スズカの犬になりました   作:あーふぁ

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2.スズカには負けないからな!

 

 季節は秋の11月になり、俺は生後6カ月になった。

 この大きさになるまではトイレやおすわり、お手といった基本的なしつけはだいたい1回でマスターをしている。

 そのためスズカ一家からは大変優秀で、言葉もよく理解できるおりこうな犬という高評価を得ている。

 これもすべては他のウマ娘たちに会うためだ。幼い頃から手のかからない子という評価を得ていれば、警戒がゆるんで突発的な行動がしやすくなるからな!

 我ながら実に賢い計画だと思うね。

 

 そして今は何をしているのかというと、一軒家の室内で飼われている俺はスズカが帰るのを待っている。窓越しに太陽の光をぼぅっと浴びながらスズカが帰ってくるのを。

 わくわくして待っているのは今日がスズカと俺でふたりきりの初散歩になるからだ。

 今までは無茶なことをしないよう、必ずスズカのご両親のどちらかが付きそうか、スズカ抜きで散歩をしていた。

 でも俺が落ち着いた性格なのと少し大きくなったのにくわえて、スズカが散歩の仕方を覚えたからひとり散歩が今日をもって解禁となった。

 犬となった身だと外を歩くだけで楽しいが、それがウマ娘プリティーダービーのキャラクターであるスズカと一緒となれば楽しくないわけがない!

 

 だから今日は朝から気分がいい。

 でも今からテンションが高いと散歩が楽しめない。無理に落ち着くためにひとりで犬用のおもちゃをガジガジとかじっていたが、少しして飽きてしまう。

 だから暇つぶしとして、今いる場所がウマ娘のどの世界線かという考察を始めることにした。

 今までは理性よりも犬の本能に振り回されることが多かったから、体が成長するにつれて精神が安定するまでそんなことはできなかった。

 

 で、考察を始めるがウマ娘は色々なメディアで展開されている。

 世界観が異なっているのは『ウマ娘 プリティーダービー ハルウララがんばる!』『STARTING GATE! ウマ娘 プリティーダービー』といった初期に展開された漫画。 

 2016年から展開されたSTARTING GATEシリーズ。その中で展開されているCDドラマ。

 WEBラジオで展開された『ぱかラジッ!〜ウマ娘広報部〜』の中で展開されていた、アニメの補完をしているサイドストーリー。

 サイドストーリーの1話目はリギル時代のサイレンススズカがチームリギルのハナさんと話をしてた。

 これらは初期の頃の設定で作られている。

 

 アニメで展開されている『ウマ娘 プリティーダービー』シリーズは1期が設定が初期に近いが、2期からは設定が決まって安定している。

 ゲームも安定した頃の設定だ。

 そしてゲームだとさらにもうふたつ分けられる。育成ストーリーの専属トレーナーとメインストーリーのシリウス所属に。

 

 もう考えていると頭が痛くなっているが、今までの人生経験……いや、犬生経験によると、この世界は──。

 

「わふ、わふぅ!(そんなのわかるかぁぁ!!)」

 

 スズカがトレセン学園に入る頃じゃないと、色々わからん! この時期はチームシリウスはまだできていないし、ゲームとアニメで違いがよくわかるトウカイテイオーやシュヴァルグランは観測ができない。

 そもそも俺が情報を入手できるのはテレビやラジオが付いている間だけだし。

 

 犬の手だとテレビのリモコンを細かく操作することもできん。

 俺がいるのはどの世界かはわからんが、スズカがかわいいから良しとするか。

 ……せっかくスズカが近くで見れるんだ。この犬生の目標には『原作ウマ娘たちを眺める(できれば百合状態)』に追加して『スズカの逃げという走りを肯定する』というふたつを目標にしよう。

 

 俺が散歩中、スズカと一緒に走っていれば逃げという走りに自信を持てば、トレーナーたちに走りを否定されても落ち込んで自身の感情を抑え込むことはしないだろ。

 考えがまとまり、これからの方針が決まった安心感で眠くなってきた。

 だが、窓越しに小さい子供が走ってくる足音が聞こえてくる。

 そう、このよく聞いた足音は──。

 

「お母さん、ただいまぁ! アトラス、散歩に行こう!」

 

 玄関を開ける音と家にあがって廊下を走る音が大きく聞こえてくる。

 そして俺がいる部屋に入ってきたのは背中にピンク色のランドセルを背負ったスズカだ。

 服装は長袖に長いスカートといった寒さを耐える秋の私服姿。

 

 そんなスズカはいったん立ち止まってランドセルを降ろすと、俺へとダイブする勢いでぶつかってくる。

 俺はスズカをボディで受け止めるが、ちょっと痛い。

 まだ大人になりきっていない体だと、子供とはいえウマ娘の相手をするのは一苦労だ。

 でも抱き着かれ、体の匂いをかがれるのは慣れてきた。

 今は体のまんなかに顔を埋めてスピスピといった感じになっている。

 

 尻尾をぶんぶんと振って元気な姿を見るのは癒しだが、ずっとさわられるのはよくない。

 自分に課している制限であるスズカを舌でなめない、積極的にさわらないということをし続けないと推しキャラを綺麗な存在でいさせたいのを破ってしまいそうになる。

 犬とはいえ、中身が20代成人男性がそんなことをしたら不気味だからな。

 だが犬だからこそ、向こうから積極的にさわってくるのは俺にはどうしようもできない。

 だからさわってくる時間が長くなると尻尾でバシバシとスズカの体を叩いて忠告するが、気にする様子はまったくない。

 

「スズカ、暗くなるまえに散歩に行ったほうがいいと思うけど?」

「わかった!」

 

 まったく動かないスズカに困っていると、台所にいて夕食を準備しているスズカママからの助けが!

 返事をして俺からなごりおしそうに離れたスズカは、すぐに散歩道具を持って戻ってくる

 たぶん明るい緑色っぽいハーネスと同じ色のリード。それと落とし物の後始末をする道具が入った手提げバッグ。

 スズカは俺の前にハーネスを置くと、俺は自分でハーネスを広げて輪っかになった部分に手足を置く。

 それをスズカは楽々と着けていく。

 

 最初の頃はハーネスの着方に迷ったが、今では一瞬にしてわかってしまう俺は我ながら素晴らしい犬を演じれている。

 そのおかげでハーネスをつける手間を俺から少なくすると、今みたいにスズカに頭をなでてもらえる!

 なんというご褒美だろうか。これは犬だからこそしてくれるものだな。

 もしも俺が人間だったら、こうも気楽にしてくれるものはないだろう。

 

「アトラス、行こう!」

「走らないようにするのよー」

 

 スズカがママの言葉を聞いてくれるかが不安だが、こうして俺とスズカ。はじめてのふたりきりの散歩が始まった。

 外に出ると肌寒くはなるものの、そこはゴールデンレトリバーな体。ふっさふさの毛は寒さに強い。

 普段から使っている散歩コースを歩いていくが、スズカママやパパの時と違って歩幅が小さいスズカに合わせていく。

 今まで散歩してきた結果、ここは人口が15万か20万ぐらいに感じる。前世で旅行する時は地方都市へ好んで行ったが、だいたいこんな感じだった。

 人通りがちょいちょいある道で、俺は歩くのはしつけられた通りにリードを持っているスズカの左側にいる。こうすると道路の左端を歩く時に犬が車道へ飛び出した時に制御しやすいからだ。

 

 そもそも俺は勢いで道に飛び出るなんてことはないない。

 今だって犬の本能を理性で抑え、散歩が楽しいのを尻尾を大きく振るだけで抑えているぐらいだ。

 本当だったらうきうきとテンション高く走ってしまっているだろう。

 

 スズカが俺を走らせようとすることもなく順調に散歩を続けていると、ふとスズカが足を止めてる。

 それに合わせて俺も足を止めて、スズカに視線を合わせて見つめる。

 家から出る時は元気だったスズカだが、今はテンション低めだ。

 ここ3カ月の付き合いで、こういう時のスズカは走るのを我慢している姿だというのはわかる。

 

 でもやめて欲しい。俺はまだ子犬なんだ。まだ小さい体のままだとスズカの体に付き合いきれない。

 だったら抵抗して嫌がればいいだろうって?

 お前……スズカが悲しそうな顔なんて見たくないだろう!? たとえ血を吐こうともスズカが走りたいなら無理をしてでもついていくってのが男であり、ウマ娘原作ファンというものだろうが!!

 走っている時のスズカはまだ見れていないが、競争ウマ娘養成クラブから帰ってきたときは疲れているが満足感のある顔なんだ。

 そういう顔を見るのはすっげぇ幸せを感じるんだよ。

 

「ねぇ、アトラス。公園に行こう?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺は尻尾の動きを止めておすわりをする。

 うきうき気分も一気にダウンだ。

 公園へ行くと、スズカは走ってしまうだろう。そうするとスズカママが怒り、スズカは落ち込んで涙目になってしまう。

 そんな姿がいいとは思わない。スズカは悲しむより、ダイタクヘリオスのような感じでテンション高めでいて欲しいと思うから。

 ヘリオスは言い過ぎた。ヒシアケボノくらいでちょうどいいか。

 

「大丈夫。アトラスが黙っていれば、大丈夫だから。ねっ、いこ?」

 

 ぐいぐいとリードを引っ張ってくるが抵抗する。

 俺が黙っていても、走ったスズカは満足感ある表情になるから家に戻ったらばれると思うんだ。 

 だから、やめて欲しい。場合によっては、俺まで怒られそうだからな!

 時々スズカママからもらうジャーキーがもらえなくなったらどうするんだ!! 事前にスズカママからは悪いことしたらおやつをあげないって言われているんだぞ!?

 そもそも子犬に対して日本語を理解している前提で話をするのはどうかと思うんだが。しつけ時に賢すぎるところを見せたせいかもしれないが!

 

 リードを引っ張るスズカの力が段々と強くなり、おすわり状態で耐えられなくなった俺は4足でふんばって抵抗する。

 子供とはいえウマ娘にはパワーがある。だが、しかし! スズカは姿勢が悪い、というか体幹がまだまだだからな。

 頑張って引っ張る姿はかわいいと余裕を持っていたが、次第に力を入れてくるから俺の足が進んでしまう。

 ここがアスファルトの道路じゃなく、砂だったらこうはならないんだが!

 途中で抵抗をあきらめ、俺に勝って自慢げな顔をしているスズカに連れられて公園へ向かう。

 

 寒い日の公園は人がいなく小型犬を連れたおばさんと入れ違いになる。

 紅葉も散り、寒々とした景色。

 そこをご機嫌なスズカと公園の中を左回りで歩いていく。

 

 あ、いい感じの木の枝をみっけた。

 立ち止まり、口にくわえるそれは太さがスズカの親指ぐらいで長さは20cmと短い。

 かみしめるといい感じに心が落ち着く。

 ふと視線を感じて振り返ると、スズカと目があった瞬間ダメだと気付いた。

 きらきらと目を輝かせているのを見ると、何かろくでもないことを思いついていそうだ。

 リードを持ったまま、片手で俺の枝をつかむと、ぐいっと引っ張ってくる。

 だが、俺は離さず抵抗をする!

 

 俺のだぞ!? はーなーせーよー!! これは家に持っていくんだからな!

 さっきもしたように引っ張り合いがまた始まる。だが、さっきと違ってスズカは片手。それに足場は砂ということもあって4足である俺のほうは踏ん張りが効いている!

 俺は4つの足を全力で使い、ずりずりとスズカの体をすべらせて公園の出口へとたどりつく。

 スズカの悔しそうな顔ににっこり笑みを浮かべて俺は戦いに勝ったのだが、帰ったら木の枝はスズカママに捨てられた。

 なぜ。

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