呪いで武器を扱う事しか性欲発散できない俺が人型の魔剣でようやく卒業するやつ   作:ギンギン丸

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イラ勃ち

 とあるスケイブンは地下の巣穴の一つで燻っていた。戦いを終えた後の黒き飢えに襲われて、肉を貪るも足りず追加の給餌に来たスレイヴごと腹に収めた。

 

 新陳代謝の高いスケイブンでも満足できるほどの量が収まったにも関わらず、変わらず襲い続ける飢え。肉体由来では無く精神由来の飢え。

 

(雌が……雌が欲しイ)

 

 スケイブンの種族にも当然のように雌がいる。他種族で知っている者は多く無いが、繁殖穴の中の一番奥に繁殖だけを目的とした巨大な知能の殆ど無い少数の雌が淡々と仔を産み続けている。それがスケイブンの生殖。

 

 しかしこのスケイブンは邪悪な性質のスケイブンには珍しく、自由意志のある自分だけの雌が欲しかった。今はまだパックリーダー(部隊長)の座に甘んじているがいずれチーフテン(戦士隊長)へ、そして氏族の頂点であるウォーロードへと成り上がって自らの欲望を成就させてみせる。

 

 ウォーロードへ至った暁には偉大なる神(グレートホーンドラット)は彼に混沌の神の1柱よりアーティファクトを賜わるだろうと託宣をした。意志ある武器を装備させる事で人形(ひとがた)に受肉する<無命(むみょう)形代(かたしろ)>。

 

 今は愛用の武器でしかない金砕棒もいずれ自分専用の雌になると考えればその扱いもスケイブンなりに丁寧だ。巣穴の奥から自身を呼ぶ声に次の襲撃を予期する。

 

 今は戦うだけだ。自身の野望を実現する為に人間の都市への襲撃予定は刻一刻と近づいている。松明の明かりを反射して彼の瞳は紅く輝いていた。

 

 

 

 

 とりあえず先遣隊の第一陣としての任務を済ませて俺は酒場で飲んでくれていた。だいぶ性欲は発散出来たけど、ここ最近はスケイブンの相手ばかりで技術も拙く同じオカズに飽きてしまっているのも事実。こういう時はアルコールで無理やり気分でも高揚させようと豆のツマミを肴に外で駆ける子供の騒ぎ声を聞く。どうやらこんな前線でも子供がいるらしい。

 

 暫く何かに騒いでいるようだったが、突然驚き泣き出すような声が聞こえてきた。巡回する兵士も多いし、大した事じゃないだろうとそのまま放っておいたら案の定直ぐに泣き声は止み、機嫌良さそうに走っていく姿が扉の隙間から見える。

 

 再び豆をポリポリやっていると扉が開いて誰かがやって来た。一番に目に入って来たのは朱。朱色の髪をモヒカンにして低身長だが子供では無い。立派な髭をたくわえてその身に詰まった筋肉は人間を越える。上裸にベルトとズボン、大きな斧を背に担いだその人物は『ドワーフ』。

 

 彼らは人間に比べると遥かに少ないがその鉱夫や鍛治技術としての技は全種族の中でも間違いなく一番だ。おまけにお手製の防具を身に付けた肉弾戦も強く、砲兵や火炎放射器を生み出す技術力にも長けている。

 

 傭兵としてドワーフと何度か共に戦った事はあるが頼もしい存在だったと記憶している。味方にすると頼もしいが敵に回すと厄介な相手だ。……いや、やっぱ戦うと楽しそう(気持ち良さそう)な相手だな。

 

 その後に続けて入って来たのは人間。赤地に金の獅子の紋章の入った全身鎧。黒髪のおかっぱ頭の少女といった風貌だ。少女にしては妙に落ち着いているように見える。

 

 優秀な騎士を輩出することで有名な騎士国家ブレトニアの騎士見習い? にしてもどうしてドワーフと一緒にこんな場所にいるんだ? 騎士の小姓にしても不釣り合いなほど立派な鎧を着ているし、貴族の子弟にしては人間の連れもいない。2人の素性と関係性が読めない。

 

「石……パンとビールをくれ」

「私には食事と水を」

 

 ドワーフは無愛想に運ばれて来たビールを一口飲んで一瞬にが虫でも噛み潰したかのような顔を浮かべて水のようにがぶ飲みしていた。ドワーフはエール造りも優秀と聞く。なんでもそのエールを飲めば三日三晩戦えるとも。人間の造るエールの味はさぞ味気ないものだったのだろう。一度俺もそのエールを飲んでみたいものだ。

 

 一方、少女の方は表情を緩めることもなく黙々と口に運んでいる。この組み合わせには店主も顎髭を弄りながら不思議そうにしていた。

 

 そうしていると入り口から更なる来客。こちらは幸い顔見知りだった。見上げる巨体に金髪のイカつい美女タルタリスと薄紫色のローブを纏った魔術師エド=ナの二人組だ。

 

 酒場で飲んでる俺を見て手をあげる1人に、露骨に嫌そうな顔で帰ろうとする1人。どっちがどっちなんて今更説明する必要ないよな?

 

 エド=ナは引っ張られるように無理やり俺の座ってるテーブルに座らせられた。タルタリスは飯と酒を店主に注文しているようだ。配膳を待つ時間も(じれ)ったいようで直ぐに厨房からパンと肉の乗った皿を抱えてテーブルの上を占有する。

 

 隠す気も無くジロジロと(くだん)の二人組を眺めながら大口を開けて食べながら喋る。きっと普段から自分が目立っているので他人にそのような視線を向ける事に特に違和感を抱いてないのだろう。

 

「遍歴騎士とドワーフ……しかもスレイヤーか。昔物語で聞いたことのあるような話だな」

「あまり見るのはよしたほうが良い」

 

 忠告だけしてエド=ナは俺の存在を無いものとしたらしく、モソモソとパンを一口大にちぎりながら口へ運ぶ。遍歴騎士ってのは何となく分かるがスレイヤーってのは聞いた事が無い。

 

「あぁ……そうだな」

「……話戻して悪いんだけどスレイヤーって何だ?」

「……それは今話すべきじゃない」

 

 あからさまにタルタリスが言葉を濁すのでどうやら聞いてはいけなかったようだ。エド=ナの視線が棘となって肌に刺さるように痛い。空気を悪くしてしまった責任として別の話題を提供する。

 

「そういや隊長さんは次の出撃について何か言ってたか?」

「いや特にまだ無いみたいだ。エド=ナは何か聞いたか? 確か前回の活躍から正規兵としてスカウトされたんだろ。もっと詳しい内部情報とか貰ってないのか?」

「いや、断ったから私も内情について知らないわよ」

「そっかぁ……」

 

 正規兵としてスカウトされるってことはよっぽどだ。それだけ在野の優秀な魔術師ってのは珍しい。あっさりと断ったエド=ナも傭兵として生きてきたのだろうからそれなり以上の事情があるのだろう。傭兵なんて脛に傷があるような奴の集まり。深く事情を聞くことは無い。

 

 俺も何故傭兵になったと聞かれたら本当の理由を答えることなんて出来ないもんな。

 

「……そういやこの仕事が片付いたらキスレフに行こうと思うんだが、タルタリスはどうする? 嫌なら遠慮なく言ってくれ」

 

 北方、キスレフ。厳しい自然環境とそこに住む巨大で獰猛な怪物や日々襲いかかってくる蛮族ノルスカの相手をし続ける激戦区。更に北の先には渾沌の領域と現世との境界である《渾沌の陰(ウンブラ・ケイオティカ)》とケイオス神たちの本拠地であるレルム・オブ・ケイオスがある。距離的にコーンや他のケイオス神に干渉しやすく(干渉されやすく)この祝福(呪い)を解決する術が見つかるかもしれないって理由だ。

 

 魔法を使うのに必要不可欠な魔力の風も吹き荒れて、その分ケイオス神の影響を悪い意味で受けやすい。

 

 タルタリスなんかの角が生えた混ざり者なんかはこうした魔力の風によって運ばれたケイオスの影響を受けたいわゆる「呪われた子」だ。元々ケイオスの影響を受けやすい体質ともいえる。そんな彼女を連れていって無事な精神や姿で帰って来れるとは言えない。

 

 要するにこの世界のすべての定命の者にとって好き好んで行きたい場所では全く無い場所だ。自殺志願者にしても場所は選べって言われるほどと聞けばその過酷さが伝わるだろうか。

 

 タルタリスとはそこそこ付き合いもある。だからこそいつものように行こうとは誘えなかった。

 

「それは……ちょっと考えさせてくれ」

「……とても正気とは思えないわね。やっぱりあんた狂ってるよ」

 

 冷たく言い放つエド=ナに俺は何も言い返す事が出来なくてガッとエールを呷った。最悪な事にこんな時だが酔いもあって美人2人を前にして無性にマイサンがイライラして来た。こんな空気を読まない祝福(呪い)だからこそ、どんだけ狂人扱いされても早くオサラバしたいのよ……。

 

 ジョッキを飲み干すとサッと席をたって《魔槍》と《魔剣》を手に出口に向かう。

 

「臆病者め……」

 

 そんな呟きが背後から微かに聞こえた。

 

 

 

 

 

 門の守衛に声をかけて俺は城壁の外に出た。危険な最前線とはいえ、山菜や薬草を採取しに外に出ることがあるのだろう。日が暮れる前に帰るように厳命されて意外とあっさり外出は許可された。

 

 目的は勿論戦闘(オナニー)。正直もう我慢の限界だ。そこらのウルフかスケイブンにでも振るわなければやってられない。いや、やっぱりスケイブンはもう食傷気味だからいいや。

 

 この苛立ち(イライラ勃ち)をどう晴らすべきか。

 

 獲物を探しながら歩いていると聳えるワールドエッジ山脈の先端に雪がかかって神秘的な光景を作り上げていた。ドワーフ達の国があの中にあるらしいと聞くが実際行った事は無いのでわからない。

 

 ……そういえば酒場にもいたあのモヒカン頭のドワーフと遍歴騎士の組み合わせは一体なんだったのだろう。確かタルタリスはスレイヤーとか言ってたな。

 

 そのまま訳すなら討伐者? 一体何の討伐者だよ。……ダメだ考えても分かんないわ。

 

 以前のスケイブンへの先遣隊の時に通った道とは逆方向に進む。スケイブンはあれ以来襲撃は来ていない。俺たちがだいぶ減らした影響が多いのだろう。それでも万が一を考えて逆方向だ。

 

 流石に1人で軍勢の相手は出来ない。

 

 しかし、そこから数時間探しても遂に獲物を見つける事は出来なかった。妙だ、雌鹿の一匹すら見ない。いくらスケイブンの襲撃があるからといって森から鹿の一匹もいなくなるのは流石に異常だ。

 

 もうだいぶ日が暮れてしまってきている。あんまり遅くなってしまうと傭兵を仕切る隊長にまたこっぴどく怒られてしまう。城壁の外で夜を過ごすのはまっぴらだしそろそろ帰るとするか……。

 

「ん……何だこの臭いは?」

 

 臭い。しかしスケイブンの臭いとも違う。腐った玉ねぎのような臭いとカビの臭いが合わさったような嫌な臭いだ。僅かに血の臭いも混じってる?

 

 直ぐに身を屈める。そして近くの適当な木の上に《魔槍》を突き刺してよじ登った。俺の予想が正しければ──

 

(──ってマジか!? 当たって欲しくなかったんだけど……)

 

 木の上から隠れているとしばらくして雑踏の音が近づいてくる。緑色の肌の憎い奴らグリーンスキンの登場だ。

 

 

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