みなさんはウマ娘の世界に転生したいと思ったことはあるだろうか?
トレーナーやTSウマ娘、ウマ娘の百合を見守るとか恋愛できる男や女キャラとして。
私はそういうことをしたいわけではないが、転生したいと思ったことはある。
ウマ娘世界で百合ウマ娘の間に挟まりたいという野望を持って。
そして挟まった間でウマ娘と三角関係な恋愛をしたい。
でもこんなことを言ったらすぐにでも罵倒や蹴りが飛んでくるに違いないと思う。
こんな意見を誰に言うこともできないまま、スズカ&スぺ、ウオッカ&スカーレットは尊いなぁとアニメを見てゲームをしながら仕事をして日々を力なく過ごしていた。
だが、ある日に俺は生まれ変わった。
転生したということに気づいたのは、アニメ1期で見たサイレンススズカ子供時代にそっくりの子がすぐ目の前にいたおかげだ。
アニメで描写された子供時代スズカさん──長いのでロリスズカと言うが。
そのロリスズカがいるんだ。
ロリスズカはアニメでは明るく無邪気に野原を走り回る元気な子だ。髪型や緑色の耳カバー、カチューシャといったものは本編と変わりない。
セミがみんみんと鳴く夏の季節。ワンピース姿でかわいらしい姿を見た時はロリスズカさんと出会えた喜びで俺は声をあげたよ。
「ワン!」
と元気いっぱいにな。
……なんでワンだなんていう声かというと転生した種族がそうとしか発音できないからだ。
つまりは犬に生まれ変わってしまったから。
そう、犬。オスの子犬だ。
スズカに両手で持ち上げられ、きらきらした目で見つめられている。
幸いにも犬の体で生まれたとはいえ、前世の補正があるせいかロリスズカや両親の声ははっきりと理解できている。
好きなキャラクターに会えたんだから、犬の姿とはいえ素敵なことじゃないだろうか。
これ以上の幸せはそうそうない!
とは言えるかボケが!!
せっかくウマ娘世界に来れたというのになんで人間じゃないんだ! 犬だと自由に動きづらいだろうが!
くっそ、転生させた奴を恨むぞ。これは神のせいか、それともシミュレーション仮説にある上位存在者か。
そのどっちかは知らんが、ケンカを売るなら買ってやるぞてめぇ!!
「お母さん、この子、すっごい元気!」
犬として転生したことをたっぷり恨みながら元気よく苦情を言いまくるが、犬の声に変換されるとすっごいかわいく聞こえてくる。
スズカが喜んでくれるなら嬉しいし、苦労せず近くでいれるのはウマ娘ファンとして考えれば悪くはない。
だが、色が認識しづらいのはなんとかならないだろうか。
目の前にいるロリスズカの色が犬の視覚では認識しづらい。グレー、黄色、青、なんか茶色っぽい緑のよっつだけなんだ。
だから、つやつやとした茶色の髪はうまく見えないし、肌の色は認識できない。
耳カバーはなんとか。カチューシャは色がわからん。
俺が見えるのはグレーを中心とした世界にぽつぽつと色があるだけ。おまけに視力も悪いときた。
認識能力が低いことに落ち込みながらも自分の犬種はなんだと考えていたが、聞こえてくる言葉からするとゴールデンレトリバーのオス。生後3か月らしい。
手足を見ると、俺の毛は長めだ。ツヤがある茶色なのはわかる。
でも手足が短いんだが?
大型犬といえど、子犬ってのは手足が短いのか。前世ではゴールデンレトリバーの成犬は見たことはあったが子犬は知らないからな。
しかしまぁ、意識が人間のままだから変な感じだ。でもそのうちに慣れるか、意識が犬に統合されていくんだろう。
だから意識がしっかりしている今だけはロリスズカに抱っこされているという、全国4000万ぐらいのスズカファンがあこがれる展開に優越感を抱こう!
見ているか、お前ら! これが、これこそが百合に挟まる男を目指した男の姿だ!
たとえ人に受け入れられない性癖を持とうとも、情熱があれば夢に近づけるんだ!
「私の名前はサイレンススズカっていうの。あなたの名前は……おとーさん、この子の名前は何?」
ひととおりの恨みつらみを世界へ向けて解放していると、スズカは俺を床へと置いた。
スズカは父親に俺のことについて聞いている。今こそがチャンスだ。
何をだって? せっかくこの世界に来たんだ。好きなキャラクターであるスズカの部屋を見に行かないとな。
寮じゃないウマ娘の私室なんてのはマックイーン以外は絵として情報はないし。
そう思ってスズカと両親の視線が俺から外れ、何かを相談している間にスズカの部屋を探すために逃げる。
けれど、子犬の足だとうまく走れず、ぽてぽてという擬音が付きそうな走りしかできない。
気持ちだけが先走り、体はうまく追いついていない。
自分の体を制御しようと頑張るも無理だ。できない。
「あ、まだ行かないで!」
でも転生したから早く見たいと気合で走るも、後ろからドタドタと足音が聞こえ、俺はしっかりと腹に手を回されてスズカに抱きあげられてしまう。
そしてしっかりと目と目が見つめあうように俺の体を回転させてくる。
こんだけ近くで見るとスズカって小さい頃からかわいさだけでなく、すごい美人さんに成長する素養があるってのがよくわかる。
「大事なことがあるんだから行かないでね? それでね、君の名前はね、私がつけていいんだって。だからね、学校で調べたの。かっこいい名前を!」
俺は逃げるのに忙しいんだが。
まぁ、いい。せっかくだから名付けてもらおうか。この俺にふさわしい名前をな!
「あなたの名前はアトラス。図書室で見たギリシャ神話でかっこいい神様なの。支える者、耐える者って意味」
小学生にしてはなかなか考えたネーミングじゃないか。4文字だと覚えやすいし、いいんじゃないか?
見た目がゴールデンレトリバーな俺に西洋系の名前はよく似合うと思う。
「尻尾ふった! この名前が気に入ったのね! これからよろしくね、私の、スズカのアトラス!」
スズカが俺を抱きしてめてくると、ちょうど首筋が目の前にある。これが普通の男ならなめてしまうところだ。
でも俺はなめたりなんかしない!
百合の間に挟まるのはいいが、ウマ娘のファンとして原作キャラクターに手を出すのは悪だ。
俺が求めるのはプラトニックラブ。体でのいちゃつきよりも精神的にいちゃいちゃしたい。体でのつきあいなんて面倒だし。
だからスズカをなめるとか犬らしいことはしない。
しないのだが、スズカのほうから近づいてきてるし。近づいて何をするかと思っていたら、俺の首に鼻をうずめて深呼吸をしている今。
小さいうちから犬吸いなんていう、高度な匂いフェチを発症するのは早いと思うんだが。
こんな小さいのに。年齢は……わからん。あ、いま、お父さんがスズカを「小学4年生でもう匂い好きになったのか」って言ってた。
……ウマ娘って匂いフェチの性癖が一般的なのか? アニメやゲームだとそういう描写はなかったような。
いや、フジキセキが匂いに興味があるって話をしてたシーンがあったな。遺伝子がどうのこうのってやつ。あれは印象深いからよく覚えている。
しかし黙ってされるがままになったけど深呼吸しすぎじゃない?
あ、離してくれた。じゃあ、俺はこれからスズカの部屋を──え、まだ終わらない?
待って、おなかはおなかはだめぇぇぇぇ!? すんごくくすぐったいのと、気持ちいいいのがやってくるんだが!?
頭にぱたぱたと動くウマ耳はあたるし、スズカの呼吸がダイレクトに感じちゃう!
新しい性癖を開拓しちゃいそう。
くすぐられている女の子を見るのはそれなりに好きだけど、されるほうは遠慮したいんだ!
感覚的には1分ほどされたあと、ようやくご褒美な苦しみから解放されて4つの足が床へと着く。
大地があるって素晴らしい。
抱っこから解放してくれるスズカは女神だ。この調子でふれあいスキンシップは段々と減らして欲しい。
いや、スズカが成長していけば雰囲気クール美少女になるから大丈夫なはずだ。
俺はウマ娘たちを見るのが好きなだけだから、放っておいてもらえるのが一番なんだ。
「アトラスが成長したら一緒に全力で走ろうね!」
なんか将来は大丈夫じゃなさそうなんだが。
考えてみれば、スズカはなにより走るのが好きだ。そんな奴がペットの犬と走らないわけがない。
……待ってくれ。俺が成長したら山や海を延々と走るのか?
大型犬ってスタミナどれくらいあるもんなんだ ?そもそも最高時速はどれくらい? 前世の記憶的に30kmから40kmだった気がするが。
そのあたりの速度なら、子供のウマ娘相手になら勝てるかもしれない。
ダメだとしてもスタートダッシュだけならいける。なんたって犬は4足歩行だからな。
車だってFFやMRより4WDのほうが加速いいし。
そうしてスズカと仲良くしつつ体が大きくなったら、なんとかしてスズカ以外のウマ娘と会ってやる。
犬とはいえ、ウマ娘の世界にこれたんだ。
俺の聖地巡りはこれからだ!
さて決意をかためたところでご飯をくれませんかね。
まだ早い? あぁ、そう……。