沖野トレーナー(フロイト)   作:全智一皆

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チーム

■  ■

 その出会いは、まさに衝撃的だった。

 

「つまらない走り方だな」

「え…?」

 

 ターフの上を駆けていたウマ娘―――サイレンススズカは、その言葉を確かに聞き取り、自身のチームのトレーナーである東条ハナの方へと目を向けた。

 其処には東条だけではなく、もう一人のトレーナー―――トレセンで最も有名であろうトレーナー「沖野」が、スズカを見つめていた。

 

「なによ、こっちのチームの走り方にケチつける気?」

「チームじゃない、アイツの走り方にだ」

「アイツって…スズカの事?」

「サイレンススズカ。アイツの走り方は、まさしく枷を背負った走りだ。自分のやりたい走り方をやらせてもらえず、意思を封じ込めたつまらん走りだ」

 

 その言葉は、的を射ていた。

 後先考えず、全力で。最初から最高速で。

 先頭の景色。最前を駆け抜けて、誰もいない自分だけの景色を見たい。

 けれど、皆が別の走り方があると言う。自分の意見は、聞き入れてもらえない。

 自分を抑え込み、縛り、枷を付ける。そんな彼女に―――沖野の言葉は深く刺さった。

 

「お前、あいつの意思をちゃんと聞いた上であの走り方をさせているのか?」

「…えぇ、そうよ。彼女がしたい走り方は、彼女自身に負荷を掛ける。何より、チームとしての問題点もあるわ」

「はぁ…やはりつまらんな」

「はぁ……言うと思ったわ、この馬鹿」

「負荷だのこうだの言い続けては、走れる奴も走れないだろ。ウマ娘(あいつら)は走る事に意味がある」

「その走りで、二度と走れなくなっても?」

「なったなら仕方ない。レースとはそういうもので、ウマ娘とはそういうものだ。自分のやりたい走りで命を終えられたなら本望だろ」

「貴方ねぇ…「そもそも」…何よ」

 

「走れなく()()()様に、トレーナー(俺達)が居るんだろう? 走れなくなったなら、それはトレーナーの実力不足だ」

「―――ほんとう、そういう所よねぇ…」

 

 ただの馬鹿ではない。ただの愚者ではない。

 彼は確かなトレーナーだ。確かに考え馬鹿げてこそいるが、普通のトレーナーであれば持たない様な思考を持ってこそいるが、彼は優秀なトレーナーだ。

 トレーナー免許取得の為の育成学校の主席。他の追随を許さない、常に1位の座に君臨し続けた稀代の天才。

 彼の性格にこそ難があるが、しかしそれだけ。彼のトレーナーとしての腕は確かであり、もはや絶対的と言わざるを得ない。

 レースに絶対はない。だが―――フロイトには絶対がある。

 

「枷ある獣は、枷を外された時が最も自由なんだ」

「俺はお前を待っているぞ、サイレンススズカ――――――お前とやり(走り)合うのが楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数日が過ぎた頃。

 サイレンススズカは、チームリギルから離れた。

 沖野の言葉。それをしっかりと聞いていた彼女は、沖野が担当するチームへと移籍する事となったのだ。

 

「ちょっとッ! たづなさんからまた注意する様に言われたんだけど!? アンタ何した訳?!」

「他の(ウマ娘)と走っただけだ。怒られる謂れはないぞ、スカーレット」

 

「おしトレーナー、今からマグロ漁船乗ろうぜー!」

「マグロか。最近は食べてなかったな…よし、行こうか」

 

「トレーナー! 今度またトレーナーの相棒に乗せてってくれよ!」

「いいぞ。“ロックスミス”の調整も終わった所だ」

 

 自由。そう例える以外に、彼らを示す言葉はなかった。

 だが―――そこに、何か心地良さを感じたのだ。

 立ち尽くすスズカの前に、沖野が立つ。

 不敵な笑みと共に、肩に手が置かれ―――宣言される。

 

「ようこそ、サイレンススズカ。俺が率いるチーム―――『チーム()()()()()』に」

 

 これが、サイレンススズカが『ヴェスパー』に加入した日の事である。




【チームヴェスパー】
トレセン学園に在職するトレーナーの一人、沖野が作ったチーム。
学園における最高峰にして絶対のチーム。最古参であるゴールドシップを始めとし、他メンバーも優秀な成績を収めている。

ヴェスパーとは、黄昏や宵の明星を意味する。フロイトはこう言った。
「不思議と、こっちの方がしっくり来る」
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