呪いで武器を扱う事しか性欲発散できない俺が人型の魔剣でようやく卒業するやつ 作:ギンギン丸
流石にもうダメかもって思った時はあるかい? 俺はある。傭兵なんて危険な事やってるんだ。そんな話は良く聞く。死ぬ前に命の危機を感じ取れたってのはむしろ幸せな方で、ほとんどはそんなことさえ感じとる間もなく死ぬ。いや、むしろそっちの方が幸せかもしれないな……。
好き勝手
──とまぁ殊勝な心掛けなんてものは持ち合わせていないぞ俺は。どうせ好きなだけやってきたなら最後まで貫き通せってのが自論でね。
スケイブンの《魔剣》が目と鼻の先を通り過ぎる。いや掠ったな。鼻から血が噴き出る。訓練された兵士だってまともに振り回すのが難しい金砕棒を奴はいとも容易く扱いやがる。ここまで上手い金砕棒使いはタルタリス以外に見た事が無い。
それにこの砂煙だ。本当に厄介。最初の頃は奴の《魔剣》の光を見てなんとか防げていたがそれに気付かれて金砕棒に多くの砂煙が纏わりついて今では光をほとんど漏らさない。
片手斧も投げたり、奴の攻撃を受け止める際に壊れてしまった。どんなに造りが良くてもやはりまともに《魔剣》と打ち合うとダメだな。
(クッソ! こうなるんなら目立つのは承知の上で最初から《魔剣》を回収して来れば良かった……)
無手ってのはどうも落ち着かない。やっぱり武器を扱ってこそ俺のエクスタシーが解き放たれる。絶好のオナネタを前にしてみすみす戦闘する機会を失い、やられるなんて耐えらんないぞ。
「おい! 聞こえてるか騎士さん!!?」
「聞こえている!」
くぐもって良く聞こえない。砂煙の向こう側で破砕音が僅かに届いた。向こうは向こうで忙しそうか、見た感じかなりの腕前だと思っていたんだが……。
少なくともあの鼠の怪物相手にそんなに苦戦するようには見えなかった。体調でも悪いのか?
「こっちの《魔剣》使いをなんとかしてくれ!! もう斧を投げ尽きちまった!」
クソッ、口を開いたら直ぐに石の混じった砂が入り込んできやがる。目を細めて砂が入らないようにしてきたがそれも限界。向こうの攻撃も直撃こそしないが金砕棒の先端で傷つけられて血だらけだ。流した血液から明らかに身体に力が入りきっていない時がある。悔しいが一度撤退するしか……。
こんだけ濃い砂煙をこの場所に展開しているなら将軍様率いる本隊の方は薄くなっってることを祈る。本隊さえ勝ってしまえば後はこの《魔剣》使い一体だけ。
不意に正面の砂煙の一部が薄くなる。奴の攻撃の前兆かと回避姿勢をとる。飛んで来たのは──石? いや瓦礫の一部か?
今までの戦闘で出来た拳大の瓦礫が砂煙のカーテンの奥から一発。投石は正直かなりイヤらしい攻撃の一つに数えられる。弓矢と違って現地で調達出来るのが大きいし、単純に質量からして殺傷性のある威力をしているからな。
今まで金砕棒一本でやってきた《魔剣》使いの突然の投石だからその効果も絶大。一発目はなんとか気合いで躱したが、その直ぐ後に投げられた二発目は避けることも叶わず右膝下部分にヒット。
ゴッと鈍い音が響いて激痛がはしった。今まで回避を支えていた片脚が支えを失って無様に転んだ。鈍痛、疲労で息が荒い。もう口の中は砂だらけで唾と一緒に吐き出す気力すら無い。
終わったな。流石にそう思った。
濃い砂煙の中からようやく奴が姿を現した。スケイブンの顔色を窺うのは難しいが奴も多少は疲労しているように見える。そして怒り。
「梃子摺らセてくれたナ」
「はあ……ようやく……姿を見せてくれたな鼠野郎。覚えてた顔よりだいぶブサイクで別人(鼠)かと思ったぞ」
煽りに何の反応も見せない奴に『つまんねぇやつ……』とぼやく。ダメだわこいつ絶対友達とかになりたくないタイプだわ。
せめて最後は足掻きたいけど、流石に無手ではどうしようもならん。せめて時間稼ぎと手元に転がった瓦礫を投げたけどあっさり金砕棒で打ち砕かれた。
何度後悔しても仕方ないが今更《魔剣》のありがたさが身に染みる。もし生きて帰ってこれたら奴らにも少しは優しくしてやろうかと思ってたが、ちょっと決心するのが遅かったみたいだ。
そんなことを考えていた所為だろうか《魔剣》の幻覚が見えてきやがった。砂煙の中に《魔剣》の刀身に宿る光が見える。不思議なことに青でも薄紫色の光でも無い。
──銀色だ。砂煙という闇の中に浮かぶ銀の光はまるで夜空に光る星のよう。
……ふつくしい。目の前に死の象徴としてスケイブンがいるにも関わらず俺は無意識にそっちに手を伸ばしていた。赤ん坊が母の乳を求めて目もほとんど見えないのに本能でそちらに寄せられるのと同様に、原始的な本能で。
血が流れすぎて意識が朦朧としてる。
おそらく俺が《魔剣》をスケイブン共に投げて切り刻んだ時ぐらいの速度は出ていたのだろうと思う。普通に考えたらそれに手を出すなんて危険極まりない。偶然か、或いは本能で回避したのか。
ともあれ俺の手は握りを掴み《魔剣》は手に納まった。俺の《魔剣》であるロングソードとは違い、一回り刀身が大きく握りは少し短い。ブロードソードって所かな? 騎乗用に振られる事が多い。まさに騎士の為の武器って感じだ。
そういやこんな《魔剣》を騎士様が持ってなかったっけ?
これが現実か妄想か、よく分からなかった。あまりに都合が良すぎるので多分夢だろう。ピンチに《魔剣》が降ってくるなんておとぎ話じゃあるまいし。
新しい武器を持ったなら先ずは試し振りだよなぁ。片足が動かないけどまぁ試し振りぐらいなら問題無いだろう。思い出すのは剣道部。俺は剣道なんかやってなかったが何度か練習するのを見かけたことがある。
正座から片脚ずつ上げて立つんだがその中途、片脚立ちの姿は居合いの体勢のそれ。立ち上がる瞬間にも隙を見せない常在戦場の心持ちだ。それってまさに片足が使えない今試す時じゃんと脳死な発想でやって見る。
勿論こんなガチガチの西洋剣で居合いなんて出来ない。重量も形状も用途も居合いなんて手段を考慮していない。俺は居合いがやりたいわけじゃない。ただ今の状況で試せる最善の一振り。その所作がこの状況にピッタリってだけ。それでも気持ちだけは侍だがな。
ずっしりとした重量感ある《魔剣》を力で振り回さない。振り回せない。そんな力はすでに残ってない。真横に加速させながら遠心力と重量を小指の先にしっかり受けて振るう。力を込めるのは小指だけで良い。後は勝手に《魔剣》が思った通りの軌跡を描いてくれるだろう。
──いつだって俺は気持ち良くなりたいだけなんだ。
『……ンッハァ』
嗚呼、《魔剣》って良いもんですねぇ……。意思があるせいか噛み合わない時は本当に違うなってなる事もあるけど造りはどれも素晴らしいから振ってて単純に楽しい。
チャンバラごっこの為の良い棒を見つけた時のような。その幸せの方向性を何倍にも伸ばした幼稚な達成感と功名心っていうか。まぁ言葉は取り繕ってみたが結局のところ
気づけば視界を遮っていた闇は消え去っていた。ボヤけた目を何度か擦った所で決してこれは賢者タイムって訳じゃ無いことを確信。擦った時に身体についてた砂が眼に入って気分最悪だからこれが嫌でも現実だって気付かされた。
「大丈夫か!?」
背中に金属の硬い感触。結構な勢いで揺さぶられて気分は最高にグロッキーだ。ゆっくりと肩を貸されて騎士さんのフルプレートアーマーの抱かれ心地は最悪だってのは十分に分かった。
「流石だ……あの《魔剣》使いを」
「ん? そういえばあの《魔剣》使いは?」
「何を言っているんだ? そこに倒れているだろう?」
騎士さんが指差す方向には両手をぶった斬られて痛みに呻いているスケイブン。地面にはしっかり金砕棒を握ったままの手も一緒だ。夢見心地で振るった剣がどうやら上手い事スケイブンの手を両断していたらしい。
「凄まじい斬れ味だ……私の《魔剣》を初見でこうも扱うとは」
「いやいや騎士さん? 直ぐにそいつ止血しないと死んじまうぞ。指揮官っぽいし生かしとかないと不味くない? それにその斬れ味は騎士さんの《魔剣》ありきのものでッ──」
「──そんな事は無い」
「……い、いや今は別にそれは重要じゃないというか──」
「──幾ら貴方の考えでもそれは頷けない。訂正してくれ」
「あっ、うん。あの……すみませんでし……た?」
なんか気に障ったみたいだ。低俗な傭兵には分からんよ高尚な騎士様のお考えは。流石にスケイブンもこの状況では分が悪いと判断したのか大人しく降伏して治療を受ける。基本的にスケイブンは生き汚い。僅かでも生き残る可能性があるのなら仲間や情報なんて簡単に売る。とりあえず出血を止める為に腕を布でキツく締め上げた。
きっとコイツは兵士にしっかり情報を吐いた後処理されることになるだろう。
騎士様は俺がスケイブンの止血をしている間に甲斐甲斐しく俺の怪我の手当てをしてくれた。怖いのか優しいのか良く分からん。けど傭兵相手に傷の手当てをしてくれるんだからきっと優しいほうなんだろう。多分。
因みに《魔剣》は直ぐに返した。見ず知らずの他人に《魔剣》を預けるなんて正気じゃないぜ本当。なんかやたら恭しく自分の《魔剣》を受け取っている姿が印象的だった。《魔剣》と会話でもしているのか隅のほうで呟いている。冷酷なイメージだった騎士様が頬を赤らめて《魔剣》へ微笑んでいるのは年相応に見えた。
スケイブンは放心したような、複雑な表情で失った手を……いや正確には《魔剣》を見ているのだろうか? 珍しいな。スケイブンが自分の身体よりも武器に執着するとは。
「おいおいまるで自分の嫁のように《魔剣》を想ってるんだな?」
「……フンッ。アレは俺だけノ雌だったんダ」
流石に無機物を自分の雌だと思うなんて……いや日本にはそんな連中ごまんといたか。武器を扱う事で性欲を発散出来る奴に比べたら大抵の奴はまともな性癖さ。ある意味同じ穴の狢だ。俺には笑うことなんて出来ん。
「……笑ワないのカ?」
「ひょっとしてジョークだったのか? だとしたらなかなか才能あるな。俺にとっちゃ全然笑えないけど」
「マサカ……オまエも《無命の形代》ヲ狙っているのカ?」
「何だそれ?」
「……まぁ《魔剣》持ちでも無いナラ良いだろウ」
既に借りた《魔剣》は騎士様の元に返したし、最初から持っていなかったこともあり俺が《魔剣》を持っていないと判断したらしい。普通の人は持ってないようなものだし、戦場で俺が《魔剣》を振っているのを認識していなかったのか? まぁ俺もスケイブンの顔で個人を判別しろと言われたら絶対分からない自信がある。奴も人間の細かい違いなぞ認識出来ていないのだろう。
しかし奴が勝手に勘違いして喋った内容は俺にとって大きかった。
「《無命の形代》……《魔剣》を受肉させる、そんな馬鹿げたアーティファクトが本当にあるのか?」
「偉大なル混沌の神ノ賜り物であリお言葉ダ。間違いナイ」
少なくともコイツ自身は疑って無いみたいだ。てことはまさか夢に見た女との初体験も人化した《魔剣》も武器と判断されればデキてしまうってことなのかッ!!!!????
……興奮で涎が危うくこぼれ落ちるところだった。落ち着け、落ち着けよ俺。先ずあのくそみたいなコーンがそんな俺の呪いを見逃すか? ……いや所詮俺ら定命の者なんか舐め腐った連中だ、奴が殺戮にしか興味無い性質上そういった隙はありそう。
そしてそんなコーン神を舐め腐ったアーティファクトを造り出しそうな混沌神にも察しがつく。混沌の四大神の一柱、快楽と堕落を司る暗黒神スラーネッシュだ。殺戮や憤怒の化身であるコーン神と相性は最悪で、信奉者は皆美しくセックスカルトに興じている奴が考えそうなアーティファクト。
全くの作り話というにはちょっと状況判断的に真実味がある。──てかあって欲しいと心底思ってる。
事情は違えど急にこのスケイブンの元《魔剣》使いが苦難を共にして来た同士に思えてきた。会う場所と、種族さえ違えば俺たち……友達になれたかもな。
──友達だとしてもその《無命の形代》は殺してでもうばいとるが。
とりあえず俺は生身の女を抱くのを諦めたつもりはない。コーンの野郎の
そんな決心をしていると街の奥から大きな雄叫び声が聞こえた。鼠の声じゃない。人間の兵士の歓喜に満ちた声だ。
「勝ち鬨か」
「ああ。私達の勝利だ」
喜んでばかりいられないのは重々承知だ。なんせこっちに進軍予定であろうグリーンスキンの大軍が残っている。それでも戦士たちの勝利の歓声は今確かに俺たちに必要なものだった。
夕焼けの赤が戦場で散った幾多の屍の悲惨さをスケイブンも人間も纏めて包む。どんなに苦しく、この戦場に嘆く人がいようとも目の前に広がるのは美しい光景に違いない。今暫くはこの風景に飲み込まれて雑多で過酷な現状からは逃避したい。大歓声の後の不気味なほどの静けさはその場にいた皆の細やかな願い。隣の騎士様も何かに祈りを捧げている。
(早く《魔剣》か人間とやりてぇな……)
その後ようやく戦後処理が進み俺も兵舎の端で休憩中。まだ右膝がかなり痛む。優秀な治癒師は今ひっきりなしに働いている。ギリギリ動ける程度の俺の治療は後回しだ。
「つまらなさそうな顔してるな」
「……おぅ。エド=ナ無事そうで良かった」
オーバーキャストで倒れてたけど今じゃそこそこ元気そうに見える。しっかりウルフリックが守ってくれたようでホッとした。彼女は紺色の腰まで届く長い髪を指先で弄りながら隣の土嚢に腰を下ろした。なんだか森林浴にでも来たかのような香りだ。長身なこともあって少し見上げる感じになった。
「タルタリスの様子はどうだ?」
「……彼女は……もう」
「──えっ……? おい……嘘だよな?」
勢い良くエド=ナの肩を強く掴む。まだ体調は整っていないだろうがお構いなく。いつもの冷たい表情で嘘だって言ってくれよエド=ナ! しかし彼女は何も答えない。無言でその長い髪を揺らして自らの表情を覆い隠すように──まるで耐え難き苦悩から直視を避けているように思えた。
「………」
あんなに良い女が俺なんかより先に逝って良い筈無いだろ……。
「よぉ! 辛気臭い顔してんなヨロズ! 《魔剣》使い倒したんだろ? もっと喜べよ」
「…………はっ?」
兵舎の中から元気いっぱいでやって来たのは見上げるような巨躯の金髪女。バルンバルンと胸もケツも揺らしながらのっしのっしとやって来る。腹筋もバキバキでこんなに個性的な女性を他には知らない。
隣で俯きながら震えてる彼女。こいつ──髪の毛で顔隠してたのは抑えきれない笑みを隠すためかッ!! 無性にムカついたので無理やりその顔を暴いてやろうと試みる。エド=ナも見せてたまるかと隠そうとするが流石に病み上がりの体力では俺に勝てない。
「よくも騙したなッ!!」
「……だって、アハハッ。……くる……しぃッ、ちょっとその顔ッ、いひッひひひッ。やめてッ……よッ」
息も絶え絶えに笑い転げているエド=ナに当初の冷たい印象は無い。エルフの血を引いているかと思わされるその美貌がコロコロと笑うさまは、今までのギャップもあって正直かなり効いた。
「よく分からんが仲良くなったみたいで良かった」
「──賑やかな所邪魔してすまない」
こちらの様子を窺っていたのだろう。防具を身につけた兵士が1人此方に声をかけて来た。兜を脱ぐとそこには鷲鼻が特徴的な彫りの深い男。エド=ナを守ってもらう為に《魔槍》を預けたウルフリックだ。手には預けた《魔槍》とスケイブンに投げたきりお別れだった懐かしき《魔剣》の姿もある。
「嗚呼、ウルフリック。」
「ようヨロズ。死んでないようで安心したぞ。……いや、折角《魔槍》の持ち主がいなくなって俺のものになるチャンスを逃したと考えると残念か?」
そう言いながら拳を互いに突き出してぶつけ合う。やっぱり《魔槍》を預けて正解だったなこいつ。今考えるとかなりのギャンブルだったよ。久しぶりに帰ってきた《魔剣》と《魔槍》を丁重に受け取った。
「《魔剣》の方は瓦礫の下に埋まってたらしいぞ。こっそり持ち去ろうとしてた兵士を捕まえた親切な男に感謝するんだな」
「助かるよ本当に……ありがとう」
やはり手に馴染む《魔剣》は良い。騎士様の《魔剣》も相当な代物だったけど俺にはやっぱりこっちのがあっている。
『…………死ね』
『最悪』
めちゃくちゃドスの効いた声だけ響いて黙り込んでしまった。今までも何度も機嫌を損ねたことはあったけどここまでの塩対応は初めてだ。他人に預けたり投げたり、武器だし良いかぐらいには思っていたけど《無命の形代》という存在を知った今は違う。こいつらは俺の攻略対象だ。
「……本当にゴメンな。お前らがいなくなってどれだけ俺が支えられていたか真に気付いたよ。もう二度とこんな事しないって誓おう」
『……誰?』
『今更そんな事言っても遅いっての! アタシをイケメンの元にさっさと返しなさい』
「今まで黙ってたけど《魔剣》の刀身の美しさには何度魅せられたか分からないよ。《魔槍》も他人の手に移ってその喪失感で胸が抉られそうになった。お前らがどれだけ魅力的な存在か改めて思い知った本当に」
『……ようやく分かった。遅過ぎる』
『まぁそこまで言われたら別に悪い気はしないけど……』
よしっ、良い感じだ。後ひと押し!
「あれ髪切った? なんだか今日はとても魅力的に見えるね2人とも」
『ん? ……髪なんて生えてない。何を言っているの?』
『気持ち悪っ』
まだまだ《魔剣》達とのコミュニケーションは難しそうだ。