それは、兄妹が無事にB級上位戦の一回戦を潜り抜けて数日後のことだった。学校を終えた2人は次の夜の防衛任務までの間、少し時間を潰すために行きつけのコーヒーショップに立ち寄った。
そして、カップから湯気の立つコーヒーをすすりつつ、その足でボーダーへと足を運んだ。本部の入り口から続く広々とした廊下には、忙しそうに行き交う隊員たちの姿がある。
レオは、片手にコーヒーを持ったまま掲示板の前に立ち止まった。そこには、防衛シフトや任務報告、ランク戦に関する情報が整然と掲示されている。彼の視線はそれらを追うでもなく、ただぼんやりと文字の羅列を眺めていた。次の任務のことを考えながら、カップの縁に唇を運ぶ動作を繰り返していると、背後からアリスの声が聞こえた。
「ねぇ、兄さんコレ見て」
その声に、レオは少し遅れて反応した。「何だ」と短く返事をして、彼女が指差す先へと目を向ける。彼の視線が捉えたのは、掲示板の中央に新しく貼られたばかりの一枚の掲示物だった。白い紙に大きく記された文字は、新しいトリガーの実装に関する通知を伝えていた。
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【通知】新トリガー「レイガスト」および専用オプショントリガー「スラスター」の実装について
関係各位
このたび、ボーダー技術開発部において新たに開発された攻撃手用トリガー「レイガスト」および専用オプショントリガー「スラスター」の配備が決定いたしましたので、以下の通りお知らせいたします。
1. レイガストについて
概要
レイガストは既存の弧月、スコーピオンと異なり、防御性能を重視した重装型の攻撃手用トリガーです。大剣を模した形状を持ち、戦闘スタイルの幅を広げることを目的としています。
主な特徴として、形態を切り替える機能が搭載されています。
• ブレードモード:攻撃力を持つ通常形態。
• シールドモード:攻撃力を抑える代わりに耐久力を大幅に向上させた防御形態。耐久力はSSランクで、弧月のAランクを上回ります。
• 変形機能
いずれのモードにおいても、半透明のブレード部分の形状を戦闘状況に応じて変化させることが可能です。
主な用途
防御性能を活かした耐久戦や、柔軟な攻撃スタイルを用いた対多人数戦闘において優れた効果を発揮します。
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2. スラスターについて
概要
スラスターは、レイガスト専用に設計されたオプショントリガーです。トリオンを噴出することで、レイガストの攻撃力、機動力の性能をさらに強化します。
主な用途
状況に応じて攻撃・防御の両面で柔軟に活用でき、特に機動力が求められる戦闘において優れた能力を発揮します。
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3. 配備スケジュール
本日午前9時より段階的に配布を開始します。
4. 問い合わせ先
詳細については、技術開発部までお問い合わせください。
以上
ボーダー技術開発部
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「へぇ、新しいトリガーねぇ……」
レオは掲示物に視線を向けたまま、静かに息を吐いた。彼の頭の中では、新たな武器を手にした場合の戦い方が次々とイメージされていた。これまでのランク戦や実戦で培われた経験をもとに、このトリガーをどう使えば自分たちの戦術に組み込めるのか、早速考え始めているのだ。その様子に気づいたアリスは、掲示板の情報をじっと見つめながら、期待と好奇心を浮かべた表情をしていた。
「見に行ってみましょうよ、エンジニア達のところでしょう?」
アリスはそう言うと、兄の返事を待つことなく踵を返し、軽い足取りで技術開発部へと向かって歩き始めた。その後ろ姿に一瞬目をやったレオは、小さく息をつくと、手にしていたコーヒーを飲み干した。カップを近くのゴミ箱に投げ捨てると、妹の背を追うようにしてその場を離れた。
* * *
「お邪魔しまーす」
アリスの軽やかな声が響き、技術開発部の自動ドアが静かに開いた。中から顔を上げたスタッフたちが手を振ったり「こんにちはー」と挨拶をしてくる。それに対し、アリスは元気よく手を振り返し、レオは軽く会釈をして応えた。
部屋の中を見回したレオの目に、技術開発部特有の独特な空間が広がる。壁際には大量の専門書がぎっしりと詰まった本棚が立ち並び、机の上には見慣れない機械や資料が所狭しと並べられている。各スタッフがパソコンに向かい、忙しそうに作業を進めている。しかし、それらの光景に特別な関心を持たないレオは視線を前へと戻す。すると、入り口付近で見覚えのある背中を見つけた。
「三条兄妹じゃねぇの、この間のランク戦ぶりだな」
その人物……諏訪が振り返り、軽く手を挙げながら声をかけてきた。
「諏訪か」
短く応じたレオに、諏訪はニヤリと笑みを浮かべる。
「お!お前、呼び捨てとは生意気だなぁ」
「外国人日本語分からないから」
「それなら仕方がないけどな、本当かぁ?」
今ペラペラ喋ってんじゃねーか、と笑う諏訪の表情はどこか楽しげだ。そのやり取りを聞きながらアリスも軽く微笑む。
「ま、いいや。お前らもアレだろ?新しいトリガーが気になって来た口だろ?」
「ああ。レイガストを見に来た」
「それなら向こうで寺島が説明してくれるぜ」
諏訪は親指で部屋の奥を指し示しながら、歩き出した。レオとアリスもその背を追うように、足を進めていく。技術開発部の奥へ入るにつれ、より専門的な機械や資料が目立ち始め、部屋の空気は外よりもやや重く静かだった。
「あら?」
奥の部屋に入ったアリスが、首を傾げながら立ち止まる。レオもその横に立ち、同じように首をかしげた。2人が予想していたものとは違う光景が広がっていたのだ。
「随分、凹んでんのな。新しいトリガー作ったってのに」
部屋の中では、椅子に腰かけた寺島が背もたれに寄りかかり、深いため息をついていた。新しい武器が完成したという高揚感は微塵も見られず、むしろ疲労感と落胆が滲み出ている様子だ。
「寺島ぁ、新しい客だぞ」
諏訪はおもしろそうに声をあげると、寺島の椅子を手で回転させ、レオとアリスに向き合わせた。その椅子が回る音がやけに部屋の静けさの中で響き、寺島は面倒くさそうに顔を上げた。
「あんたが寺島か?」
レオは目の前の男を見据えながら問いかける。寺島は椅子にもたれたまま、どこか気だるそうな様子でレオを見返す。
「そうだよ。分かってて来たんじゃないの?」
その返答にレオは片眉を上げる。目の前の男、寺島雷蔵。彼は太刀川とよく個人戦を行なっていたトップクラスのソロ隊員のはずだ。レオ自身もかつて寺島と太刀川の個人戦を観戦し、その技量に感心した記憶がある。しかし、今目の前にいる男を見て思わず眉を寄せた。
(……太ったな)
最後に見た時の寺島は標準体型だったが、今の彼はまるで別人のように丸みを帯びた姿をしていた。けれども、そんな印象を口に出すことはせず、レオはその視線を抑えた。寺島は隣に置かれたファーストフード店のドリンクを手に取り、一口吸い込む。そして、溜息混じりに視線をレオとアリスに向けた。
「どうせ君らも……ハァ……」
彼の態度に、アリスが首を傾げた。
「寺島さんは何でこんなに凹んでんの?」
アリスの素朴な問いかけに寺島は視線をそらし、どこかうんざりした表情を浮かべる。その様子を見ていた諏訪が横から笑い声をあげた。
「ま、使ってみりゃ分かんだろ。おい、三条兄」
「レオだ」
「なら俺は諏訪“さん”だ」
軽口を叩き合いながら、諏訪は寺島に2人分のレイガストとスラスターを用意するよう促した。寺島は無言で準備を進め、少し渋い表情のままトリガーを手渡した。
「とりあえず、使ってみたらコイツが凹んでる理由が分かるだろ」
そう言う諏訪に促される形で、レオは訓練室へと向かう。途中、「いや、レイガスト使うのオレじゃねぇけど」と抗議するレオを、諏訪は軽く押し込むように訓練室の中へ送り込んだ。一方、アリスは部屋に残り、他の技術部員たちと一緒に映像モニターを見守ることにした。
* * *
仮想戦闘場に現れたレオと諏訪。二人の姿が技術開発部の液晶画面に投影される。
レオは手にしたレイガストを起動し、その重量感に思わず目を見開いた。弧月やスコーピオンと比べて、やや重い武器だ。その手応えを確かめる間もなく、諏訪が間合いを詰めてきた。
「そぉら!」
力強い一撃が振り下ろされる。レオはとっさにレイガストを構え、その刃で受け止めた。重い衝撃が腕に伝わるが、ブレードモードの刃は折れることなく耐え抜く。
「せっかくシールドモードなんてもんがあるんだ。変形してみたらどうだ?」
「指図すんな」
そう応じながらも、レオは素早くレイガストをシールドモードへと変形させた。刃が鈍く光り、瞬時に分厚い盾へと変わる。その変化を見た諏訪が笑い声をあげた。
「結局使ってみんのかよ!」
諏訪の大振りな攻撃が盾へと叩きつけられる。重い音が響くが、シールドモードのレイガストはびくともしない。
「かってぇな!お前ほどのトリオン量があるとこんだけ頑丈になるのか!」
その言葉通り、レオのレイガストは諏訪の猛攻を受け止め続け、傷一つつかない。その耐久力に感心する諏訪を横目に、レオは掲示板に書かれていた説明を思い出していた。
(確かこの盾、自在に変形するんだよな)
彼はシールドに意識を集中させ、盾の一部に切り込みのような欠けを作り出した。そして、諏訪の振り下ろす刃をその切り込みに引っ掛けると、すかさずスラスターを発動した。
「スラスター!」
強烈な推進力がシールドを押し上げ、諏訪を宙に放り投げる。諏訪は驚いた表情を浮かべながらも着地に成功した。その間にレオは自らの体勢を立て直そうとした。しかし、スラスターによる強い反動でバランスを崩し、膝を地面につけてしまう。
「よっしゃ!スラスター!」
その隙を見逃さなかった諏訪が、スラスターで一気に加速しながら間合いを詰める。そして、レイガストの刃をレオの肩へと叩き込んだ。
「っ……!」
切り裂かれた肩からトリオンが激しく噴き出し、レオの体にヒビが走る。それは瞬く間に全身へ広がり、警告音が響き渡った。
【トリオン供給機関破損
無機質なアナウンスが告げられると同時に、レオの体は仮想戦闘場から現実世界へと転送された。訓練室のモニターに映るその瞬間を、アリスと技術部員たちは静かに見つめていた。
少しして訓練室から戻った諏訪とレオは、疲れた様子を漂わせながらも現実の体へと帰還した。諏訪は何とも勝ち誇った表情でレオの肩を思い切り叩き、口を開いた。
「どーだ見たか!これが年上の意地ってやつさ!」
彼のからかうような言葉に、レオは舌打ちを返す。
「ま、これで俺らは1勝1敗って事だな」
そして続いた彼のその言葉に、レオは目を細めて即座に噛みついた。
「調子に乗んなよ、こんなもん負けのうちに入んないね!初めて握ったオレと、オレより使い慣れてたお前は対等じゃねぇ。使い熟せる様になったら100%オレが勝つんだよ!」
「だははは!」
「すっごい負け惜しみね」
アリスがさらりそう言うと、レオは露骨に眉をひそめ、鋭い視線をアリスへと向けた。
「アリス!」
不満そうなその声に、アリスは肩をすくめて微笑みを浮かべる。そして、そんなレオをたしなめるように軽く手を振った。
「それで、使ってみたら分かるんでしょ?何が分かったの?」
アリスが話題を切り替えるように尋ねると、諏訪は笑いを引きずったまま顎をしゃくり、寺島に視線を送った。
「午前のうちにな、レイガスト使ってみたいって10人くらいの隊員が来たんだよ」
「12人」
横から寺島が訂正する。その言葉に諏訪は「そうかい」と答えて続けた。
「そんで、その12人は誰一人としてレイガストを受け取らずに帰っちまったんだよな」
再び笑い声をあげる諏訪をよそに、寺島は勢いよく椅子から立ち上がった。彼の目には悔しさと苛立ちが宿り、その声もどこか震えている。
「分かってないんだ!みんなレイガストの良さを!」
その真剣な様子を前に、諏訪は表情を引き締めてレオの方を向いた。
「おいレオ、レイガストの欠点は何だと思う?」
「使い難さ」
「そういうこった。確かに性能面は便利だが、重さと取り回しが厄介でなぁ。来てくれた隊員はみんなレイガストを受け取らずに帰っちまったんだよ」
その一言で寺島の肩はさらに落ち、彼は大きなため息をついた。
「せっかく作ったのに……もう期待できるのは明日見にくるレイジだけだよ……」
その言葉に、アリスが一歩前に出て、明るい声で彼を慰めた。
「何言ってんのよ、まだ私がいるじゃない」
アリスの言葉に、寺島は驚いたように目を見開く。
「私は興味あるわよ、それ」
「……マジで?」
「マジのマジ、2つちょうだいな」
アリスはピースサインを作りながら手を挙げた。その仕草に寺島と諏訪は目を丸くし、驚きを隠せない表情を浮かべた。一方でレオは眉をひそめ、少し考え込んだような様子を見せた。やがて、彼はアリスの意図に気づいたのか、目を見開きながらギョッと彼女を見つめた。
「さすが、勘が良いのね」
アリスは微笑みながらそう言い、寺島の方を振り返る。
「本当に使うのか?」
「本当よ!私が次の試合でレイガストのすごいところ、みんなに見せてやるんだから!」
その明るい宣言に、寺島は顔を輝かせた。彼は急いでトリガーを二つ準備し、アリスの手に渡した。
「任せたぞアリス!君にレイガストの未来を託す!」
「ええ!任せなさいな!」
アリスはそのトリガーを受け取ると、自信に満ちた笑みを浮かべたままレオに近づき、その肩に手を置いた。
「兄さん!早速明日、修行手伝ってよ!」
その無邪気な頼みに、レオは一瞬ため息をついたものの、すぐに了承の返事を返す。アリスの頼みを断れないのは彼の性分だ。そうして2人はそのまま技術開発部を後にした。
後ろで寺島は嬉しそうに手を振り、諏訪は何やら面白そうな予感に口角を上げた。
* * *
後日、三条隊はボーダーの個室を貸し切って集合していた。その目的はただ一つ、新しいトリガー「レイガスト」の試用である。アリスがその実力を試すべく、隊のメンバーを集めたのだった。
個室に設置された仮想空間への転送装置により、レオとアリスは訓練用の戦闘シミュレーター内へと移動する。残された綿貫と加瀬は、観戦用モニターの前に陣取り、2人の模擬戦を見守る。
「さあ!あの後練習したからね、見せてあげるわよ。私の新しい攻撃手段!」
仮想空間に転送された直後、アリスは自信満々に胸を張り、笑みを浮かべる。しかし、それを見たレオはキュッと嫌そうに顔をしかめる。
「……本当に大丈夫なんだろうな」
レオのつぶやきを気にも留めず、アリスは満足げにトリガーを構える。
『それじゃあ、私がカウントダウンして合図を出したら試合開始ね。それでいい?』
通信越しに綿貫が声をかけると、2人は揃って頷く。
「ええ」
「おう」
静まり返る空間の中で、綿貫がカウントダウンを始めた。
『3、2、1──スタート!』
掛け声とともに、模擬戦が始まる。
その瞬間、場の空気が一変した。
アリスはスタートと同時に、迷いなくレイガストを変形させる。拳を覆うような形状へと瞬時に姿を変えたそれは、まるでグローブのようだった。そしてアリスは足元にグラスホッパーを発動させ、一気にレオとの距離を詰める。
レオは驚愕しながらも迎撃を試みようとするが、アリスの動きはそれを許さなかった。グラスホッパーに加えてスラスターを併用したことで、アリスの速度はまるで風のように跳ね上がる。
「なっ、速ッ──!」
その速さに、シールドの展開が間に合わない。
アリスの拳が、レオの腹部を正確に突き刺した。
「ッぐ!」
衝撃が走る。鋭い一撃がトリオン体の表面を砕き、ひび割れが広がっていく。その生々しい衝撃に、感じないはずの“痛み”を思わず脳裏に浮かべてしまうほどだった。
「くっ……」
吹き飛ばされながらも、レオは地面に手をついて強引に体勢を立て直し、かろうじて着地する。その一部始終を見守っていた綿貫が、モニター越しに声を上げた。
『えッへっ!?ちょっと!えぇ!?ちょっとちょっと!?良いんですか!?すっごいもん見た!!』
「綿貫さんってさ、変わってるよね……」
加瀬が呆れたような声で言う。レオはそれを聞き流しながら顔を上げた。
(マジか……反応できなかったぞ……)
鳩尾より上、胴体の中央部分には深いひびが入っている。レオはその損傷を確認すると、内心で舌打ちをした。
「もう1発ッ!」
アリスの声が戦場に響く。意気揚々とした様子で構えた拳は、再び攻撃の準備を整えている。それを見たレオは即座に反応し、アステロイドを生成して撃ち放った。
キューブ状のトリオンが瞬時に大きな弾丸へと変わり、正確無比な軌道でアリスへと迫る。だが、その弾丸が彼女に届くことはなかった。
「レイガスト、硬いな……」
弾道の先には、レイガストを盾として構えるアリスの姿があった。攻撃はすべてその堅牢な防御に吸収され、一発たりとも突破することができない。アリスはその場に立ったまま微動だにせず、レイガストをわずかに動かして軌道を調整し、完全に防ぎ切っていた。
レオはその様子を見て小さく笑い、首元にまで達したヒビを指先で軽く撫でた。そして口角を上げ、強気な表情を浮かべる。
「上等だ!叩き潰してやる!」
「やってみなさい!私が勝つからね!」
レオの力強い声に、アリスもまた自信たっぷりに言い返す。その目は、次の一手への意欲に燃えていた。
彼女は再び地を蹴り、レオに向かって突進を仕掛けた。スラスターの助力を借りて鋭く加速し、拳を突き出す。その速度は先ほどの攻撃と同様、恐るべき速さだった。
だが、今回は違う。レオはその動きを読み切り、瞬時にシールドを展開する。アリスの拳はそのシールドに直撃し、激しい衝撃音とともにトリオンの破片が散った。シールドにヒビが入る。それでも、レオは見事にその一撃を防ぎ切った。
「まだよ!」
アリスは一歩も引かず、すぐさまもう一方の拳を振りかぶる。だが、レオは後退し、その攻撃をひらりと躱す。アリスは構わず攻勢を続けた。
「そら!こっちも攻めるぞ!」
レオは足元の地面を蹴り、すれ違いざまにキューブを生成してバイパーを放つ。しかしアリスはその攻撃を再びレイガストで防ぎ、さらに間合いを詰める。
アリスの攻撃は次第に勢いを増す。それに対してレオは、防御を強化しながら反撃のタイミングを探る。
そして、その時が訪れる。
アリスの拳が迫るのを見たレオは身を捻り、攻撃を躱すと同時に腕を伸ばしてキューブを浮かべた。その瞬間、目の前に光る刃が見えた。
「ッ!」
アリスが変形させたレイガストのブレードが、レオの右手に直撃する。その鋭い一閃が、レオの手を切り落とした。
「ちっ……!」
レオは舌打ちをしながら後退し、体勢を立て直す。だが、アリスはその隙を見逃さない。
「逃がさないんだから!」
叫びとともにスラスターで加速したアリスは、一気に間合いを詰め、拳を振り下ろす。
拳がレオの顔を狙う……しかし、その攻撃は彼に届くことはなかった。
レオは楽しげな笑みを浮かべ、顔の前にシールドを斜めに張り、その拳を逸らす。慌てて体勢を整えようにもアリスの勢いは止まらず、拳は大きく軌道を外れて宙を切った。
「ッぁ……!」
攻撃の失敗に一瞬焦りが走る。アリスは目を見開き、動きを止めた。
その瞬間、
(やられたッ!)
滑らかに回転するレオの姿が見えたかと思うと、次の瞬間には首元に衝撃が走った。
レオの回し蹴りが、アリスの首に正確に命中したのだ。その足の裏からはスコーピオンが伸び、鋭い刃が突き刺さるようにアリスのトリオン体を切断していく。
「悪いけど、兄貴は妹には負けないんだよ」
レオの声が冷静に響く。その言葉を聞いたアリスは、顔を顰めて叫びを上げた。
「ッ、悔しいぃぃぃッ!!」
次の瞬間、アリスの体に黒いヒビが広がっていく。
【伝達系切断
その叫びを最後に、アリスはベイルアウトした。光の粒となって仮想空間から消え去る彼女を見送りながら、レオは大きく息を吐いた。そして、自身もその場から現実世界へと戻った。