歯車仕掛け   作:はくまい-human

3 / 3
ひさしぶり


小話:金木犀

...夢を見た。まだ自分が幼かった頃の夢。

それは、金木犀の甘い香りが街中にふわりと漂っていた季節。

 

私はあの忌々しい場所から抜け出し、次に行く場所を探していた。

実際、行くアテもなければ、あそこから出てまでやりたい事なんて物もなかったから...

正直、かなり不安だった。野望もコネも、実力もない人間の子供にできる事なんてたかが知れていたから。

もしも私が、父親や母親...兄弟や姉妹なんかと暖かい食卓を囲うような家庭で育っていたなら、

もしも私が、あのまま奴隷として一生を終えていたなら...。

私は一体どうなっていたんだろうか?

もしもあの時、あの人が私に話しかけてくれなかったなら。

 

「どうしたんだい?こんなに小さな子供が一人で歩いてちゃ危ないじゃないか。」

今でも鮮明に覚えている。

当時、年齢に対してかなり小柄だった私に、目線を合わせ話しかけてくれた。

誰も気にかけなかった。気にかけようとしなかった私に。

その時私がどんな返事をしたのかは覚えていない。あるいは何も答えなかったのかもしれない。

でも、その時からはその人が親代わりだった。

実際、私に名前を付けてくれたのもあの人だった。

私は...前の名前が嫌いだったから。それに関する記憶を封じていたかったから。

名前を聞かれたが、答えることはなかった。

だから、私に名前を付けようとした。

そして私は、街中に漂う匂いの主に興味を示していた。

...だから、あの人は私に金木犀(オズマ)と名前を付けてくれた。

だから、今もそう名乗っている。

それから私はあの人と生活を共にした。

私が何かを成し遂げればまるで自分の事のように褒めてくれたし、たまに幼い私のわがままを聞いてくれた時もあった。

稽古をつけてくれたこともあったし、学校で教わるような事を教えてくれたこともあった。

...ひどく迷惑をかけて叱られてしまったこともあったっけ。

それでも、楽しかった。

幸せな、記憶だ。

 

私はあの人と出会った日を新たな私の誕生日としていた。

私が15歳になったある日。

あの人は姿を消した。

もうそのころには、あの人に家事や戦闘に簡単な計算を仕込まれていたから、一人で生活はできるようになっていた。

少し広くなった家で、私は決意した。

私も、あの人と同じように...

 

探偵になろうと。

 

それからは忙しい日々が続いた。

あの人が居なくなってから、大きな便利屋事務所に所属し、様々な依頼を解決していた。

小さなものでは落とし物探し、大きなものでは世界を救―――――

...流石に盛りすぎたか。

まぁ....それまでに貰っていたお小遣いや、あの人を手伝ったお給料。

便利屋事務所で稼いだお金を使って、自分の事務所を立ち上げた。

それも、つい1週間未満の話だ。

 

目が醒めた。

最近忙しくしすぎたか...疲労が原因で、どうやら少し寝過ごしてしまったようだ。

時刻は昼過ぎ。さて、今日はどうしようか...?




あの人
女性。
オズマの名付け、育て親で、探偵をしていたらしい。
ある日突然消えた。




魔力について
-生物や物質を構成する元素に潜在的に潜むエネルギーを魔力と呼称する。

-魔力には正の状態と負の状態が存在する。

-大抵の人間や物質は自発的に魔力を行使できるほどの魔力量を備えていない。

-また、魔力を完全に保持していない存在も確認されている。

-それぞれの物質や生物には、体内に保持できる魔力の限界量があり、それを魔力飽和量と呼ぶ。

-生物の場合、体内の魔力が魔力飽和量に近づくと、眩暈や嘔吐、発熱、譫妄などの重めの風邪に似た症状を発症する。これは魔力過剰供給疾病と呼ばれている。

-また、魔力過剰供給疾病が発症するラインを超え、魔力の供給が限界値を超えると、その肉体から魔力が溢れ出す魔力飽和状態となる。

-魔力飽和状態の生物の周囲では、あらゆる物理法則が適応されず、次元や時空がねじ曲がり、現実性がとても希釈で不安定な状態となっている。

-以下の3つは魔力飽和状態となった生物によって引き起こされた事象の報告書だ。
事案1967-2m

日付:■■■■/06/22
地名:■■■■■■大陸西部 ■■■■■■地区 ■■■
対象:同町■■■■牧場で飼育されていた羊 ■■■種 ■■■■■■■■

■■■■、6月22日未明に牧場主が異変を察知し、飼育小屋にて魔力飽和状態の対象を発見した。
牧場主は自身だけで対象の魔力飽和状態の治療を試み、接近したところで対象は周囲半径15kmの地形を巻き込み、歪曲させ、消滅した。
また、消滅する際に対象を中心とした半径1.5kmの休憩の領域と共に消失したため、牧場主や他の羊もともに消滅した。



事案1985-9r
日付:■■■■/12/24
地名:■■■島北部 ■■■ ■■■■■■■■
対象:同地の複合商業施設に訪れていた男性 ■■■■■■氏

■■■■/12/24深夜、複合商業施設に訪れていた男性■■■■■■氏は、当該施設屋上にて魔力飽和状態に至りました。
男性の肉体は大きく捻じれ、呻き声と共に変形し巨大な背の高い樹木と形容される姿へ変容しました。
枝と呼称できる部分の先端には赤い液体が供給されている嚢がいくつか結実していました。
翌日明朝、鎮圧部隊*が結成され、当該施設の屋上へ突撃しましたが、赤い液体で満たされ、肥大化した3つの嚢が落下する際に押しつぶされ2人の死亡が確認され、続いて地面に落ちた嚢を突き破り出現した、不明な人型の実体*との戦闘により部隊の大半が死亡しましたが、生き残りの4人により対象は討伐され、事態の鎮静化が完成しました。



-物質には魔力抵抗と呼ばれる魔力に対する抵抗が存在し、魔力抵抗が高い物質よりも低い物質の方が魔力が流れやすい性質がある。

-魔力抵抗により物質に流れることを阻害された魔力は熱や振動などの物理現象に変換される。

-魔力飽和量以上の魔力が流れた物質は、種類によって様々な反応を起こす。(例:破裂、変換、消失、移動、霧散、など。)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。