呪いで武器を扱う事しか性欲発散できない俺が人型の魔剣でようやく卒業するやつ   作:ギンギン丸

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オナニ^ー

 兵舎の奥に通された俺は傭兵登録の書類と傭兵仲間、つまりタルタリスの本人確認によって無事通された。彼女はカンカンだった。最初目を合わせると一瞬何か怒鳴ろうと口を開けて、徐に口を閉ざした。そのまま本人で間違い無いとだけ言い残してさっと兵舎を後にしたのだ。

 

 こんな状況になってしまった発端が自分であることは間違いない。そのまま後を追いかけたい所だけど今はそんな事をしている暇すら無いんだ。直ぐに兵士にヘンケン隊長と会えないかと聞く。嫌そうな顔をされたけど銀貨を一枚渡して無理矢理話を通して貰った。

 

 やってきたヘンケン隊長は疲労の色が強く、顔が煤で汚れて疲れに拍車をかけていた。おそらく30頃の精強な肉体を持ち、立派な口髭がトレードマーク。

 

「貴様……先遣隊の時の傭兵か。こっちは見ての通り忙しい。つまらない用事だったらケツを蹴っ飛ばすぞ」

「先日はどうも。実は見てもらいたいものがありまして」

 

 懐からゴブリンの持っていた地図(お絵かき)を取り出して見せる。出した直ぐ後にこれだけじゃ伝わらないなと切り取ったゴブリンとオークの耳も一緒に。

 

「何だこの下手くそな絵は? ──と、それは!?」

「見ての通りグリーンスキンの耳ですよ。散策中に絵でいうこの森の辺りでオークとゴブリンに会って倒したんですが、その絵はゴブリンの1匹が持っていたものです」

「……本当か?」

「わざわざ嘘ついて俺らに得なんて無いですよ。一応この軍勢がいるか探しに行ったんですが、森から南東のワールドエッジ山脈の麓に3000近いグリーンスキンの軍勢が待機してました」

「……こっちとしてはお前の言っている事が信じられん、否、信じたくないのが正しいな。──とは言っても一介の傭兵の雑言と切り捨てるには無視出来ないほどの案件だ。……正直隊長程度の俺の判断ではどうも出来ん。よって今から貴様には将軍の元で同じ話をして貰うぞ分かったな」

 

 有無を言わさず連れて行かれたのは城壁の内側の塔。俺ら傭兵の待機場とは格が違う立派な煉瓦造りの建物だ。入り口は屈強な兵士によって守られている。勿論《魔剣》や《魔槍》はここで一旦預けさせられた。隊長の案内で中に通された俺は早くも場違い感に内心ブルっていた。一気に攻め込まれないように通路は狭く複雑。4階ほど登った先にようやくお目当ての将軍がいるらしい。

 

 隊長がノックをして奥の部屋に敬礼をして入り、暫くして中から入るように指示される。服の汚れをパンパンと払っていざ入室。手汗がいつもよりベトつく感じがする。多分緊張のせいだろう。

 

 部屋は中央に立派な木のテーブルがあって壁には帝国のシグマーの旗が留められていた。テーブルには大きな地図と駒が載せられている。そのテーブルを囲むように立派な防具を身につけたお偉方さんたちが話し合っている。左側の壁の近くにはなんと昼間に見た遍歴騎士とスレイヤーだとかいうドワーフの姿もある。

 

 思わず目をとられていると扉の直ぐ横に立っていたヘンケン隊長にどつかれた。

 

「君が例の報告をしてくれた傭兵かね?」

 

 何やら勲章をいっぱい着けた将軍らしき人に声をかけられる。40〜50代だろうか。白髪をざっくばらんに掻き上げた顔面傷だらけの厳つい人だ。見た目に反して声は穏やかだった。

 

「はい、ヨロズと申します」

「ヘンケン隊長から聞いたが改めて詳しい場所とグリーンスキンの数を教えてほしい」

 

 その眼力にブルっと震えた。この人……強い(やりたい)。あのオークなんかじゃ比べ物にならない程に。一瞬この人と戦う姿を想像してファールカップの内側が圧迫で痛い。怯んでしまった自分を奮い立たせるように太腿を抓って表面だけでも毅然とした表情で答えた。

 

「え、えと。この地図でいうとちょうどワールドエッジ山脈の此処らへんだと思います。ゴブリンやオーク、スクィッグのグリーンスキンの軍勢がおよそ三千程。日がだいぶ暮れていたので詳しい兵種は分かりませんでした、申し訳ありません」

 

 そもそも俺も実物のグリーンスキンを見たのはかなり久しぶりだ。剥製や傭兵仲間の話で生態なんかは知ってるけどオークを生で見る経験なんて少ない方が良い。例え昼間に見たとしても兵種なんか分かるはず無い。そんな俺の曖昧な報告に作戦参謀らしき兵士達は困惑を浮かべていた。

 

「そんな不確かな情報ではな……」

「しかし事実だとしたら無視は出来ませんぞ!」

「……スケイブンの襲撃もタイミングが良すぎる。奴ら一時的に手を握ったかもしれませんな」

「どちらにしろ偵察は必要かと」

「次に何時スケイブンの軍勢が攻めてくるか分からんのだぞ! 少なからず前回の襲撃で兵を失った。今は傭兵の曖昧な情報如きに左右されて一兵たりとも失う訳にはいかんのだ!」

「おそらく確実な次回のスケイブンの襲撃を撃退してからでも偵察は遅くないかと……」

「馬鹿者がッ! もしその傭兵が事実を話しているなら一日かからないうちに進軍出来る距離だぞ!」

「どちらにしても先ずは防壁の強化が最優先だ」

 

 直ぐに会議はヒートアップした。それぞれの意見に納得できる要素がある。針の筵とはこういった状況を表すのか。精一杯存在感を無くそうと体を縮こませていると突如声をかけられた。

 

「おい坊主」

 

 その声は決して大きいものでは無かったが騒がしい部屋の中で妙に響いた。壁際にいた朱色のモヒカンドワーフさんが口を開いた。置物と化していたドワーフが突然声をあげた事に少なからず部屋の中は静かになる。

 

「え、坊主って……自分ですか?」

「髭も生え揃って無い若造は坊主で十分だ」

「……えぇ?」

「……耳と奴らの持っていたという地図を見せろ」

 

 それに関しては既にヘンケン隊長に渡していたので、小間使いの兵士らしき人がドワーフの前にその二つに持って行く。ドワーフは耳をあらゆる方向から眺めてひと嗅ぎすると顰めっ面を浮かべて兵士の手に戻した。地図は軽く眺めて炭の匂いを嗅いで頷く。

 

「……耳の鮮度からして少なくともグリーンスキンが近くにいるのは間違いないじゃろうな。地図も奴等らしい……少しは脳味噌の大きいやつがいる」

「で、あるならば。偵察は必要だろう。直ぐにマリウス選定候の元に援軍要請の為の使者を送る用意をしろ」

 

 毅然とした態度で今まで口を閉ざしていた将軍が命令する。直ぐに兵士が指示に従って動き出す。先ほどまでの言い争いが無かったかのように迷いなく。この将軍の統率力は相当なもののようだ。

 

 それにしてもその将軍が信用しているこのドワーフはいったい……。

 

「し、しかしまだその傭兵の話が真実であるかは……」

「──杞憂で済めばそれで良い。どちらにしろスケイブンの襲撃で兵員が減っているのは事実だ。お偉い方には精々危機感を煽って大量の援軍を送って来て貰おうじゃないか」

「さ、左様ですか……」

 

 思ったよりもおおらかな人そうで安心した。傭兵の嘘言だと信じられないならまだしも、人心を乱したと罰でも受ける可能性も一応考えていた。ヘンケン隊長の姿は先ほどの指令で既に退室したらしくもう無い。

 

 俺もこれ以上ここに居ても邪魔だしさっさと出てしまおう。やるべきことはもうやった。後は兵士の皆様にお任せしよう。

 

「それでは私はこの辺で……」

「ああ、傭兵の君。確か……ヨロズとかいったな。勿論君には再度用意した偵察部隊と共にグリーンスキンの軍勢の元に案内して貰う予定だ。日が明けると同時に出てもらう。休んでおきたまえ」

「え? 今帰ってきたばかりなのですが……」

「──知っている。だから少しでも睡眠をとっていたほうが良いと言ったのだ」

「あっ、はい」

 

 笑顔の圧には逆らえないものがあった。

 

 

 そのまま武器を返してもらって兵舎の隅っこで雑魚寝すること4時間。日の出の少し前に起こされてスープとパンを無理やり口に押し込んでいざ出発だ。体調は正直あんまり良くない。再偵察のメンバーは俺と兵士3名となんとエド=ナだ。相変わらずこっちに向ける視線は冷たい。魔法使いがいてくれると心強いがどうしてまたこんな任務に……。

 

「馬は用意した。さっさと乗れ、逃げようだなんて考えないことだな」

 

 兵士の弓がこちらに向けられる。そんな脅さなくても逃げたりしないって。若干顔は笑っているので揶揄っているのだろう。どっちかというと怖いのはエド=ナの方だ。目がマジなんだよ。

 

 人類の移動手段は基本的には馬や騎乗用の動物だ。傭兵でも自分用の馬を飼っている者も多い。結構なお値段と維持費を考えて俺も持ってこそいないものの馬に乗った事は何度もある。この世界のガキはこっそり親に隠れて馬に乗って遊ぶのが常だからな。

 

(あぶみ)に片足をかけて鞍に腰を下ろす。久しぶりの騎乗で少々乗ってる馬が興奮しかけたが両脚で馬体をしっかり挟んで落ち着かせる。他の兵士やエド=ナの馬もまともに乗れねぇのかと冷ややかな視線を浴びながら、なんとか体裁を整えていざ出発。

 

『また……グリーンスキン?』

「多分な……」

『まだ体にあの時の感覚が残っているわぁ……』

『……良かったよね』

『……うん』

「……さいですか」

 

 歩きと違って馬なので早い。およそ15km程の道のりも気楽なもんだ。軽く馬を走らせてオークと出会った森が見えて来た頃だった。

 

 遠くで『WOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!』と雄叫びが響いているのが分かる。空気が震え、森に住む野鳥たちが一斉に森から飛び立つ。奴らが野営していた麓からワールドエッジ山脈にぶつかってこだまのようになっているのだろう。

 

 この時点で既に大量のグリーンスキンがいるってのがもう確定した訳だから帰ろうと兵士に視線をやると、顔が真っ青になっていた。どうやら俺の齎したグリーンスキンの情報が嘘だとは思ってなかったみたいだが、流石にここ迄の規模だとは思っていなかったらしい。

 

 エド=ナも俺の敵意よりも優先される事態だと気づくと美しい顔をキリッと引き締めている。美人が真剣な表情をすると怖いというのはどうやら本当のようだ。

 

「で、どうします?」

「……疑って悪かったな傭兵。先ずは数を確かめない事には将軍にお伝え出来ぬ」

 

 命令を受けて兵士の中で斥候経験のあるらしき身軽そうな人が金属鎧を脱ぐ。重さも匂いも音も偵察には向いてないからな。他の2名とエド=ナはここで待機。

 

 俺が森の近くであの時と同じように苔を体中に擦りつけるのを見て兵士も同様に擦り付けていた。すっかり生き物の気配の無くなった森の中で緊張しながら奴らの布陣が見渡せる高地に移動。

 

 汗まみれの俺たちはワールドエッジ山脈から吹き下ろす冷気に癒される。その冷気がぞっと血の気の引くような冷たさに感じたのはグリーンスキンの陣地を見下ろした時の事だった。

 

 あの時は暗くてよく見えなかったけど明るい中で見ると奴らの量がよく分かる。

 

「嘘……だろ?」

「おおシグマーよ……」

 

 多種多様のゴブリンにオーク。猪に乗ったオーク兵からスクィッグまで勢揃いの軍勢が麓を埋め尽くしている。三千と見積もったけどこれはそれだけじゃ足りないかもしれない。

 

 ワールドエッジ山脈の巨木を集めて何やら加工しているゴブリンの姿もある。攻城兵器でも作っているのだろうか? 

 

「五千は居そうだな……直ぐに帰って報告しなければ」

 

 流石にこの規模の戦闘なんてした事は無い。人間だけでスケイブンに加え、本当にアレらを相手出来るのだろうか……。

 

『あらら。こりゃ無理かもね』

『死ぬ時は……死ぬもの』

 

 《魔剣》や《魔槍》は時々こうしてかなり淡白な反応をする事がある。結局のところ俺たちのような定命の者の考えとは相容れないと感じる。まぁ武器としては使い手の死に一喜一憂なんかしてられないだろう。

 

 

 

 偵察内容を伝えて落ち込んだ面々で任務から帰る途中更に嫌なモノが見えちまった。それは城壁の一部が崩されて中から煙を上げるシュタインガルトの姿だった。

 

「急ぐぞっ!」

 

 ここまでかなりの速度で馬を走らせてきた。馬の汗が玉のように浮かび出てかなりの疲労も見えるが、兵士の指示に抗うものは誰1人いなかった。近づくにつれて兵士が城壁の上でスケイブンと戦っているのも見える。グリーンスキンの軍勢を見て帰った時に限って城壁がスケイブンに襲われているのはコーン神の呪いか何かなのか?

 

 城壁の崩れた所からスケイブンが流れ込んでいる。それでも内部から兵士たちの気勢の掛け声が聞こえるところから、スケイブンたちも思うように進めてないようだ。一度城内に入られてしまったら中に住む住人たちの被害は免れない。

 

火炎の魔弾(ファイアボール)を撃ち込むからアンタは道を切り開きなさい」

 

 エド=ナの口さの冷たさの中にも焦りが見られた。状況からして拒否出来るような状況でも無いし大きく『応!』と返事を返した。馬を走らせながら片手で大きな杖を抱えて詠唱を始めるエド=ナ。魔力の風が彼女の元に集い、杖の先から一塊の業火がスケイブンの集団にぶち込まれた!

 

 BOOM!!

 

 結構な距離が空いているにも関わらず、こちらまでその熱量が伝わってくる。煤けてまだチラチラと火が残った城壁の穴に怯んだスケイブンや大きな火傷を負ったスケイブンがいた。

 

「兵士の皆さんは城壁の上をお願いします!」

 

 返事を待たずに馬の上から飛び降りた。怯えるスケイブンの声、飛び交う怒声、肌にヒリつくこの緊張感、武器を振るう(オナニ^ー)への高揚感。不謹慎なのは分かってるけど……堪らないな……。

 

 もう戦意(先走り)が溢れてこぼれ落ちそうだ。

 

 腰の《魔剣》を抜く。青い刀身の光が残留して宙に舞う。

 

「やろうや……」

 

──ニチャア

 

 

 

帝国(エンパイア)の初代皇帝であり人の身から神になった偉人。今でも帝国の崇拝対象

グリーンスキンの一種で醜い顔面に短い足が2本生えているような見た目

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