ワールドトリガーRTA   作:佐倉シキ

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三条兄妹のボーダー譚
運命の日


 

 

 

 

カーテンの隙間から朝日が差し込んでくる。

その光で、少年は目が覚めた。眠いまぶたをゆっくりと開けると、時計は時刻10時40分を過ぎた頃を示していた。

 

「ヤベェッ!学校!」

 

と、少年は慌てて起き上がった。

 

一瞬慌てたが、今日はサボると決めていたことを思い出した。安堵のため息をつきながら、ベッドの中でゆっくりと身を起こす。窓からは鳥のさえずりが聞こえ、外の風景が穏やかな朝の様子を物語っている。

カーテンをどけ、窓を開けば爽やかな風が吹き込んでくる。

風で少年の黄金色の髪が風になびいた。瞳は青緑色で日本人とは異なり、肌は白い。切れ長の目が特徴的な少年だ。少し疲れたように見える目の下にはうっすらと隈があり、その体には歳の割に鍛えられた筋肉が浮かび上がっている。

 

少年、三条レオはマンションの窓から下を見下ろす。

高層マンションの窓からは広がる街の景色が一望できるのだ。ビルや住宅が立ち並び、道路には車が行き交い、人々が忙しそうに歩いている。遠くにはビル群がそびえ立ち、都会の喧騒が漂っている。街の中心部では、ビルの間に緑豊かな公園や広場が広がり、人々がリラックスして過ごしている様子が見える。また、街の周辺には静かな住宅街や商店街も広がっており、日常生活が息づいている。

 

日本の、平凡な日常の風景だ。

レオはそれを見てため息をついた。

 

レオの故郷はフランスだ。フランスで生まれ、6歳まではフランスのアンジェという地域で育った。自然が豊かで美しい街だった。

日本に引っ越してきてからもう7年になるが、今でも故郷が恋しくなる。母の浮気がきっかけで両親は離婚し、父の故郷である日本に家族3人で引っ越してきたのだが、正直言って楽しくなかった。

 

レオには妹がいる。彼によく似た顔立ちの妹は、アリスと言う。レオとアリスはフランスの血が濃く出ているのか日本人離れした外見をしているのだ。

 

端的に言って、それが原因で虐められた。

 

アジア人達の中で浮いてしまったのだ。最初は面白がって話しかけてくる者もいたが、引っ越した当初は日本語が上手く喋れなかった為、すぐ排斥された。誰とも仲良くなれなかったので、レオはずっとアリスと2人で過ごしていた。寂しさを紛らわすために沢山習い事を始めてみたりした。

そうすると今度は付き合いも悪くなる。たまに遊びに行こうと誘われても、体操にピアノにテコンドーにと忙しいレオは悉くを断った。相手に興味もなかったからだ。

日本人離れした容姿、付き合いの悪さ、そして学業や体育の優秀さ。2人は妬まれたのだ。

 

小学校の頃はまだ大した事がなかった。アジア人は陰湿なんだなと、そう軽く思う程度だった。

だが中学に入ってからは虐めがエスカレートした。レオ達が全く気にかけた様子もなく無視を続けた為、いじめっ子達は過激になったのだ。

 

辛辣な言葉をかけられたり、無視されたり、持ち物を捨てられたりはよくあった。まあレオ達は心が強かったので、英語やフランス語でバリバリの差別用語や侮辱的な発言を相手に浴びせていた。その為、一見してどちらが悪いのかは分からない状況になっていたが……。

いや、「外人野郎」とか「調子に乗んなゴミ屑!」とか「日本人じゃない奴は日本から出ていけよ!」などの侮辱に対して「Ferme ta gueule!(その汚い口を閉じろ!)」や「Les gens moches ne font pas d'histoires !(ブサイクが喚くな!)」など中々に口汚く罵り合っていた。

更にそのフランス語まで笑われ侮辱されれば、レオはもう手が出そうになっていた。

 

というか、既に手は出してしまった。

 

ある時、空き教室でアリスが男子生徒達に囲まれ水をかけられたのだ。アリスの胸ぐらを掴もうとする男子達をみて、レオは頭の血管がぶちりと切れてしまったかのような激しい怒りを感じた。そのまま男子生徒達をボコボコにぶん殴ってしまったのだ。体格も一回り違うし、格闘技を習っていて筋肉量にも大きな差があった為、数の差は何の問題にもならずレオは圧勝した。アリスも援護として何人かを思い切り殴りつけていた。

 

Va te faire enculer!(消え失せろクソ野郎!)

 

と、吐き捨てた辺りで教師が入ってきて大問題になってしまったのだ。相手方の母親達は訴えてやると喚き立てたが、父がしっかりと対応してくれた為、訴訟問題になることは無かった。

 

父に迷惑はかけたく無かったし、あっちの親達が慌てて頭を下げにきたので、レオはとりあえず許してやることにしたのだ。

 

ただ、学校に行く気にはならなかった。

めんどくさいし気が乗らない。いじめっ子連中も休んでいるらしい。レオは再びため息を吐いて窓を閉めた。

 

(クソつまんねぇな)

 

舌打ちをして、髪をグシャリと乱した。

その時、何やら良い香りがただ寄ってきた。

 

「兄さん起きてる〜?ご飯!」

 

妹の、澄んだ声だった。「今行く」と返事をしてレオは寝巻きから適当なジャージに着替えて顔を洗い、ダイニングテーブルへと向かう。

 

「ふふん♪私に感謝しながら食べてよね!」

「ああ、ありがとう」

 

テーブルには昼飯が用意されていた。

サンドイッチは色鮮やかな野菜とハムが見事に重なり、パンの断面からはチーズが溢れ出ている。その横には、新鮮なサラダが盛り付けられ、野菜のみずみずしさが目を引いた。そして、温かいコーンスープは蒸気を立てながら器の中で輝き、その香りが室内に広がっている。アリスは満足そうに料理を眺め、自信に満ちた微笑みを浮かべた。

 

レオはサンドイッチを食べながらテレビをつけた。

 

お昼の番組だ。

テレビ画面には、商店街の風景が映し出されている。明るい街を多くの人々が楽しそうに歩いている様子が伝わってきた。

タレントたちはカメラに向かって笑顔で挨拶をして、商店街を歩きながら様々な店舗を訪れていく。彼らは賑やかな笑い声を上げながら、商品を選び、売り物に興味津々に触れていく。商店街の店主たちは彼らを歓迎し、商品の魅力を説明しながら丁寧に接客する。テレビ画面からは、活気に満ちた商店街の雰囲気が伝わってくる。

 

「あのカレー850円だって」

「商店街なのに高くない?誰がわざわざ買うのよ」

「あんま美味くなさそうだったのにな。それに比べてさっきのメンチカツはめちゃくちゃ美味そうだった」

「テレビだから美味しそうに映してるのよ。きっと学校近くの商店街のコロッケ屋さんのメンチカツと大差ないわ」

「でもテコンドーの帰りに食うと堪らなく美味いんだよなアレ、安い奴なのに」

「私もボクシングの帰りは絶対あそこでハムカツ買ってるわ。結局シンプルなのが一番美味しいのよね」

 

取るに足らない会話を交わしていた時だった。

 

 

【緊急速報】

 

緊急速報と謳っているがどちらかと言えば警報に近い。大きな警報音と共に映像が切り替わった。2人は無言になってテレビを見つめる。テレビには衝撃的な映像が流れていた。

 

「何これ?」

「映画の広告か?」

「でも警報が……」

 

それはあまりにも現実味のない光景だった。

2、3階建の家程の大きさの生き物……あれは生き物だろうか?それが住宅街で暴れているのだ。人を咥えて建物を壊す。確かに映画の一部のような光景だ。

 

【三門市民、三門市周辺に在住の皆様はすぐに避難して下さい。危険です。すぐに避難してください】

 

だがこれは現実のようだ。道路にある赤い染みは血液だろう。

放送されている街は三門市というらしい。

その街は混沌とした状況に包まれていた。巨大な影が街を覆い、白い怪物たちが暴れ回っている。彼らは街を破壊し、建物を崩し、人々を恐怖に陥れた。その姿は人間の想像をはるかに超え、その力強い歩みは地面を揺るがし、建物を蹴散らす。

人々は絶望の叫び声を上げ、逃げ惑い、無力感に打ちひしがれた。警察や消防隊も手に負えず、街はまるで地獄絵図のように変貌していった。

到着した自衛隊が銃を発砲するが全く効いている様子がない。象にBB弾を撃っているようだった。自衛隊員は6本足の虫のような化け物が斬り殺した。その瞬間慌てて映像が切り替わる。

 

【テレビの映像は現在の三門市の様子です。未知の生物が突然現れて街を歩き回っています。空に開いた黒いものは何なのでしょうか?大量の、謎の生物が闊歩しています。すぐに避難してください。

ああ、ビルが、ビルが崩れていきます。】

 

アナウンサーの言葉通り、大きな化け物が体当たりをしてビルを壊していた。なすすべなく人々が蹂躙されていく様子は精神衛生上良くない。一つだけアニメの再放送をしている番組があったのでそれにした。全然知らないキャラが全然知らないキャラと戦っている。

SNSを見てみると生配信している者までいた。女性が虫のような化け物に胸を貫かれている。三門市で検索すれば化け物がたくさん出てきた。

 

人々は無慈悲に殺されていく様子が次々に投稿されていく。怪物たちは容赦なく建物を崩し、襲いかかる。人々は必死に逃げ惑う。

街のあちこちで悲劇が繰り広げられているようだった。

 

(まるで地獄絵図だ)

 

街路は血に染まり、建物の残骸が散乱していた。怪物たちの蹂躙によって、街は一変し、人々の命が奪われていく光景は、絶望を与える。

 

当たり前だがレオにできる事は何もない。気分が悪くなりSNSも閉じた。嫌な沈黙が部屋を支配した。

 

 

 

 

 

 

 

     *    *    *

 

 

 

 

 

 

レオはコーヒーメーカーを使い、コーヒーを淹れる。コーヒーが淹れ上がると、豆の香りが部屋中に広がった。その豊かな香りと濃厚な味わいは、まさに一日を始めるに最高の一杯となる。

 

 

悲惨な侵攻から数ヶ月が経った。

 

テレビをつけたら妙な連中が会見を開いていた。コーヒーを飲みながらそれを眺める。

目元に傷のある男が代表だろうか、側には5人の男が控えていた。狸のような男、狐のような男、眼鏡の男、胡散臭い男、若々しい男。

 

彼らが先日の侵攻について解説を始めた。

 

どうやら、アレらは近界民(ネイバー)と言うらしい。彼らは異次元、別世界からの侵略者で、この星とは違う技術を持っている。その為、地球上の兵器は効果が薄かった。何をしても、怪物に効く様子は無かった。

 

そんな中、突如謎の一団が現れた。

そいつらは言った。

 

『こいつらのことは任せてほしい。

我々はこの日の為にずっと備えてきた』

 

(この日の為に……?)

 

引っかかるところはある。だがそういう裏の事情はレオの知ったところでは無かった。あの時怪物達を倒した奴らの代表がこの6人と言うことだろう。

 

彼らは近界民の技術を独自に研究し、“こちら側”の世界を守る為に戦うらしい。

 

界境防衛機関「ボーダー」

 

どうやらそれが彼らの名前のようだ。そして映像が切り替わる。見覚えのない巨大な建造物が映し出された。

 

『我々は僅か3ヶ月でこの基地を設営しました。これが近界民達の使う特殊な技術です』

「3ヶ月でッ!?」

 

思わずコーヒーを吹き出した。

いくらなんでも早すぎる。異常な技術だ。非常に興味深い現象だ。学校だって作るのに数年はかかるものだ。それより遥かに大きいあの基地を、たったの数ヶ月で。

 

(ヤベェ技術だな、悪用したら天下取れるぞ。日本統一どころか地球統一できんだろ。なんせ未知の技術だ。コイツら政府とどんな交渉したんだよ)

 

そんな時、彼らは一つ気になることを言った。

3ヶ月後三門市にてイベントを行うらしい。地域住民への説明と、ボーダーについての理解を求めるためのイベントだ。

 

「なあアリス!」

「ん?なに」

 

レオはアリスに声をかけた。ボーダーのイベントに共に行こうと誘えば、彼女は二つ返事で了承してくれた。

 

 

 

 

     *    *    *

 

 

 

 

小さなイベント会場では、控えめながらも賑やかな雰囲気が漂っている。

屋台が点在し、色とりどりの食べ物やお土産が並んでいた。地元の人々や観光客が行き交い、半年ほど前の侵攻など忘れ去られたかのような笑顔があふれていた。

 

入ってすぐの辺りには色とりどりの屋台が並んでいた。まず、焼きそばやたこ焼きの香りが漂う食べ物の屋台があり、そこでは地元の名物料理が提供されている。隣には、かき氷やソフトクリームを販売する屋台があり、子供たちや家族連れが並んでいる。また、手作りのクラフトやアクセサリーを販売する屋台もあり、地域の祭りのようだった。

 

どうやら奥では会見が行われているようで、記者達が向かっていくのが見えた。流石にそこは一般人は立ち入り禁止らしい。

 

「普通のお祭りみたいなのね」

「どうせならチョコバナナ買うか」

「チョコバナナよりリンゴ飴が欲しいわ」

「買いに行くか」

 

なんて言って、2人は普通に祭りを楽しんだ。りんご飴の屋台の前にはそこそこの列ができていた。屋台の前に立つと、甘い香りが漂ってくる。砂糖がじんわりとキャラメリゼされ、りんごの表面には美しい透明な飴がかかっている。

 

一口食べると、甘くてサクサクとした食感が口いっぱいに広がる。久々に食べたが中々に美味い。

 

2人はそのままチョコバナナ、イカ焼き、射的などの屋台を周り、ボーダー隊員達が行う舞台も見に行った。

換装体とやらは非常に興味深いものだった。戦隊モノの変身のようだった。原理は分からないが姿が変わり、身体能力が大幅に強化されている。近界民による攻撃以外ではほとんどダメージが入らないらしい。

 

「もう一通り見終わったし、そろそろ帰る?」

「そうだな」

 

帰路に着こうとした時だった。

 

「よう。そこの金髪くん達、ここ寄ってかない?」

 

と声がかけられた。

黒いローブを被った男だ。声の感じからして、年はそう変わらなそうだ。男がくいっと示したのは占いの屋台だった。

 

「占い?うさんくせぇ、オレはいい」

「私もいいわ」

「まあまあそう言わずに、おれの占いの的中率はかな〜り高いんだ。こう見えて結構評判いいんだよ」

「ますますうさんくせぇ」

 

嫌そうな顔のレオを無視して男は2人の背後に回る。そして2人の背中を押して半ば無理やり占いの屋台へと押し込んだ。黒いテントのような雰囲気のある屋台だ。

2人が席に着くと占い師は態とらしい仕草で水晶に手をやり、むむむと唸る。

 

「見えた!」

「何が?」

「2人は明後日誕生日なんだね。へえ、そっか、2人でケーキの食べ放題に行く予定なんだ。仲が良いね」

 

占い師の男が真っ直ぐレオを見てそう言った。レオは僅かに目を見開いて、ようやくこの男に興味を抱いた様子である。アリスはシンプルにびっくり仰天と言った様子だった。

 

「そうそう、今日の帰り道なんだけど、新幹線の駅で売ってる宝くじを買うと5000円あたるかもよ」

「宝くじ?」

「そう!200円のやつ!お得だから、どうせなら買っときなって」

 

レオは胡散臭い奴を見るように顔を顰める。

 

「地元に着いてからはコンビニには寄らないほうがいいね、嫌いな人にばったりあっちゃうから。あと10日後の妹ちゃんが楽しみにしてる格闘技の試合は選手が体調を崩して無くなっちゃうかも」

「嘘でしょ!?」

「1ヶ月後にお父さんが犬を飼うみたい、犬種は……詳しくないから分からないんだけど、大型犬だと思うよ。黒と茶色の可愛らしい子だ」

「へぇ……」

「2ヶ月後、君の地元に雪が降るかもね。珍しく積もるみたいだ」

「雪ねぇ」

「3ヶ月後、お兄さんの方はインフルエンザにかかっちゃうかもね。結構重くなりそうだからワクチン打っときなよ」

「……」

「そして4ヶ月後、2人はボーダー隊員になる」

 

男は真っ直ぐ2人を見た。ローブの下から覗く青い瞳と目があった。思った通りの若い男だ。

 

「ボーダー隊員だと?オレ達が?お前勧誘の為に言ってんのか?今までのもその為のブラフか?」

「いいや、違うよ。全部真実さ、君たちは間違いなくボーダーに入隊する。断言できる」

「何で断言できる?」

「おれの占いは結構当たるから。もちろん行動次第で結果は変わるけどね」

「話になんねぇな」

 

レオはさっさと金を払って帰ってしまおうと判断した。財布を取り出そうとしたら「ああいいよ、ここは無料だから」とローブの男に止められる。それを聞いてアリスを連れてさっさと出て行った。

 

ローブの男は2人が出て行ったのを見送ってフードを取る。ふわりと、赤茶色の髪が姿を現した。前髪を撫で上げ、サイドを残してオールバックにすると彼はどこかに電話をかける。

 

『沢村さん、今出てった金髪の2人にパンフレット渡して。双子の兄妹だから顔そっくりだし、見ればすぐわかるよ』

「あら、貴方が態々そう言うって事はそんなに優秀なの?」

『ああ、彼等は強くなるよ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる』

 

男はそう言って電話を切ると、再びフードを被って外に出た。そうして幾人か視界に収めるとその中の1人に再び声をかけるのだ。

 

「よう、そこの学ランの君!ちょっとここ寄ってかない?」

 

そんな中、一つの未来が確定した事が見えて、男は楽しげに笑みを深めた。

 

 

 

 

 

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