スズカの犬になりました   作:あーふぁ

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6.商店街とパン屋とナイスネイチャ

 百合に挟まりたい男、というのはなんでそんな行動をしたくなったんだろう。

 そのことを考えたのは、スズカとママがトレセン学園の見学会に行って暇になった時だ。

 ホテルの部屋ではパパがテレビを見ていて、俺は床へとぺたりと伏せている。

 することもなく時間があるから考えてしまう。

 

 人間だった頃と自分が犬になったばかりの時は百合の間に挟まりたいという意識が強かった。

 でも犬として生きていると毎日を生きているだけで楽しいという思考になってくる。

 意識していないと、自分が好きだったものを忘れていくような気がする。

 ……俺が百合に挟まりたかったのは、その仲がいい女の子ふたりと恋人関係、またはハーレム的なのになりたかったのだと思う。

 女性複数人に好かれるのではなく、元からお互いが好きあっている女性同士が感情の方向を変えて自分に向けられたいという。

 きっとそれはヤンデレのような重いものだと思うから。

 

 ひさしぶりに重く考えてしまったが、つまりはいちゃいちゃしている女性同士の輪に自分も入りたいってことだな!

 ウマ娘の世界に来たからには、そういう体験を積極的にしないともったいないし。

 そう結論を出してすっきりし、スズカが帰ってくるまで寝るかと体を横にする。

 でもその瞬間にパパがテレビを消して立ち上がった。

 

 お昼前の今、観光とご飯を買いに行きたいらしい。それと俺の散歩動画を撮りたいとのことだ。

 家族の記録と俺を譲ってくれた人へと送る予定だと言っている。

 スズカの家に来る前の記憶は人の人格が出てくる前のせいか全然覚えていない。

 まぁ、覚えていなくてもいいか! 今はスズカの家で楽しいし、今がよければそれでいい!

 そう前向きに考えているとパパは胸元にチェストマウントをつけ、それに小さい高性能カメラををつけている。

 

 ずいぶんと本格的ですね?

 やけに気合入っているなぁとあきれた視線を向けていると、慌てて俺へと説明してくる。

 

「待てアトラス。そんな目を向けるんじゃない。いいか、これから俺の言うことを聞けばきっとお前も納得する」

 

 そう言ってから俺に説明を始めていく。

 なんでも胴体につければ両手が空くし、手と違って映像はブレが少なくていいとのこと。使わなくなった時はスズカにつけて動画を撮るということもしたいらしい。

 だから無駄遣いじゃないって犬の俺に丁寧に説明をしてくる。

 犬である俺にもきちんと言葉で言ってくれるのはいいけど、これはママに相談もなく買った気配がする。あとでママのまえに持っていってやろう。パパのうしろめたい気持ちをなくそうとする俺、えらいぜ!

 すっきりとした家庭環境を整えようとする俺を自分自身で褒めたあと、ひととおり説明したパパは落ち着いたようで、俺はハーネスをつけられてホテルを出ていく。

 

 向かう先は商店街だ。

 トレセン学園の周辺には商店街があり、それぞれで推しのウマ娘が違うらしい。

 休日の昼間でも商店街にはそこそこに人がいる。商店街といえば、屋根にアーケードがあるって印象だったけどないんだな。

 さびれていない商店街に来るなんて初めてだから新鮮だ。

 

 天気も良く、風もおだやかな今。

 歩いているだけであちこちから食欲を誘ういい匂いがやってくる。

 からあげに焼き魚、コロッケにおでん。

 色々あるから鼻がひくひくと動かしては匂いを堪能する。

 犬だからこそ繊細で様々なのを感じ取れるのはいい。

 

 パパのほうを見ると、店を興味深く見ているから俺と同じく楽しんでいるらしい。

 ふとパンのいい香りがして店の前で立ち止まる。

 ガラスに張ってある張り紙には『わんちゃんにおすすめ!』なんて言葉が。

 パパ、パパ! パンだぞ。パンが売っているぞ!

 ここの犬用のパンなら俺でも食べられるだろ! どういうのがあるかわからないが、俺はメロンパンやアンパンが食べたいんだけど!?

 それに犬用のリードをつける場所がある、駐車場ならぬ駐犬場があるし買いやすいだろう?

 

 ショーウィンドウの前でお座りをし、右前足を使って空中でエアーお手を2回したあとに店とパパの顔を交互に見る。

 だが、パパは俺のリードを引っ張って先に行こうとするから足を踏ん張って抵抗する。

 それを5秒ほどしたあとに俺が動かないことへ溜息をつくと、店の前にある犬のリードをつなぐ金属製の柱にリードを結んで店の中へと入っていった。

 これでよし!

 せっかく旅行に来たんだから、普段とは違うものを食べたいと思うのは何もおかしくない。

 

 パパが買ってくるのを待ちつつ、ぼぅっと商店街の行き交う人々を見る。

 老人や子供がのんびりと歩けるここは治安がいいな、なんて思う。

 この世界はどの人も優しく思いやりがある人が多くていい。家でニュース番組を見ていても重大な事件が少ない気がした。

 

「あ」

 

 ぼぅっとしながら人を見ていると、小さい女の子の声が聞こえてくる。

 その声は俺に向けられているようなので振り向くと、店の中から出てきたスズカより小さな小学生っぽいウマ娘の女の子がいた。

 手にはパンが入った紙袋を持っている。

 髪型はツインテールで髪色は俺が認識できないから青と黄色、茶色っぽい緑以外の色だ。

 スカートとキャラもののプリントシャツはその子の顔とバランスがよく見え──なんか見覚えがあるな。

 どこで見たんだっけかと悩んでいると、その子はとてとてと俺の前へ来てはしゃがんでくる。

 しゃがむ時にスカートの中が見えかけたが、俺は気合を入れて視線をずらす。疑われるのは嫌なんだ。

 

「お手!」

 

 何をするかと待っていると、元気な声で右手を出してきたので右前足を差し出すと喜んでくれる。

 今度は左手を出してきたのですばやく左前足を置く。

 俺の手をぎゅって握ったあとに手を離してくれて、その子がきらきらとした目で俺を見て感激してくれるのは嬉しい。

 人の声ならきちんと識別できる俺ならではだな!

 

「やー、犬ってこんな賢いんだねぇ。全然知らなかったよ」

 

 この子、ナイスネイチャだ!?

 長い言葉を聞いて声でわかったよ! 色がわからないとはいえ、幼い顔で気づかないなんて。

 だが言い訳をするなら、ナイスネイチャが原作ではつけている耳カバーがなかったからなんだ。あと声が若いし。

 さて、ナイスネイチャと気が付いたからにはじっくり鑑賞しなければ。

 ……生の耳がナイスですね!

 

「はい、次は両手ね」

 

 と、俺が感激していると両方の手を差し出してきたので右、左と高速でお手をした。

 ナイスネイチャはそれに笑顔を浮かべたが、まだ両手を出し続けている。

 まだ何かやらせたいって? 今できることといえばお手しかできないんだが。

 今度はさっきと違い、後ろへ重心を取って両方の前足をナイスネイチャの小さな手へと乗せてすぐに手を戻す。

 

「ほんっとかわいいなぁ。君、アタシと会うのは初めてだよね。パン屋のおじちゃんからかわいい犬がいるって話を聞いたことなかったし」

 

 大きな犬の俺を相手にしても怖がらないのは嬉しい。

 小さな子供だと体が大きい俺を怖がるのはいつもの散歩で判明していたし。

 しかし、これだけかわいくて笑顔が素敵なのは商店街のアイドルとなっているのもわかるというものだ。

 昨日のシービーに続き、今日はナイスネイチャと会えるだなんて運がいい。

 これもスズカの相手をよくしていて、日頃のおこないがいいからだな!

 ネイチャのかわいい姿をたくさん見て楽しんでいると、大きな紙袋を持ったパパが店から出てきて、パパはリードを柱から離すとネイチャと話を始める。

 

「うちの子、かわいいよね」

「あ、はい! 礼儀正しい子ですね」

「そう。しつけの手間もかからないし、いい子だよ。うちのアトラス、さわってみるかい?」

「いいんですか!?」

「いいとも。毛並みは最高に触り心地がいいよ」

「ありがとうございます!」

 

 そうしてナイスネイチャにもふもふっとさわられていく。

 20秒ほどすると、俺とパパに頭を下げてはすっきりした顔で帰っていった。

 そうして俺とパパの散歩は再開するが、スズカから電話が来てトレセン学園の正門前で合流することに。

 犬用のパンを食べさせてもらい元気になった俺は尻尾を元気よく振りながら集合場所へと向かう。

 そこではジャージ姿で元気な笑顔を浮かべているスズカとちょっぴり疲れた様子のママがいた。

 

「アトラス! パパ!」

 

 スズカは俺を見ると、元気いっぱいな笑顔で俺に抱き着いてくる。

 合流してご飯を食べにお店を探して歩いていると、スズカがどれだけ見学会が楽しかったか教えてくれる。

 昨日会ったミスターシービーと再会して連絡先を交換したとか。なんでそうなったんだよ。

 

「一緒に見学会に来た子と走ったんだけど、クラブの時とは違う楽しさだったの! 後ろから追われる時はお母さんに怒られるみたいにどきどきで、逃げ同士で走るのはアトラスをだっこするみたいにわくわくして!

 ほかにはね、1番で走り終わった時にシービーさんが見ていたから話をしたんだよ!」

 

 ふむ……先頭で走るのはつまらないと思っていたけど、スズカを見ていたら予想以上に自由で楽しんでいる走りだったから興味が出た?

 それで話をしているうちに犬の話になった? 俺が気に入ったから写真や動画を送ってほしいって? 代わりに学園でシービーの走っている動画と交換?

 そんなにシービーに気にいられたのか、スズカは。スズカのためになるなら、いくらだって撮ってもいいぞ。

 シービーと仲良くなれば、スズカとシービーとのいちゃいちゃする百合を見られ……いや、なんかあのふたりがいちゃいちゃするのが想像つかない。

 

 スズカが学園に進学してもシービーと雨や台風、学校の授業をさぼって一緒に走るのは簡単に想像できるんだが。

 あのふたりが百合っぽい何かをするシーンが思いつかん。一緒に走ったあとに感想を言い合って……そのあとはなんだ。

 ダメだ。ジャージで想像するからわからないんだ。私服姿なら一緒に買い物をしにいくのは想像しやすい。

 ……ふむ。原作だとシービーは1人暮らしだから、そこにスズカを連れ込んで次第に仲良くなる。スズカもランニング好きで自由なシービーとなら仲良くなれそうだな。

 よし、我ながらいい想像ができたな。だが残念ながら犬である俺が学園に行けないから、そこに挟まることは大変難しそうだ。

 

 スズカとシービーの百合を想像していると、スズカは走ったことやシービーとした話を俺へとたくさん言ってくれる。

 そんなテンションが高いスズカを見ていると嬉しい気持ちになる。スズカがトレセン学園で楽しんでくれたのなら嬉しいよ。

 

「アトラスが大人になったら私と一緒に走っている動画をシービーさんに送るからね!」

 

 普段のごろごろしているのじゃないのか。俺がスズカと一緒に走るのか。

 ……今から大人になった時が怖い。犬だと1歳時には大人だと言っていたから5月11の誕生日に大人になる。あと1か月ちょっとしかないんだが。

 その日から走るのは覚悟を決めておかないとなぁ。走るのは嫌だったが、かわいいスズカのためならなんでもやっちゃう覚悟を決めたぜ。

 シービーやネイチャと会えたのは学園の見学会に来たスズカのおかげだから頑張るさ!

 でも走るのは散歩のジョギングだけにしておきたいんだけど。

 なに? 俺を鍛えて一緒にレースしたいって? これ、散歩だけじゃなくウマ娘みたいにメニューを組んできそうな勢いなんだけど!

 俺は時々スズカとジョギングするだけでいいんだが!?

 

 これからは疲れまくる日々が来そうなことにショックを受ける俺。

 スズカは帰りの車内で今日のことを繰り返し楽しく言ってきてくれた様子から、大満足で今回の学園見学会は終わったみたいだ。

 帰る車ではぐっすりと寝ていたから、たくさんはしゃいできたらしい。

 おだやかに眠るスズカの顔を見ると嬉しくなるな! 




百合小説を書いたあとに、百合に挟まりたい犬の話を書くと感情が複雑になる問題が起きます
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