呪いで武器を扱う事しか性欲発散できない俺が人型の魔剣でようやく卒業するやつ 作:ギンギン丸
夜も更けた。天上にはガスがかかった月の光が頼りなく俺たち先遣隊の足元を照らしている。穴掘りが得意で普段から暗い場所に慣れているスケイブンと違って俺たち人間は夜目が効かない。不安定な足元、慣れない夜行軍に舌打ちが出てしまう。
おまけに一匹一匹は非力だけどその分狡賢さは時に人間以上のものを見せる。木々や地中に潜んでの待ち伏せは奴らの十八番。軍勢を率いての不意打ちは大きな被害を受けかねないのでその為に俺たちのような先遣隊はスケイブンとの戦闘において不可欠だ。
弓や銃、飛び道具持ちに噂の魔術師であるエド=ナを隊の中心において慎重に進む。遠距離持ちがいるかいないかで生存率は大きく変わってくる。後ろから撃たれるのは勘弁だけど、いざ戦闘になったら誤射なんてよくある。俺も2回ぐらい背中に撃たれたことあるし、他の前衛傭兵も背中に矢を撃たれて生きて帰ったら傭兵として認められるなんてジンクスがあるぐらいだ。
『痛いってどんな感覚かしら?』
『熱い……チクチクする感じかも』
『ふ〜ん、よく分かんないわね』
《魔槍》と《魔剣》が雑談をしている。正直戦闘なら全然ヤる気満々だけどこうした神経だけを擦り減らす悪環境の行軍は気が病む。無機物でもこうした姦しい会話には若干癒されるのも事実。
周囲の警戒や行軍ルートを決める斥候が帰ってくるのを待つせいで5km進むのに3時間近くかかってしまった。ゴロゴロと転がった赤茶けた岩に鬱蒼と腰のあたりまで繁った草木。こっから先はいつスケイブンが現れても不思議じゃない。
既に鼻は奴らの体臭が混じった空気を捕らえている。前を行くタルタリスもデカいケツを揺らしながら戦いの気配を感じ取っているようだ。目立たないように腰を屈めながら進んでフリフリするさまは誘ってんのか!?と怒鳴り散らしたくなるくらい魅力的で、視線を逸らそうと努力し続けるのは辛い。
──早く
幸せな光景なのは確かだけどマイサンは反応しない。その矛盾に心のマイサンが発散を求めて叫んでいるんだ。女性の絵師とか作家さんでこの人絶対心にピーッが生えてるだろって思ったことあるけど、多分今その人と心の深いところで繋がった気がする。
イライラしながら進むこと四半刻。4人が横並びに通るのが精一杯の岩棚に挟まれた閉所を行軍していた時だった。ザクッザクッと軍靴の鳴らす音が聴こえてきて直ぐに、正面から地面が捲り上がって二足歩行の鼠スケイブンの群れが出現した。見た感じ50〜100は最低でもいるな。
「て、敵襲ーーッ!! 敵襲!!」
声は上げても警戒の笛は鳴らされなかった。あまり高く遠くに響いてしまえば敵の本隊が現れるかもしれない。あくまで俺たちは先遣隊。目立つのは目的じゃない。
「後ろからも出たぞーー!! 遠距離隊を死んでも守れッ!!」
挟まれてしまったか……。向こうもおそらく同数ぐらいはいるだろう。遠距離隊もそう人数がいるわけじゃない。中途半端にどちらも撃つぐらいなら片方に全力で投射して包囲網を抜けた方が良いな。このままじゃジリ貧だ。どうやら相手の指揮官の罠にハマったらしい。
進行方向にいる俺やタルタリスの部隊の部隊長も同じような事を考えたらしい。
「後方の敵部隊に一斉投射を仕掛けろ! 此方は凌いで守りきれッ!!!!」
「応!!!」
先ほどまでの援護射撃が無い分スケイブンのやっこさんたちも勢いづいている。最前線の盾を構えた傭兵の後ろから他の槍兵を倣って《魔槍》を突き出して槍衾の構えだ。盾を構えた傭兵を後ろから支えるようにしてスケイブンの
しかし、想像と違ってやって来た衝撃は真上からだった。肩当てに塞がれたけど地面にはへし折れた矢が転がっている。頭上には雨になって降り注ぐスケイブンの矢。
「弓兵もいるぞ! 盾、掲げよ!!!」
奴らの弓兵は精度も飛距離も大したことないけど、先端にはスケイブンの糞尿が塗られている事が多い。元々不潔な奴らのそれは他種族にとって厄介な毒だ。
「
デカいタルタリスの肩にも何本か刺さっている。混ざりものの彼女は数本刺さったところで屁でも無いだろうが、このままの状況が続くと厄介だ。早いところ後ろの敵部隊を殲滅して欲しいところ。金属同士がぶつかる音に雄叫び、悲鳴、指示、それらが合わさって戦況を掴むのが難しい。
こうしている間にも隣の傭兵が倒れている。このままじゃ本当にヤバいかもしれんな──
「タルタリス! 俺が戦端を切り開いたら続いてくれるか?」
「ん──アンタやる気かい? ……安心しな後ろは任せなよ!」
ニカっと憂鬱な戦場にはふさわしくない笑顔。細かく聞き返す事もしない。だからコイツは信用出来るんだ。……抱きたくても抱けないのが残念で仕方ないよ本当。
普通なら味方の弓矢に撃たれることを考慮しなきゃいけないから簡単に前へ出れないが、今回ばかりはそんな心配はない。
倒れた傭兵のおかげで空いたスペースで十分に速度を稼いで《魔槍》の石突を地面に打ちつけて棒高跳びの要領で盾を構えた傭兵の壁を飛び越える。
『アタシを踏み台にッ!?』
そのまま着地して直ぐに驚いた顔したスケイブンの槍兵に目掛けて《魔槍》を思いっきり投げる。
『嘘でしょ!?』
ドップラー効果で甲高い声が低くなっていくのを感じながら、腰の《魔剣》を抜く。《魔槍》が先頭のスケイブンの腹部に貫通して二、三匹も巻き添えになっているのを確認しながら雄叫びを上げて特攻だ! こういう時は勢いが大事。
「貴様らが今晩のオカズじゃーーーーッ!!!!!!」
一番先にビビった奴をターゲットしながら突っ込む。突き出された槍の穂先を上体だけ捻らせて躱しながら裏拳ならぬ裏剣気味に振り抜く。斬った感触はほとんど無い。《魔剣》の斬れ味は使っている自分が一番ゾッとする程に鋭い。
脇腹から肩の上に抜けた青い軌跡は、そのまま次の獲物を求めて舞う。
人間4人が通れるほどの閉所がそのままスケイブンが戦える限界の数だ。小柄な奴ならせいぜい6、7人ってところ。だからといって全員で1人の俺を同時に狙えるわけじゃないし……同時に3人が限界か。戦術も何もあったもんじゃないスケイブン相手ならそこまで苦じゃない。
周囲の雑踏が、血が、汗が、撒き散らされる糞尿すら拍手の喝采のように聞こえる。甘い喘ぎ声のようなものが自身の口から漏れるのが分かった。
男が出すにはあまりにも甘ったるく、蠱惑的な声。自分でも気持ち悪いってわかってはいるけど止められない。いや、これは《魔剣》の声だ。きっとそうだ。
『アンッ……』
俺はただ気持ち悦くなる方向に《魔剣》を振るう。こうした方がきっともっと気持ちイイッ。俺の体はその間、気持ち悦くなる為のラジコンに過ぎない。否、演出装置の一つと言ったほうが正しいかも。
青い残光の中で踊る。時に激しく、時に速度を緩めて。袈裟斬りに、真っ二つに、あえて腹部を半分だけ切り裂いて
不意にこちらに向けられる弓兵隊の一斉射撃。リムが弧を描き、しっかりと引き絞られた鉉が矢の発射と同時に弛むのが分かる。脳内麻薬でゆっくりと矢が殺意を持って身体に向かってくるように見える。このままだと流石に死ぬと脳内のまだ冷静な部分が警告をした。
足元の最初に投げた《魔槍》をつま先で弾いてもう片方の手で握る。こちらは《魔剣》と違って装飾は豪華だ。柄は金の蔓模様が施され、穂先は十文字槍のように。刀身は微かに紫色、しかし美術品に収まるだけの美しさで収まるレベルなら《魔槍》なんて呼ばれない。
矢の射線上に穂先を振るうと見えないナニかに逸らされたように矢の進行方向が変わる。不思議そうにもう一度撃ってみたところで待っているのは同じ結果だ。
これこそこの《魔槍》の特殊能力。払った空間に沿うようにして投射物を逸らす《
『──あんま調子乗るなよお前』
さんざんな扱いを受けたせいで《魔槍》もご立腹なようだ。いつもの高貴そうな喋り方からガチギレしている。ごめんごめんと柄を軽く撫でてやったけどしばらく機嫌は治りそうもない。
そうしていると精々1m半ほどのスケイブンの中で一際屈強なスケイブンが後方で三匹地面から現れた。1.7mほどか、爪も鋭く、理性的な顔立ちで武具も立派。スケイブンのなかでもかなりの武闘派のように見える。
その三匹は、
『貴様ッSHi──』
更に後ろからやってきたタルタリスの金砕棒で纏めて横に振り抜かれて岸壁とキスした。物言わぬ肉塊と化したソレらをつまらなさそうに眺める彼女。相変わらずの馬鹿力だ。
「もっと強い奴はいないのか?」
「いや、多分今倒したスケイブンが一番強そうだったよ」
だいぶ暴れたし前方の突破口は開けた。どうやら後方のスケイブンも処理出来たらしく、次々と先遣隊の増援がやって来る。現状の危機を理解して撤退し始めたスケイブン。
絶対逃さんとばかりに俺らが追いかけようとしたところ、突如風が渦巻いて俺たちとスケイブンを分断させるように粉塵を飛ばす。片手で砂が入らないように翳しながら追いかけようとしたけどいかんせん視界が最悪だ。地面をしっかり踏ん張って進めば追いかけるのは難しくなさそうな程の風圧。
そういや兵士の人が言っていたな。《魔剣》持ちのスケイブンの仕業か? 周囲を確認してみても良く見えない。タルタリスも見回しているがこんなに視界が悪くちゃ無理か。
その前に口の隙間に砂が入り込んできた。最悪だペッペッ。
「追撃中止!!! 無事な者は怪我人を担いで安全地帯に引き返すぞ!!」
指示があったなら惜しいがしょうがない。ここで傭兵してたらまたいずれ会えるだろうよ。
両肩に動けない怪我人を乗っけて撤退。ちなみにタルタリスの方は両肩に2人と両手に1人ずつの計6人を担いでいた。意識は無いみたいだけどちょうど胸部の辺りに頭部が来ている怪我人へ羨ましい気持ちが湧いてくる。
「いやぁ惜しかったなぁ。最後のあれ多分《魔剣》持ちだろ?」
「2本も持ってまだアンタ欲しがってんのかい。アタシに譲りな」
「だって
『……また浮気』
『別にアタシは大事に使ってさえくれれば誰でも良いわよ。スケイブンに使われるよりはギリギリ今の主人がマシってレベル』
すまないが無機物は黙ってて貰えないか? お前らが美少女なら掌幾らでも回転するけど流石に武器に直接興奮するレベルでは無いんだ。……大丈夫だよな? ……俺?
「早い者勝ちだよ」
「良いよ」
「まぁ、手に入れてあまりにもスケイブン臭かったら譲ってやるさ」
「その台詞そのままお返しだ」
駄弁りながら撤退していると投射部隊に任せた方のスケイブンの死体が端に積まれているのが目に入った。矢傷や銃創も多いけど焼かれて真っ黒コゲになった死体もかなりいた。割合からすると3割ぐらい。あの魔術師によるものか……。
「……単体魔法の割にかなりの数燃やしてるな」
「連発数が多いんだろうね。にしてもかなりの数だけど……やっぱりなかなかやるもんだろう?」
そう舌舐めずりする姿は妙に色っぽい。コイツって両方イケるタイプなんだっけ? 男相手だとどうしてもデキちゃう可能性があるから、女傭兵は同性で発散するのが合理的で多いと聞く。
まぁ男同士もそういう事多いんだが……俺も何度か掘られそうになったことある。
因みにその後野営地でしっかり単身突撃を怒られました。正規軍の兵士だったら鞭打ちのうえ営倉入りだったけど、傭兵で一応活躍したって事もありなんとかそれだけで済んだ。やっぱり俺は傭兵暮らしのほうが肌に合ってるな。