ワールドトリガーRTA   作:佐倉シキ

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B級上位戦終了

 

 

 

「ゴチャついてきたな!まとめてぶっ殺してやる!!バイパーッ!!」

 

レオが好戦的な笑みを浮かべながらフルアタックを仕掛けようと、両手に大きなキューブを浮かべた瞬間だった。

 

(よっしゃ、攻撃態勢に入った!)

 

佐鳥はそれを隙と捉えた。

 

フルアタック。

それはシューターが防御を捨て、全力で攻撃に集中する瞬間。戦術的には圧倒的な火力を誇るが、同時に一瞬の致命的な隙を生む行動でもある。

 

レオは無傷であり、この場で最も厄介な相手だ。最も倒すべき相手。ほとんど反射的な動きで佐鳥は照準をレオの頭部に合わせ、迷いなく引き金を引いた。アイビスから放たれた弾丸は、一直線にレオの頭部を目指す。

 

その時、嵐山の緊迫した声が通信を通じて飛び込んだ。

 

『ダメだ賢!罠だ!』

『……へ!?』

 

嵐山の警告に、佐鳥は反射的に目を見開いた。だが、彼がその意味を理解するより早く、視界が一変する。

 

レオはキューブを消すと同時に、シールドを2枚重ねて展開していたのだ。弾丸は1枚目のシールドを砕いたが、2枚目で完全に止められた。

 

その直後、佐鳥の肩の辺りが大きく弾け飛んだ。

狙撃されたのだ。すぐに状況を理解した。

 

「フルアタックじゃなくてッ、フルガードかよッ!噂と違ってイヤらしい事すんのな、レオ先輩!」

 

佐鳥はその刹那、スコープの先にレオの楽しげな笑みを見た。だが、まだやれる事はある。目紛しく動いている戦況の中、片腕で関口に狙いを定めると引き金を引いた。

 

そして次の瞬間。

全身に走るヒビ、爆発するように砕け散るトリオン体。

 

【戦闘体活動限界 緊急脱出】

 

白い光が佐鳥を包み込み、その姿を戦場から消し去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、時を少し巻き戻そう。

 

レオがキューブを展開し、攻撃の姿勢を見せた瞬間、嵐山は直感的に違和感を覚えていた。

 

その直感は曖昧だったが、嵐山は経験から罠と断じた。そして即座に大声で佐鳥に警告を送る。

 

「ダメだ賢!罠だ!」

 

焦りからか通信に加え、周りにも聞こえるように言ってしまっていたが、その事には気がつかない。

 

だが、その言葉は僅かに遅かった。

 

レオは攻撃を仕掛ける素振りを見せた瞬間に、攻撃をキャンセル。代わりに、狙撃を防ぐための2重のシールドを展開していた。

 

(やられた……)

 

嵐山は奥歯を噛み締める。もっと早く気付いていれば、そう思わずにはいられなかった。だが、過ぎた事より今が重要だ。戦況はどんどん変わっていっている。

 

 

 

「ッ……!」

 

連携して柿崎を討ち取ろうと動いていた春原隊の中で、松浦だけがその存在に気がついた。すぐさま対応に動く、己は間に合わないが味方2人はせめて逃がしたい。グラスホッパーを春原の足元に出し、隣を走っていた関口に対してシールドを起動する。と、同時に聞き慣れない異様な音が戦場に響き渡った。

 

 

──ガガガガガガッ!!

 

次の瞬間、松浦の戦闘体は穴だらけになった。目に映るのは榎本隊の船津が構える重火器、ガトリングガンだ。リーダーの榎本がシールドを張り、嵐山隊の咄嗟に放ったアサルトライフルの反撃から船津を守る。

 

(チッ、しくじった……)

 

次の瞬間、彼の体がヒビ割れ、崩壊していく。

 

【戦闘体活動限界 緊急脱出】

 

松浦のトリオン体は白い光となり、戦場から消え去った。

 

「まっちゃん!?」

 

味方の敗北に驚きつつ、関口もまた射線を避けようと、グラスホッパーを駆使して後退していた。しかし、逃げ切った先でアイビスの一撃が襲う。

 

──ドンッ!

 

スナイパーの最強火力を誇るトリオン銃の弾丸が、関口の胴体を大きく抉り抜く。咄嗟に展開したシールドも、アイビスの威力を防ぎきるには1枚では足りなかった。

 

(クソッ……!2枚張っておけば!)

 

関口の悔恨も虚しく、黒煙のようなトリオンが大量に漏れ出す。

 

【戦闘体活動限界 緊急脱出】

 

春原隊のメンバーが再び戦線を離脱した。そして直後に、加瀬に肩を抉り飛ばされた佐鳥もまたベイルアウトする。時間にして10秒にも満たない間に3人が一気にベイルアウトした。

 

春原隊の関口は佐鳥に、松浦は榎本隊の船津に。佐鳥は加瀬に討ち取られた。

 

得点は三条隊が2点、嵐山隊が2点、榎本隊が1点、春原隊が1点。

 

「攻めるぞアリス、押し切る!」

「分かった!」

 

無傷でこの場を支配する三条隊。その優位性を活かし、レオは即座に指示を飛ばす。アリスが呼応し、エスクードを10枚ほど展開。嵐山隊と三条隊、そして春原隊と榎本隊の間を分断した。

 

厚みと硬度を兼ね備えたエスクードの壁。飛び越えることは可能だが、それは狙撃やシューターの的になる危険を伴う。故に、他部隊の隊員たちはその状況を受け入れ、それぞれ眼前の敵に集中する形となった。

 

『兄さん、私今のでもうトリオンあんまり残ってないわよ』

『分かった』

 

アリスの通信にレオは短く答えると、すぐに次の指示を出す。

 

『加瀬、春原隊達の方を見張れ。終わりそうになったら横槍を入れる。位置の正確な指示は綿貫がやる』

『了解』

 

レオは冷静に次の手を組み立てた。だが、その間にも嵐山隊が動き出していた。彼らの狙いは明らかだ、トリオンを使い果たしつつあるアリスである。

 

 

嵐山隊の攻撃が押し寄せる中、レオは左手を掲げ、瞬時にシールドを展開した。シールドが緑がかった光を放ち、攻撃の全てを受け止める。

 

「バイパー」

 

それと同時に右手にはバイパーを形成した。自由自在に動き回る弾道。レオのバイパーは、瞬く間に64分割され、細かな弾丸が空間を埋め尽くすように広がった。

 

彼はそれらを2個ずつにまとめて射出する。バイパーの弾道は複雑な曲線を描きながら空中を舞い、嵐山隊の陣形を撹乱する。それらは予測不可能な動きを繰り返し、時に垂直に上昇し、時に鋭く折れ曲がりながら標的に迫る。レオの瞳は鋭く輝き、全ての弾丸をリアルタイムで操作していた。

 

嵐山がグラスホッパーを使い、機動力で間合いを詰めようとする。だが、その動きを察知したレオは、再びシールドの位置を変え、間一髪で攻撃を防いだ。と、同時にバイパーで再び距離を取らせる。弾丸が空間を飛び交う音が響く中、彼は微動だにせずその場に立ち続ける。

 

その隣でアリスは迅速にシールドを展開し、時枝の攻撃を受け止める。戦況は絶え間なく動き、敵の攻撃を的確に防ぎ続けた。そして同時に、レオの放つバイパーが嵐山隊の3人の動きを牽制する。まるで複数の猛禽が空中を旋回しながら獲物を追い詰めるかのようだ。それでもレオの表情には焦りがない。むしろ余裕すら漂っている。

 

(兄さんは、もっともっとできるはず!)

 

その言葉は、兄の実力への絶対の自信を示していた。アリスの役割は防御だ。チームの命運を握る盾となり、反撃の機会を待つ。

レオのバイパーが柿崎の態勢を崩した瞬間、そこがチャンスだ。アリスは動く。

 

『私が守るからもう一度フルアタックして!』

『分かった』

 

アリスは即座に動き、エスクードを展開。巨大な盾が地面からせり上がり、レオの側でシールドを張ることで二方向からの攻撃を完全に防御した。敵が突破するには上か背後しかない。即座に状況を判断した嵐山隊の2人はグラスホッパーで三条兄妹の背後を目指す。

 

その一瞬の間にレオは両手に再びバイパーを生成した。数十発の弾丸が輝く軌跡を描きながら空中に散らばる。フルアタックの隙を狙うスナイパーはもういない。

撃ち出されたバイパーの3分の1は嵐山と時枝の動きを制限するのに使い、残りは全て柿崎へと向かう。全方位から襲いかかる弾丸、柿崎に逃げ場はない。

 

『柿崎を狙撃しろ、加瀬。綿貫の指示に合わせるんだ』

『了解』

 

柿崎が動くより先に、綿貫が狙撃のポイントを指示した。

レオはすぐさまバイパーを射出する。描いた弾道は複雑怪奇。まるで360度全てから狙ってきているように柿崎には見えた。

360度全てから襲いくる攻撃を凌ぐには、360度全てにシールドを張るしかない。故に、選ばれるのは固定シールド。

 

だが固定シールドなら、この試合で何回も見ている。打ち破り方ももう把握済みだ。

 

加瀬のアイビスが一発放たれる。真っ直ぐ飛び出した狙撃弾は柿崎の固定シールドに直撃し、頑丈な盾にガラスのような大きな亀裂を走らせた。その瞬間、レオが放った全てのバイパーも軌道を変えた。綿貫が示したポイントを目掛けて、2人の全ての攻撃が収束したのだ。

 

直撃した弾丸は、見事にヒビのあたりを砕いた。

 

「嘘だろ!?」

 

焦る柿崎に逃げ場はない。固定シールドは文字通りその場に固定される羽目になってしまうのだ。最初の榎本の様に足場が崩壊した場合は話が別だが、地面から生やした場合、その様な状況はまず訪れない。

 

結果として、柿崎は立ち尽くすことしかできなかった。そしてシールドが砕ける音と共にバイパーが内部へと侵入し、柿崎の体を抉り飛ばす。

 

【戦闘体活動限界 緊急脱出】

 

しかし休む暇はない。即座に背後にシールドを張ると嵐山隊からの攻撃を防ぐ。相手が撃ってくるバイパーは、こちらのメテオラで叩き落とした。

 

だがそれでも嵐山隊の攻撃がじわじわとレオとアリスの体を傷つけていく。トリオンの供給量が減り、レオの体には無数の穴が空いて黒い煙が漏れ出す。まだまだ耐えられる……事実そうだが、それでも確実に削られていく感覚がある。元々トリオン量の多いレオは踏みとどまっていたが、アリスの体は限界を迎えつつあった。

彼女の身体にはヒビが広がり、その亀裂が黒く不気味に輝いている。

 

『決着つくよ、隣の戦い』

 

加瀬の声を聞き、レオは即座に動いた。メテオラを地面で炸裂させ、濃い砂煙を上げて視界を遮る。それと同時に背後に控えていたエスクードの裏へと身を隠した。もちろんアリスも続く。

そして綿貫の指示に合わせ、手元のバイパーを撃ち出す。

 

バイパーは空中で別れ、ジグザグの線を描いて春原を捉えにかかる。だがその一撃は船津のシールドに阻まれた。それだけでなく、船津はガトリングで攻撃し、春原を仕留めてしまう。

 

「ちっ……!」

 

レオは苛立ちを抑えきれず、舌打ちをした。物事が計画通りに進まない苛立ちが頭の片隅を駆け巡る。しかしよそ見をしている暇はない。次の瞬間、背後で鈍い音が響き、エスクードが崩れ落ちた。

 

「正面突破かよ……!」

 

崩壊したエスクードの向こうに見えたのは、アサルトライフルを構える嵐山だった。彼の目は揺るぎない決意に満ちている。メテオラのアサルトライフルでエスクードを破壊し、時枝がシールドで防御に専念する間に一気に間合いを詰めてきたのだ。

 

煙幕は味方である加瀬の視界も奪い、射線を封じてしまっている。この一瞬が嵐山隊にとっての勝機だと判断するや否や、彼らは突撃を仕掛けてきた。

 

アリスがエスクードをレオの足元に発動させた。瓦礫の斜面を利用して、斜めになる様に飛び出させる。その巨大な盾がレオを後方へ押し上げ、一気に嵐山との距離を取る。だがその代償は大きかった。トリオンが完全にすっからかんになったアリスはベイルアウトした。

 

視界がクリアになるや否や、嵐山は再びメテオラを炸裂させ、砂煙を上げる。距離を詰められたら敗北は確実だ。それを理解しているレオはバイパーで攻撃を仕掛ける。

固定シールドでしか防げないようなバイパーの攻撃に2人の足は当然止まった。

距離を詰められたらレオは負ける。故に距離を詰めさせるわけには行かない。そんなレオの様子を見つつ、時枝は頭を捻る。

 

「嵐山さん、あれ見えますか?」

「ああ、運は俺たちの味方だな」

「おれが撃ちますから、決めてください」

「任された」

 

時枝がある一点をチラリと見つめ、嵐山に声をかける。その視線を追った嵐山はすぐさま意図を察し、頷いた。そして、バイパーの攻撃が一瞬途切れたタイミングを見計らって固定シールドを解除する。

 

時枝はすぐさまそれに狙いを構えた。

レオはそれに気がつけなかった。

 

追いつけない以上、差し違えてでもこちらを討とうとしてくるだろう。そう考えていたのだが、時枝の銃口はレオから僅かにズレたところを狙っていたのだ。

 

(なんだ……?)

 

怪訝に思い、銃口の先に視線を向けようとした瞬間、時枝はそれを撃ち抜いた。

 

(メテオラのトラップッ!?榎本隊のチビの奴か!)

 

チラリと視線を向けた先にあったのは、メテオラのトラップだった。全て作動したと思っていたのだが、どうやら残っていたらしい。瓦礫の隙間にひっそりと残っていたそれは時枝に撃ち抜かれて炸裂した。

 

「ぅわッ!」

 

爆発音と共にトラップが炸裂し、防御が遅れたレオは爆風で吹っ飛ばされた。思わず前に出した右腕が大きく抉れ飛ぶ。

地面に叩きつけられ、転がり、瓦礫にぶつかり動きを止める。抉れた右腕を上げ、それを視界に収めると忌々しそうに大きく舌打ちをして視線を上げる。

 

すると、もう眼前まで嵐山が迫っていた。

 

嵐山の右肩から先は加瀬の狙撃で無くなっていたが、それでも彼は怯まず間合いを詰める。スコーピオンを構え、一気にレオの心臓の辺りを狙って突き刺した。

 

初めての感覚にレオは目を見開く、と同時に顔を顰めた。ただで負けてたまるかと無事な左手で嵐山の首を掴み、スコーピオンを発動してその首を貫いた。互いに刺し合う形で静止する二人。

 

「相打ちか、悔しいな」

「悔しいのはこっちだ、クソが」

 

その言葉を最後に、二人の体に亀裂が走り、そして──

 

【トリオン供給機関破損 緊急脱出】

【伝達系切断 緊急脱出】

 

二人がほぼ同時にベイルアウトすると、戦場には静寂が戻った。時枝はすぐさま射線の通らないところへと身を隠し、バッグワームを着用する。

残ったのはそんな時枝と、スナイパーである加瀬のみだ。もう試合は動かないだろう。皆がそう思った通り、その後は何一つ起こる事なく、試合終了の時間が訪れた。

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

試合終了後、三条隊のブースには悔しさに溢れる空気が漂っていた。

 

「悔しい、悔しい。めっちゃムカつく。ムカつく、くっそ悔しい!」

「bot?」

 

椅子に座ったレオは頭を抱え、髪を乱しながら文句を言い続けている。

 

「兄さんが壊れちゃった〜」

 

隣ではアリスが、画面に映し出された試合のリプレイを眺めながら声を出す。

 

「これ、放っておいて平気?」

「平気よ。テコンドーで負けた時もこんな感じになるから」

「クソ!クソクソ!なんで気が付かなかったんだよ俺は!ムカつく!」

「はいはい切り替えて〜、まだ試合は続くんだからさ」

 

綿貫が画面から目を離さずに宥めるがしかし、レオの「悔しい」連呼は止まらない。

やがて時間が経過し、加瀬が仮想空間から戻ってきた。その瞬間、ブース内の雰囲気が少し変わる。この試合、結果としては三条隊が5点、嵐山隊が4点、榎本隊2点、春原隊2点というものである。

 

一応勝利はしたのだが、納得がいっていないものが2人いた。悔しいムカつくーと髪をグシャグシャにするレオと、私、今度こそ生き残りたかったなーと椅子をぐるぐる回しながら愚痴を溢すアリスである。

 

「でも、ほら……一応は三条隊の勝利だから……」

「それでも悔しいものは悔しい!」

 

両手を広げて怒りを露わにするレオの姿を見て「すしざんまい!」と冷やかす綿貫。その声を聞いて、レオは振り向きざまに「そこ!黙れ!」と一喝した。しかし返事は「黙りませーん」である。綿貫はそのまま話し出した。

 

「にしてもさー、一騎打ちって萌えるよねぇ」

「確かに燃えるわ」

 

空気を変えようと綿貫がそう言うと、アリスが同意を示す。同じ音だが意味は違う、しかしそれに気がついた様子はなかった。

 

「ていうか、なんだけど……いや、そもそもの話だよ?原点に回帰して言わせてもらうんだけどさ?」

「急に何」

「トリオン体ってエロくない?」

「お前は何を言っているんだ」

 

先ほどまでの悔しさも苛立ちも忘れた様子でレオは綿貫を見る。シンプルに理解できないものを見る目だった。

 

「いや、エッチすぎると思うんだ。体が欠損したりさ、文字通りの死闘じゃん?怪我も負わないけど、組んず解れず乱れてさ。こんなもんタダで見れていいんですかね?むしろお金もらっちゃって許されるんですか?」

「ところで兄さん、これで三条隊は合計何ポイントになったの?」

「27ポイントだ。2位は昨日の試合でまた圧勝した太刀川隊で、アイツらは26ポイント」

「結構ギリギリね」

「3位は嵐山隊の24ポイントだな」

「最後のB級上位戦、厳しいものになりそうだね……」

 

妙なことを口走る綿貫を完全に無視し、三条隊のメンバーは次の話題に進んでいた。しかし、ふと何かを思い出したようにレオが立ち上がる。

 

「あ、そういえば……」

 

それだけ言うと、そのまま無言でブースを出ていこうとするレオにアリスが声をかけた。

 

「どこ行くの? 今日はさっさと帰らないわけ?」

「嵐山に会いに行く。先に帰ってろ」

「へぇ、ふぅん。はぁ〜い」

 

軽い返事を背に受けながら、レオはブースを出る。真っ直ぐ嵐山隊の控室に向かったものの、すでにそこには誰もいなかった。

 

「もういないのか……」

 

独り言を呟きつつ、観覧ブースにいる可能性を考えて足を向ける。そこでようやく嵐山の背中を見つけた。

 

「嵐山」

 

レオの呼びかけに気づき、嵐山が振り向く。

 

「ん? レオか、どうした?」

 

自分より年下に呼び捨てにされても気にした様子もなく、嵐山は柔らかな笑顔を浮かべる。

 

「そういえば、さっき試合で会ったけど挨拶は初めてだよな。初めまして、俺は嵐山准だ」

 

そう言って手を差し出す嵐山に、レオは一瞬だけ逡巡した。そして悔しさをぐっと飲み込み、手を握り返す。

 

「三条レオだ」

 

簡潔な自己紹介の後、嵐山が問いかける。

 

「それで、何か用か?」

「なんで罠だと気づいた?」

 

レオは目を細めながら、そう言って単刀直入に切り込んだ。すると、近くにいた佐鳥が会話に割り込んでくる。彼はレオの隣に立ち、肩を掴むと自分の顔を指差しながら興奮気味に言った。

 

「それ、俺も気になってました! どうやって見破ったんですか!?」

 

嵐山は「それか」と呟きながら腰に手を当て、顎を軽く触れる。思案する仕草をした後、柔らかい笑顔で一言。

 

「悪い、内緒だ」

 

その答えに、レオはムッと目を見開く。悔しさが顔ににじみ出ているのを見て、嵐山は少し笑った。

 

「だってまた戦う可能性があるからな。そのとき、同じ手段で罠かどうかを判断できるほうが俺は助かるんだ。おまえ、強いしな」

 

軽い口調で言う嵐山に、レオはますます悔しそうな顔をする。そんな様子を見て、意外と表情が豊かだなぁと嵐山は笑う。

 

「意地悪してるわけじゃないんだ。俺だって負けたくないからさ。自分で考えてみるといい」

 

その言葉を聞くやいなや、レオは瞬時に思考を巡らせ始めた。試合中の嵐山の行動、発言、流れ、すべてを細かく思い返し、頭の中で整理する。当然、今までの自分の言動もだ。並列してさまざまな説を考える。

そして、並外れた速度で結論を導き出した。

 

「セリフだな」

「お、よく分かったな」

 

鋭い視線で断定するレオを見て、嵐山は驚いたように目を丸くする。そんな様子を見てレオは鼻を鳴らし、得意げな顔を見せる。嵐山は感心したように微笑んだ。

 

「お前、罠のときはわざとらしく怒鳴るんだ。普段はそんなに声を荒げないのに、罠だけ目立たせようとしてるだろう?」

「なるほどな……確かに態とらしすぎたか。助言に感謝するよ」

 

短くそう言って、レオはさっさとその場を立ち去る。嵐山は去っていくレオの背中を見ながら、軽くため息をついた。

 

「あーあ、隙が一個減っちゃったな」

「もー、嵐山さんが肯定しちゃうからですよ! 適当にはぐらかせばよかったのに!」

「無理でしょ。嵐山さん、嘘下手だし」

 

佐鳥が抗議の声を上げるが、時枝が冷静に指摘する。

 

「俺、そんなに嘘下手かな?」

 

嵐山は2人を見ると苦笑いを浮かべながら肩をすくめた。

そうやって雑談を交わしつつ、嵐山隊のメンバーもまた帰路についた。

 

 

 

 

 

 

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