降り注いできたメテオラの爆撃が、戦場一帯を無差別に破壊した。建物は軋みを上げながら倒壊し、道路は亀裂を走らせ、瓦礫が次々と飛び散る。爆風に巻き込まれた霧が一瞬で吹き飛び、代わりに舞い上がった土煙が視界を埋め尽くした。激しい轟音が耳をつんざき、地面が揺れ動く。
誰もが瞬時にシールドを張ったり、その場から飛び退いたりして防御を試みたが、今回ばかりは全員無傷では済まされなかった。爆発の余波で、烏丸、柿崎、時枝がそれぞれにトリオン体の損傷を受けている。それでも動きは鈍らせない。戦場の緊張はむしろ高まっていた。
そんな中、レイガストでしっかりと守りを固め、メテオラの強襲を無傷で切り抜けたアリスは、間髪を入れずに動き出した。
「……ッ!」
グラスホッパーを駆使し、一気に加速して出水との距離を詰める。急接近するアリスの姿に、出水は思わず「ゲッ」と声に出して反射的に身を引くが、その一瞬の隙を埋めるように烏丸が間に割り込む。
「京介ナイスカバー!」
即座にエスクードが生成され、アリスの動きを遮断する。その厚い壁に向かって、アリスは迷いなく拳を振り抜いた。
──ドガンッ!
拳がエスクードに命中すると、鈍い音とともに壁全体が軋み、大きなヒビが入る。その威力に、背後の出水が眉をひそめて「どんな威力だよ!」と悪態をついた。これでボコボコに殴られた嵐山のことを思い出して内心同情するほどだった。
拳を引いたアリスに対し、嵐山隊の二人がすかさず反撃に転じる。だが、アリスは左手のレイガストをシールドモードに変形させ、その弾丸を受け止めた。レイガストの硬いシールドは、弾丸の衝撃を受け止めてもびくともしない。
その瞬間だった。
再び、メテオラの砲撃が戦場を揺るがした。だが、今回は無差別な攻撃ではない。狙いは明確に嵐山隊の二人へと向けられていた。
「……!」
突然の爆撃に、嵐山隊の二人は反射的に防御態勢を取らざるを得なくなる。シールドを張り巡らせ、後退し、何とかダメージを抑えようと動く。当然、他の面々がその隙を狙わない理由はない。
(今だッ!)
アリスは即座に動いた。足元に転がっていた瓦礫を蹴り上げ、それが落ちる軌道上にグラスホッパーを生成する。瓦礫はグラスホッパーの上へと落ち、その反発力で弾き飛ばされる。瓦礫は、猛スピードで柿崎の方へと向かっていった。
「っ!」
柿崎は咄嗟にシールドを張って防御する。だが、不意を突かれたことで一瞬驚きの表情が浮かぶ。その一瞬の隙を見逃さず、烏丸がアステロイドを放つが、それをさらに時枝がシールドで防いだ。目まぐるしい攻防が展開されていく。
混戦状態が続く中、アリスは次なる一手に出た。レイガストをブレードモードに変形させ、スラスターを全開にして加速すると、一気に烏丸へと切りかかった。
「っ……!」
烏丸は即座にエスクードを生成して防御に徹する。しかし、スラスターで加速されたレイガストの一撃は、その防壁を真っ二つに切り裂いた。
「まだまだッ!」
体勢を崩したものの、すぐさま強引に立て直し、アリスは烏丸の顔目掛けて左拳を振り抜く。だが、その一撃は烏丸を守るように展開された出水のシールドに阻まれる。拳がシールドに命中し、大きなヒビを入れたものの、完全には破壊できない。
(流石に、コイツのシールドは一撃じゃあ割れないのね!)
そう悟ったアリスは即座に次の動作に移った。流れるような動きで右拳を振り抜き、出水のシールドを叩き割る。砕け散るシールドの音とともに、攻撃がようやく通った。その瞬間、出水と烏丸の意識が完全にアリスへと向けられる。
その隙をずっと待ち続けていた者がいた。
高いビルの一角に身を潜め、オペレーターからの情報を聞きながら、動きを止めて待機していた嵐山隊のスナイパー、佐鳥だ。両手に構えた二丁のライフルを握り締め、静かにその時を待っていた。
「やってやりますよー、佐鳥はやりますよー」
自身を奮い立たせるように小さく呟く。視界を覆う濃霧の中、トリオンの光だけを頼りに標的の位置を大まかに特定する。オペレーターの指示と情報を脳内で素早く組み合わせ、狙いを定める。
──そして、引き金を引いた。
「ッ、先輩ッ!」
警戒していた烏丸が反射的に出水の頭部に小さなシールドを生成し、一発目の弾丸をギリギリで防いだ。だが、ほぼ同時に飛来した二発目を防ぐ術はなかった。
「……っ!」
誰にも予測できなかったその弾道は、出水の左足……太腿から下を正確に吹き飛ばした。突然左足を失った出水は、驚きのあまり大きく目を見開いた。そして次の瞬間にはバランスを失い、崩れ落ちるように地面へ倒れ込む。
太刀川と出水を合流させるわけにはいかない。
それはこの場にいる全員が共通して抱いていた思惑だった。出水の存在を抑えることが、太刀川隊の戦力を分断する最大の鍵。その出水に明確な隙が生まれた今、動かない理由はなかった。
アリス、時枝、柿崎、佐鳥、そして北添。戦場に散らばるすべての視線が、一斉に出水へと向けられる。どれも一切の躊躇を感じさせない、冷徹なまでの殺意を帯びたものだった。全員の標的にされた出水は、状況を一目で理解し、「やっ、べぇ……」と口をついて言葉が漏れた。しかし、その声とは裏腹に、口元にはどこか困ったような笑みが浮かぶ。追い詰められた状況で笑うしかないといった表情だ。
「よぉし!ゾエさんも攻めるよ」
北添のメテオラが、すさまじい火力で出水と烏丸に降り注ぐ。アリスはその瞬間を見逃さず、グラスホッパーを発動。素早く後退し、迫り来る爆発から距離を取った。
──ドォォォン!
激しい爆風が辺り一帯を包み込み、舞い上がった爆煙が視界を遮る。戦場全体に漂う硝煙の匂いと、舞い散る瓦礫の破片が緊張感をさらに高めた。
その煙幕の中へ向け、時枝と柿崎のアサルトライフルが一斉に火を吹く。発砲音が立て続けに鳴り響き、閃光が煙の中を切り裂く。
「くっ……!」
側面からの攻撃に対応するため、烏丸が咄嗟にエスクードを生成して防御を固める。さらに、頭上から降り注ぐメテオラの破壊力には出水がフルシールドで応戦。シールド表面に無数のひび割れが走りながらも、辛うじて防ぎ切る。
「やべぇやべぇやべぇぞ! 京介! 何か案とかねぇの!?」
焦燥感を隠せない出水が叫ぶように問いかけると、烏丸が軽く答える。
「ないっすね。出水先輩が案出して下さいよ。年上なんだから」
「年は今関係なくね!?」
軽口を叩き合いながらも、内心の焦りは隠せない。このままでは数の暴力に押し潰されてしまう。太刀川が到着するまで、まだ時間がかかるという国近の報告が頭をよぎる。定期的に飛んでくる狙撃のせいで、太刀川も容易にこの場へ到達できないのだ。
「っ!」
出水の意識が状況整理に集中しているその瞬間、再びアリスが動いた。レイガストをブレードモードに変形させ、スラスターで勢いをつけた斬撃が烏丸のエスクードを豪快に切り裂く。そして二撃目を狙う。
「ぐっ……!」
咄嗟に弧月を振るい、アリスの攻撃を受け止めた烏丸。鋭い金属音が響き渡り、互いの刃が交錯する鍔迫り合いとなる。同時に北添のメテオラの攻撃が、様子を伺うかのように一瞬止んだ。それを見逃さなかった出水は、一か八かでメテオラを周囲に振り撒き、強引に敵を後退させる。
「くそっ!」
爆風を嫌がった面々が一斉に距離を取る。その隙に出水は体勢を整え、なんとかその場から離脱しようとする。
「させるか……!」
烏丸が援護の為に出水を追おうと前へ踏み出したその瞬間、アリスが再び殴りかかる。全力で放たれた一撃が烏丸のシールドを破壊する。
「っ!」
間一髪で後退することで続く左フックを回避した烏丸だったが、その一瞬の動きが出水との距離を余計に開いてしまう。
(分断された……)
烏丸は眉を顰めた。この状況では連携が大きく制限され、戦況がさらに厳しくなる。
そして、目を離した隙に事態はさらに悪化していた。出水の体にスコーピオンのナイフが突き刺さっているのが視界に入る。嵐山隊による執拗な追撃の結果だ。そして……
──ドンッ!
頭部を的確に狙った狙撃によって、出水のトリオン体が完全に破壊される。
【戦闘体活動限界
反撃の暇もなく、出水は泣き言ひとつ言えずにベイルアウトした。
そして、その瞬間を見逃さなかったのがアリスだった。
全員が出水を狙い、意識を集中させていた今こそが最大のチャンス。アリスはスラスターで勢いをつけたレイガストを全力で北添に向かって投げ放った。
「っ!」
攻撃に気を取られていた北添は、回避の動きが一瞬遅れた。鋭い刃がその腕を正確に切り落とす。銃が瓦礫の上に転がる音が響き、そのままアリスがグラスホッパーで加速しながら接近する。
ブレードモードのレイガストを両手で握りしめ、北添の頭部目掛けて思い切り振り下ろす。
「ごめんよカゲ〜、ヒカリちゃん〜。ゾエさん落ちま〜す」
完全に詰みを悟った北添は、むしろ穏やかな声で通信を送り、個室にいる二人へ静かに終わりを告げた。オペレーターの仁礼の文句が通信越しに聞こえてくるが、どうしようもないものはどうしようもない。
北添は何とかシールドを張るも、スラスターで加速したレイガストの刃はそれを避けるように振り下ろされ、体が真っ二つに切り裂かれる。
【戦闘体活動限界
そして北添の姿は、一瞬で光の粒子となり、戦場から姿を消した。
(よし!これで2ポイント取った!)
アリスは口角を上げて笑う。目的は達成された。これで間違いなく三条隊はA級昇格戦に挑む権利を得られるだろう。抑えきれない喜びが胸中を駆け巡り、思わず笑みがこぼれる。だがその刹那、通信機から届いた綿貫の声がその余韻を断ち切った。
『警戒警戒!太刀川さんが来るよ!』
その声が響いた直後、戦場に轟音が鳴り響いた。太刀川が放つ旋空弧月の一撃が、地面を引き裂き降り注いできたのだ。嵐山隊の二人はその予兆を察知し、跳ぶようにして間一髪でそれを回避する。一方、アリスはとっさにレイガストを構え、シールドでそれを受け止めた。
「随分と楽しそうな事になってんな、俺も混ぜろよ」
低く響く声とともに、太刀川が姿を現す。
その表情にはいつもの余裕が漂い、楽しげな笑みさえ浮かんでいる。圧倒的な実力を誇る剣士の登場に、戦場の空気が一気に張り詰めた。旋空の一撃こそ時枝とアリスに直撃しなかったものの、柿崎の肩を正確に切り裂いていた。
太刀川は剣を握り直し、冷静に状況を見定める。その目は、次に狙うべき標的を選び出そうとしていた。しかし、彼が判断を下すよりも早く、動き出した者たちがいた。
嵐山隊の二人は互いに目配せを交わすと、即座に行動を起こした。太刀川を避けるようにその場を離れ、反対側にいる烏丸の元へ駆け出していく。その結果、戦場にはアリスと太刀川の二人が残される形となった。
(アイツら……私に押し付けやがったのね!)
心の中で悪態をつきつつ、アリスは目の前の太刀川へ視線を向ける。すると太刀川が一歩前に踏み出し、口を開いた。
「おっと、俺の相手はお前がしてくれるのか。妹の方」
「妹の方……ですって……?」
太刀川の一言に、アリスの表情が一変する。顔に浮かぶのは明らかな怒り。青筋が立ち、無意識のうちに拳を握りしめていた。まるでレオの“ついで”のような扱い。それは彼女のプライドを激しく逆撫でするには十分だった。
今までだって“妹”とか、“妹の方”とか、少し軽んじられているなという空気は感じ取っていた。その苛立ちが積もりに積もり、たった今爆発したのである。
「はぁ〜!?超ムカつくんだけど! クソ間抜けそうなツラしやがって、人の名前も覚えられないわけ?上等だわ!今からお前の脳みそに私の存在を刻みつけてやるわよ!」
「お、お前口悪いな」
太刀川が愉快そうな表情で返す。だが、アリスの怒りは収まるどころか燃え上がっていくばかりだった。
「私だってすごいんだってところ、お前に見せてやるんだから!」
アリスは拳を構え、鋭い目で太刀川を睨みつける。その視線を受けて、太刀川がすっと弧月を構えた。
次の瞬間、戦闘が再開された。
太刀川が一気に距離を詰め、鋭い斬撃を繰り出す。アリスはその攻撃を迷いなく拳で受け止めると、即座に反撃のジャブを繰り出した。
──カンッ!
鋭い音が響く。太刀川は左手に持つ弧月でその拳を逸らし、間合いを取る。しかしアリスは攻撃の手を緩めない。右手を振り抜き、太刀川を目掛けて一撃、二撃、そして三撃と畳みかけるようにそのまま連続で拳を打ち出す。
太刀川は冷静に状況を見極め、後退することでそれらを回避。間髪入れずに旋空を放とうとするが、それを許さないとばかりにアリスが再び間合いを詰めてきた。
「お……」
太刀川の目がわずかに見開かれる。アリスの戦い方は、今まで彼が対峙してきたどの相手とも違っていた。迅や風間のようにスコーピオンを駆使するわけでもなく、純粋な打撃戦で攻めてくるタイプだ。間合いが近い分、回避のタイミングも限られる。戦闘の中で太刀川は少しばかりやりにくさを感じ始めていた。
だが、それ以上に彼は──
「面白い」
低く響く声とともに、笑みを浮かべた。弧月を握り直しながら、再びアリスへ視線を向ける。
「悪かったな、さっきの言葉で気を悪くしただろ。兄貴の噂ばっか聞いてたから、お前の事は詳しくなかったんだよ」
「そう、なら今覚えていきなさいな」
アリスは眉間に皺を寄せ、鋭い目で睨み返す。そして姿勢を低く構えた。
「私は三条アリスッ!レオのついでみたいな扱いは許さないから!」
叫びとともに、アリスは全力で攻撃に移る。その猛攻は尋常ではない速さと迫力を持っていた。スラスターで加速した一撃は、弧月の刃ですら折れるほどの威力を秘めている。それを察知した太刀川は、巧みな体さばきと防御でそれらを裁き、スラスターを使用していない通常の打撃だけを弧月で受け流すように動いた。
攻めているのはアリスに見える。だが、一見彼女が優勢に見える状況であっても、太刀川の反撃は確実だった。彼の放つ一撃一撃が、的確にアリスのトリオン体を削り取っていく。黒煙がアリスの体から漏れ出し、明らかに消耗していることを示していた。
「くそ……!」
アリスは舌打ちをしながら、一瞬の隙を探る。目の前に立つ太刀川の余裕のある笑みが、彼女の闘志にさらに火をつける。
追い詰められているのは明らかにアリスの方だ。身体中からトリオンが漏れ出し、彼女の動きにも徐々に精細を欠いた様子が見て取れる。トリオン体に痛みはないとはいえ、損傷の積み重ねは戦闘力を確実に削っていく。戦況を変える術を必死に模索しながら、彼女は太刀川の猛攻をギリギリで受け流していた。
その時だった。狙撃の銃声が戦場に響く。アリスが太刀川の攻撃を両手で受け止めた瞬間を狙い澄ましたように、二発の狙撃が太刀川を目掛けて飛来したのだ。
太刀川はすぐにアリスを蹴り飛ばして距離を取り、即座にシールドを展開。頭部を狙った一発目を防ぐことには成功したものの、続く二発目はシールドの隙間をすり抜けて彼の左手に直撃した。
「ライトニングか……」
太刀川はわずかに眉をひそめるとそう言う。
銃撃による損傷が加わり、すでにレオのバイパーで削られていた左手にはまた穴が開いてしまう。太刀川はその腕がもはやまともに機能しないことを悟った。
一瞬の隙。アリスはそれを見逃さない。
(ここだッ!)
アリスはレイガストをブレード形態に変形させ、太刀川の首元を目掛けて渾身の斬撃を放つ。しかし、彼の反応は速かった。右手に持つ弧月を軽々と動かし、アリスの一撃を正確に防ぐ。
「おいおい、いきなり首は焦りすぎだろ」
太刀川の軽口に、アリスはすぐにブレードを引いた。首を狙う一撃が防がれることは計算済み。彼女の狙いはその先にあった。
「黙りなさい!」
弧月を防御に使ったことでがら空きとなった太刀川の間合いに踏み込むと、左手で放つ鋭いジャブを繰り出す。しかし太刀川もそれを察知しており、一歩後退することで回避。だが、その動きこそアリスの狙いだった。
「逃がさないんだからッ!」
身を捻る勢いをスラスターで加速させたアリスの肘打ちが太刀川の体に突き刺さる。鈍い衝撃音が響き、彼の体がくの字に折れ曲がった。
「ぐっ……」
太刀川が顔を顰めて一瞬呻く。そしてすぐに態勢を立て直して反撃しようとする。しかし、それすらもアリスは許さなかった。
「甘いわよッ!」
スラスターの動きを活かして即座に繰り出されたアッパーが、太刀川の顎を強烈に打ち抜き、大きなヒビを入れた。通常の肉体であればKOを取れるほどの一撃。だが、トリオン体の防御力の前では決定打にはならない。それどころか──
(また、ズレたッ!)
アリスは悔しさに奥歯を噛み締めた。肘打ちもアッパーも、スラスターのタイミングが微妙に合わず、威力が大きく削がれてしまった。それに、もし変形をもっと自在に扱えていれば、打撃の瞬間にグローブを刃物のように尖らせることが出来ていれば、今ので仕留められたかもしれない。それができない自分へのもどかしさが胸を満たす。
(それでも……まだやれる!)
浮き上がるように後退した太刀川にアリスは目を向ける。
さあ狙撃のチャンスだ。太刀川を撃ち抜け。
そう思うが、物事はそう上手くはいかないものである。狙撃はアリスが求めていたのとは逆の方向へと向かって行った。
弾丸は彼女の背後から、加瀬がいる方向に向かって放たれていた。
「ッ!?」
視線を向けると同時に、ベイルアウトの光が加瀬の位置から上がる。
『ああ!? まずいやられた! 佐鳥君だこれ! 佐鳥君に加瀬君が取られた!』
通信が入るが、状況を把握する暇もない。次の瞬間、アリスの足に衝撃が走り、体勢を崩してしまう。どうやら佐鳥は続けて彼女の足元を狙った一撃を放ったらしい。片足を失ったことで、アリスの体は崩れ落ちるように倒れ込んでいく。
だが、アリスは諦めなかった。
(負けて、たまるかァァッ!)
怒りと闘志を振り絞り、体を逸らして太刀川の旋空を回避。そのままバク転のような動きで体勢を立て直す。しかし、目の前に立ちはだかるのはトドメを刺そうと構える太刀川の姿だった。
「惜しかったな。小慣れてはいるが、まだ使いこなせてない。一年後を楽しみにしてるぜ」
そう言って振り下ろされる弧月の刃を、アリスはレイガストで必死に逸らす。しかしその瞬間、彼女の腕が切り落とされた。
「くっ……!」
痛みこそないが、視界に入る腕の損失が彼女の焦燥を煽る。そして──
──ドドドドドッ!!
轟音が響き、アリスの体にいくつもの衝撃が走った。振り返ると、そこには銃を構える烏丸の姿があった。
「クソッタレェェェッ!!」
「口が悪いぜ」
太刀川が笑みを浮かべる中、アリスのトリオン体は崩壊していく。
【戦闘体活動限界
レオ、加瀬、そしてアリス──三条隊の3人がベイルアウトしたことで、彼らの2回目のB級上位戦はここに幕を閉じた。