呪いで武器を扱う事しか性欲発散できない俺が人型の魔剣でようやく卒業するやつ   作:ギンギン丸

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エッッッッッ!!

 ふしゅ〜ッと呼気が漏れる。興奮で視界が広がり、世界の色が濃く見える。戦場の怒号が、阿鼻叫声が、耳の内側に一枚膜でも出来たかのように遠くに聞こえた。

 

 直ぐにスケイブンの群れが寄ってくる。身なりからしてスケイブンスレイブではなく訓練を積んだ兵士を思わせる。毛皮には人間の兵士の返り血が付いていた。

 

 3匹のスピアが一斉に俺に向かって突き出される。確実に人を殺せる一撃。狙いもしっかりしていて悪くない。──けど物足りない。

 

 《魔剣》で纏めて穂先を絡め取って振り払う。自らの得物が宙に投げ出されて隙だらけのスケイブンを蹴り飛ばす。

 

 蹴りってのは傭兵や兵士がよく使う手段だ。相手と距離をとりつつ体勢を崩す。総合格闘家なんかがやるサイドキックってのは滅多にしない。刃物や防具を身に付けてる場合も多いし、脚を掴まれたら危険だからな。基本的には前蹴り、フロントキックで相手を押し出すイメージだ。

 

 勿論こっちも足を取られる恐れはあるが相手の体勢を崩すってのは戦術においての優位性がありすぎる。

 

 体重差がありすぎると使えないがスケイブン相手なら十分に有効。

 

「人間ガッ!!」

 

 瞬間、嫌な予感がして滑り込むようにスケイブンの足元を潜り抜ける。背後でギャッと悲鳴が上がった。スケイブンの喉元にはクロスボウのボルトが何本も突き刺さっていた。 

 

 ここはスケイブンと兵士のぶつかる前線だ。味方の援護射撃にやられるのは勘弁。戦場の高揚感で知らない間にツッコミがちになってたみたいだ。少し離れて様子を窺っていると城壁の上に登ったエド=ナの姿が視界に入る。

 

 スケイブンが城壁に登るときに使った梯子を利用したみたいだ。偵察の兵士の内2人も側で剣と盾を構えて彼女を守っている。残りの1人は馬で裏門にでも回っているのだろうか?

 

 ともあれ彼女は戦場を見下ろせる位置につくと再びファイアボールを放った。再度爆発で少なくない数のスケイブンが炭と化す。それでも城壁内のスケイブンの数はまだまだいる。通りの向こうから100匹近いスケイブンが押し寄せてくる。

 

 そいつらに城壁の上にまだ残っていたクロスボウ部隊が斉射して弱った所にトドメのファイアボール──と、思いきや崩れ落ちるように倒れ込むエド=ナ。

 

 流石に魔法を連発し過ぎだ。俺は魔法使いじゃないから詳しくはよく知らんけど、熟練の魔法使いはオーバーキャストという技術で魔法の威力や範囲を上げることが出来るらしい。それだけだと利点しか無いように聞こえるがその分、魔法を詠唱するのに必要な魔力の風の総量は余分に消費するし、もし難解なオーバーキャストに失敗したら反動で自らの身体を傷つけてしまう可能性がある。

 

 おそらくそのオーバーキャストに失敗したのだろう。ただでさえ連発で集中力を減らしていたのだ。暫くの間は魔法を使えないどころかまともに逃げる事も叶わないだろう。

 

 その事を察したスケイブンたちは目の前の俺より城壁の上で伏すエド=ナに標的を移した。魔法使いの脅威はどの種族でも共通認識。エド=ナが今動けないでいる絶好の機会を逃す奴等じゃない。

 

「《魔剣》!」

『ん?』

「投げるぞ!」

『えっ』

 

 斬れ味の鋭さは並じゃない。槍より使い勝手が良いから基本投げる事は無いけど今の状況だと《魔槍》のほうが有効だ。

 

 《魔剣》をスケイブンの塊に横から投げて近接武器持ちの数を減らす。青い光の飛沫が回転で円になって紙切れか何かのようにスケイブンを真っ二つにするのは大変美しい。

 

(……こんどまたやろう)

 

 怯んだ隙に城壁の隙間に足を引っ掛けて急いでよじ登る。普通ならそんな事が出来ないように窪みなんて無いんだが、城壁に空いた穴の近くなので全体的に隙間だらけ。何度か滑り落ちそうになりながらなんとか7mを登り切る事に成功した。

 

 エド=ナの様子は思ったより悪そうだった。元々顔色は悪そうだったけど更に青白く、口から吐血した跡も見えた。近くの兵士が盾を掲げて彼女を守り、もう1人は城壁の上をよじ登ろうとしてくるスケイブンに槍を振って妨害している。

 

「弓兵がいるぞ!! しゃがめ!!」

 

 声を上げて警告した兵士は既に右肩に矢が刺さっている。脂汗を浮かべながら必死に声を上げた彼は糸が切れたかのように床に倒れ込みそのまま動かなくなった。

 

 人の死とは身近な存在だ。特にこの世界では。異種族によって、事故によって、そしてこんな窮地に追い込まれている人間同士のくだらない争いによっても。

 

 ──まぁだからこそいちいちセンチな気分になっていられない。それこそ最も死に近い兵士や傭兵なんてのは死ぬ時も自分の死が役に立ちさえすればそれで良いって考えの人も多い。

 

(だから有効活用させて貰いますよ先輩ッ!)

 

 『魔槍』の矢避け(アンチ・ミサイル)によってエド=ナに降り注ぐ矢を逸らす。しかし流石の一斉掃射。今のうちは逸らせていられるけど矢避け(アンチ・ミサイル)も万能では無い。振った穂先の先しか逸らせない関係上、振り続けている必要がある。

 

 まだまだスケイブンの射手の矢は尽きていない。今の俺が出来るのは硬直状態を作る事だけだ。直ぐに状況を理解したクロスボウ兵が援護射撃をくれるが、直ぐにそちらの方に別のスケイブンが向かってお互い手一杯になる。

 

『は〜ツマンない』

「そればっかりは同感だが、我慢しろ」

『……まっ、投げ出されたアイツ(魔剣)よりかマシか』

 

 こちとら餌を目の前にぶら下げられて待てをくらってるんだ。しかし思った以上にスケイブンの数も多いし、流石に魔法使いのエド=ナという貴重な戦力を守らない手は無い。

 

「奥から将軍達もやって来たぞ! 気張れ!」

 

 兵士の1人が言うように通りの向こうから将軍率いる精鋭部隊がやって来た。基本的にこの世界の指揮官(ロード)は指揮能力と白兵戦能力両方を求められる。トップだからといって後方で椅子に座ってるだけのロードなんて滅多にいない。

 

 先頭を行く将軍たち騎馬隊が白馬で早速スケイブンの部隊にぶつかると、面白いようにスケイブンが横っ飛びで飛んで行く。続いて両側の狭い路地から二つの人影がスケイブンの塊に斬り込んだ。

 

 1人は全身生傷の絶えないタルタリス。防衛の時に怪我でも負ったのだろう。動きは鈍いが巨体に似合った金砕棒で薙ぎ倒す。流石にいつも通りの動きは辛そうだ。……心配だな。

 

 そしてもう1人があの朱色のモヒカンが特徴的なドワーフ。元々低身長なんだが人の大男ですら扱うのに苦労しそうな大斧を楽々使いこなして敵を斬り刻む。しかも驚いたことに防具らしい防具はいっさい身につけていない。初めて会った時と同じで上裸だ。返り血を浴びながら笑顔でスケイブンの頭を斧でかち割っている。

 

「どんだけ戦闘狂なんだ……怖っ」

『──はぁ!?』

 

 奥の方が劣勢であることに気づいたのかこちらに射る射手の数が減る。好機かと身構えたところで急に暗雲が城壁内に発生し始めた。明らかに自然のそれでは無い。超自然的な現象。

 

 突如空が怪しい緑色の光で明滅し始める。緑色の雷がパチパチと耳障りな音を発し、嫌な前兆を知らせる。スケイブンの操るワープストーン由来の雷。歪曲の雷(ワープ・ライトニング)が将軍達の精鋭集団の真上から落とされた。

 

 自然の雷が直接落ちるよりか被害が大きく無いが、しっかり人に向けて狙われた魔法でかなりのダメージを受けているようだ。明らかに正面が押され始めてしまう。──いやむしろあの魔法を受けて統制も崩さずに戦えてる時点で精鋭部隊の優秀さが窺える。

 

 しかし俺たち人間が掴みかけた流れは確かに今の一撃であちらに流れつつある。

 

 横からドワーフとタルタリスに一方的にやられていたスケイブン達が気勢を上げて押し返して囲む挙動を始め出した。嫌な事ってのは続くものだ。続いて城壁の中に土煙が舞い始める。

 

「もしかして……あの時のスケイブンもいるのか?」

 

 偵察部隊の時にも突如砂が舞ってスケイブンの群れに逃げられた。

 

「出たぞ……! また《魔剣》持ちの仕業だ!」

 

 城壁の上でそんな声が上がる。金属鎧を身につけた兵士。兜を被っているので詳しく顔は見えないが特徴的な鷲鼻に白い肌、灰色の毛に聞き覚えのある声。酒場で初めて《魔剣》の話を聞かせてくれた兵士だ。

 

「おい! そこの兵隊さん! 俺だよあん時酒場で《魔剣》について話を聞いた傭兵! やっぱりこれスケイブンの《魔剣》持ちの所為なのか?」

「……あぁ、あんたあの時の! ──そうだ。あいつの所為で城壁の前に土煙の壁を張られて、城壁を壊す為の破城槌が接近してるのに気付くのを遅れちまったんだ」

 

 確かにそれは厄介そうだ。しかしずっと土や砂を操れるわけじゃ無さそうだな。この広い城壁の視界を塞ぐほどの広さの土煙を起こすんだからその分今までクールタイムが必要だったのだろう。

 

 直接的な攻撃力はそこまででは無さそうだけどかなり使い勝手の良い武器だ。

 

「……かなり良さそうな《魔剣》だな」

『見境無いわね』

「おいおい。先ずその《魔剣》持ちを倒すのが先だろ」

「探そうにも、こう土煙が入ってこられちゃ何処にいるか……。それにエド=ナを置いてく訳にも……」

 

 人間にとっちゃかなりキツい視界妨害だが地下に住むスケイブンからしたらこの程度の土煙はそれほど大きな効果を及ぼしていないのだろう。人間の兵士のレギンスが金属音を奏でる音は少なく、スケイブンの身につけた鎧のチャラチャラ音だけは変わらずに聞こえる。

 

 こんな状態が続けば遅かれ早かれこの城砦はおしまいだ。一刻も早く《魔剣》持ちを見つけて始末しないと。兵士の士気が崩壊するのも時間の問題。

 

「……さっさと……行きな……さっい……よ」

「エッッッッ!!!!! エド=ナ!? おいおい無理に動くなって」

 

 息も絶え絶えにこちらを見上げるエド=ナ。少しは回復したようだけどまだまだまともに動くには難しい。自分で立ちあがろうとしたけど体勢を崩しかけて直ぐに側の兵士に支えられた。

 

「馬鹿みたいに……突っ込んで死ぬのがっ……アンタには……お似合いよ」

 

 エド=ナ。いつもの敵愾心の奥にどこか優しさを感じる。まぁ本音なんだろうけど俺がその優しさを脳内で求めて勝手に見出したのか? どちらにしろここでエド=ナを守っていても膠着状態は覆せない。俺は北方人っぽい《魔剣》の事について教えてくれた兵士の元へ向かう。この中で一番屈強そうなのは彼で間違いないだろう。

 

「兵士さん俺はヨロズ。貴方の名前を教えてくれないか?」

「ウルフリックだ」

「ありがとうウルフリック。貴方に俺の《魔槍》を預ける。それで彼女を守ってやってくれ」

『ッ!!!!!????????』

「本当に良いのか? 《魔剣》を見ず知らずの男に預けるなんてどうにかしてるぞアンタ」

 

 まぁこれ一本で家は買えるぐらいの値段だ。正気を疑われてもおかしくない。

 

「……それ良く言われるよ。まぁキチガイ男の最後の頼みだと思ってさ」

 

 無理やり押し付けて矢避け(アンチ・ミサイル)のやり方を軽く教える。《魔槍》はエド=ナを守るにはぴったりの武器だけど、この土煙の中で紫色に光る穂先は相手に認識されやすくなって相性が良いとは言えない。今《魔剣》持ちを探すのには隠密性と素早さが何より重要だ。

 

 というわけで投げた《魔剣》の回収も後回し。久しぶりに《魔剣》たちの声が聞こえなくなって脳がスッキリした気分だ。……ちょっと寂しい気もするけどたぶん気のせい。

 

 代わりに城壁の上に落ちていた誰かのハンドアックスを4本拾う。2本は腰のベルトに投げ斧用としてキープ。残り2本を片手に一本ずつ持つ。微妙な重心の違いに体を慣れさせる為に空を斬るように振って見る。

 

 造りは悪く無いが肝心の鋼の質が良くない。普段鍛造の業物を使っていると大量生産の鋳造の安っぽさに物足りなさを感じてしまう。……暫く慣れが必要になるなこりゃ。

 

 曲芸師のように2本の斧をクルクル回して、股の間から頭上に投げた片手斧をノールックで受け止める。

 

「……アンタ斧も使えるのか?」

「まぁ大体の武器は」

 

 こちとらずっと武器を扱って(オナニーして)たんだ。暇さえあれば猿のように自慰をする思春期に俺が手を出さない武器(オカズ)は無かった。食わず嫌いは良くない。そのおかげで大体の武器は使えるようになったけど、やっぱり一番使いやすいのはロングソードかな。

 

 純愛モノぐらいテッパンの抜きネタだ。

 

 肝心のスケイブンの《魔剣》使いの件だが、十中八九奴は街を見下ろせる高い位置にいる筈だ。この土煙を効率的に巻き起こし戦場に介入できるのはやはり見下ろす必要性がある。希少な《魔剣》を持って意地汚いスケイブンの上役に奪われないとなると指揮官クラスかそれに準ずる立場と考えるのが自然。

 

 指示するにも《魔剣》を操るにも適した場所となると……城壁の上では建物が邪魔する関係上内部まで視角が届かない。司令室のあったここらで一番高い塔にはまだ旗が掲げられてバタバタと動き回る人の姿も遠くから見える。

 

「となると……鐘塔か?」

 

 時刻や緊急事態に鳴らされる鐘が最上部に設置される鐘塔はシュタインガルトの街並みを見下ろすには適した場所だ。間違っていたとしても高所から見下ろして《魔剣》使いを見つけやすくなるし、骨折り損のくたびれもうけとはならないだろう。

 

 城壁の上から急いでスケイブンの少なそうな場所に降りて街並みを走る。道にはスケイブンやら人間やらの重傷者や死体が転がっている。瀕死の人間は楽にしてやりたいけどそんな時間は無い。片手だけで祈りの所作をしながら突っ走る。

 

 鐘塔が近づいてくるとスケイブンの姿がチラホラ見られるようになった。無心に人や仲間の死体を喰らっている。代謝の高い奴らは戦闘後に飢えてなんでも食い尽くす。怪我を負って隙だらけの奴らを処理するのは随分楽だった。

 

 鐘塔の門には既に門番らしき人間の死体と、更にスケイブン2体の死体。この血生臭い現場に不釣り合いな美しい白馬が近くに佇んでいた。

 

(相打ち……じゃないな。人間の死体に覆い被さるようにスケイブンが死んでる。人間の門番を倒した後に、代わりに門番の役目をしてたスケイブンがやられたのか? ……どちらも傷口の断面が妙に綺麗だ)

 

 達人の腕か、或いはまるで《魔剣》で斬られたかのような。

 

 訝しみながら鐘塔に入る。木と煉瓦、カビの臭いがする。螺旋階段のように頂上へ続く階段が続いてる。その中途を駆け上る鉄靴の音。どうやら俺の先達がいたらしい。

 

 階下の木製の階段から見上げるその先達は、黒髪おかっぱ頭のフルアーマー騎士少女。あの朱色モヒカンドワーフの連れその人であった。

 

 

 

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