ワールドトリガーRTA   作:佐倉シキ

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B級中位戦 第二戦

 

 

 

 

出水に合成弾を教わってから、個人的に訓練を続けた事で20秒かかった合成時間を5秒にまで縮める事ができた。戦闘で頻繁に使える速度ではないが、不意打ちなど奇襲には使えそうだ。

 

さて、合成弾の話は置いておこう。

あれから日付が経過してB級中位戦の時間が迫って来た。2回目の中位戦である。以前と同じく三条隊はカラオケの個室に居た。

 

「さてさてさーて、次の対戦相手が決まったよ。影浦隊と諏訪隊だ」

「影浦隊は厄介だな。まだ入ってそう時間が経ってないのにもうB級中位にいる。成長力が著しい」

「じゃあ、ここでポイントを稼がれたら、A級昇格戦を目指すライバルになりそうだね……」

「一点差で昇格戦に挑む権利を取れなかったーとかなったら最悪だわ。終わりよ私達」

「だから影浦隊にはなるべくポイントを取らせたくねぇ、MAX1点だ」

「そんな上手い事出来るかなぁ?」

 

個室でたこ焼きをつまみながら4人が話し合う。点を取り合うライバルになりかねない影浦隊に、なるべくポイントを与えないでその上三条隊は大量得点をして勝利する必要がある。

レオの脳裏には太刀川隊の姿が浮かんでいた。一番厄介なのはどう考えても彼らだ。太刀川隊と対戦して、三条隊は一点も取れずに敗北すると言う可能性も考慮する。そのためにライバルとなる影浦隊にポイントを取らせず、ここで三条隊がポイントを稼ぐ事が重要だと考えていた。

 

「とりあえず、2つの部隊を分析してみようか」

 

綿貫はタブレットにまず諏訪隊を表示した。

 

「諏訪隊はガンナーが2人とアタッカーが1人の部隊だね」

「だがそのアタッカーは攻撃より守備を重視している」

「そうなんだよ。このアタッカー、宮崎さんはエスクードを入れてるんだ。エスクードとシールドで2人を守って、守られてる2人が後ろからショットガンでドカドカ撃ってくるって言うのが諏訪隊の戦い方だね」

「エスクードは硬いわよ。使ってるから分かるもの」

「ショットガンか……。映像を見る限りだと威力を重視して射程は短め。だからこそ1発1発の間に少し隙があるね」

「当然相手もンな事は分かってる。タイミングを少しずつずらして撃ってくるから両方に同時に隙が生まれるって事はねぇな」

「合流させると厄介ね」

「今回舞台を選ぶ権利がある部隊は諏訪隊よ」

「ああ。そうなると当然、自分らが有利になる場所を選ぶわな。合流しやすい場所か」

「そうね。“舞台”を選ぶ権利がある“部隊”だからね」

「うるせぇよ」

「ウフフ……」

 

綿貫のダジャレを無視してレオはタブレットを操作し、影浦隊を表示した。

 

「影浦隊は新進気鋭の部隊だね」

「2人しかいないのに一試合だけで中位に上がって来たんだ。凄いね、この人達」

「何言ってんのよ。私達だって一試合で中位に上がったわよ!稼いだポイントもうちの方が上だし、私達が一番凄いわ!ね、兄さん」

「ああ。ここにいる人達も凄いぞ」

「ほら言いなさい。凄いって言いなさいよ、私達の方が凄いって。す〜ご〜い〜」

「俺らは9点取ったぞ加瀬」

「え、あ……うん」

「こら!ダル絡みをやめなさい、鬱陶しいよ!」

「凄いと思うよ、純粋に」

「つけあがるからやめなぁ?」

 

綿貫は呆れた様子でため息をつくと、気を取り直すように咳払いをした。

 

「影浦隊は2人の部隊だね、隊長の影浦くんと北添くん」

「典型的なアタッカーの影浦とガンナーの北添だ。映像を見させてもらったが、随分とまあ攻撃に偏った戦法を取るな」

「それで点が取れるくらい強いって事ね」

 

気になる事はある。影浦の反射神経は異常だ。まるで背中に目がついているとでも言うかのようにスナイパーからの狙撃を回避している。

 

(いや、背中に目というよりも……)

 

違和感がある。だがその違和感の正体は一試合分のデータだけでは掴めなかった。

 

(恐らく、サイドエフェクト)

 

それはこの一試合で掴まなければならないと判断する。これだけの実力者なら、間違いなく上位に上がってくる。もう一度戦う事を想定に入れ、影浦の能力の正体を掴んでおかねばならないと考えた。

 

「諏訪隊が舞台をどこにするかが問題だ」

「超攻撃的な影浦隊と、似た戦法を使うウチだもんね」

「後スナイパーがいるのがウチだけって点も考えないとね」

「諏訪さんが何をしたいか、か……」

「北添くんが開幕早々グレネードを適当に撃ってくるって点もポイントだ」

「じゃあ、狙撃とグレネード、後兄さんの攻撃もやりにくくなる場所がいいわよね。ショットガンは射程が短いからいいけど、射程が長い人にはやりにくい場所かしら?」

「諏訪隊は合流して近距離戦を行いたい。シューターとスナイパーを好きにさせたくない。そうなると……森か」

「森かぁ……」

 

タブレットの画面を森に変える。どこからどう見ても樹海だ。三門市にこのような樹海は存在しない。こんなところでトリオン兵と戦う事なんてないと思うが、一体何を想定しているのかと首を傾げる。

 

「木が邪魔ね、伐採したいところだけど」

「そんな事をすれば誰がそこにいるのかバレる事になる。旋空とアステロイドじゃ樹木の倒れ方が違うからな、勘の良い奴は見抜いてくるぞ」

「そういえば、俺がバッグワーム着たらあそこにスナイパーいるぞってすぐバレるよね」

「当然、そうさせない為に俺らも転送完了次第バッグワームを着る」

「三条隊の位置がバレるね」

「それはもうしょうがない。転送位置を確認して、どう動くかを考える。今回は8人しかいないから、シンプルな戦いになりそうだ」

「ウチが一番やりにくいわね。シューターとスナイパーだし、私も別に機動力とかないしね」

「殴れば?敵を」

「いざとなれば殴るわ。致し方ない」

「殴るんだ」

「ちなみに俺は今回スコーピオンも使うつもりだ」

「だからスコーピオンの練習してたの?こうなるの予想してたから?」

「いつかシューターとしてやりにくくなる舞台が選ばれるだろう事は予想してた。思ってたより早くそのタイミングが来たけどな」

「私も今回はトリガー構成変えるわ。前に言ってた作戦を試してみましょう」

「確かに、それが良いな。同じ作戦を使う奴がいたのなら、後は個々の能力で差がつく」

「よし!おっけー!スコーピオンも作戦も了解。んじゃあそろそろ向かおうか!」

 

立ち上がった綿貫に合わせ、皆が支度を済ませてボーダーへと向かった。ランク戦の時間だ。ブースに入り、時間が来ると3人はすぐに仮想空間へと転送される。目を開けるとそこは──

 

「ッ……、これは……」

『おお、初めて見たなぁ』

 

濃密な雨が森全体を覆い尽くしていた。殴りつけるような威力の雨粒が天から降り注ぐ。落ち葉が叩きつけられ、はじける音が無数に響き渡る。視界はほとんど奪われ、遠くどころか目の前さえ霞んで見えるほどだ。

 

「ゲリラ豪雨みたいだ」

『視覚支援いれま〜す』

「ああ」

 

多少マシになった視界で森を見る。

足元は泥と水が混ざり合い沼のようだった。一歩踏み出すごとに靴はぬかるみに飲み込まれ、引き抜くのに力が必要になる。力加減を間違えると体勢を崩しそうで厄介だ。

風に乗った落ち葉が勢いよく飛び交い、顔に叩きつけられる。耳をつんざくほどの雨音が四方から押し寄せ、空気すら震えているかのようだ。頭上の枝が風に揺さぶられ、枝葉が音を立ててしなるたび、今にも折れそうな不安定さが漂っている。トリオン体故に暑さも寒さも感じない体だが、肌寒さを感じさせそうな雨だ。

 

「サイッアクなんだけど!前髪崩れる!!」

「トリオン体だろうが」

「気分の問題!!」

 

通話で文句を言うアリスに返事をしながら地図を眺める。レオは右上で孤立しているが、アリスと加瀬は隣同士に転送されていた。敵部隊は全員レオとアリス達の間にバラけて転送されている。

 

(バッグワームで3人消えた。諏訪も影浦もこれが三条隊だと気づくはず。普通に考えて孤立してる俺を討ちに来るよな)

 

森で射線を切り、豪雨で足を潰す。徹底的に敵部隊の良さを潰して自分の部隊のペースに持ち込むつもりなのだろう。恐らく靴も豪雨の中動きやすいように作り替えているはずだ。機動力は負けた。さて、どうするか。そう考えていた所でマップ上で更に3人がバッグワームで消えた。

 

(なるほどな)

 

消えたのは間違いなく諏訪隊の3人だ。レオの左と、左下の敵以外の3人だ。これでどれが誰だか全部隊の人間が知るに至った。

 

(合流を阻止したい所だがこの足元じゃ厳しいな)

 

レオが思考を巡らせ、策を改めたところでメテオラが降り注いできた。

 

(北添か)

 

メテオラはレオのそばに落ちて来て森を破壊する。

 

『左下が北添君だね、左の人と速度が違うもん。一応タグ付けしちゃうね』

「ああ、合ってると思う」

 

そう返事をしながら、レオは合成弾を生成した。せっかくだしランク戦で使って慣らしていくつもりなのだ。

 

変化弾(バイパー)通常弾(アステロイド)

 

混ざり合ったトリオンのキューブが一つの弾になる。

 

変化通常弾(コブラ)

 

レオは変化通常弾を24個に分割し、2個ずつに分けて起動を設定する。綿貫の援護を受けながら、空から降り注ぐように弾を打ち出す。7個は全員の側に落ちるように。当然位置が分からない諏訪隊の位置は合流を優先するならこの辺りだろうと予想するしかなかったが。

残った弾は加瀬の射線がここまで通るように、樹木を破壊できる位置に撃ち落とす。

 

こうなると左上で孤立しているのはレオであると諏訪隊にも影浦隊にも知れる事になる。厄介者が孤立しているのだ、当然合流されるより先に倒したいはず。特に影浦隊は攻撃的だ。迷う事なくやってくるはずである。

 

『レオ君、影浦君が来るよ!アリスちゃん到着まで持ち堪えてね!』

「当然だ、倒す気で行く」

 

レオは左手にバイパーを生み出すと、視界に入った影浦に向かって撃つ。蛇のような軌道を描き襲いかかるバイパーを影浦は素早い動きで避けながら向かってくる。

 

(ぬかるんだ地面をなるべく踏まないように根や幹を蹴っているのか。センスがあるな)

 

不意を打つように軌道を変えるが、やはりそれすら分かっていたかのように躱される。

 

(何かあるな)

 

レオがそう感じると同時に、影浦もまたそう感じていた。影浦のサイドエフェクトは“感情受信体質”。自分に向けられる意識や感情が、肌に刺さる感覚となり現れると言うものだ。

 

(気持ち悪ィ)

 

影浦は眉を顰める。こんな事は初めてだった。眼前に立っているのは1人の男なのに、突き刺さる感覚は、まるで複数人から意識を向けられているようなものだ。

 

(他の奴らが狙って来てる訳じゃねぇ。刺さった感覚のところを狙って来たのはバイパーだ。つまりコイツの意識が刺さってた。……コイツ、なんかあるな?)

 

影浦は木の幹を強く蹴り、スコーピオンでレオに斬りかかろうとする。だが、

 

「ッ──!?」

 

レオもまた、まっすぐに影浦に向かって来た。シューターは接近戦を行わない。だがレオから突き刺さる敵意に迷いは感じない。ならば、考えられる可能性は一つ。

 

(コイツ、スコーピオン持ってやがるなッ)

 

レオの腕から伸びたスコーピオンの刃が影浦の首を狙うが、それは防がれた。影浦は右腕から刃を伸ばして攻撃を受け止め、左手でレオの胴を刺し貫こうとするが、止められる。

 

「両手にスコーピオン入れて来たのか。テメェ、シューターじゃねぇのかよ」

「殴り合いは射撃よりキャリアが長いんだ」

 

レオは影浦の胴を蹴り飛ばし距離を取ると、即座にバイパーで攻撃を仕掛ける。影浦は攻撃が来ると理解していた為、余裕の動きで弾丸を避けて踏み込んで行く。

森のぬかるんだ地面に足を取られ、視界は雨で霞み、ただでさえ厳しい条件が戦いをさらに過酷なものにしている。しかし、二人の動きは雨や泥をものともせず、鋭く交錯する。

足先に刃を作った鋭い蹴りを避け、下から切り上げようとするも、上から降って来たバイパーが邪魔をする。

 

(チッ、鬱陶しい!)

 

降り注ぐバイパーを避け、スコーピオンの刃を投げるが叩き落とされる。レオは即座に攻撃に移る。テコンドー仕込みの鋭い蹴りを織り交ぜつつ、体の各所にスコーピオンを生成して殴りかかる。拳に刃、肘に刃、そして蹴りにも刃が混ざり、まるで殴り合いのような荒々しさだ。その中にバイパーが混ざっているんだから溜まったもんじゃない。

 

影浦はほとんど反射神経、自前の能力だけでその攻撃を凌いでいた。押され気味でトリオンも漏れているが、致命的なダメージは受けていない。

レオの蹴りや拳の刃を的確にかわしながら、自身も反撃の刃を次々と繰り出す。その動きは流れるようでありながら、獣のような荒々しさも含んでいた。感情を察知するサイドエフェクトが、常に一歩先を読ませ、レオの攻撃を紙一重でかわし続ける。

 

「さっさと死ね」

「テメェが死ね」

 

豪雨は2人に降り注ぐ。

足元の悪さが厄介だった。ぬかるんだ地面が二人の動きの邪魔をする。だが泥の中で滑りそうになるたびに、レオのバランス感覚が光る。テコンドーや体操の経験からくる重心の取り方が、彼の動きを崩れさせない。一方で影浦は、察知能力を活かしながらも足元の悪さに悩まされていた。

 

(想定外の近接戦のせいでゾエが援護に困ってる。アサルトライフルはあるが俺を巻き込む危険がある。だがンな事言ってる場合じゃねぇな。諏訪隊がいつ来るかわかんねぇし、ここは押すしかねぇ)

 

そもそも初手をしくじった。レオがアタッカーもこなせる事を想定していなかった時点で後手を踏んでいるのだ。背中を見せれば先程の合成弾で討ち取られる危険性が高い為、押し切る事しか出来ない。

 

影浦は即座に指示を出す。そして、レオと影浦の殴り合いのような戦いに北添アサルトライフルの援護が加わった。だがやはりやりにくい。レオの腕を少し削ることはできたがそれだけだ。影浦に当たりそうになり上手く撃つことができない。

 

(レオくんはカゲを上手いこと盾にしてるなぁ〜、これじゃあゾエさん大したことできなそうだよ)

 

援護をしながら、北添は焦る。いつ諏訪隊やアリスがやってくるか分からないからだ。実際、諏訪隊は近くに潜んでいてもおかしくない。

 

『レオ君、諏訪隊を見つけたよ。加瀬君が視認した』

 

綿貫がレオに通信を入れ、マップにマークを入れる。影浦と戦いつつ、レオは思考を巡らせる。

 

「それ、気持ち悪ィな」

「は?」

「テメェの頭どうなってやがる、精神病か?」

「失礼なヤツだ。何の話だ」

「まるで10人以上がこっち見て来てるような感覚だ、気持ち悪ィッ!!」

 

バイパーで影浦を牽制する。

 

(頭の中を覗いた?心を読む?違うな、心を読むのであれば最初の時点で俺がスコーピオンを持っている事は分かったはず。“こっちを見て来てるような感覚”か、……“感覚”?感じとる力、感受性……。刺激を受け取るのか?詳しく分かるわけじゃないんだ。推測するに、相手の思考が感覚として伝わってくるサイドエフェクト)

 

レオは自分の推測を確信に至らせる為、明確にイメージした。並列して、様々な軌道を作る。時間差でバイパーを撃ち込み誘導する。そして最後に隠しておいた一弾で討ち取る算段だ。並列してバイパーをさらに発射し、北添を諏訪隊が待ち構える位置へと追いやる。

 

(頭の中見れるんなら北添に忠告するはずだ)

 

北添は気がつく様子もなくジリジリと諏訪隊の方に近づいて行った。

影浦はバイパーの攻撃を見事に読み切り、仕掛けておいた最後の一弾ですら「バレてんだよッ!」と躱して距離を詰めて来た。

 

(やっぱり頭の中読んでるわけじゃねぇな。それなら俺の攻撃の意味だって分かったはずだ。思考というより、意識や感情がわかると見た方が近いかも知れねぇ)

『この感じだと相手の感情を感知するって感じかな?下位戦で狙撃を避けたのは、スナイパーの敵意を感じ取ったからとか?』

『その可能性が高そうだ』

 

スコーピオンの刃で影浦の攻撃を受け止める。それと同時に“ダダダダッ!!”と豪雨の中でも耳に刺さるような大きな音がした。諏訪隊だ。

 

「あちゃー、やっちゃった〜。ごめんよカゲ〜」

 

咄嗟にシールドを張ったようだが、近距離から乱射されたショットガンの攻撃に耐えられるはずもなく、北添の体は穴だらけになった。

 

【トリオン供給機関破損 緊急脱出】

 

戦況が動く。穴だらけになった北添を見て影浦は驚いた顔をする。レオは一瞬で思考を巡らせた。マップの位置を見て、作戦を考え。それを綿貫に伝えた。

 

『加瀬に影浦を撃たせろ』

『……!オッケー。後でちゃんと伝えなよ?』

 

妙な感情を察知させないよう、レオは諏訪隊に意識を向ける。指示が伝わった加瀬は即座に影浦を狙撃する。当然、影浦はそれを躱した。影浦は1秒にも満たない時間悩むと、舌打ちをしてその場を離脱して行った。ここで不利な戦いを行うより、取れるポイントを取っておこうと考えたのだ。

レオは影浦が去ったのを確認し、近くまで来ているアリスに通信を入れた。

 

『一気に攻めるぞ、アリス』

『OK兄さん、誰が一番すごいか見せてやろうじゃない!』

 

 

 

 

 

 

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