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トレセン学園。正式名称を、日本ウマ娘トレーニングセンター学園。
競走ウマ娘の養成機関にして日本最高峰の学園。エリートであろうと簡単に入る事が出来ない、努力に努力を重ねた者のみが通る事の出来る世界。
そんなトレセン学園には、ウマ娘を育て上げる「トレーナー」が在籍し、ウマ娘の担当を務める者も居る。
そのトレーナーの中でも、一際目立つ『トレーナー』がトレセンには存在する。
曰く、「ある意味で狂人」。
曰く、「戦闘狂」。
曰く、「強化人間」。
曰く、「学園最強の人間」。
人間であるにも関わらず、物騒な曰くが付いているトレーナー。しかし、彼が担当を請け負ったウマ娘は一切の例外なく大成を果たしている。
が、彼は転々と担当を変え続ける。それがまるで、新しい玩具を吟味する様であるから、彼は狂人の曰くを付けられた。
そのトレーナーの名を―――
「またですか、沖野トレーナー!」
トレセン学園理事長室にて。
緑色の秘書服を身に纏う女性―――「駿川たづな」は、無関心を隠そうともしない眼の前の男に、怒りを顕にしていた。
沖野。このトレセン学園に在籍するトレーナーの一人にして、このトレセン学園において最も名を馳せるトレーナー。
それでいて―――最速の男。
人間でありながら、ただの人間でありながら、ウマ娘とレースをして簡単に勝ってしまう男。
だが、そんな彼は常日頃から彼女に怒られていた。
「良いですか!? 練習するグラウンドは生徒皆も扱うんです! 自分のチームだけで何時間も使わないでくださいと、何度も言ってますよね!?」
「あぁ、そうだったな。すまん」
「その感情の籠もっていない謝罪も聞き飽きました! 今日という今日こそは反省文を書いていただきますからね!」
「それは面倒だ。せめて肉体労働にしてくれ」
「どこまで戦闘狂なんですか!? 今日だって、何度かサイレンススズカさんと走ってましたよね!? まだ体動くんですか!?」
サイレンススズカ。その異名を異次元の逃亡者。
大逃げと呼ばれる戦法を駆使し、その名を馳せた逃げウマ娘。
そして、沖野が未だ担当しているウマ娘の一人であり、チームの一人でもある。
「スズカとの走りは面白い。誰よりも前に出たい…そんな気持ちが剥き出しの走りをする。並ぶのも、それを崩してやるのも、どちらも気持ちが良い」
「大逃げに追い着くのは貴方だけですよ…」
「何を言ってる。俺だけじゃないだろう」
「はい? いや、貴方以外に居る訳―――」
ないでしょう。そう断言しようとして、止まる。
沖野は指を指した―――駿川たづなに。
「“ミノル”。お前が居るだろう」
「―――」
「俺は忘れていない。お前との走りを。お前の走りを。圧倒的で、絶対的で、強者の風格以外に何も感じさせない走り方。思い出すだけで、楽しくなってくる」
にやりと笑う。愉快に笑う。
ぞくり―――と、駿川たづなの奥底から何かが蠢いた。
嗚呼、なんて事を言う。なんて残酷で、なんて無惨で、なんて―――嬉しい事を言ってくれる。
捨てられたのに。目を離されたのに。手綱を離されたのに。それなのに―――それだけの事をされたのに、しかし未だ“ソレ”が燃え尽きる事はない。
勝負に貪欲で。強者に貪欲で。強さに貪欲で。満たされたなら次の獲物を狙う。
だからこそ、乾きが癒えない。もう一度振り向いて欲しいと思うからこそ、何かが蠢き、ソレが疼いて仕方がない。
「し…仕方ないですね。では、今夜どうです?」
「良いのか! よし、今日は早めに切り上げよう。久々の競走だ、楽しみにしているぞ」
まるで子供の様にはしゃぐ沖野に、たづなは、はいはいと流す。
だが、彼女も彼女で内心では彼と走る事が出来る事への歓喜を抑えられずにいたのだった
沖野トレーナー(フロイト)
トレセン学園に在職するトレーナーの一人であり、人間であるにも関わらずウマ娘に勝てる人間。物理的にも精神的にも強い人。
興味を持ったウマ娘を根気強くスカウトし、しかし大成したなら新しく興味を持ったウマ娘をスカウトする、という在り方を一度も変えずにこれまで生きている。