人間種という立場だ。俺も肩身の狭い思いをしたことは何度もある。
馬主の雇った馬専門の護衛と俺たち20人そこらの傭兵部隊が町を出発してから2時間。アバーランドのどこか牧歌的な風景から薄気味悪い湿原地帯に風景が移り変わる。上空ではシルバーホークが数匹馬を狙って旋回している。
警戒しろと護衛の頭が呼びかける。注意するのはシルバーホークだけでは無い。湿気の多い地域ではアイツらが現れやすい。腹痛も戦闘の気配を前にだいぶおさまってきた。
「スケイブンが出たぞ! 馬を囲んで円陣を組め!」
湿った土を掻き分けて地中から這い出て来たのが鼠の怪物。二足歩行の人型鼠と聞くと例の大人気キャラクターを思い浮かべるが此処はファンタジー世界ではあれどとびっきりのリアル。泥に塗れてダニのついた不潔な毛並みに感情の読めない野生的な瞳。
鋭い爪で泥を掻き分けて地上に現れると腰に着けた錆だらけの片手剣で突撃してくる。
「WOOOOOOOOSHiiii」
語尾が歯の隙間から漏れ出した空気のような音を発するのがこいつらの特徴だ。そう、こいつら人語を解し喋れる。
1m半ぐらいの大きさで力は人間より弱いのだが、コイツらの厄介な所は数だ。一匹見たら50〜60匹はいると考えた方がいい。放置するとねずみ算的に増えていくので討伐が推奨されるのも納得だ。
奴らに対応して傭兵連中が円陣となって盾を構える。革製の中型盾で大きなモンスターと戦うにはあまり向いてないが対人やこいつらの相手をするにはピッタリだ。
「踏ん張れぇ!! 馬一匹傷付けでもしたら今日は女を抱けないと思え!!」
「おぅッ!!」
スケイブンの群れが盾持ちとぶつかり金属と肉体がへしゃげる嫌な音が響く。奴らの体重が軽いこともあり突撃の威力とシールドバッシュで逆に死んだスケイブンのほうが多いだろう。最初の衝突が終わったところで盾持ちの隙間からタルタリスや俺たちが前に出て残党を狩り尽くす。
「第二陣来るぞ!」
一番最初に穴から出てくるのはスケイブンの中でも奴隷階級の奴らだ。その後に出てくるのが正規部隊。こちらはスケイブンスレイブと違って一部分革や金属製の防具を身につけているものが多い。武器はだいたい槍。
さっきまで身につけていた片手剣を腰の鞘に納めて、背中の槍に変える。片手剣が寂しそうに手元で震えるのを感じた。
『キャッ、アタシの番来た?!』
「うん……頼んだわ」
朱塗りの柄を振るうと刀身の重みが心地良い。命を奪う重みが手に握られているという実感……それを目の前の相手に何の憂いも無く震える状況。
非日常の極致ともいえる。
それが
目の前のスケイブンを金砕棒で弾き飛ばす。普通の人間なら3人がかりで持ち上げるような重量だがタルタリスにとってはちょうどいい重量だ。一振りでスケイブンの頭部を爆散させてなおスピードも一切緩まずもう一匹のスケイブンに致命傷を与える。タルタリスにとってこの程度の戦闘は戦闘たり得ない。
強者との闘い、敵対種族を潰して得る賞賛、金銭。それら全てがタルタリスにとって欠かせない要素だ。他の傭兵共も似たようなものだろう。
しかし戦友であるヨロズは違った。
奴は己の武器である『魔槍』を振るう。人間種族の作り出した『魔剣』の種類の内の一つ。ドワーフの鍛治とエルフの魔法技術を融合させたその兵器は意志をもつ。並の武具とは比べ物にならないほどの性能のそれは軍人に優先的に支給されるが一般人でも家一軒買えるほどの金額さえ出せば購入する事は可能だ。奴は賞賛も美食も女も求めずに傭兵業で稼いだ金を『魔剣』を買う為だけに費やしている。
口元が横に裂ける程の喜悦の笑みを浮かべて手足の延長として奴は振るう。穂先でスケイブンの肉体を突き刺し、抉り取り、返り血を浴びながら嬉々として。
戦いを『愉しんで』いる。
傭兵稼業やってる奴は大なり小なりそんな奴ばっかりなのは否めない。命を奪うという大きな精神的負荷を誤魔化す生存本能がそうさせるのだろう。しかしヨロズの戦闘狂ぶりは異常の一言だ。
スケイブンの噂を聞けば奴らの潜む洞窟に1人で突撃し、賞金すらかけられていない士族を追われたリザードマンの首を幾つも持って帰ってきたりと逸話が幾つもある。
今もスケイブンの群れの中に飛び込んで得物を突き刺す。自らの命さえも擲つかのような命知らずの特攻。しかしその槍を操る技術は繊細にして大胆。まるで己の中に溜まった欲望を解放させるような、或いは武器を振るう事が奴にとっての本来のコミュニケーションかのような……危うさを秘めている。
だからこそ放って置けない。タルタリスは自分の面倒見の良さに苦笑しながら声をかけた。
「あんまり突っ込みすぎんな──て、もう聞いてないな」
スケイブンウォリアーの粗末な槍を魔槍で受け止めて穂先共々持ち手を斬り落とす。己の武器ってのはいわば男の象徴たる
正直ここまで俺は戦闘狂ではなかった筈なんだが、それが俺のかけられた
最初は煩わしかったギャンべソンの厚ぼったい生地にも最早違和感を覚えない。前面に鉄板を仕込んだブーツがスケイブンの膝を蹴り抜く感触も慣れるってもんだ。
問題は股間を覆う鉄製のファールカップ。まぁファールカップ自体はそう珍しくない。金的攻撃も馬鹿に出来ない。内臓という急所が外に出ているのと一緒だ。普通に傭兵の間でも着けている人は少なくないんじゃないかな。娯楽の少ないこの世の中で娼婦を抱くために必要なブツを守るのも不思議じゃない。
より具体的にいうと鉄製のファールカップの下。下品なことをいうとアレなんだけどギンギンだった。
マイサンが出口を求めてお怒りだった。鉄製のファールカップとの間に緩衝材としてクッションを詰めてるんだがそれでも時々鉄とマイサンがケンカをしてしまう。
敵の頭らしきスケイブンが鎖帷子をジャラジャラと鳴らしながら逃走を始めた。俺は泥だらけの足元に苦労しながらも、敵から奪った片手剣を投擲して奴の太ももに命中させる。
『GUAAAAAAAAAAAAASHiii』
見るからに動きの鈍った頭目に追い縋ると槍の穂先で胸の鎖帷子ごと突き刺す。奴はゴボボと口から血の泡を吹き出しながら前のめりに地面に伏した。
『堪んないわぁ……』
そこで俺は戦闘の快楽から二度も白いナニカを放出した。あまりの快感でビクンと震える俺を遠目から傭兵仲間たちがやって来て声をかける。
「そいつがスケイブンのリーダーか?」
「……ふぅ、多分そうだな」
俺が頭らしき奴を追いかけた時も他のスケイブン連中は助ける素振りすら見せなかった。自分たちが有利な状況ならリーダーの言う事も多少は聞くが、不利になれば自らの命を最優先にする薄汚い奴らだ。おおかた普段から命令してくる奴がいなくなって精々するってところだろう。
そういうわけでスケイブンの頭目を見分けるのは結構難しいんだ。だいたい一番立派な防具をつけているってのが共通の目印。元々スケイブンが劣勢ではあったけど集団が一気に逃げ出して穴を掘り始めたあたり俺の仕留めたのがリーダーで間違いなかったのだろう。
傭兵集団が残党狩りに移ったところで地面に座り込む。賢者タイムも含めて流石にちょっと疲れた。タルタリスや傭兵仲間も熟練の戦士ばかりだ。1人ぐらいサボったところで構わないだろう。
革袋をあおって水分補給につとめる。支給された水分は薄っすいエールだ。水分の豊富な地域じゃないし、湿地の泥水は飲む気がしない。
そんなふうに1人ぼんやりしてると奥からタルタリスがやって来た。血塗れで泥も被ってるけど美人ってのは関係なく美人だ。角が汚れるのだけは嫌らしく布切れで角を扱くように拭いているのを見るとすごくイヤらしい雰囲気になってしまう。
さっき二度も出したけど俺の脳内はいっつもこうだ。
「良い身分だな。アタシにも分けてくれよ」
「お前も持ってるだろ? 支給された分はどうした?」
「そんなのとっくに胃袋の中さ」
飲んでる最中に皮袋を奪い取られる。
「なぁんだこれっぽちか」
せっかくの水分が直ぐに空にされてしまった。間接キッス!?なんて発想は全然無い。回し飲みってのは傭兵仲間の信頼の証でもあるしドキドキすらしない。内陸部ならまだしも敵対異種族の多い外陸部は水浴びも男女一緒に行うのが普通だ。
もちろん水浴び中に致す奴らも多い。危険な場所だと余計に生存本能からそういった流れに行きやすいもんな。
「暑いな……仕事終わりに水浴びでもするか?」
期待したような視線でタルタリスが誘って来る。まぁ暗にこれは
「悪いな……俺は1人で水浴びするのが好きなんだ」
「つまんない男だねまったく」
いや、本当に全くもって同感である。
俺も
この世界には神や精霊なんかが存在している。国によってはそれを主神と崇めたり、国のトップがそのまま精霊で統治している場所なんかもあるわけだ。一方、神は神でも碌でもない神も当然のようにいる。
人間たちの戦う姿を楽しんだり、快楽に沈めたり、計略や策謀などの知識欲を持つ奴らを弄んだり、腐敗こそが人間を幸せにする方法だって本気で信じてる奴ら。そんなやばい奴らをケイオス神と呼ぶんだがその一柱の
殺戮や戦闘を司る神。ケイオス神の中でも序列は高い方だ。要はその分クソってこと。
そんな奴から俺はこの地に生を受けてから
ケイオス神の祝福を受けたなんて周囲に知られたらどんな風に周囲から扱われるか想像しただけで恐ろしい。コーンは北方の蛮族が主に信奉していて人間種族の地域にちょくちょく侵攻してくるので世間のイメージは控えめにいって最低だ。それか熱心な隠れ信奉者にでもバレたら祀りあげられるかのどっちかだ。だから俺は幼少の頃よりこの事をひた隠しにしてずっと
良い武器を振るう程その発散も楽になるから《魔剣》の類を振るうのも無理もないだろう。幸い他の傭兵が娼婦を買う金と時間を全て
そんな訳でとりあえず俺の目標は俺の
いい加減俺も生の女を抱きたいんだ……。このままだと
生身の女性の裸へそういう感情を抱かなくなる前に、早急に手段を探さないと。
水浴びしている林の向こうで漏れるような喘ぎ声を出しているタルタリスの声を聞きながら俺は悲しく《魔剣》を振るのであった。