…なぁ、良い人生だったかい…?重國…   作:アクア=イスタロス

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君の名を呼ぶ / 未熟

『なぁ、■■』

 

虚空に声が響く

しかし、その声に応える者はおらず

 

『…はぁ』

 

空気が乾く

大地が罅割れ

草木が燃える

 

『声が届くのはいつになることか…』

 

燃え尽きた灰が風に乗る

一ヵ所に集まり、高く舞い上がる

そして空を覆い、厚く重なり陽が陰る

 

『……』

 

右手が燃える

しかし、その手が黒くなることはない

 

揺らめく焔をじっと見つめる

瞳に映る焔が色を変える

赤く、赤く、そして、白く…

そして、掌をゆっくりと握る

放たれる熱が掌で一つの形へ集約される

 

それは、刀だった

 

切っ先から火の粉が散る

先程とは違い、色が変わることはなく

しかし、赤く緋く赫く―

それは全てを貫く刃であり

それは全てを焼き尽くす刃である

 

刀を振る

空気が震える

切っ先から飛ぶ火の粉が辺りに舞う

二つ、三つ、四つ、五つ―

何かを斬るためのものではなく、魅せるためのもの

くるくると、くるくると速度を上げて、ただただ舞う

 

『早く、私を呼べ、■■――』

 

これは数千年前

とある"もののふ"が、未だ己の魂を見定める前にあった"彼の者"の記憶の一幕

幾年が経ち、護廷十三隊(ごていじゅうさんたい)を結成し、尸魂界(ソウル・ソサエティ)を揺るがす大戦を超え、歴代最強と謳われることとなる"もののふ"と"彼の者"の話

 

 

 

 


 

 

 

 

澄み渡る青く高い空

遠くまで広がる枯草交じりの荒地

そこにひっそりと佇む一軒の小屋

庭先には小さな池と、池を覆うように広がる数本の木々

池には数匹の鯉がゆったりと泳ぐ

 

小屋の軒下に二人の人物

一人は黒い着物を纏い、一人は青い着物を纏う

黒い着物――死覇装(しはくしょう)を纏う者の名は"山本重國(やまもとしげくに)"

湯呑に注がれた茶を静かに飲む

 

そして、もう一人

青と白の着物を身に纏い、赤く熟した柿を丁寧に口へ運ぶ

その人物の名は――

 

『重國』

 

「…なんじゃ」

 

庭先の鯉から隣の人物へと目線を向ける

黒い短髪、青い瞳、赤い腕輪

纏う青と白の着物が相まって、とても色鮮やかである

 

『単刀直入に告げよう』

 

『君は、未だ私を使いこなせていない』

 

「…ほぅ?言うではないか」

 

彼の者の名は"流刃若火(りゅうじんじゃっか)"

山本重國が持つ斬魄刀(ざんぱくとう)の名である

浅打(あさうち)から姿を変えて、既に千年を超え

始解(しかい)は元より、卍解(ばんかい)を習得

先日の大戦すらも己が刃で敵を穿ち、その後の鍛錬もおろそかにせず

心技体、全てが充実する我が身を前にして、己の刃が告げる"未熟"の一言

 

『此処は狭い、場所を移す』

 

最後の一つを口に運び、咀嚼しながら席を立つ

それを横目に、湯呑に残る茶を飲み干す

未だ熱の残る湯呑を縁側へと置く

そして、気持ちを切り替えるため、瞬きを一つ

 

次の瞬間

そう、瞬き一つの間に、辺りの景色は大きく変わっていた

 

『構えよ、重國』

 

何もない荒野に立つ二人

纏う着ぐるみは何も変わらず

手に持つものだけが先程とは違い

両者持つのは瓜二つの刀

黒糸の柄巻、小判型の鍔、広直刃の刀身

見た目に特徴のないシンプルな刀である

 

『久しぶりに、稽古の時間だ』

 

「ふん…」

 

合図はない

構えて早々、互いの刀がかち合い、火花が散る

一合、二合、三合、四合――

 

「どうした、未熟ではなかったか?」

 

『焦るな、重國…』

 

飛び散る火花が大地を焦がす

何も語らぬまま、唯々刀を振るう

振り下ろし、振り上げ、薙ぎ、そして突く

殺す気は無く、しかして当たれば死が待ち受ける

 

「…?」

 

ふと、違和感を覚える

否、違和感ではない

これは――

 

『気が付いたか、重國』

 

鍔迫り合いとなった刀を大きく弾き、距離を取る

そして、流刃若火の刀を見る

重國の持つ刀身から散る火の粉の色は"赤"

しかし、流刃若火の刀身から散る火の粉の色は"白"

 

「……」

 

『……』

 

どちらも語らず

しかし、表情はまるで違う

額に皺を寄せ、悩む姿を見せる重國

構えを下ろし、重國を眺める流刃若火

そのまま数十秒の時が経つ

しかし、重國が再び動くことはなかった

 

『……今日はここまでだ』

 

流刃若火の手から刀が消え解ける

同じく、重國の手からも刀が消える

 

『理解したか、重國』

 

『先の大戦で君が扱った私は、未だ至っていない』

 

『それは始解然り、卍解然り』

 

『驕るなよ、重國』

 

『そして、逸るなよ、重國』

 

『君には時間がある』

 

『死なねば、次へ繋がるのだから』

 

重國の肉体が消える

流刃若火の精神世界から弾かれたのだ

 

『……』

 

雨が降る

荒れた大地に雨水が染み浸る

 

『…さて、今回の雨はどれだけ降り続くことやら…』

 

 

 

 

雨は、止まない

 




少しだけ続くんじゃよ

あくまで作者が書きたいと考えた閑話だけ
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