呪いで武器を扱う事しか性欲発散できない俺が人型の魔剣でようやく卒業するやつ   作:ギンギン丸

11 / 11
2人は裸で一緒の毛皮布団に潜り込む

 ワールドエッジ山脈の環境は過酷だ。大陸を両断するかのように横たわっているこの険しい山嶺は文明を寄せ付けない自然の脅威を我々にまざまざと見せつけている。時期や場所にもよるそうだがシュタインガルドから南部にまっすぐ進んでぶつかったここら辺。特に麓から少し登った2合目あたりは地面に薄らと緑が茂っているだけの空白地帯らしい。春先になるとベリーがなるらしいけど、その時期以外は特に動植物が豊かという訳でも無く食糧調達も難しい。

 

 風はちょっと肌寒いけど天気も良いので心地よいぐいらいだ。あまり表情は読みづらいドワーフも心なしか歩き方も弾んでいるように見える。

 

「鹿を追い込んで狩りをするにはちょうどいい場所だ」

「でもこれだけ茂みが無いと隠れ辛く無いか?」

 

 確かにだだっ広いから鹿は見つけやすそうだけど此方も向こうから発見されやすくなってしまう。警戒心の強い野生動物に真正面から気付かれた状況で弓を射ってもまともに当たらないだろう。そんな純粋な質問が気に食わなかったらしくモヒカンドワーフは鼻で笑った。

 

「これぐらいの距離で弾を外すダーウィはそうおらん。……それにこれより上に行くとモンスターとの遭遇率も上がる。鹿を狩るのなら此処が一番だ」

「へぇ〜」

「ワールドエッジ山脈のモンスターは険しい自然に適応してより強く育つ傾向にあると聞きます」

「そいつは楽しみだ。早く新しい《魔剣》を試したいぜ」

 

 ブンブンと軽快に振り回す《魔剣》。常人では持ち上げることさえ難しそうな金砕棒を馬上で風を斬る速度でタルタリスが操っている。そう、結局スケイブンの《魔剣》はタルタリスのものとなった。

 

 俺が扱うには重いし、デカい。色々な《魔剣》を使いたい俺としては一本持つだけで精一杯の金砕棒は相性悪いんだよな。それなら十全に扱えるタルタリスが扱った方が良い。本人としては自分が勝負で勝ち取る筈だった《魔剣》を譲られる形になってイマイチ納得いかない様子だったが、俺は勿論エド=ナの細腕で扱える訳も無く死蔵するぐらいならと使ってくれる事になった。

 

「おいおい。モンスターを避ける事を第一に考えてくれ」

 

 そして使者として遣わされたウルフリック。そもそも兵士とて戦っていて北方の血が流れているだろう彼が何故使者という重要な役目を背負っているのか。謎には思っていたけど聞き辛かった。

 

「聞いて良いかどうか分かんねぇけどよぉ……お前さん何者だ? どういう身分かによってはアタシ達も態度を改めるから教えてくれねぇか。口外はしないからさ」

 

 そこをズバッと聞くタルタリス。正直そこまで直球で聞くとはついぞ思わず俺もエド=ナも反応が追いつかなかったのが真実だった。緊迫の空気が流れるかと思いきや、意外と気楽な態度で彼は答えてくれた。

 

「俺は将軍の不義の子だよ」

「オフッ……そ、そうかぁ」

「同情するのはやめてくれよ。そういうのってほら……互いに面倒じゃないか?」

 

 予想以上に重い理由で思わず言葉も詰まる。ウルフリックもこの手の対応に慣れているのか本心は知らないけど、少なくとも表面上は気にしてないと困り顔で頭を掻いていた。兵士として戦闘には参加しているが使者としての最低限の礼儀は叩き込まれているらしく厄介払いも兼ねての今回の使者としての務めなんだろうとの事。余計気まずいよぉ……。

 

「な〜ら納得だ」

「であればウルフリック様と呼んだ方が宜しいか?」

「少なくともカラクに着いた時にそれなりの態度をとってくれればなんと呼んで貰っても構わんよ。移動中は気楽に接してくれたほうが俺も気が楽だ」

「ならウルフリックで」

 

 そういう訳なら自分としても少し気分が和らぐ。それにしても女性陣2人の肝の座りっぷりには驚かされる。いくら不義の子といえど傭兵程度に比べれば天と地ほどの身分差がある。いくら本人が気楽に接してくれと言ってもそんな直ぐに呼び捨て出来るか普通? まぁそういう図太さは傭兵としての防衛手段の一つでもあるか……。

 

 周囲を警戒しながら皮袋に詰まった酒で喉を潤す。シュタインガルドからワールドエッジ山脈までグリーンスキンに見つからないよう東部の森林に沿って急いで馬を走らせて来たので少し疲れた。火を使ったらその煙で見つかる恐れもあったし食事は干し肉と乾燥アプリコットを齧った程度。

 

 要は腹が減った。鹿狩りの話をさっきしてたせいで肉がとにかく食いたい。表面がパリッパリッで黄金色の脂が浮き出たジューシーな奴が欲しい。山から吹き下ろす風に乗って万が一でも匂いがグリーンスキンに届くか分からないからここはグッと我慢だ。ともあれ飯のことを考えていたら無性に腹が減って来た。

 

「早めだけどそろそろ野営にしないか? 馬も疲れてるみたいだし、明日は更に厳しい道中になるんだろ」

「……それもそうだな。お前は野営の準備をしろ。タルタリスは荷下ろしを、ドワーフと騎士様はウルフリックの護衛を交代で休憩しながら頼む」

「わ、私の事はリ、リヨンと呼んでくれ?」

「リリヨン?」

「リ ヨ ンだ」

「そ、そっか……よろしくリヨンさん」

 

 思った以上に可愛らしい名前だ。それでいてどことなく聞き覚えのある響き、なんか昔どっかで聞いたことがあるような……まっいいか。脳内で騎士さんと呼んでいたのでそういえばまともに名前も聞いていなかったことに驚いた。

 

 スケイブン襲撃やらグリーンスキンやらでごたごたしてたもんな。名前を知らないと言えばもう1人いた。

 

「ドワーフさんはなんて名前なんだ?」

「儂は只のスレイヤーだ。呼ぶなら好きに呼べ」

 

 スレイヤー。何度も出てきた単語だ。そしてスレイヤーさんがその事を喋る度に微妙に気まずい空気が流れるのが分かる。居た堪れなくなって野営地の確保にとっとと向かう。

 

 野営地に選んだのは木々の密集地から少し離れた大岩の影。森の中から化け物がやってくるにしても戦闘準備が出来るぐらいの距離は置いておきたい。傾斜があって少し落ち着かないけどそれぐらいしか候補地が無かった。

 

 手を振ってタルタリスに合図すると肩に巨大な背嚢を三つも乗せてやって来た。まず冷たい地面から体温を奪われないように円状になめした毛皮を広げる。ここで中央を空けておくのがポイントだ。そしてその空けた場所を適度に掘る。空いた穴に適当に森に落ちていた大きめな木材を柱として立てる。

 

 その柱の頭に細い鉄の棒が鎖で繋がれたものを傘の骨のように円錐状に巻き付ける。今作っているのは要はテントの屋根にあたる部分だな。

 

 ここまで大きなテントを作ることなんて普段無いけど、やってる内容としては普段やってる延長線上に過ぎない。タルタリスと一緒にパキパキと作業しながら気になっていたスレイヤーのことについて聞いてみた。

 

「ああ。まだ説明してなかったか。……要はスレイヤーはドワーフの中でも特に自責心が強い集団なんだよ」

「自責心……?」

「ドワーフってのはかなり誇り高い生き物だ。そして過去の恨みや恩ってのは絶対に忘れない」

「流石にそれぐらいは知ってるさ」

「いいから聞けよ。……そんなドワーフだからこそ自らの失態や富、家族、親友の喪失ってのは人間以上に効くんだ。全てを投げ出して、誇りある死に場所を探し求め自暴自棄になってしまう奴らがいるのも不思議じゃないだろ?」

「なるほど……それが」

 

 スレイヤー。そうなってしまった経緯を想像すればなるほど確かに明るい空気にはなりそうに無いな。

 

「どっかの誰かみたいにただの戦闘狂じゃ無いんだぞ。同志だと思って気安く話しかけないほうがいい。あたしからの忠告だ」

「いや俺は別に戦闘狂ってわけじゃ……」

「相変わらずジョークのセンスは最低だな、ヨロズ」

 

 そこまで言うこと無くない?

 

 テントの骨組みにあとは上からまた毛皮を何枚もかけて野営の支度は完成。まだ少々肌寒い程度だからここまでの防寒の必要性は正直無い。けどもっと上の高度に行けばこれからどんどん寒くなる。そのための予行練習として今のうちにこのタイプの設営をしておこうという考えだ。寒いと設営までの時間をかけちゃうと無駄に体力消耗するし慣れておきたい。

 

 夜の食事は軽く炙ったパンと干し肉とビール。干し肉も脂を火に落とすと煙に匂いが乗ってしまうので軽く表面をあっためる程度だ。スレイヤーが言うにはもう少し高度を稼げれば流石にグリーンスキンまでは届かないだろうとのこと。暫くは我慢だ。

 

『あぁ……誰でもいいから斬って……お願い』

『どうせアタシの事なんてどうでもいいならあのイケメンに渡してくんない?』

「順番に磨いてやるから……」

 

 だいぶ『魔剣』も我慢の限界が近い。スケイブン戦の時に全然活躍出来なかったのが響いている。テントから離れて刃を砥石で研ぐ。蒼く光る刃も薄紫色に光る穂先も僅かに嬉しそうに輝いている気がする。

 

『虚しい……血で濡れたい』

 

 不意に森の奥の暗闇が僅かに揺れる。砥石を捨てて『魔剣』を森に向けて身構えた。目が闇に慣れてくると闇の中に一対の眼光がこちらを睨みつけて来ているのが分かった。……大きい。鹿じゃない。

 

 こっちが気づいている事に向こうも気付く。暫く木々に隠れながらこちらを見ていたが、やがて視線は消えて森に静寂が戻った。

 

 スケイブン? グリーンスキン? あるいはまだ見ぬワールドエッジ山脈の怪物か?

 

 なんにしろ安全な旅にはなりそうにないなとため息をついた。報告の為にテントに向かいながら、

 

『追いかけてでも……狩るべき』

『何? ビビってるのw?』

 

 血に飢えて煽り続ける『魔剣』達を宥めた。帰って早速変な生き物が近くの森にうろついていると伝えると反応はそれぞれ。タルタリスとウルフリックは不寝番を増やして警戒すべきという意見。リヨンとエド=ナはこんな初日で無駄に体力を消耗すべきでないと注意しつつも予定通り派。俺はどっちの意見にも納得できると中立派。

 

 最後の一票この中で一番ワールドエッジ山脈に詳しいだろうスレイヤーさんは、

 

「こちらを見て襲わないという事はスケイブンかモンスターのどちらかだな。グリーンスキンどもはゴブリン以外碌な脳味噌はしておらん。対処法はそれぞれ違うがどちらにしろ夜目の効かないオヌシ達では森に入る事もできまい……。今日は儂が警戒しよう」

 

と断言した。身長としては大きくないがガタイはすごく良いので頼れる。

 

「俺も一緒に警戒するよ。見たのは俺だし、同じ奴が来たら分かると思う」

「小僧が見つけたからお前は当然だ」

「そうか、なら任したぞヨロズ。我々はさっさと寝よう」

「一緒に毛皮に包まれるかエド=ナ? 夜は冷えるって聞いたぞ」

「ならば邪魔するか。騎士ど……リヨン殿も一緒に入るか?」

「──いえっ! 私はどうぞお構いなく!」

 

 女3人集まれば姦しいとは言うがまさにその通り。残ったウルフリックが救いを求めるような視線を求めてきたがあまりこの甘ったるい空間にいたら俺も下の息子が大変になりそうなんだ。本当なら羨ましいぞ、おい!

 

 後ろ髪ひかれながらテントの外に出る。流石に少し冷えるので防具の上に外套も羽織る。幸いな事に今日は月明かりもある。ワールドエッジ山脈の空気が澄んでいるせいか特に明るく感じた。

 

 俺と少し距離をおいて適当な大きさの石を椅子代わりにスレイヤーが腰を落とす。真似して適当な石を積み重ねた上に毛皮を敷いて、背後のテントの隙間から漏れる光を背中に受けながら森の闇を眺めた。

 

 最初のうちは闇を見通せなかったが、流石に1時間もすると闇の奥に木々の輪郭が見えて来る。同じやつが現れたら気づけるだろう。

 

「そいつはどのぐらいの大きさだった?」

「距離が離れてたから詳しくは分かんないけど馬ぐらいはあったと思う」

「そうか……」

「……」

「……」

「……ワールドエッジ山脈ってどのぐらい大きいモンスターがいんの?」

「……色々だ。小山程の奴もおれば、子犬ほど小さくとも十分危険な奴もおる」

「それでよくドワーフの人たちは住めるもんなんだな」

「当たり前だ。ダーウィは精鋭揃いだ。ガラクの守りも固く安全で、簡単に落とされる事は無い」

「へぇ〜楽しみだな。この機に防具をドワーフ製の防具にしたいもんだ」

「金はあるのか? 当然のことながらダーウィの防具はその性能に見合った額が必要だ」

 

 傭兵契約の報酬や今回の事前準備金でそこそこ懐は暖かい。しかしこのぐらいなら出せるとスレイヤーに言ってみたら怪訝な表情をされる始末。

 

「そのぐらいだと精々脛当て程度しか買えんぞ」

「──ええっ!? 有名防具店でもフルアーマーが3着は揃えられるぞ!」

「ふんっ。所詮人間の作った防具と一緒にするでない」

「マジかぁ……」

 

 流石にちょっと想定外だ。ここからガラクまで稼ぐ方法……モンスターの素材や鉱石か何か集めないと厳しいか。そんなついでで十分な金額を稼げるとはちょっと考えづらい。……さて、どうしようか?

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。