ワールドトリガーRTA   作:佐倉シキ

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内気なスナイパー

 

 

 

防衛任務が終わり、さらに数日が経った日のこと。任務もランク戦もないその日、レオはコーヒーを飲みながらボーダーを1人で歩いていた。

 

1ヶ月後に中位戦が行われる。出来ればその前にスナイパーをスカウトしておきたい。そう判断して1人で態々ボーダーにまで足を運んだのだ。

 

(チッ、頭痛ぇ……)

 

だが運の悪いことに今日は頭痛の日だった。もうすぐボーダーに辿り着くというあたりでじわじわと頭が痛くなってきたのだ。普通に歩き回れる程度なので今日の頭痛は軽い方だ。酷い日なんかは失神する。

 

(なるほど、確かに“副作用”だな)

 

上手い名をつけたものだと納得する。

頭痛のせいで、普段から悪い目つきは三割マシで鋭くなっている。ポケットに手を入れ大股で闊歩する姿はまさしく海外産ヤンキー。みんなが思わず道を開けてしまう。そんな時だった、とあるB級隊員の言葉が耳に飛び込んできたのは。

 

「あ、ほらアイツだぜ。三条レオって」

「うわ、マジで外人じゃん。外人が何でボーダーに居んだよ。絶対スパイじゃん!」

 

ひそひそと、そして恐らくレオに聞こえるように、2人は楽しそうに話していた。ぴきりとレオの額に青筋が立つ。不穏な気配を察した他の隊員達はさらに距離を取って行った。

 

「あんだけイキっといて二宮さんから逃げたらしいぜ」

「まじかよだっせー!チキンじゃん!」

「弱い相手を倒して、トリオン量だけでイキってんのにいざとなったら逃げ腰って、ねぇ」

「雑魚相手にしかイキれない骨無し野郎ってことだよ、実際のところは」

 

なんて、壁に寄りかかり楽しそうに話す2人の男のもとにレオは無遠慮に近づく。そして2人の間の壁を長い足で思い切り蹴り抜いた。格闘技経験者によるキレのある蹴りに2人は驚き、思わず背筋を伸ばした。

 

Hé, bon sang!(おいクソッタレ!)

「ひっ」

 

レオはわざとフランス語で話しかけた。大抵の人間は知らない言語で怒鳴られたり捲し立てられたりすると臆してしまう事を知っているからだ。どちらもトリオン体ではない為、相手はレオの言語を理解できない。

 

Vous avez(随分と)de bien vous amuser.(楽しそうじゃねぇか。)laisse-moi(俺も) me joindre aussi(混ぜてくれよ。)

「さ、三条レオ……」

「な、何言ってるかわかんねぇよ」

「……態々俺に聞こえるように悪口言ったんだ、喧嘩売ってんだろテメーら」

 

元々レオは男らしい重くて低い声をしている。それがさらに不機嫌になった事で、ドスの効いた声となっていた。楽しく陰口を言っていた2人はどうして良いか分からず視線を泳がせる。わざと聞こえるように言ったが、いざ反撃されるとどうしたら良いのか分からなくなってしまうのだ。

 

「なぁ、喧嘩売ってんだよな俺に。俺に、喧嘩を売ったんだよな」

「そ、そんなつもりじゃ」

「じゃあどういうつもりだったんだ?言ってみろ」

「え、と……」

「何だよ。何に困ってる。さっきまで楽しそうだったじゃねーか。続けろよ、俺に聞かれても問題ない話なんだろ」

 

レオに凄まれ、2人はさらに縮こまっていく。その情けない様がますますレオを苛立たせた。正直なところ、頭痛の八つ当たりの面もあった。丁度いい的を見つけたので積極的に殴りかかっているだけである。

 

「トリオン量だけでイキってるチキン?」

「そ、それは……」

「逃げ腰の、骨無しやろうだって?」

「事実だろ!散々威張っといて二宮さんから逃げたらしいじゃねーか!」

 

男は追い詰められ、逃げ場がないと判断したのかレオに食ってかかる。レオは青緑色の瞳をさらに険しくしてそいつを睨むと、今度は笑った。

 

「ははッ、言ったなテメー。じゃあ試してみるかい、その骨無し野郎の実力を」

「……は?」

「2対1でいいぜ、相手してやる」

「……本気かよ、俺らはこれでもB級中位に相当するって言われてんだぜ。それを2対1?舐めすぎだろ!」

「トリオン量が多いってだけで勝てる相手じゃねぇってわかんねぇの?マジでやる気かよ」

「丁度いいハンデだろ。一本でも十本でも相手してやるよ。良い肩慣らしになる」

 

陰口を楽しく言うほどには器の小さい男2人だが、彼らにだってプライドはある。ここまで馬鹿にされては黙っていられなかった。

 

「一本でいい、そろそろお前潰してやりたかったんだ」

「分かってねぇなぁ、潰されんのはテメーらだよ」

 

レオは挑発するように笑った。3人が個人戦のブースに入っていくのを見て、ロビーにいる隊員達はざわつきながらも、その勝負の行く末を気にしてモニターを眺める。

だが、勝負は呆気ないものだった。レオのメテオラとバイパーによるフルアタックに耐えられず、2人は一瞬でベイルアウトさせられた。

 

ブースから出てきた2人は顔色を悪くして膝をつく。

 

「分かったか、これが才能の差って奴だ」

「……ッ」

「トリオン量だけでイキってる?バァカ!テメーら如きトリオン量だけで十分なんだよ間抜け!恨むんなら能無しに生まれたテメー自身を恨みな。雑魚はそうやって一生地面だけを見つめておくといい。お似合いだぜ」

 

レオは心底相手を見下して笑うとその場を去って行った。その直後、ロビーに小柄な青年がやってきた。彼の名前は風間蒼也。ボーダーのA級に所属している男だ。小柄故に中学生に間違えられやすいが17歳だ。

 

風間はキョロキョロとロビーを見渡す。2人の男が悔しそうな様子で項垂れているのを見て、どうやら間に合わなかったようだなと理解した。

 

「三条レオはどこに行った?」

「あ、風間さん……三条さんならあっちに行きましたよ」

 

近くにいた隊員に声をかけ、目的の人物の居場所を尋ねる。そうして返事を貰うと、すぐにレオが行った方へと小走りで向かった。態度が悪く、すぐ人に喧嘩を売るレオの態度は看過できない。故に彼と話をし、少しでも彼の態度を軟化させようと考えているのだ。対話が無理なら個人戦で叩き潰して上下関係を叩き込み、無理矢理にでも矯正すべきだと思っている。

 

(ああいう類は強い相手の言う事は多分ちゃんと聞く。二宮もそうだった)

 

彼の脳裏にヤンチャだった頃の二宮が浮かんだ。トリオン量にものを言わせて暴れ回っていた二宮も、東という自分を超えた実力者にあった事で矯正されたからだ。

 

だが、残念ながらレオを発見する事はできなかった。レオが神出鬼没な事は既に把握しているため、まあそういう事もあるかと諦める。もう帰ってしまったのかもしれない。風間はそう判断し、小さくため息をつくと元いた場所へと戻って行った。

 

その背後。

風間がたった今通り過ぎて行ったトイレからレオは出てきた。そして去っていく小さな背にチラリと視線を向けてから、目的地へと歩き出す。

 

(ボーダーって小学生もいるんだな)

 

なんて、中々に失礼なことを考えながら。

数歩歩いてから「あ」と、ようやくその存在に気がついた。

 

(あれ風間か、ひょっとして)

 

風間が非常に小柄な人物である事はレオも把握済みだ。ニアミスだったな、危ない。後頭部を摩りながらそう考えた。彼が来た理由は十中八九レオの態度を注意するためだ。真面目な彼が傍若無人なレオを見逃すはずもない。捕まれば面倒な事になりそうだな。そう考えて、もう少し注意して歩く事にした。

 

さて、とはいえ、今日はここに来た目的を果たさなければならない。階段を降り、白い壁の道を両手をポケットに入れたまま歩き、目当ての部屋へとやってきた。そこはスナイパー達の訓練所だ。

 

訓練所の部屋は、白い壁と白い床が広がるシンプルな空間だ。光沢のある白が反射する淡い光が、部屋全体に清潔感と無機質な静けさを与えている。等間隔に並んだスナイパーたちは100メートル先に設置された直径50センチの的を見据えている。

 

ほとんど10代の若者たちしかいないが、皆しっかりと集中している。彼らは銃をしっかりと構え、狙いを定め、引き金を引く。狙撃の瞬間、銃声が部屋の静けさを裂くように響き渡り、次の瞬間にはまた静寂が戻る。厳しい指導者の監視や厳命はないが、それでも彼らは自分自身に課された課題に真剣に向き合っていた。

 

レオはその様子を静かに観察する。全員の様子をしっかり視界に映し、その全てを同時に観察する。

 

五発撃つごとに、的が遠ざかっていく。距離が伸びるごとに、狙いはより精密さを求められていく。

 

部屋の中には一切の無駄がない。談笑や気を緩めるような仕草も見られないが、それでも空気は決して張り詰めているわけではない。彼らの間には、自然と生まれる静かな連帯感が漂っている。それは、同じ目標に向かって進む者同士の無言の理解だった。

 

(東春秋……とんでもねぇな)

 

訓練室の一番奥、静かに撃つ20歳ほどの男。一切のブレもなく、全ての弾は的確にど真ん中を撃ち抜いていた。息をするように、当然のように、真ん中に吸い込まれていく。もはや訓練の意味はなさそうだ。それほどまでに彼の狙撃は完成されている。

 

(A級一位、東隊。昇格試験でぶつかる可能性もある相手だ。……やっぱり、スナイパーは必要だ。戦闘時に使える選択肢を少しでも増やさないと話になんねぇだろう。A級は舐めてかかっていい相手じゃねぇ。打てる手は打っておくべきだ)

 

レオは訓練が終わったのを確認すると、目をつけた男子の元へと向かって歩いていく。ポケットに手を突っ込んだ目つきの悪いその姿を見てスナイパー達は思わず道を開けた。東はチラリとその姿を確認するが、特に何も言わなかった。

 

レオの視線の先には目元を隠す長い前髪が特徴的な少年の姿がある。少年はライフルを上げ、抱えると小さくため息をついていた。

 

「おーい、そこのお前」

「……はぁ。今日もまた、誰とも話さずに終わった」

「聞いてないのかぁ?」

「これ、いる意味ないよね……辞めようかな……」

 

ブツブツと小さな声で呟くその姿を見て、レオは片眉を上げる。そうしてすぐに笑みを浮かべると、少年の襟を掴んで無理矢理引き寄せた。「ぅえッ!?」と驚きの声を上げる相手を無視して肩を組む。がっちりと捕まえて逃がさない。

 

「あのさァ、人が話しかけてんだから返事くらいしようぜ?常識だと思うな俺は」

「ヒェ……」

 

東はこっそりと聞き耳を立てていた。そしてレオの言葉を聞いて虚を突かれたように少し目を見開き、くすりと笑っていた。じゃあ二宮にも返事をしてやってくれ、拗ねてたぞという声をかけたい気持ちになるが、今は成り行きを見守る。

レオに話しかけられている少年、加瀬はオドオドとした様子で声をかける。

 

「あ、あの、何用…でしょうか…?」

「俺らさぁ、今スナイパー探してんだよね。B級中位以下の雑魚ども捻り潰すのは2人で十分だけどさぁ、それ以上を目指すってんなら俺らのフォローができるスナイパーがいた方が余程安定するわけ」

「へぁ、そ、そうですね?」

「だからさぁ。お前、ウチのチームに入れよ」

「え゛っ!!?」

 

加瀬は目を見開いた。

加瀬、加瀬卓郎(かせたくろう)はボーダーが出来た直後から所属していた。理由は単純に、自分をいじってくる奴らを見返したいからである。癖のある茶髪を馬鹿にされ、オドオドとした態度を馬鹿にされ、割と散々だった。父親の仕事柄いろんな土地を転々としてきたせいで友達もいなく、スケジュールは常に真っ白。そんな自分を変えたいと一念発起しボーダーに入隊した。だがボーダーに入隊したところで人格は変わらない。

人と話す事が苦手だったので黙々と集中出来るスナイパーになったのも良くなかった。結局ここでも加瀬は一人ぼっちのままだった。話しかけてくれる人はいたが、気の利いた返事ができるわけでもなかったので、結局誰も話しかけてこなくなった。

友達が欲しかった。他の人たちみたいにチームを組んで戦ってみたいとも思っていた。だが自分から話しかける事ができない以上それは無理。潮時だと思っていた、ところだった。

 

(や、ヤンキーだ!間違いない!この圧はヤンキーだッ!)

 

加瀬はだらだらと冷や汗を流して返事を考える。“というか、今彼は自分のことをチームに誘ったか?なんで?他にもいろんな人達がいる中でなんで自分なんだ!?”と、頭の中は焦りでいっぱいだ。

だが相手はそうやってウジウジしてる加瀬を待ってくれる類の人間ではなかった。

 

レオは組んでいた腕を外すと、加瀬の肩を掴んで無理矢理自分の正面に立たせた。そうして今度は胸ぐらを軽く掴むと、自分の顔に加瀬の顔を近づける。

 

「“え゛っ!!?”じゃねぇ!!ハイかYESで答えろ10秒以内にッ!」

「ア…ア……」

「声が小さいッ!!」

「ヒョぁ‼︎ は、ハイッ!!」

「よーし、よく言った」

 

そうして青緑色の瞳で加瀬のグレーの瞳をまっすぐに見て急かした。完全に勢いで押し切るつもりだった。そして、その通りになった。勢いに飲まれて加瀬はつい「はい」と返事をしてしまう。途端にレオは掴んでいた手を外すと相手の肩を軽く叩いた。加瀬は現状を飲み込むので精一杯で目を白黒とさせている。その様子を見て、さすがに東は助け舟を出した。

 

「加瀬、本当にそれでいいのかい?」

 

レオはチラリと東に視線を向けるが、特に彼の発言を咎めたりはしない。年長者としての気遣いであろう事くらい察する事ができるからだ。それに彼と揉め事を起こすのは流石にまずいという事くらい理解している。

 

「悪いけど、彼に無理矢理押し切られて入隊とかだったら、俺はちゃんと止めないといけないからな。そういう話はちゃんと冷静に、しっかり自分の意思で考えて決めないと」

 

東は加瀬にゆっくりと声をかける。加瀬は困ったように視線を左右させたが、やがて小さな声で「大丈夫です」と言った。

 

「前々から、チーム戦はやってみたいと思ってたし……それに、三条はずっとこの訓練所を見てて、その上で俺を選んでスカウトしてくれた。それなら俺は、その期待に応えたい」

 

ちょっと怖いけど。そうつけ足しながら加瀬は落ち着きなく視線を彷徨かせる。東はそれを聞き、「そうか、それならいいんだ。頑張れよ」とその肩を軽く叩いた。

 

「悪かったなレオ。部隊の事に口を挟んで」

「別にいい」

「人が話しかけてんなら返事をしろ、常識だ。だっけ?」

 

東は揶揄うようにその言葉を口にする。その先の言葉を察してレオは嫌そうに眉根を寄せた。

 

「だったら二宮にも返事をしてやってくれよ。あいつはお前に興味津々だからな。あんま無視すると二宮が拗ねちゃうぞ」

je ne comprends (俺は日本語が)pas bien le japonais(よく分かりません)

「いや、日本語分かるだろ。さっきまでペラペラ喋ってたじゃないか」

 

惚けたレオを見て東は笑う。笑っている東を見て、なんともやりにくい相手だなとレオは困ったような顔をした。

東が彼を咎めることは無い。レオの目を見ればある程度の事はわかる。この少年はきっと何かを考えて行動している。瞳に、ただのヤンキーには無い理知的な光を宿しているからだ

 

「まあいいや。ランク戦、頑張れよ2人とも。A級まで上がってくるのを楽しみにしてるよ」

「A級ッ!?」

「言われなくても。すぐに戦う事になる」

「言われなくてもッ!?」

 

レオは東に小さく頭を下げ「行くぞ加瀬」と言い、訓練所を出て行った。加瀬は慌ててその背中を追いかけていく。そして彼らが出て行った数十秒後のことだった。訓練所に小柄な人物がやってきたのは。東はその姿を見てきょとりと目を見開く。

 

「東さん、ここに三条レオがいると聞いたのですが、レオはどこに?」

「間が悪いというか、良いというか……タッチの差って奴だな。もう帰っちゃったよ」

「そうですか……アイツがスナイパーの訓練所でカツアゲをしていると聞きまして。貴方がいるのでそれは無いだろうと思いつつ一応来てみたんですけど」

「大丈夫だよ、カツアゲなんてやってないから」

「そうですか」

「……まあ確かに気性は荒いけど、お前達が思ってるような奴じゃ無いと思うよ、俺は」

「……?」

 

東は、レオが訓練所に入ってきた事にすぐに気がついていた。狙撃は続けつつ、その噂の新人の様子をじっと観察していたのだ。レオは壁に寄りかかり腕を組んでスナイパー達の様子をじっと眺めていた。そして、彼の妙な様子に東はすぐに気がついた。

 

(瞳が動いてないな)

 

一人一人を観察しているのであれば、視線は少しずつ動いていく。だがその様子はなかった。彼の目線から察するに、恐らく訓練所全体を眺めている。誰か1人に視線が固定されてる様子はなかった。

 

東は推測する。気性が荒く、トリオン量に物を言わせて戦うような乱暴な男だと聞いていた。そんな奴が、こんな意味のないことをするだろうかと。では何をしているのか、それは簡単に予想がつく。スナイパーのスカウトだ。それ以外で彼がここにくる理由は思いつかない。

この時点で東はレオの評価を改めていた。噂通りの人物ならこの段階でスナイパーのスカウトになどこない。彼はここから先の戦いを見据え、必要な物を取りに来たのだと理解する。

であれば今彼はスナイパー達を吟味しているはずだ。だが瞳が動いていない。一人一人を観察していない。

 

(つまり、アイツはあれで十分なんだ。あの状態で一人一人をしっかりと見定められてるのかもしれない)

 

考える。もし己がレオだったらこの中の誰をスカウトするだろうか。彼らがオペレーターに選んだのは綿貫真凜。職人気質で、仕事には真面目なタイプだ。そして適切な距離感を保つのが上手い。次にアリスとレオ。2人の性格も思考に入れて推測する。スナイパー達の性格もこの訓練を見ていればある程度予測できる。撃ち方、表情、動き、雑談、誰と話しているか。訓練後の様子まで観察すれば、多少はその人間性を予測できる。

 

(俺なら加瀬だ。大人しくて技術が高く、集中して取り組んでいた。そして訓練が終わってすぐ誰とも話さずに帰り支度を始めている辺り、適切な距離感を保ちやすいと判断できる。

もしアイツがたいして観察してないのなら、倉田か水戸あたりに声をかけるだろう)

 

結果として、レオは加瀬に声をかけた。予想通りになったなと東は小さく口角を上げる。

 

(やっぱり、あの状態でしっかり全員を観察していたのか。2、3人ならまだしも、ここにいる78人をしっかり観察したとは驚きだ)

 

サイドエフェクト。その存在に東は思い至った。そしてしっかりと考えて人をスカウトした時点で、彼は考えて動くタイプの理知的な人間である事もわかった。

 

「面白いやつだと思うよ」

 

東はそういうと、風間に軽く手を振って訓練所を出て行った。風間は少しだけその言葉の意味を考える。だが、まあその言葉の意味は自分の目で見定めれば良いかと判断して彼もまた訓練所を出て行ったのだった。

 

 

 

 

 

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