ワールドトリガーRTA   作:佐倉シキ

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B級下位戦

 

 

 

転送された仮想空間の名前は市街地B。新人チームである三条隊に舞台を選ぶ権利は与えられた。市街地Bは建造物が密集した住宅街だ。路地や遮蔽物が多く、入り組んだ作りをしている。ここを選んだ理由は単純に斜線がわかりにくいからメテオラで不意を突きやすいと言う一点だけである。

 

参加チームは四つだ。馬場隊、小嶋隊、浅川隊、三条隊である。馬場隊にはアタッカーが2人、ガンナーが2人。小嶋隊はシューター、ガンナー、アタッカー、スナイパーがそれぞれ1人ずつ。浅川隊はスナイパーが2人、アタッカーが2人だ。

三条隊のみ隊員が2人しかおらず、他のチームはMAXの4人まで数を揃えていた。

 

「数の少ない三条隊が不利……なんて、脳みその足りない馬鹿どもはそう思ってるかもな」

「誰が一番強いか分からせてやるわよ!兄さん!」

「ああ」

 

そして、彼らのその言葉に嘘はなかった。

 

転送が完了し、2人は舞台に立った。真新しい隊服に身を包み戦場を見下ろす。オレンジの差し色が入ったミリタリージャケットに白のTシャツ、黒いソリッドカーゴパンツにゴツめのブーツ。完全に綿貫の趣味で作られた隊服だ。アリスは下が短パンに変更されており、ニーハイブーツを履いている。

 

私服と言われても通るその服装はコスプレ感が少なく気に入っていた。だが今は隊服の是非よりランク戦の方が重要だ。

 

「状況は?」

『予定通り。アリスちゃんが上手い事誘き寄せたから乱戦が始まってるわよ。1人ベイルアウトしちゃったけどまた7人残ってるからヤっちゃっていいよー』

「了解だ」

『ダコーって言って』

「何で」

『その方が私のやる気が出るから』

「……了解」

『ア゛ーッ!!!トリオン体じゃ外国語は勝手に翻訳されるんだったッ!!クソクソのクソ仕様だ今に限っては!』

「うるせぇなはっ倒すぞ」

『ひょえ〜』

「キメェな」

 

眉を寄せて呆れたような顔になるが、軽く頭を振って気を取り直す。そして即座に両手にメテオラを出した。

 

「兄さん!準備オッケー!!」

 

妹からかけられた声に従い、わざと荒々しく大きな声を上げ、乱戦地帯にメテオラを投下した。

 

「オラッ!!まとめてくたばれッ!!メテオラァァッ!!」

 

住宅街に輝く弾丸が降り注ぐ。

その瞬間、静かな街並みが揺れて、空気が裂けるような轟音が響き渡った。

 

「何て威力なのよぉ〜ッ」

 

アリスは少し離れた建物の影に身を潜め、固定シールドを使い身を守った。レオの容赦ないフルアタックは次々に降り注ぐ。

 

仮想空間に作られた訓練用の無人の街であるとはいえ、その光景は凄惨だった。メテオラの集中攻撃を喰らった建物は一瞬で瓦礫の山と化し、衝撃波は四方八方に広がり、鉄骨やガラスの破片が空中を飛び交う。壁が吹き飛び、屋根はまるで紙のように舞い上がり、窓ガラスは粉々になって砕け散った。

 

『ひょわ〜〜〜』

 

思っていた以上の爆撃に綿貫はコカコーラのキャップを開けた。完全に観劇態勢である。

 

市街地Bの地面が揺れ、建物が崩れ落ちる音が辺りに響く。煙と埃が立ち込め、視界はたちまち灰色に染まった。爆風に巻きこまれた電柱が無惨にも折れ曲がる。街の中心部が、まさに爆心地と化していた。

 

「ふっ、こんなもんだろ」

 

レオはフルアタックを止め、両手をポケットに突っ込み、先程まで乱戦が行われていた場所にやってきた。

 

風が煙と瓦礫を吹き流し、激しい破壊の跡が露わになる。元々整然としていた住宅街の姿はもはやなく、そこには無残に崩れた建物の残骸だけが広がっていた。

ただし、誰もいないこの街ではすべてが虚構に過ぎない。だが、その無人の静けさが、かえってこの破壊の壮絶さを際立たせていた。

 

画面の向こうで観劇している人々も思わず無言になる。唯一、レオを超えるトリオン量を持つ男だけは不快なものを見たと言った様子で眉を顰めていたが……。

 

だがそんな様子など知った事じゃないレオは前髪を撫で付け、如何にも悪役然とした顔で笑った。

 

「はっはは!!やっぱ世の中才能だなぁ、運がなかったぜテメェら」

 

そんなレオを討ち取ろうとスナイパーが狙撃する。だがそれは、的確に張られたシールドに防がれた。

 

「そりゃ、頭狙いたくなるよな」

 

レオは視線だけをスナイパーがいる方向に向けるが、勝てないと判断したのかスナイパーは即座にベイルアウトしてしまった。

 

スナイパーは恐らくまだ2人いる。そう思い、片手にメテオラを再び出したら、二つの光が続いてベイルアウトして行った。時間はまだまだあるからメテオラで片っ端から壊して引っ張り出したかったが、まあそううまくも行かないだろうとは思っていた。スナイパー全員に逃げられてしまった。

 

「チッ、日和ったか雑魚が」

「そりゃ日和るでしょうよ……テロリストがいるんだもの」

 

アリスは髪についた埃を払いながらレオのそばに立った。兎にも角にも、これで三条隊の初試合は終了だ。7人をメテオラで消し飛ばし、スナイパー達が逃げた為生存点も獲得した。合計9得点。これでB級中位に入る事が出来た。

仮想空間から現実に戻ると、レオ達はすぐにトリオン体を解き、元の肉体に戻って帰り支度を進めた。

 

「あれ、もう帰るの?総評とか聞いて行かない感じ?」

「必要ない。この試合に学ぶべき事なんてない」

「私達予定あるし先帰っちゃうね」

「オッケー。じゃあ私も適当に切り上げて帰っちゃうわ。じゃあね」

 

綿貫は2人に軽く手を振ると、彼女もまた帰り支度を始めた。レオの言う通りこの試合はただの布石だ。つまり綿貫にとっても大した重要性のない試合なのだ。オペレーションの肩慣らしにもならなかった。テーブルの上に広げていた所持品を全てカバンにしまうと、腕を大きく上げて伸びをする。

 

「私もかーえろ」

 

1人しかいない部屋でそうやって呟いた時、三条隊のブースがノックされた。

 

「あれ、忘れ物かな」

 

でも忘れ物なら別にノックなんてしないで入ってくるか、自分たちのブースだし。じゃあ誰か尋ねてきたのか、そう判断した綿貫は「はいはーい」と軽く返事をして扉を開ける。

 

「どちら様か、なぁ」

 

その声は途中で止まり、小さく「わぁ」と呟いた。茶髪の前髪をセンター分けにした見覚えのある男が彼女の眼前に立っていた。男は綿貫の頭越しにブースの中をチラリと見ると目的の人物がいないことに気がついたのか眉を顰める。

 

「三条レオはいないのか?」

「用事があるからって、もう帰っちゃいました」

「……そうか」

「あの〜、二宮さん……彼に何か用事ですか?」

「ああ。まあ、いないなら今はいい。三条隊の次の防衛任務はいつだ?」

「来週の火曜日の午前ですね〜」

「じゃあその任務の後、ロビーで10分くらい待っているように三条レオに伝えておいてくれ。話がある」

「あ……スゥ……了解しました。ただ」

「ただ?」

「待っててくれるか分からないですよ?」

「うん?普通待ってるだろう」

「ま、そうですね。そうですよね。とりあえず伝えておきます」

「ああ」

 

二宮は軽く頭を下げると三条隊のブースを出て行った。その背中を見送って綿貫はため息をつく。

 

(やーっぱ、目をつけられちゃったかぁ……)

 

二宮匡貴。

現在A級一位に君臨する部隊、東隊に所属する天才シューター。入隊当初はその優秀なトリオン量に物を言わせて、それこそ今回の試合のレオのようにぶいぶい言わせていたらしい。だが忍田本部長により東隊に推薦され、入隊するとそこで戦術を学び、一気にまた強くなった。

 

(ちょっと前の自分にそっくりな人が現れたから思うところでもあるのかもなぁ)

 

自分と同じくらいにトリオン量が豊富で、シューター。その豊富なトリオン量に物を言わせた戦術も戦略もない雑な試合展開。

 

(派手な揉め事にならなきゃいいけど)

 

綿貫はそう考えながら、さっさと荷物をまとめて自分も帰路に着いたのだった。

 

 

 

 

 

    *    *    *

 

 

 

 

数日後の夜、三条隊は防衛任務に参加していた。

 

「う〜ん、やっぱ嫌な雰囲気ねぇ。災害の後だからかしら」

「誰もいないからじゃないか?無人の街なんてそうそう目にしないからな」

『しかもボロボロだもんね。ゴーストタウンって奴だ』

「一体ここで何人が殺されたんだかな」

「ちょっと、嫌なこと言わないでよ!」

 

レオは壊れた街に染みついた血の跡を見つけ、それを見ながら何でもない様子でそんな事を言った。だが、それで嫌な事を想像してしまったアリスが怒る。レオはそれに対してあまり反省していなそうな様子で「悪かったよ」と言うと、そのまま夜の街を歩き出した。

 

街は不気味な静寂に包まれている。かつては灯りが点在し、笑い声や生活音が響いていたこの場所も、今では無人の廃墟と化している。災害が通り過ぎた後の街は、まるで時間が止まったかのように凍りついていた。

月明かりが壊れた建物や倒れた電柱の影を長く引き伸ばし、舗道には散乱した瓦礫が散らばっている。窓ガラスは割れ、カーテンが風に揺られて幽霊のように揺れ動く。

かつて賑わっていた通りは今や廃墟と化し、車は路肩で錆びついている。遠くから聞こえるのは、夜風に揺れる木々のざわめきだけ。どこからか漏れ出る水の音が、冷たい夜の空気に不気味に響いていた。

 

その時、

 

ヴ───────

 

『ゲート発生、ゲート発生』

 

警戒区域内にサイレンが鳴り響いた。ボーダーがある三門市は未だ断続的にネイバーによる侵略攻撃を受けており、その出現範囲である地域は“警戒区域”と呼ばれ、民間人は立ち入り禁止となっている。現在レオ達が行なっている防衛任務とは、この警戒区域内をパトロールし、トリオン兵が出現したら可及的速やかにそれを残滅する仕事である。

 

『オッケー、レオ君、アリスちゃん。ネイバーはウチらの担当区域に現れたよー。位置はそっから東北に53メートル。視覚情報に地図を表示するね』

 

その言葉と同時にレオ達の視界には地図が浮かび上がる。2人はすぐさま移動してネイバーの排除に向かった。トリオン体で全力で移動すれば数秒とたたずに目的の場所に辿り着いた。

 

『バムスターとモールモッドだね』

「ただの的だな」

 

レオはつまらなそうに鼻を鳴らすと、両手を翳す。

 

「バイパー」

 

レオの手のひらに浮かんだ光のキューブは細かく分裂すると、バラバラの挙動でモールモッドの体を撃ち抜いた。それでもまだギリギリ動けるモールモッドは追撃を仕掛けるが、残しておいた他の弾の軌道を操り、その頭を撃ち抜いた。

同時に一部の弾はバムスターに向けておいた。そちらは戦闘用のトリオン兵ではないので容易く蜂の巣にすることができる。残滅を確認するとレオは両の手をポケットに突っ込んだ。

 

「便利ね、それ。バイパーだっけ?」

 

その様子を後ろで見ていたアリスが話しかける。

 

「自分で弾道を決められるの?」

「ああ」

『バイパーは変化する弾。撃つ前にイメージで弾道を設定するんだよね。まあ、とはいえ……リアルタイムで弾道を弾ける人は少ないんだ。頭の中がこんがらがっちゃうから。イメージする力、空間把握能力、客観的な視点。これらが高い水準で熟せてようやくリアルタイムの弾道設定を使いこなせるみたいだよ。

聞くだけなら出来そうって思うかもだけど、普通無理だから大抵の人はあらかじめ弾道を設定しておくんだ。使い所が限られるし、難易度高い分使い手は少ないよ』

「だが俺はどうやらこれが一番得意らしい」

『そうなの?』

「俺は昔から複数の物事を同時並行で考えることが得意でね。……まあ、頭の回転は早い方なんだ。やろうと思えばバラしたキューブの一弾一弾全ての弾道を正確に、リアルタイムで弾ける自信がある」

『うわ〜、それってサイドエフェクトって奴じゃない?』

「サイドエフェクト……副作用?何のこと?」

 

首を傾げるアリスにレオは説明した。

サイドエフェクト。直訳すると副作用。高いトリオン能力を持つ人間が稀に発現する超感覚的な技能の事だ。そのトリオン能力が脳や感覚機関に影響を及ぼし、その結果超人的な感覚をもたらす事がある。それらの超感覚を総称して“サイドエフェクト”と呼ぶ。

 

『特殊体質って奴かな……一回ちゃんと検査してもらった方が良いかもね』

「そのうちな」

『絶対行かないやつじゃん。私は詳しいんだ』

 

A級になれば行こうとは思っている。ただ人の口に戸は立てられない。情報はギリギリまで隠しておきたいから、今はまだ行く気がないというだけである。

 

もしかしたら、ただただ脳の処理能力が異常に高いだけかもしれないが、サイドエフェクトの存在を知ってからは十中八九それだろうと確信を持っている。

 

名付けるのならば恐らく、“多重並列思考”。レオは幼い頃から常人の何倍もの処理能力を持っていた。複数のことを全く同時に、並列して、容易く処理する事ができる。画面に100個の文章が表示されていたとして、それら全てを同時に読み、その内容を的確に把握することも出来た。まあ、副作用というだけあってデメリットもある。偶に頭の中がしっちゃかめっちゃかになって猛烈な頭痛に襲われ寝込む事もあるが、便利だからとそのデメリットは大して気にしていない。

 

さて、そんなこんなで防衛任務はトラブルもなく終了した。レオ達は適当な個室に入り帰り支度を進める。そんな中、何かを思い出したように綿貫がレオに声をかけた。

 

「あ!そうだレオ君」

「うん?」

「二宮さんって知ってる?前チラッと名前だけ出した事あるんだけど」

「A級、東隊のシューターだろう。茶髪の」

「お、さすが。調べ済みか」

「そいつがどうかしたのか?」

 

カバンを担ぎながらレオは話を急かす。

 

「や、何か二宮さんがレオ君と話したいみたいで、防衛任務終わった跡、ロビーで10分くらい待っててって言ってたから」

「そうか」

 

“そうか”。まるで同意するような返事だがレオは当たり前のように帰ろうとしていた。彼が足を進める方向はロビーとは反対にある出入り口である。明らかに出会わずに帰ろうとしている。

 

「待って待って待って、え!?行かないの!?やっぱ行かない感じ!?」

「行かねぇだろ。俺は用ないし。めんどくさいし」

「でも二宮さん待ってるかもよ?」

「勝手に待たせとけ。俺はロビーで待っててやるなんて一言も言ってない」

「お゛わぁ〜、っと……え、マジで帰ります?」

「当然だ。用があるならテメーから来いって話だ。何で俺がわざわざ行って待ってなきゃいけねぇんだアホくせぇ」

「……やーっぱそうなるよなぁ、でもまぁ私はちゃんと伝えたからね」

「ああ。文句言われたら俺のせいにしとけば良い」

「オッケー。じゃあね」

「お〜」

 

軽く手を振ってレオは帰って行った。予想通りの展開に綿貫は思わず笑ってしまう。そんな彼女の肩をアリスが軽く叩いた。

 

「本当に兄さんのせいにして良いからね。実際兄さんのせいだしね」

「まぁ予想してたから良いよ。やー、面白いね。絶対揉めるもんね。2人の喧嘩、ちょっと見たいかも」

「会わなきゃ揉めないからセーフよ」

「貴女も貴女だね」

 

アリスもまた「じゃあね〜」と手を振ると小走りで兄を追いかけて帰って行った。綿貫は二宮が待ちぼうけしたら可哀想だなと考え、東隊のオペレーターにメッセージを送ってから帰路に着いたのだった。二宮が怒っていたかどうかは、さっさと帰った三条隊には知る由もなかった。

 

 

 

 

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