ワールドトリガーRTA   作:佐倉シキ

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B級ランク戦を終え、最後の戦いに向けて

 

 

 

個室に転送されるや否や、アリスはベッドから跳ね起きた。

 

「悔しいぃぃぃ!!」

 

彼女の叫びは部屋に響き渡り、その声に綿貫は既視感を覚えたような笑みを浮かべながら、ちらりと目を向けた。

 

「デジャヴ?」

 

綿貫の軽口にも、アリスの悔しさは収まらない。彼女は苛立たしげに視線を向けながら、深く息を吸い込んで気持ちを落ち着けるよう努める。

 

「まあまあ、でも最初の目的は達成できたからいいんじゃない?」

 

綿貫が気楽な調子で続けると、アリスの目に鋭い光が宿る。

 

「ダメよ、綿貫。そんなものは言い訳にしかならないの。私たちは常に最上の結果を求めてるんだから、“最低限の成果は得られたから良いでしょ”なんて、言い訳にしかならない。負けは負け、悔しいは悔しいのよ」

 

その真剣な口調に、綿貫は妙に納得したように頷いた。

 

「なるほど、“言い訳”をして“良いわけ”がないってことね」

 

淡々と返したその言葉に、アリスのこめかみがピクリと動く。

 

「……今ダジャレ言われると、マジで腹立つわね」

 

ジトッとした目で睨みつけるアリスをよそに、綿貫は満足そうに微笑む。

 

一方で、そのやり取りに耳を傾けなかった者もいる。レオだ。彼は椅子に腰掛け、頬杖をつきながら部屋のモニターに目を向けていた。画面には試合の映像が映し出されている。

 

戦況を振り返れば、アリスが撃破されるより少し前、烏丸が柿崎を討ち取っていた。しかし、その際に受けたダメージも小さくはなかった。

追い詰められた烏丸は、嵐山隊が自分を倒し、横槍を入れてアリスも討ちとるより先に自らがアリスを撃破することを選択する。彼は時枝から無理やり距離を取り、アサルトライフルを構えてアリスに狙いを定めた。その銃撃によってアリスはベイルアウト。結果、彼女を狙った佐鳥の狙撃は不発に終わった。

 

だが、その直後だった。烏丸が隙を見せた瞬間、時枝が冷静に彼を討ち取ったのだ。そうしてその場に残ったのは太刀川、時枝の二人のみとなる。当然ながら、実力で上回る太刀川が時枝を討ち取った。

 

佐鳥は既に狙撃したビルから離脱しており、太刀川の旋空もただビルを破壊しただけに止まる。

佐鳥がどこにもいない事を察した太刀川は、バッグワームをつけて射線の通らない所に離脱して潜む。佐鳥は当然、太刀川に見つけられないように警戒しつつ隠れ続ける。この結果、試合は膠着状態に陥り、そのまま時間切れとなった。

 

加瀬がぽつりと呟く。

 

「2チーム生存ってことは、生存点は無しか……」

 

その言葉に、レオは無言で小さく頷き、静かに答える。

 

「太刀川隊が4ポイント、嵐山隊が3ポイント、ウチが2ポイント、影浦隊が1ポイントか……」

「私たち、下から2番目なの!?」

 

アリスが目を丸くして問い詰めるように声を上げると、レオは軽く肩をすくめて返す。

 

「そうなるな。クソッタレだぜ」

「うわぁ、超悔しいんだけど!」

 

アリスの叫びに呼応するように、部屋の中に悔しさが広がっていく。その一方で、冷静に試合結果を分析していた綿貫が、モニターを見つめながら口を開いた。

 

「合計点は太刀川隊が30ポイントでB級1位、うちが29ポイントでB級2位か。あー、確かに……どうせならB級1位のままA級昇格戦に行きたかったかも!」

 

その言葉に、アリスの悔しさはさらに募る。

 

加瀬は周囲の様子を見回しながら、オロオロとした態度で何も言えずにいた。よくやった方だと思っていたが、今その考えを口にするのは得策ではないと感じたのだ。きっと“それでも悔しいものは悔しい”と返されるに違いない。

 

すると、黙っていたレオが頬杖を外し、椅子から身を起こした。

 

「まあ終わっちまった事はしょうがねぇ。気持ち切り替えるぞ」

 

アリスと綿貫の視線が彼に向く。

 

「次はA級昇格戦だ。オレたちの目的を達成するには恐らく、A級相手に点を取るのが必須条件だ」

 

レオの言葉に、綿貫は深く頷きながら分析を続ける。

 

「B級上位を相手に2ポイントしか取れなかった、と考えると厳しい戦いになりそうだね」

 

加瀬が不安げに続ける。

 

「と、なると……また、練習しよっか……」

 

その言葉に、レオは呆れたように首を振る。

 

「いや、その前にやる事がある」

「え、何……?」

 

加瀬が首をかしげると、レオは得意げな表情で腕を組んだ。

 

「練習練習練習、そんなんじゃ息が詰まっちまうだろ。ラストバトルに向けて、オレたちがやるべき事……それは……」

「それは……?」

 

3人の期待を煽るように、レオは間を取る。

 

「リフレッシュだぜ」

「待ってました!」

 

綿貫が即座に反応して声を上げる。

 

「オレは非常に優秀な男だからな。この試合を勝ち抜くと信じて3日間、三条隊のシフトをフリーにしておいた。つまり明日からの土日月はお休みだ。月曜は祝日だぜ。学校もない」

「流石レオ君略してさすレオ!」

「やったー! 私やりたい事あったんだよね!」

 

アリスが笑顔で歓声を上げると、レオは早速帰り支度を始めた。

 

「というわけで、みんな3日間は休むと良い。これまで良くやったからな。心と体のリフレッシュだ。暫くすれば次の対戦相手も決まってくるだろうから、その日から練習を再開する」

 

そう告げると、レオは軽やかな足取りで個室を出て行った。その背中を追うように、アリスもまた嬉しそうな表情で続いていく。

 

残された綿貫と加瀬は、早速3日間の予定について頭を悩ませ始めるのだった。

 

 

 

 

*  *  *

 

 

 

 

さて、あれから1週間の時が過ぎた。三条隊の4人は、それぞれリフレッシュを済ませ、気持ちを新たにボーダーの基地へと足を運んでいた。

 

レオは休みの3日間で、以前から行ってみたいとマークしていたカフェをいくつか巡りながら心ゆくまでコーヒーを味わった。時には一冊の本に没頭し、また別の日にはフランスの友人たちとオンラインで長電話を楽しむなど、気ままな時間を過ごしていた。そんな充実した日々の後、再び日常へと戻った彼を待っていたのは、ある小競り合いだった。

 

ボーダーの個人戦会場。その一角では二人の少年が激しく睨み合っている。

 

「まだまだオレの方が上だな。スコーピオン使いとしてシューターメインのオレに負けて恥ずかしくないのかよ?」

 

挑発的な言葉を投げかけたのはレオだ。それを受け、影浦は険しい表情を崩さないまま、すぐに切り返した。

 

「6本取ったくらいで調子乗ってんじゃねーよ。俺の方が後にボーダーに入ったって事忘れてんじゃねーのか?こりゃ、俺が追い付くのも時間の問題だな」

 

2人はつい先ほどスコーピオン限定の10本勝負を行ったばかりだ。結果は6-4でレオの勝利である。

 

「ハァ〜!?追いつく!?寝言も大概にしろよな。運良く4本取れたくらいでそんなに喜んでんのか?まるで子犬が初めて骨貰った時みてぇだな。尻尾振って大喜びかよ」

 

レオがそう言えば、影浦も負けじと返す。

 

「言い訳が見苦しいぜ。俺が取った4本は運じゃなくて実力だ。ンな事も分かんねぇようじゃ俺が勝ち越すのも時間の問題だな。犬はテメェだぜ。犬は犬でも、負け犬って言うんだけどな」

「ワンワンワンワンうるせぇなぁ。テメェが鍛えてる時間、オレも当然鍛えてんだよ。永遠にこの差は埋まんねぇ」

「言ってろよ、もう既に追いつかれかかってるくせによ。その自慢の牙がボロクソになるのも時間の問題だぜ」

「ふっ、ははは!負け犬の遠吠えは耳に心地いいぜ。もっと必死に吠えてみろ」

「吠える越して噛み付いてやるよ!もう一回俺と戦えやクソ野郎、今度は勝ち越してやる!」

「やってやるぜ、次も負けて泣くのはテメェだ」

 

睨み合う二人の間に緊張感が漂うが、実際のところは戯れに近い。レオは影浦の実力を認めているし、その感情を感知できる影浦もまた、見下されている訳ではないことを理解している。

 

そんな中、「お!やってんなぁ」という軽い調子の声が割り込んだ。

 

二人が声の方向に目を向けると、そこには見覚えのある人物が立っていた。眠たげな目にやや癖のある髪が特徴の男、太刀川だ。

 

「太刀川か」

 

レオが名を呼ぶと、太刀川に続いてさらに二人の姿が現れる。

 

「おれらもいるぜー、レオさん」

「どうも」

 

出水と烏丸である。

 

「まーた喧嘩してんの?レオさん、今度こそ風間さんに怒られるッスよ?」

 

出水が呆れたように問いかけると、レオは腕を組んで笑う。

 

「大丈夫だ。オレの方が足が速い」

「逃げる気満々じゃん」

 

出水がケラケラと笑う傍らで、太刀川が二人の様子を興味深そうに見つめる。

 

「なんだお前ら、個人戦やってたのか?俺もやりたい」

「オレはやりたくない」

 

レオは即座に拒否した。すると、

 

「なんだテメェ逃げんのか?みっともねぇな」

「あ゛?」

「は?」

 

瞬時に険悪な空気になる二人。その間に割って入ったのは出水だ。

 

「またすぐ揉めそうになるし……」

 

そう呟きながら二人を分け、距離を取らせる。そして影浦が太刀川の側へと押しやられたのを見たレオは、間髪入れず声を上げた。

 

「影浦は戦いたいらしいぞ」

「は?」

「お、マジか影浦」

 

太刀川が嬉しそうに影浦に目を向ける。

 

「まだまだ戦い足りない。もっと強いやつと戦って強くなりたいってさっき言ってたからな」

「言ってねぇわボケ」

「ぜひ指導してやってくれ。ほら見ろ、影浦のこの嬉しそうな顔を。血湧き肉躍ってる感じだろ」

「躍ってねぇわ殺すぞ」

「よし影浦!そう言う事なら俺と戦おう」

「マジかコイツ」

「丁度強いやつと個人戦やりたい気分だったんだよな」

 

太刀川はそう言うと、「はっはっは!行くぞ影浦!」と声高らかに笑いながら影浦を個室へと誘った。強いやつと言われたのが満更でもないのか、「上等だ、今度は叩き潰す」と言い放ちながら、その背に続く影浦。

 

それらを見送った烏丸が、ぽつりと口を開いた。

 

「流れるように影浦さんを犠牲にしましたね」

「偉大なる勝利には偉大なる犠牲が必要だってルーズベルトも言ってた」

「偉大かな?」

 

うんうんと頷くレオの姿は妙に堂々としているが、その隣で出水は首を傾げる。

そしてその様子を眺めながら、出水は以前の出来事を思い出していた。そういえば、風間から逃げる際にも影浦が犠牲になったことがあったな、と。影浦はどうにも、そういった“星のもと”に生まれてしまったのかもしれない。

 

「偉大なる勝利ってのは、A級になる事っすか」

 

出水が興味深そうに問いかけると、レオは軽く返す。

 

「いまの格言は適当な引用だが、まあ間違ってはないな。今の目標はA級になる事だし」

「そういえばやっと決まったんですよね、A級昇格戦の対戦相手。レオさんはもう見たんですか?」

「まだ見てない」

「じゃあ見た方が良いですよ」

 

烏丸はそう言うと手に持っていた書類を差し出す。レオは後で綿貫の元に行って確認するつもりだったが、別に今見ても構わない。そう思い、その場で受け取る。そして書類を開いた瞬間、ギョッと目を見開いた。

 

「三条隊の対戦相手、東隊と風間隊です」

「……はぁ?」

「めっちゃ嫌そうな顔じゃん」

 

レオは心底嫌そうに顔を顰め、まず烏丸を一瞥してから再び書類に目を戻す。何度確認しても、そこには確かに東隊と風間隊の名が記されていた。

 

「オレ視力衰えたかな……」

「衰えてないと思いますよ」

「じゃあ日本語忘れたんだ。……ふぅん、ヒガシ隊か……どんな部隊なんだろ……」

「東隊です。日本語も問題なさそうですね」

 

レオの現実逃避を、烏丸が律儀に指摘する。三条隊はこれまで、この二部隊とぶつかる可能性を想定して行動してきた。だが、実際に相手になるとわかって戦いたいかと問われれば、答えは断じてNOだ。

 

「クソッタレ……」

「シンプルな暴言だ」

 

レオが天を仰いでいると、試合を終えた太刀川と影浦が個室から出てきた。三本勝負の結果は、当然ながら太刀川の勝利。ご機嫌な太刀川と、不貞腐れた影浦がこちらへ歩いてくる。

 

「よーし次はレオの番だ」

 

太刀川が意気揚々と言うが、レオは書類を手に顔を顰めたままだ。その様子を見た太刀川は何か察したように近づいてくる。

 

「そういや三条隊は東隊と風間隊が相手なんだっけか?羨ましいぜ。俺、東隊と戦いたかったんだもん」

「じゃあ代わってくれよ。オレは超嫌」

「そうしたいけど、そうも言ってらんないだろ。A級になったらそんなんばっかになんだから、今から泣き言言ってたんじゃ、やってらんなくなっちゃうぜ」

「はぁ……分かってるよ」

 

レオは深々とため息をつくと、書類を烏丸に返した。

 

「悪いが個人戦は無しだ太刀川。時間が惜しい」

「そりゃ残念」

 

太刀川は少しだけ残念そうに肩をすくめる。

 

「そういや気になってたんスけど」

 

出水が不意に口を開く。

 

「何が?」

「レオさんって何でそんな急いでんのかなって。前ファミレスで聞いた時ガン無視したじゃないっすか?もうA級になるまで敵対しないんだし、改めて気になるなぁって」

 

レオはチラリと出水を見て、数秒ほど考え込む。以前に説明を避けたのは、事情を話した結果、相手に手を抜かれることを危惧したからだ。だが今はもう敵対していない以上、隠す必要もない。出水が気になっているなら教えてやるのもいいだろう。

 

「父さんと約束したんだよ、7ヶ月以内にA級になれなきゃボーダー辞めるってな」

「ゲェッ、キッツ……」

「おお、7ヶ月。お前らが2月に入ったんだとしたらそっから最短だな。そりゃ大変だ」

「入隊には反対されたからな。その位熟せないんじゃ安心できないから、無理なら辞めるって約束して入った」

「なるほどなぁ、だから最短が良いって言ってたんだ」

 

出水は納得した様子で、腰に手をやって軽く頷いた。

 

「と言うわけで、オレには大事なラストバトルが控えている。さっさと練習に戻らせてもらうぜ」

 

そう言いながら、レオは軽く手を振る。そんな彼を見て出水が軽口を叩いた。

 

「マジで頑張ってくださいね。せっかく仲良くなれたのに辞めちゃうとか切ないんで」

「最善を尽くすがしくじる可能性もある。その時は是非とも慰めてくれ」

「レオさんなら大丈夫っしょ」

「しくじったら指差して笑ってやる」

「お前はマジで殺すからな」

 

影浦の煽るような言葉に、レオは呆れたように言い返す。口調には冗談めいた軽さがあったが、微妙にこめかみが動いていた。そうして「じゃあな」と一言だけ残し、レオはそそくさと三条隊の面々がいる場所へと向かって行った。その背中が少しだけ、先ほどより重く見えた。

 

 

 

 

*  *  *

 

 

 

 

「さてテメェら、大変なことになったぜ」

「開口一番何?」

 

個室に全員が集まったのを確認し、レオは腕を組んで堂々と言い放つ。部屋には整然と並べられた椅子やテーブルがあり、三条隊のメンバーがその周りに集まっていた。アリスは兄の様子を呆れた目で見つめる。

 

「ええ、とても……とても大変なことになりましたですわよ……」

 

綿貫は眼鏡を押し上げ、意味ありげに笑う。隣に座る加瀬は、引き気味に彼女に声をかけた。

 

「言語バグってるよ綿貫さん……」

 

レオは椅子に腰を下ろしながら、深い息を吐くようにして話し始める。

 

「1ヶ月後に控えるA級昇格戦の対戦部隊が決定した」

「あ、察したわ」

「対戦相手は東隊と風間隊だ」

「察せてなかったわ。予想以上よ」

 

アリスの顔が一気に深刻になり、むむむと腕を組んで考え込む。その隣では加瀬が絶句したまま動かない。

 

「まあ、なっちまったもんは仕方ない。今まで同様やれる事をやるだけだ」

 

レオが淡々とそう言うと、綿貫が手元のタブレットを操作し、対戦相手の情報を画面に映し出した。

 

「はい、じゃあいつもの如く分析しよっか。まず風間隊ね」

「風間はスコーピオンの二刀流だな。小柄だがその分機動力が高い。グラスホッパーを使った小回りの効く素早い動きが厄介だ」

「そんでもう1人は森本さん。彼女はこの間会ったね」

「あのショートヘアの方か」

 

レオの脳裏には、以前出会った時の光景が蘇る。確か、風間の用事を頼みに来た女性だった気がするが、結局は無視した覚えがある。

 

「森本さんは風間さんとほぼ同じトリガー構成だね。違うのはハウンドが入っているって点だけかな」

「もう片方の方がウザいな、コイツは鉛弾(レッドバレッド)を持ってやがる」

 

レオはタブレットを指差し、3人の中でポニーテールの女性を示した。

 

「青木さんか。彼女は2丁拳銃使いのガンナーだね。基本はアステロイドだけど、いっつもどちらかに鉛弾(レッドバレッド)を入れてるみたい」

「どっちから鉛弾(レッドバレッド)が来るかわかんねぇから、どっちも警戒しとかなきゃならねぇな」

「片方メテオラ、片方鉛弾(レッドバレッド)か……嫌な戦い方……」

「1発凌げればどっちに鉛弾(レッドバレッド)入れてきてるか分かるから、頑張れば何とかなる。瓦礫でも瓦でも何でも良いからシールド以外で防ぐ事だな」

鉛弾(レッドバレッド)は両方のトリガーを使うからね。片方の銃を消してる時が要注意だよ」

「気をつけなきゃね……はぁ、私鉛弾(レッドバレッド)って嫌い」

 

アリスは困ったように眉を寄せながら呟く。

 

「特にお前は前の試合でやたらレイガストでの防御に拘っていたな。新しい武器を手に入れた事で思考がそちらに傾いている。咄嗟にレイガストを使わないように気をつけるんだ」

「大変だわ……」

 

アリスはさらに困ったように深いため息をついた。風間隊はコンビネーションが売りの部隊だ。なるべく合流させないように試合を進めたいところである。

 

「そんでもう片方の東隊だが……」

 

レオがそう切り出すと、綿貫が静かに頷き、タブレットの画面に東隊の情報を表示させた。画面に現れる隊員たちの写真を指差しながら、彼女は簡潔に説明する。

 

「今のボーダーで一番強い部隊だよ」

 

その言葉に、空気が少し張り詰めたように感じられる。

 

「東さん、二宮さん、加古さん、三輪君か……すごいメンツだ……」

「そのすごいメンツから1点か2点取らなければならないってわけだ」

 

加瀬が眉を寄せて呟き、レオが返答する。それを聞いた加瀬の表情がさらに曇った。

 

「東さんは普通のスナイパーと同じように、三つのライフルを持ってるね……特徴的なのは、それに加えてダミービーコンを持ってる事、か……」

「ダミービーコン?」

 

アリスが聞き返すと、綿貫が即座に補足した。

 

「ダミービーコンはね、相手部隊のレーダーにダミーのトリオン反応を表示させて攪乱するトリガーだよ。設置されたエリアにはトリオン反応が大量に現れるから、どれが本体か分かんなくなっちゃうんだ。効果時間は数分だけど、大量に設置されたら厄介だね」

「だが、そう頻繁に使ってるわけじゃないみたいだな」

 

レオが腕を組みながら唸った。

 

「ダミービーコンはなるべく使う状況にならないようにするしかないな。んで、次、二宮だが……出水と似たようなシューターだよな。トリオン量がオレより多い」

「それに弾の撃ち方も特徴的だよ」

 

綿貫は二宮の情報をタブレットに拡大しながら話す。

 

「細かい数重視の弾と威力重視の弾を緩急つけて撃ってくるからね。レオ君のシールドも気をつけないと割られちゃうかも」

「“かも”というか、正面から全弾受け止めようとすれば割れる。要注意だ」

 

レオは真剣な表情でそう言い切る。綿貫は軽く頷き、画面を次に進めた。

 

「後、加古さんもシューターだよね。彼女はハウンドを得意としてるみたい」

「独特な撃ち方をしてるよな。キューブではなく球体だ。細かく打ち出してくるのが鬱陶しい」

「それにテレポーターもあるんだよね」

 

綿貫の指摘に、加瀬が驚いたように声を上げる。

 

「テレポーター?」

「視線の方向にトリオン体をワープさせるトリガーだよ。一度使うと再使用まで長くて数秒のインターバルがあるけど、30メートル以上先に転移することも可能なの」

「厄介すぎる……」

 

加瀬が肩を落とすのを横目に、綿貫は画面をさらにスライドさせた。

 

「そんで三輪だが、コイツも鉛弾(レッドバレッド)を持ってやがる」

 

レオが渋い顔で言いながら、三輪の写真を指差す。

 

「弧月とハンドガンのオールラウンダー、それに加えて鉛弾(レッドバレッド)。しかも戦い方が上手いからなぁ」

「加えてオペレーターも非常に優秀ときた。ここまで欠点のない部隊も珍しい」

「そんなチームから点を取らなきゃ行けないのね」

「そう言うことだ。当然、今のままでは厳しいだろう」

 

レオの冷静な口調には焦りの色はないが、その眼差しは険しい。この1ヶ月で対策をものにしなければ、勝機はない。それを一番理解しているのは彼だった。

 

「だから、この1ヶ月でもっと修行しなければならない」

 

レオが全員に向かってはっきりと告げた。彼の言葉に、綿貫もアリスも加瀬も頷く。レオが伝えた案を元に、それぞれが考えを巡らせ、目標を再確認した。

 

そのまま4人は早速訓練を始めるべく動き出した。これからの1ヶ月が、彼らの未来を決めるのだ。そんな緊張感を胸に抱きながら。

 

 

 

 

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