呪いで武器を扱う事しか性欲発散できない俺が人型の魔剣でようやく卒業するやつ 作:ギンギン丸
「それで傭兵契約はどうなるんだ?」
「終わりだよ。流石に城壁が破られたままのシュタインガルドではグリーンスキンの軍勢の防衛なんて出来ないからね。アヴァーハイムとの間に野営地を急遽設営中らしい」
既に此処はもう廃墟同然の有り様だ。大量の物資を詰め込んだ牛車や馬車が列になって北に向かっている。小さなランプを中心に集まって今は城壁の上で小さな宴。兵士と違って自由な傭兵にだけ許された時間だ。
エド=ナが配給された豆に特製のスパイスをかけてアレンジしたらしくそれをつまみにビールを飲んでいる。重量のあるビールを限られた時間で全部運び出すのは無理なので功労者にタダで支給されるという大盤振る舞い。味気の無い豆が酸味と辛さが加わった事でこんなに美味くなるとは……。タルタリスもかなり気に入ったようで片手の木製ジョッキを煽った後に豆を口に入れるというルーティンが止まらない。
既に樽を二つは空けている。隣で軽快にジョッキを飲み干す相手がいるのでペースも早い。
「噂には聞いていたがドワーフは酒に酔うことが無いというのは本当だったんだな」
「人間のビールで酔うような
「そいつは光栄だ! ガッハッハハハハハッハ!」
あのモヒカンドワーフとすっかり意気投合したらしく何度も乾杯を繰り返している。一緒に敵本隊を横から斬り込んで行ったからな。将軍の執務室にいて、将軍も彼の意見を聞いていたことから結構な地位である事が窺われるがこんな所で傭兵と一緒に飲んでていいのだろうか?
他にもエド=ナと俺がランプを囲んだ円陣になっていて、その外側で黙々と炙った干し肉を食べている騎士様。話に入ろうとする気配も見せない割に付かず離れずの距離。正直かなり気になる。タルタリスの奴が一度一緒に飲まないかと誘ったが、『酒は飲まないので』と断ったきりそのままだ。
『……不満』
「どしたん? 話聞こか」
『……血が欲しい』
「酒ならあるぞ。飲むか?」
『……血が欲しい』
スケイブン戦で活躍できなかったのが不満なようで先ほどからずっとこんな感じだ。そうそう、《魔剣》といえばスケイブンの持っていた金砕棒については今の所軍が預かってる。普段なら倒した奴が所有権あるんだが一応一時的に軍属みたいな扱いであることと能力的に悪用されたり相手に奪われてしまったら最悪なのでしょうがないだろう。実際相手にしてあの《魔剣》の面倒臭さは身に染みて理解している。
「これからどうするんだ?」
どこか焦点の合ってない視線をぼんやり向けてエド=ナが告げる。酒に弱いのだろうか? それともまだ病み上がりなのに深酒をしてしまったのか。どちらにしろ何とも答え辛い事を聞かれたな。
『無命の形代』という新情報は俺の北方行きのプランにそれだけ大きな影響を与えた。付き合いもあるタルタリスと別れるのが寂しい気持ちもある。結局色々ゴタゴタしてて返事も聞けなかったし、俺のせいで暫く険悪な仲だったから無事元の良い関係に戻った彼女に話を持ち返して喧嘩別れなんてオチは最悪。
結局の所きっと自分は恐れているのだろう。口を開けたら弱気な言葉しか出て来ない確信があったので黙り込む。沈黙の雰囲気に耐えられなかったから手遊びがてら油紙で《魔槍》の刃を拭った。月の明かりを綺麗に反射する刃にそんな必要性は感じない。
『もっと丁寧に磨きなさい』
そんな《魔槍》の減らず口に束の間救われる。しかしそんな浮ついた気持ちは冷たい言葉によって落ち込んだ。
「……また逃げるのか」
ゴトっとエド=ナのジョッキが硬い城壁の地面を叩く。
「……不安なんだよ。断ってくれるならそれで良いけど北方の危険度は此処とは比べ物にならない。それでも俺はきっと
「だから巻き込むのが嫌だって?」
「そうだ」
酒気の混じった息が間近で感じられる程エド=ナが寄って来る。冷たい視線で全然そんな色っぽい空気じゃ無いのに心の逸物がムクリと立ち上がる。あまりに生の女との接触が無くて虚しい勘違いしたマイサンを嗜めた。
まだ本当の事を言っていないだろと無言で詰める彼女の迫力は凄まじい。『まつ毛なげぇ、よく見ると瞳が翠色じゃん』とつまらない考えをし始める下半身の思考を追い払う。
「……ほらっ……正直……断われるの怖いっていうか。どうせなら……このまま解散の方が……な?」
「それ見たことか。情けない」
アーモンドのような大きな瞳を細めて蔑まれる。幸いな事に俺はそうでもないけどその手の趣味の人にとってはご褒美にあたるんじゃ無いだろうか。何も言い返せなくてジョッキを仰ぐ。ビールの味も先ほどより若干落ちている気がした。
「やはり駄目だなお前は」
「……そうだな」
「まるで寒空の若木のように危なっかしい」
「ん? そ、そうか。すまない?」
エルフ特有の表現なんだろうか? いまいち頷けないけど理解したフリしとく。種族間での感性の違いで起こる小さな諍いが戦争に通じるんだ。
「お前だけならまだしもその付き添いでタルタリスが倒れるのは納得いかない。私も着いて行くぞ」
驚愕ってよりも何故って感情の方が強かった。
「……まだ奴が一緒に行くって決まっても無いんだけど?」
「──決まってるさ! アタイが行かないとこのおチビちゃんが泣くだろ?」
いつの間に後ろに近寄っていたタルタリスの大声が響く。俺をスッポリと覆い隠す程の巨体で包まれて乱暴にデッカい手で頭を撫でられる。思わぬ双丘マクラに鼻の下を多分伸ばしているだろう俺。それを何とも苦虫を噛み潰したかのような表情で一瞥した後に、陽気なタルタリスの笑みにつられてクスッとエド=ナは笑った。
翌日、何処に行くにしてもさっさとグリーンスキンの軍勢が来るまでにさっさと出発しようとした時だった。立派な軍馬に乗った将軍と付き人が何人か門の前で話し合っていた。もう大分危険な時間帯にも関わらずまだお偉いさんがこんな場所にいるのが理解出来ずタルタリスと見合って首を傾げる。
「なんだろう?」
「お褒めの言葉をくれるって雰囲気じゃ無さそうだが」
しかしタルタリスとの予想に反して俺たちの存在に気づくと将軍は笑顔で歓迎の意を表明。傷跡が引き攣って随分圧力があるが多分笑顔だ。スケイブンの本隊を相手に無双していた姿が脳裏に浮かぶ。
「やぁ諸君。君たちの活躍には感謝しているぞ」
「勿体なきお言葉です将軍」
「……知っての通り我々には時間が無い。だから単刀直入に聞こう。あの《魔剣》が欲しいか?」
あの《魔剣》。いわずともスケイブンの持ってた金砕棒のことだろう。きっともうあの《魔剣》使いは情報を吐かされて処分されてしまっただろうから、残った《魔剣》が欲しいかと聞かれたらそれは当然欲しい。腕に自信がある者でもそうで無い者も欲しくない戦士なんていないだろう。特にあの《魔剣》の特殊能力の価値はそこらの《魔剣》を凌ぐ。
頷こうとすると訳知り顔で将軍はもう言うなと手で制する。
「因みに君たちはグリーンスキンとの野戦に協力してくれる意思はあるのかね?」
「それは……」
「──いや責めている訳では無いんだ。兵士では無い以上君たち傭兵には断る権利がある。しかし我々としてもそう簡単にこの《魔剣》を渡せない。理由は分かるな?」
「……要するに我々に何らかの交換条件で《魔剣》を譲ってくださるという事ですか?」
ずいっと前に出てきたエド=ナが口を開く。流石に失礼じゃないかと肩を叩いて止める。前々から薄っすら思ってたけど彼女結構挑発的な態度をとる。将軍様のお付きの兵士も前に出かけたけどそれより先に将軍の方が兵士たちを視線で止めた。
「察しがいいな。その通りだ。依頼を引き受けてくれるなら前払いで《魔剣》を渡そう」
「……内容をお伺いしてもよろしいですか?」
今度はエド=ナが何か言う前に先に返した。
「護衛依頼だ。南方のカラク=ノースまで使者の護衛をして貰いたい。準備金と馬と食糧はこちらで用意しよう」
カラク……ドワーフ達の使う言葉で砦を意味する。この時期にドワーフへ使者を送るとするならばそれは援軍要請に違いない。普通ならこんな重要な任務一介の傭兵に依頼する事では無いように思うのだが……。グリーンスキンの軍勢を避ける為に少数精鋭で挑むにしても信用のおける兵士に任せるだろう。
来たるグリーンスキン戦に備えてよっぽど兵士を割きたく無いのか? 或いは使者を送ったとしてもドワーフの救援が来る可能性が低そうだからか?
「将軍様よぉ。傭兵のアタイ等が言うのも何だが、それは分不相応ってもんだ」
「仲介して貰う彼の……たってのご希望でな」
「彼?」
将軍の背後から現れたのは大斧を担いだ例のモヒカンドワーフ。隣にはブレトニア騎士の少女もいる。
「戦場で共に戦った者しか信用出来ん。貴様等は……ダーウィ程では無いがまぁそこそこやるようだしな」
「共に戦えるなら光栄だ」
なんかぽんぽん話が進んで来てしまった。まぁでもそう悪い話でも無いか。《魔剣》も手に入る。無命の形代を手に入れるにしても、コーンに呪いを解いて貰うにしても危険な旅路になりそうだ。ドワーフの作る防具や武器も買いたい。ドワーフの中で一番腕の劣る職人でも人間の中で最高の職人の名作を超える作品を作ると聞く。人間種族の中で流通なんてしてないし、こんな機会でも無いとドワーフ製の装備なんて揃わない。
今の革防具は性能は悪く無いけどベストとは言えない。この機に酷使されがちなファールカップも新調したいもんだ。
暫く話し合った結果こちらとしても悪くないなとその交換条件を受け入れる事に。エド=ナがもう少し条件を上げて貰おうと渋ってタルタリスが諌めるなんて一幕もあったけどなんとか契約は成立だ。
「それでは此方の使者を直ぐに用意させよう」
慌ただしく急ぐ兵士達。通常なら使者は立派に飾りたてた馬車に乗せて行くもんだが、今回は緊急事態だ。下手に目立ったりしてはグリーンスキンの軍勢に見つかる恐れがある。最低限の装飾に留めて、旅の荷物はまとめて大きな軍馬に乗せる予定だったのだが──
「ん? アタシの馬はどうするんだ?」
「……そ、それもそうか」
「色々と規格外だからなタルタリスは」
なにせタルタリスという女。2mほどで何もかにもデカい。鍛え上げられた筋肉もあって日本の女性の平均体重の倍以上は確実にある。普通の軍馬ならそれでも平気なんだけど、愛用の金砕棒の重量も合わせると流石に移動速度は落ちてしまい、疲れやすくなってしまう。
となると当然大きな軍馬は荷物を運ばせるのではなくタルタリスの乗る馬になる。なんとか交渉してもう一頭の軍馬を用意して貰うのにエド=ナの交渉力が役に立った。順序立てて正論と、時には女の弱みを織り交ぜてアピールする交渉は舌を巻くものだった。
本人曰く『混ざり者が傭兵で食っていくのにこれぐらい出来ないでどうする?』とのこと。脳筋に見えるタルタリスも単純だけど意外と
そんなこんなで準備を整えてるとやって来たのが使者。革防具に所々金属製のパーツで補強した感じの装備だ。実用性と儀礼用の両方を兼ね備えたいかにも高級感漂う感じ。そしてそんな防具を違和感なく着こなしているのが、
「よっ、護衛頼んだわ」
俺の《魔槍》を託した、北方人っぽい顔立ちの鷲鼻兵士、ウルフリックであった。