次で終わらせる──
3人の意識が奇しくも同じ方向に向いていた。お互いを仕留めるための準備が整っていく。
「バイパー!」
「旋空弧月」
レオが瞬時にバイパーを生成したその刹那、太刀川の旋空が放たれる。その斬撃は、正確無比にバイパーのキューブを斬り裂き、爆発を引き起こした。爆風が周囲の霧を一瞬だけ吹き飛ばし、瓦礫と塵が宙を舞う。その中でレオは即座にシールドを展開し、爆発を凌いだ。
その防御の隙を突くように、影浦がスコーピオンを振るって突進してくる。だがレオも即座に反応し、スコーピオンで攻撃を受け流す。武器の衝突音が響き渡る。
「チッ!」
影浦が苛立つ中、今度は太刀川が間髪入れず斬撃を繰り出す。その動きは迅速かつ力強い。だがレオはそれを見切り、身を翻すように転がり、寸前で回避する。しかし反撃を狙った瞬間、影浦の回し蹴りが鋭く彼の腹部を直撃した。
──ドッ!
衝撃が腹部を貫き、レオのトリオン体に深い傷が刻まれる。スコーピオンの刃が影浦の足裏から伸び、レオの腹部を貫通した。
「ッ──」
咄嗟に身を捩り、急所だけはどうにか避けることができた。だが、次の瞬間、太刀川がグラスホッパーで加速し、一気に仕留めにかかる。斬撃の軌道が視界の隅を駆け抜ける。
──バギン!
レオは咄嗟にシールドを展開し、辛うじて防ぐ。太刀川の重い攻撃の衝撃が全身を襲う中、立ち位置を変え、巧妙に太刀川を自分と影浦の間に立たせた。その結果、レオへの追撃を狙った影浦は咄嗟に標的を変え、そのスコーピオンは太刀川を狙う形となる。だが、それも当然のように防がれる。
その隙をついてレオは一気に後退し、再びバイパーを生成した。
(今度はフルアタックだ……ぶっ潰す!)
そう心に決めたレオは、生成した弾丸を瞬時に分割。そして、それを一斉に射出した。大きな弧を描いた無数のバイパーが、空から雨のように降り注ぐ。
だが……
「ハハ、やるじゃねぇか!」
太刀川が笑みを浮かべながら固定シールドを発動し、全方位から襲いかかる弾丸の雨を凌ぐ。影浦もシールドを分割し、降り注ぐ弾丸を巧みに防ぎつつ、上からの攻撃が途絶えた瞬間に再びレオを狙って動き出す。
その動きを察知した太刀川が、シールドを解除して旋空を影浦に向けて放つ。影浦は振り向きもせずにそれを紙一重で避けると、すかさずスコーピオンを投げ飛ばして太刀川を牽制する。そして、同時にレオへの攻撃の準備を整える。
一方、レオはシールドで旋空を防ぎ、さらに影浦の斬撃をスコーピオンで払い飛ばす。だが影浦はそのまま斬撃をしならせ、近くの住宅を破壊した。瓦礫が二人に降り注ぐ。トリオン体である以上潰されてもダメージは負わない。だが目眩しが邪魔なのは同じだ。
視界が遮られ、瓦礫による目眩ましが効果を発揮する。
(やっぱりかッ)
影浦は瓦礫がぶつかりながらもその場から動かないレオを見て、ある確信を深めた。そしてバイパーによる攻撃で体が削れるのも構わず、レオの懐に飛び込む。至近距離で再びスコーピオンを振り、うねる斬撃でレオの肩を深く切り裂いた。
一気にトリオンが噴き出した。しかし次の瞬間、撃ち切ったはずのバイパーが、上空から再び降り注いできたのだ。
いつぞやと同じ、2段階の攻撃。しかし、
「読めてんだよ!テメェのやりそうな事はなァッ!」
影浦は即座にスコーピオンを伸ばして建造物に引っ掛け、収縮させ、バイパーの不意打ちを回避しつつ一気にレオの背後を取った。
「なッ!?」
「死ねコラァ!!」
影浦の渾身の蹴りがレオの胸元を正確に捉える。足から伸びたスコーピオンの刃が、レオのトリオン供給機関を刺し貫いた。
「クッソがッ……!」
悔しそうに顔を歪めるレオの全身にヒビが広がっていく。
【トリオン供給機関破損
そして、その体が緊急脱出の光に包まれ、霧の中から消え去った。
──だが、その直後。
「片方取られちまったが、お前は貰うぜ」
太刀川の声と共に、影浦の体が真っ二つに切り裂かれた。
「ッ、畜生が……!」
影浦は最後に残されていたバイパーに邪魔され、致命的な一撃を避けきれなかったのだ。
【戦闘体活動限界
顔を歪めた影浦は、レオに続くようにベイルアウトして行った。次の瞬間、
「ッ!?」
視界の端に光がチラつき、太刀川は慌ててシールドを張って後退した。だが、完全には回避しきれなかった。レオが残しておいたバイパーがいくつか襲いかかってきたのだ。
「ありゃりゃ、久々にダメージ負ったな」
太刀川は腕に開いた穴を振りながら笑みを浮かべた。
『ごめーん太刀川さん。警戒しろってちゃんと言っとけば良かったね……』
通信越しに国近が申し訳なさそうに声をかける。
「いやいや、気にしなくていい。んな事よりさっさと出水達のとこへ向かうか」
太刀川は軽やかな足取りで、霧の街の奥へと進んでいった。
* * *
トリオン体を破壊されたレオは、個人戦の個室に転送された。そこにはベッドが一つ置かれており、レオの身体は重力に引かれるようにその上へと落ちた。
「っ……」
痛みを感じないトリオン体から生身の肉体へ戻ると、途端にレオは頭痛に襲われた。脳みそそのものが熱を持っているかのような感覚に、思わず両手で顔を覆う。まるで限界を超えて働かせた脳が抗議するかのようだ。
そんな彼の様子を見ていた綿貫が軽口を叩く。
「お、どうしたどうした? 脳味噌オーバーヒートした?」
「した……」
いつもより力無い声でそう答えるレオに、綿貫は少し心配そうな目を向ける。そして隣の椅子を指差した。
「それは大変だ。でもそこに寝てると、次に誰か戻ってきたとき踏み潰されるからね。休むならこの椅子にしたほうが良いよー」
その言葉に従い、レオは鈍い動きで体を起こし、ベッドから立ち上がると椅子へ腰掛けた。しかし、頭痛のせいで普段以上に眉間にしわを寄せ、表情は普段の倍以上に凶悪なものとなっている。
『ねぇ、兄さん落ちたでしょ?凹んでる?』
ヘッドセット越しに通信が入る。アリスの明るい声が綿貫を通じて響く。彼女は今まさに嵐山隊と交戦中だ。
『レオ君なら今頭痛でダウンしてるわ。頭回しすぎたのかな?頭の中がこんがらがってコングラッチュレーションだよ、きっと』
「こんがらがっちゃれーしょんだぜ……」
レオがそう呟くと、綿貫が即座に反応した。
『ありゃ大変、ツッコミがこないなんて……偏差値も下がってるみたいだね。今すぐ脳神経外科にぶち込まなきゃ』
「オレは今マジで動きたくねぇから医者が来い」
軽口を叩きつつも、レオの視線は画面の向こうへと向けられる。そこでは、アリスが嵐山隊の二人、嵐山と時枝に囲まれているのが映っていた。
* * *
アリスは嵐山隊の攻撃を前に、どこか燃えるような決意を胸に秘めていた。彼女の脳裏には二人の人物の姿が浮かんでいた。一人は寺島、レイガストの開発者だ。落ち込んでいた彼が観戦しにきている事を把握しているアリスは、ふっと気持ちを引き締め直す。
(さて、レイガストの凄さ、見せてやるわよ寺島!)
アリスはさらに強い意志をその瞳に宿す。脳裏に浮かぶもう一人の人物とは、当然兄であるレオだ。
彼が太刀川と影浦を相手に時間を稼いでくれた。その努力を無駄にしないためにも、自分がここでしくじる訳には行かない。
(兄さんが太刀川達相手に時間を稼いでくれたんだ。私がやらなきゃ、その意味がなくなっちゃう!だったらやるっきゃない!!)
嵐山と時枝が示し合わせたように散会し、それぞれ異なる方向からアサルトライフルの銃撃を仕掛けてきた。アリスはすぐに両手に持つレイガストを盾へと変形させ、即座に防御態勢をとる。両側から襲いくる弾丸を、堅牢なシールドが受け止める。
弾丸がシールドに当たるたび、硬質な音が空間に響き渡る。弧月よりも遥かに頑丈なレイガストの盾は、まるで鋼鉄の壁のように揺らぐことすらない。
「ッ、硬すぎるな!」
嵐山と時枝の眉間に明らかな焦りが浮かぶ。攻撃が通じないと悟った彼らは、互いに軽くアイコンタクトを交わし、一旦距離を取ろうと後退を試みた。
だが、アリスはただでは見逃さない。
「逃がさない!」
左手のレイガストをブレードモードへと戻し、スラスターを起動。鋭い加速を伴い、そのまま時枝に向かって投げつけて牽制する。同時に足元にグラスホッパーを発動させ、一気に嵐山へと飛び寄った。
駆け寄るアリスの姿は、まるで風のごとく速い。嵐山が反応する暇すら与えず、彼女は右手に残ったレイガストをスラスターで加速させ、その勢いのまま拳を突き出した。
「──ッ!」
正確無比な右ストレートが嵐山の左頬を打ち抜く。衝撃を受けた嵐山のトリオン体にヒビが入ると同時に、トリオンが激しく漏出を始める。嵐山は驚きに目を見開き、地面に叩きつけられながら思わず顔を歪めた。そして感じるはずのない痛みを錯覚させられたように呻く。
「う゛ッ、ぐ……」
『えぇいやー!!?嵐山くぅぅん!!?顔!!顔じゃん!えっへへっへ!?ひゃー!!良いもん見させていただきましたッ!!』
『綿貫正気か? お前SなのかMなのかマジで分かんねぇな』
『あのね、美形の悶える姿は健康に良いんだよ』
『意味がわからん』
通信越しに綿貫の興奮した声とレオの冷ややかな声が飛び込んできた。
だが、アリスはその戯言に耳を貸さない。拳を引いた瞬間には既に次の攻撃態勢に移っていた。崩れた嵐山の体勢を見逃さず、追撃のタイミングを狙う。
だが、その瞬間、時枝が嵐山を助けるべく銃口をアリスに向けた……その時だった。
「ッ!」
突然、横合いから弾丸が時枝目掛けて降り注ぐ。新たな乱入者、出水が現れたのだ。
「ッ、出水先輩か……!」
「時枝……と嵐山さんにアリスさんか!」
アリスは乱入者にほんの一瞬だけ視線を向けると、再び嵐山に意識を戻し、彼を仕留めることを最優先とした。
嵐山が起き上がって体勢を整える前に、アリスは即座に左手に再びレイガストを生成した。そして生成した瞬間、スラスターを起動し、弾かれるように嵐山へと飛び込み、その勢いを全身の回転力へと変え、強烈な左フックを叩き込んだ。
フックは身体全体の回転と腕の巻き込み力を利用した一撃で、ストレート以上に破壊力がある。その拳が嵐山の間近に迫った瞬間、嵐山は反射的にシールドを展開するが、アリスの拳はその防御を一瞬で粉砕する。
「なッ!?」
鈍い衝撃音とともに、嵐山のシールドは砕け散る。信じがたい光景に嵐山の目が大きく見開かれた。その威力は嵐山だけでなく、少し離れた位置にいた時枝や乱入者の出水の表情にも動揺を浮かばせた。
それだけではない。この戦闘をモニター越しに観戦している者たちもまた、アリスが操るレイガストの凄まじい威力に圧倒されていた。特に驚愕していたのは、レイガストの開発者である寺島だ。画面越しに戦闘を眺めていた彼は、顎が外れそうなほど口を開け、驚きの声を上げることすら忘れていた。
(思ってた使い方と全然違うッ!!)
そんな彼の隣では、諏訪が腹を抱えて笑っている。
「ぷっ……ッ、だはははは!おい寺島、お前が作ったレイガスト!グローブになってんじゃねえかよ!」
だが、戦場のど真ん中にいるアリスにそのやり取りが届くことはない。彼女の目は嵐山に鋭く向けられ、次の攻撃の機会を逃すまいとしていた。その緊張感の中、さらなる乱入者が現れる。
──ダダダダ!!
銃声が響き、アリスはとっさに身を捻った。反射的にレイガストをシールドモードに変形させ、襲いかかる弾丸を全て防ぐ。瞬間的な判断力がなければ、防ぎきれなかった攻撃だ。
弾丸の射線をたどった先に新たな敵、烏丸が現れる。
「アンタが烏丸?時代遅れは引っ込んでなさい!」
「何のことですか?」
アリスは敵を睨みつけると、間髪入れず挑発的な言葉を放った。烏丸はその言葉に眉をひそめ、怪訝そうに首を傾げたものの、銃口を外すことなく冷静にアリスを狙い続ける。
鋭い視線を交わしながらも、一瞬の隙を突くべく動きが交錯する。アリスは側にあった標識をレイガストで切断し、グラスホッパーを使ってそれを勢いよく烏丸の方へと吹っ飛ばした。思いがけない物理攻撃に烏丸は咄嗟に身を伏せて避けるが、その隙にアリスは再び嵐山へと狙いを定めた。
左手の盾でアサルトライフルの攻撃を防ぎつつ、グラスホッパーを使って一気に距離を詰める。そしてスラスターの推進力を利用した拳を振りかざし、嵐山に迫った。
嵐山は防御を固めるため、シールドを先ほどより小型化し、耐久力を高めた。しかし、それでもアリスの攻撃には耐えきれなかった。ストレートに加え、素早く振るわれた左フックがシールドを打ち砕き、そのまま嵐山のトリオン体に追撃が加えられる。アッパーを叩き込まれた嵐山はたたらを踏み、大きく後退した。
焦り、グラスホッパーで逃走を図る嵐山。だが、それを予期していたアリスは瓦礫を蹴り飛ばし、グラスホッパーにぶつけて先に起動させた。嵐山の逃走手段が奪われる。そして狭まる距離。
追い詰められた嵐山はスコーピオンを展開し、必死の反撃に出る。しかし、アリスはその一撃をもグローブのように変形させたレイガストで難なく受け止めた。
嵐山の焦りは限界に達していた。近距離で銃を撃つ余裕もなく、スコーピオンも通じない。時枝は太刀川隊の2人に足止めされ、この濃霧では佐鳥の援護も期待できない。接近戦ではこちらの身まで傷つけられる恐れがある。
(まずいなッ、打つ手が全然思い浮かばない……ッ)
身体を襲う焦燥感が彼の戦闘リズムを狂わせていく。
彼の脳裏には、これまでの戦闘では味わったことのない“殴られる”という感覚が重くのしかかっていた。トリオン体で撃たれることや斬られることには慣れている。その非現実的な暴力に怯むことは無くなった。しかし、肉体的な“暴力”を間近で感じることは想定外だった。殴られるという行為は斬られる事よりもずっとリアリティがある。その現実感が、結果としてわずかな怯みを生み出してしまう。
「おぉらァァァッ!!」
渾身の叫びとともに、アリスの拳が嵐山の鳩尾を打ち抜いた。その一撃はトリオン体を大きく揺さぶり、ヒビが一気に広がる。赤いジャージの隙間から黒煙のようにトリオンが漏れ出し、嵐山の体が吹き飛ばされかけた……が、その直前にアリスが胸ぐらを掴み、力強く引き寄せた。
予想外の動きに援護を狙っていた時枝は、引き金を引くタイミングを完全に奪われる。一瞬の怯みの間に、アリスはそのまま嵐山の体を宙へ放り投げた。
空中に投げ飛ばされた嵐山を追うように、グラスホッパーを起動してさらに高く投げ飛ばす。その間も、出水と時枝の攻撃がアリスを襲うが、彼女は全てをレイガストの盾で防いでみせた。
『やったれ加瀬!』
『任された』
アリスの通信に応える声が響く。遠く離れたビルの屋上から、加瀬がスコープを覗き込んでいる。濃霧の中、緑色の光が微かに揺れていた。恐らくその光が、嵐山が握るスコーピオンの光だ。慌てて消したようだが、一手遅かった。
加瀬は狙いを定めると、躊躇なくアイビスの引き金を引いた。
弾丸は霧を引き裂き、一直線に進む。瞬く間に嵐山のトリオン体を貫通し、その体は大きく吹き飛ばされた。激しい衝撃により嵐山の体は大穴が開けられる。当然のことながら戦闘体は活動限界を迎え、ベイルアウトし、戦闘エリアから消えていった。
『ナイスショット!』
『ありがとう。アリスさんもナイスファイト』
『ありがと!』
勝利の手応えを感じながら、アリスは清々しい気持ちで再びレイガストを構えた。
(よし、まずは一点!後もう一点!)
アリスの心中に強い決意が浮かぶ。現状、この場で対峙しているのは4人。時枝と出水、烏丸、そしてアリス。荒れた戦場の中、緊張感の糸がピンと張り詰めたような空気が支配している。
さきほどまで戦場の最上部では別の激戦が繰り広げられていた。そこにいたのは太刀川、レオ、影浦の三人。しかし、そのうちレオと影浦はすでにベイルアウトしており、太刀川のみが残存している。だがこの濃霧ではそうそう早く合流する事はないだろう。
となると、スナイパーの佐鳥を除けば、この戦場にまだ姿を見せていないのは柿崎と北添だけだ。
(つまり、上から降りてきてるのは柿崎と北添ね。やたら遅かったのは……そっちはそっちで揉めてたからかしら?)
アリスは戦況を冷静に分析する。マップ上で見えるわずかな動き、そして行動パターンから推測するに、動きが速い方が恐らく柿崎だろう。
『北添くんは乱入するよりも、乱戦のところにメテオラ落としたいだろうしね』
「確かに」
通信越しに送られた綿貫の言葉に、アリスは短く同意を返した。その瞬間だった。
背後で轟音とともに巨大なビルが崩れ落ちた。瓦礫の崩壊する凄まじい音が耳を貫く。だがアリスはすぐに振り返ることをせず、視線を正面に保ったまま冷静に構える。すると、通信越しに綿貫の軽快な声が響いた。
『平気平気!加瀬くんは既に退避済みだよ!まあ完全に巻き込まれなかったかと言うと、それはノーなんだけどね。瓦礫じゃダメージ負わないし、彼はノーダメだよ』
加瀬が狙撃後に逃げるより先に、太刀川が旋空弧月で加瀬のいるビルを破壊したのだ。弾道解析によって狙撃地点が割り出されたものの、加瀬の姿を探す時間を惜しんだ太刀川が、瓦礫で彼を一時的に封じ込めたというわけだ。
(スナイパーの援護が来る前に、私たちを一気に仕留めるつもりなのね……)
アリスは険しい表情を崩さず、眼前の敵を睨みつけた。その視線には鋭い決意が宿っている。絶対に後一点を取る。その意志は揺るがない。
拳を握り直すと同時に、戦況が再び大きく動き出した。
出水と烏丸が連携し、素早い動きで時枝を狙い撃つ。烏丸がエスクードで防御を固めた状態で、出水がハウンドとアステロイドの混合射撃を繰り出した。攻撃は次々と時枝へ迫るが……
「──ッ!」
その弾丸の一部が、時枝が使用したのとは別のシールドに防がれた。柿崎だ。彼が少し離れた位置からシールドを発動し、時枝を援護したのである。柿崎は時枝の側に駆け寄る。時枝も即座にグラスホッパーで跳躍し、柿崎の近くへと移動すると、フルシールドを展開して迎撃態勢を整えた。
柿崎は旋空弧月を振るい、烏丸が展開していたエスクードを正確に切り裂く。エスクードは大きく切り裂かれ、出水と烏丸の防御に綻びが生じた。
嵐山隊の時枝と柿崎、そして太刀川隊の出水と烏丸。二対二の激しい撃ち合いが始まる。空間を埋め尽くすように飛び交う弾丸、戦場は怒涛の混戦状態へと突入していった。
だが、その激戦の最中……突然空から光が降り注いだ。
「ッ、来たわね……!」
次の瞬間、爆音とともにメテオラがあたり一帯に降り注ぐ。圧倒的な破壊力が戦場を飲み込み、激しい爆発とともに瓦礫が空高く舞い上がった。その衝撃は周囲の構造物を次々と粉砕し、視界を遮る煙と砂塵が渦巻く。
地上は混乱の坩堝と化した。どこから攻撃が飛んでくるかも分からない状況の中、互いの陣営はなおも隙を見せることなく戦闘態勢を維持する。
(まだ終わらせない……!)
煙の中で静かに構えるアリスの目は鋭く光り、その拳は力強く握られていた。後一点を取るという執念が、彼女の体を突き動かしている。戦場の行方は、まだ誰にも読めなかった。