沖野トレーナー(フロイト)   作:全智一皆

2 / 2
チーム

■  ■

 その出会いは、まさに衝撃的だった。

 

「つまらない走り方だな」

「え…?」

 

 ターフの上を駆けていたウマ娘―――サイレンススズカは、その言葉を確かに聞き取り、自身のチームのトレーナーである東条ハナの方へと目を向けた。

 其処には東条だけではなく、もう一人のトレーナー―――トレセンで最も有名であろうトレーナー「沖野」が、スズカを見つめていた。

 

「なによ、こっちのチームの走り方にケチつける気?」

「チームじゃない、アイツの走り方にだ」

「アイツって…スズカの事?」

「サイレンススズカ。アイツの走り方は、まさしく枷を背負った走りだ。自分のやりたい走り方をやらせてもらえず、意思を封じ込めたつまらん走りだ」

 

 その言葉は、的を射ていた。

 後先考えず、全力で。最初から最高速で。

 先頭の景色。最前を駆け抜けて、誰もいない自分だけの景色を見たい。

 けれど、皆が別の走り方があると言う。自分の意見は、聞き入れてもらえない。

 自分を抑え込み、縛り、枷を付ける。そんな彼女に―――沖野の言葉は深く刺さった。

 

「お前、あいつの意思をちゃんと聞いた上であの走り方をさせているのか?」

「…えぇ、そうよ。彼女がしたい走り方は、彼女自身に負荷を掛ける。何より、チームとしての問題点もあるわ」

「はぁ…やはりつまらんな」

「はぁ……言うと思ったわ、この馬鹿」

「負荷だのこうだの言い続けては、走れる奴も走れないだろ。ウマ娘(あいつら)は走る事に意味がある」

「その走りで、二度と走れなくなっても?」

「なったなら仕方ない。レースとはそういうもので、ウマ娘とはそういうものだ。自分のやりたい走りで命を終えられたなら本望だろ」

「貴方ねぇ…「そもそも」…何よ」

 

「走れなく()()()様に、トレーナー(俺達)が居るんだろう? 走れなくなったなら、それはトレーナーの実力不足だ」

「―――ほんとう、そういう所よねぇ…」

 

 ただの馬鹿ではない。ただの愚者ではない。

 彼は確かなトレーナーだ。確かに考え馬鹿げてこそいるが、普通のトレーナーであれば持たない様な思考を持ってこそいるが、彼は優秀なトレーナーだ。

 トレーナー免許取得の為の育成学校の主席。他の追随を許さない、常に1位の座に君臨し続けた稀代の天才。

 彼の性格にこそ難があるが、しかしそれだけ。彼のトレーナーとしての腕は確かであり、もはや絶対的と言わざるを得ない。

 レースに絶対はない。だが―――フロイトには絶対がある。

 

「枷ある獣は、枷を外された時が最も自由なんだ」

「俺はお前を待っているぞ、サイレンススズカ――――――お前とやり(走り)合うのが楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数日が過ぎた頃。

 サイレンススズカは、チームリギルから離れた。

 沖野の言葉。それをしっかりと聞いていた彼女は、沖野が担当するチームへと移籍する事となったのだ。

 

「ちょっとッ! たづなさんからまた注意する様に言われたんだけど!? アンタ何した訳?!」

「他の(ウマ娘)と走っただけだ。怒られる謂れはないぞ、スカーレット」

 

「おしトレーナー、今からマグロ漁船乗ろうぜー!」

「マグロか。最近は食べてなかったな…よし、行こうか」

 

「トレーナー! 今度またトレーナーの相棒に乗せてってくれよ!」

「いいぞ。“ロックスミス”の調整も終わった所だ」

 

 自由。そう例える以外に、彼らを示す言葉はなかった。

 だが―――そこに、何か心地良さを感じたのだ。

 立ち尽くすスズカの前に、沖野が立つ。

 不敵な笑みと共に、肩に手が置かれ―――宣言される。

 

「ようこそ、サイレンススズカ。俺が率いるチーム―――『チーム()()()()()』に」

 

 これが、サイレンススズカが『ヴェスパー』に加入した日の事である。




【チームヴェスパー】
トレセン学園に在職するトレーナーの一人、沖野が作ったチーム。
学園における最高峰にして絶対のチーム。最古参であるゴールドシップを始めとし、他メンバーも優秀な成績を収めている。

ヴェスパーとは、黄昏や宵の明星を意味する。フロイトはこう言った。
「不思議と、こっちの方がしっくり来る」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【第一章完結】もしもカヤに親友がいたら(作者:あめざり)(原作:ブルーアーカイブ)

キヴォトスを平和にする為足掻き続ける不知火カヤと、そんな足掻きを手伝い続ける親友の話▼ついでに先生とFOX小隊の脳も焼きまくる


総合評価:1242/評価:8.1/連載:22話/更新日時:2026年06月19日(金) 14:16 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>