スズカの犬になりました   作:あーふぁ

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7.スズカとのランニングは健康にいいと思う

 今日は5月1日ですばらしい日だ。

 そのすばらしい日は何の日だって? 

 それはなぁ、最速の機能美であるサイレンススズカの誕生日なんだ!!

 小学5年生となったスズカは今日で11歳。俺が出会ったときからは、ちょっと落ち着きが出ていると思う。

 走るだけじゃなく勉強をする時間が増えたからそう感じているんだろう。

 

 そして今は普段より立派な晩ご飯だ。

 パパもこの日は早く帰ってきて、パパとママ、スズカの3人で楽しくご飯を食べている。

 俺も普段のかりかりとしたドライドッグフードじゃなく、しっとりしていて水分が多いウェットフードと色々な種類の肉が入った缶詰だ。

 もうね、すんごくうまいのよ。人間だったころはペットフードなんて素材の味しかしないものだと思ったけど、これがなかなかどうして!

 

 ビールがあるとさらに食が進みそうだ。犬の体にビールは毒物で死ぬ危険性が高いから飲めないが。

 犬用のご飯は栄養バランスが考えられているから、一人暮らしをしている成人男性と比較すれば圧倒的に犬のほうが健康的生活をしていると思う。

 俺が1人暮らしをしていたときは多くの食事を電子レンジに頼っていたし。しょっぱいのばかりだから健康に悪かった気がする。

 あじわうようにお皿に入れられたご飯を食べたあとはスズカたちがいるテーブルに行く。

 3人とも椅子に座っているが、俺に甘いスズカの横へ静かに行くと、スズカの足へと前足をポンと乗せる。

 

「どうしたの、アトラス。まだ食べたいの?」

 

 お寿司を食べているスズカに、俺は尻尾をぶんぶんと振っては食べたいとアピール。

 

「ねぇ、アトラスが食べてもいいのってどれ?」

 

 そうスズカが聞くと、事前に調べていたのかママがマグロのお寿司をスズカへと渡す。

 ママが言うにはワサビやしょうゆは犬の体に悪いからつけないようにとのこと。また、エビやタコといったものは消化が悪いのであげないでとも。

 何を食べちゃダメだなんてのは俺の知識にもないから、そういうのはスズカに気をつけるのを期待する。

 

「アトラス、あーんして?」

 

 俺は口を大きく開け、ななめ上へと頭を向ける。

 そこにスズカが手でマグロの寿司をひとつ口の中へと入れてくれた。

 犬は人間よりも味を感じづらく、また味覚では塩の味をあまり感じられないと聞いている。

 それでもうまいものはうまい。それが犬用でなくてもだ。味をつけなくても甘みがある魚はそのままでおいしい。

 

 だが、犬になってから最もおいしさがわかるのは嗅覚だ。においが人よりも優れているから、においだけでよだれが出るなんてことも多い。

 におい、食感、味の順でおいしさを判断している。

 

「どう、おいしい?」

「わうんっ!(最高だぜぇ!)」

 

 スズカが嬉しそうに聞いてきて、俺は元気よく返事をする。

 次にスズカはサーモンを差し出してきて、それもパクリ。うまうま。

 

「こんなに元気なら、明日からのお散歩は一緒に走れるね」

 

 ……いま、なんとおっしゃいました?

 走るの? 明日から? マジで?

 あまりのショックにふりふりと振っていた尻尾を止め、かたまってしまう。

 

「あと10日後にアトラスは1歳になるから走ってもいいってお父さんが言ったの。

 犬の1歳はね、人間で言うと16歳ぐらいだから体ができている今ならトレーニングを始めても大丈夫なんだって!」

 

 おおぅ。本当か、本当なのか。

 明日から走るの? スズカと一緒に?

 スズカに振り回されそうな予感しかしなく、なんとか止めてもらおうとパパの横へ行って上目遣い。

 パパは苦笑いをしつつ「がんばってな」なんて言う。

 失望しながら次にママのところへ行くと「スズカとアトラスが走るための道具はもう買ってあるからね」と優しい笑みを向けてくれた。

 

 味方なし。

 前にトレセン学園へと見学しに行ったときにスズカと一緒に走るってことは聞いていたが。

 それにしても道具を買ってあるって本格的すぎない? てっきりスズカがリード持って、軽く走るだけだと思っていた。

 

「アトラスがしっかり走れるようになったらクラブのコースを使ってもいいんだってコーチが言っていたの。なんでもウマ娘が犬と走った場合はどうなるか知りたいんだって。

 そうするための準備は今しているって言っていたから楽しみだね」

 

 そんなにっこにこな笑顔で言われても。

 毎週1回か2回ぐらいクラブに行ってはスズカが走るのを見学とノーリードで他のウマ娘たちと自由にじゃれあったりはしたけど。

 継続してウマ娘の姿をクラブで見られるよう、コーチやウマ娘たちの親たちに好印象を与えていたが、度を過ぎてしまったようだ。

 ……ええい、元からスズカのためならどこまでも走ろうと心に決めていたんだ!

 頑張れ、俺!

 自分を励ましつつ、この日の夜はスズカにお願いされて一緒のベッドで寝た。明日の散歩がどうなるんだろうと想像しながら。

 

 そして次の日の朝。晴れている午前6時。

 今日から散歩に使う新しい装備が導入された。

 スズカはランニングウェアとウエストポーチにスマホとGPS発信機。

 ヘルメットと、ヘルメットにつけるのはパパが買った小型の高性能カメラGoPro。見た目ではカメラは騎手が頭につけるジョッキーカメラみたいな感じだ。

 俺用には普段のリードの他にハーネスにつける脱走した時のためのGPS発信機。

 散歩には時間がかかるっぽいから、ママには水が入ったペットボトルと俺が飲めるように携帯式の水皿を渡されているスズカ。

 

 そうして荷物を用意してフルアーマースズカといった姿に変身したスズカに、パパが俺とランニングするためのベルトの腰に巻いていく。その腰に装備するのは最大260㎝まで伸びる伸縮式のリード。

 でもこっちは人が少ない場所じゃないとダメだとスズカに注意している。

 パパとママが少し不安そうな様子ながらも玄関まで見送りに来て、俺のリードを手で持ったスズカはいい笑みを浮かべて散歩へと行く。

 

「行ってきます!」

 

 元気のいい声を聞いて家を出る。住宅街のところは普段どおりに歩いての散歩。

 いや、少しだけスズカが早足だ。

 スズカの尻尾の振り具合を見るとテンションが高そうで、俺のほうの尻尾はあまり揺れが少ないローテンションというのが見てわかる。

 てくてくと歩いていき、住宅街を抜けて人通りの少ない山へと向かう道。

 最初は川沿いの堤防上にある道を走ろうとしていたスズカだけど、あの狭い道だと他の人や犬と問題を起こすかもしれないのをパパとママに心配されて山へとなった。

 山に向かう道は舗装されているから安心だが、上へ上へと向かっていくのを見るとたくさん疲れることに今からげんなりする。

 

「アトラス、止まって。今からリードを付け替えるからじっとしていてね」

 

 スズカに言われ、俺はおすわり状態で停止。ハーネスにつけていた、いつものリードを外すと伸縮式のリードをつける。

 それをスズカの腰に巻いているベルトへと着け、ランニング状態の完成だ。

 

「私が頑張ってアトラスを鍛えて、ウマ娘に勝てるぐらいのトレーニングをつけてあげるから。そして一緒にクラブでレースしようね」

 

 ……鍛えられたらウマ娘たちとクラブでレース。

 考えてみれば、たくさんのウマ娘たちに挟まれるということじゃないか? 蹴られそうな心配はあるものの、走っている真剣なウマ娘たちを見れるのはご褒美だ。

 そう思えば走るのなんて苦にはならない。

 走る前と走った後ではウマ娘同士でお互いを褒めあういちゃいちゃが至近距離で見れるし、とてもいいことじゃないか。

 あぁ、やる気が満ちてきたな!

 しっぽをぶんぶんと回しジャンプを繰り返しては元気がいいのをアピール。

 

「アトラスが嬉しそうでよかった。それじゃ先に走って。そのうしろを私がついていくから。最初はゆっくりでお願いね?」

 

 山へと向かう道を俺が先にゆっくりめで走り出し、後ろからスズカが追ってくる。

 スズカの速度はクラブで走るのよりも遅く、俺を気遣ってくれているらしい。

 

「このままの速度よ、アトラス。ランニングマシーンだとこれぐらいが時速10㎞だったの。だからこのまま走ろうね」

 

 スズカに言われ、加速をやめて速度を維持する。

 まったいらな道ならよかったんだが、走っている坂の角度はゆるやかなスキー場みたいとはいえ少しだけつらい。

 でも普段は坂道なんて走らないし、走っても距離が短いから今はこの体にかかる負荷が気持ちよく感じる。

 

 いつもの散歩道と違って木々がたくさんある山は空気がおいしく、車の排気ガスがないと空気の味がおいしい。

 それに音もエンジン音がなく、風で木々がこすれる音や鳥の鳴き声は耳に心地いい。

 森の青いにおいは都会にはない新鮮さで気分がよくなる。

 

 山道を走るのは俺とスズカだけで俺たちの足音と呼吸音しかしない。

 走りながらもちらりと後ろを見ると、スズカはおだやかで楽しそうな表情を俺に向けてくれる。

 そんな表情をしてくれるのなら、頑張って走る価値があるというものだ。

 

 しかし、走り続けるほどに思うことがある。

 坂道つっっっっらい!!

 アニメではミホノブルボンがよくやっていた印象がある。そして同じチームっぽい子たちがへろへろだった記憶も。

 あれは地面がウッドチップでこっちはアスファルトという違いはあるが。

 テイオーもアニメでウオッカとダイワスカーレットと一緒に坂道を走っていたっけ?

 今なら坂道のつらさがよくよくわかってしまう。こんなのを走っていたら色々なのが鍛えられるのも納得するね。

 

「アトラスが走れているから速度をあげよっか。15㎞ね」

 

 ひーひーと苦しくなりながらも呼吸を続けて坂道のつらさを考えていると、スズカがそんなことを言ってくる。

 あまりの驚きに走りながらも顔を向け、驚きの顔を向けるがスズカは俺にはお構いなしに速度を上げてきた。

 そしてスズカの前にいた俺は横に並ばれてしまう。真横にいるスズカは余裕そうだ。

 

 横にいるスズカを見るとスズカの期待にこたえたいと強く思ってしまう。

 転生したときは俺にとってサイレンススズカは数多くいるキャラクターのひとりだった。

 今では一緒に過ごした時間が多く、スズカのためになんでもしたいと決めている。

 

 だからこそ、今この瞬間は頑張ろうと思う。

 ……犬とウマ娘という種族の違いがあってもなぁ、少しは俺がすごいってところを見せたくなるのが男ってものだろう!?

 うぉぉぉぉぉ! と、心の中でさけびつつ速度を上げて俺がスズカの前にいるという位置を確保する。

 だがそれも長くはもたず、少しずつ速度が遅くなってきてしまう。

 

「そろそろ休憩しよう。そのあとは帰ろう」

 

 スズカの後ろを追う形となった俺を見てそう言ってくれたらしく、スピードが下がって止まってくれる。

 もう俺の心臓はばっくばくだ。ゴールデンレトリバーという長毛犬種なこともあって体が熱くてたまらん。冬ならすごい役に立つ毛皮なんだが。

 口で荒い呼吸をして道のまんなかで立ったままで休んでいると、スズカはウエストポーチから水が入ったペットボトルと携帯式の水皿を出す。

 その水皿に水を入れて俺へと差し出してくる。俺は呼吸が荒いにもかかわらず、その水を勢いよく飲んでいく。

 

 ひんやりとしている水はまさしく命を救ったとでも言えるほどに体へとしみわたり、走ったこと自体がすげぇ素晴らしいことだと思ってしまう。

 もしかしてスズカに付き合ってランニングをするのはよいことなのでは?

 このまま鍛えてスピードとパワーがつけばクラブでウマ娘たちに混ざっていちゃいちゃできるし、見れるし。

 水を飲み終わり、息を整えるのを再開するとスズカはペットボトルの水を飲んでいく。

 

 ペットボトルを持ち上げ、顔をかたむけて飲む姿は色気……はまだない。アニメやゲームでもスズカに色気が出るのは高等部になってからだもんなぁ。

 今のスズカだとかわいい妹か、娘を見る気持ちというのが正しいかもしれない。

 

「帰りは20㎞の速さにしようね。下り坂での風を切る感触はとても素敵なものだからアトラスもきっと気に入ると思う」

 

 ……マジ?

 え、下り坂を走るの?

 下りってのは上に行くよりも負担がかかるって聞いたことがあるんだが。いや、これは階段の場合だったか?

 でも速度がつくから、転ばないように体の制御をするのは大変そうだ。

 ゆっくり歩きたいが、スズカはまだ走り足りないんだろうなぁ……。

 

「ほら、行こう?」

 

 お座りして固まっている俺の首筋をぽんぽんと軽く叩いてきて、渋々立ちあがる俺。

 スズカの散歩に付き合うって決めたんだ。これからもこういうのがあるんだし、根性と気合で乗り越えないとな!

 後ろ向きばかりの思考だが、この苦しみを超えて体が仕上がってくれば楽しくスズカや他のウマ娘と並走できる。

 そう思えば今の俺は何も怖くない!! 

 立ち上がっても足のふらつきは特になく、さすがは犬の体だな。

 犬は基礎能力が普通の人より高いんだから、多少無茶するぐらいでいいかもしれない。

 

 よっしゃ、行こうかスズカ! 筋肉が疲れてきたけど帰るだけなら楽だな!

 スズカを見ながらちょっとずつ速度を上げ、うおりゃあああああ! と下り坂ということもあって速度をあげていく。

 

「アトラス、待って、速度下げて!」

 

 スズカは俺のリードを慎重に引っ張ってきて、俺の速度は下げられる。

 スズカの言う20㎞らしいところになるとリードは解放され、俺はその速度を維持しながら降りる。

 上り坂では疲れたが、下り坂のせいか走るのが最高に気持ちがいい。今なら走るのが大好きなスズカの気持ちがちょっとだけわかる。

 うぉー! 走るのは最高だぜぇ!

 テンションが高い状態で山を下りたあとは、リードをいつもの散歩用に付け替えてるんるん気分で帰宅だ。

 

 家に戻ってからはテンションが元に戻った俺は朝ご飯を食べ、小学校へ行く玄関でスズカに力いっぱい抱き着かれてたあと見送る。

 ……さて、ここまでスズカに見栄をうまく張れたと思うんだ。

 俺は疲れた体をいつもの定位置である窓際へ行くと、体を力なく横にする。

 もうね、筋肉が痛くて痛くて。気を抜くと立っているときにぷるぷる体が震えんだ。ウケる。

 

 そんな俺の姿を見てか、ママはねぎらいの言葉と一緒においしいビーフジャーキーを口元へと差し出してくれる。

 体を動かすのもひどくおっくうで、口をぱかりと開いて口の中に入れてもらったのを食べるだけ。

 はみはみと口を動かしてかんでいくと、肉のうまみがじんわりと広がって自然本来の味の良さに毎回感激してしまう。

 パパが仕事に行き、スズカが学校に行ったあとは筋肉痛があるなかで1日をのんびりと過ごしていく。

 

 うとうとと眠っていると、家のドアが開く音がして目が覚める。

 そしてばたばたと足音を出しながらやってきたのはスズカだ。

 

「アトラス、散歩行こう!」

 

 待って待って。俺、もう体がぐったりなんだけど? だから今日の散歩はお休みしたいなぁって。

 だからさ、スズカ。倒れたままの俺の体を押して床の上をすべらせないで!! 行きたくないんだって! 休みをください!

 スズカが散歩行こうと何度も声をかけてくるが、俺は無反応のまま。体のあちこちをさわられたって行かないからな。

 そうしているとママがスズカに声をかけ、夕方の散歩はなしと言う。

 ママの言葉を聞いた途端、スズカはさびしそうな顔を向けてきて罪悪感が芽生えるもできないのはできないのだ。

 

 翌日の朝には筋肉痛が結構取れていて、うきうき笑顔なスズカとまた山道をランニングすることとなった。

 スズカのかわいい笑顔のためならいくらだって走るぜ!

 うなれ本能! 燃えろスタミナ! かがやけ根性!

 いつかスズカが満足できて最高の散歩をするために走るんだ、俺よ!




話的に区切りがいい9話で終わる予定です
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