光刃閃く青春の都   作:イダイ

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 窓枠に提げられたブラインドの隙間から差し込む日の光に照らされて、空中に待った埃がキラキラと輝く朝の時間。

 部屋の主は、豪奢な机に両足を組んで乗せて、これまた仕立ての良い座り心地の良い椅子の背もたれに体を預け顔の上に乗せたハードカバーの本をアイマスク代わりに惰眠を貪っていた。

 静かな朝だ。防音設備の確りとしたこの一室は、外からの騒音もなかなか届く事は無い。

 しかし、この街は騒動に事欠かない。そして、騒動の蜘蛛の巣は仕事の関係上必要だった人脈を広げたこの部屋の主も否応なく絡めとっていく。

 静謐な部屋に響く、甲高い電話の音。アンティークのベル音は、最先端科学も存在するこの街では珍しいと言わざるを得ないだろう。

 その音に、眠る誰かの体がビクリと跳ねて、同時に顔に乗せられていた本が落ちた。

 赤茶けた髪色の少年だ。寝ぼけ目で虚空をさまよった灰色の瞳は、やがて鳴り響く電話へと向けられた。

 少年の組まれた脚が動く。机の右手側に置かれた電話の近くへと右足を持ち上げて、振り下ろす。その踵が掠めるようにして受話器の角へと当たって跳ね上がると、緩い弧を描いて突き出された彼の右手に収まった。

 耳へと押し当てて、彼の口が動く。

 

「あい、こちら“鉄火屋”」

 

『声が掠れてますね。また夜更かしですか?』

 

「いや、さっきまで寝てたんですけど……世間話なら切りますよ、連邦生徒会首席行政官殿?」

 

 受話器の向こうから聞こえてくる涼やかな声に苦言を返しながら、閻野空継(えんのそらつぐ)は机から脚を下して姿勢を正した。

 この電話の向こうの相手が、態々世間話程度で電話を掛けてくるような暇人ではない事を良く知っているからだ。どこぞの交通室のサボり魔は別として。

 

『はぁ……ええ、そうですね。端的に言いましょう、貴方に仕事の依頼をしたいんです』

 

「ほう?首席行政官殿が一介の傭兵に過ぎない人間に仕事の依頼とは珍しい…………まあ、良い。お受けしましょう」

 

『……内容を聞かないつもりですか?』

 

「俺みたいな傭兵に仕事を持ってくる時点で、訳ありでしょう?何より、貴女には()()()()()。その一つを返すとしますよ」

 

『分かりました……では、到着次第仕事を始めてもらいます。詳細は、その時に』

 

「直ぐ向かいます」

 

 電話が途切れ、空継は椅子から立ち上がった。

 寝間着ではない為、このままコート掛けに掛けられた灰色のジャケットを手に取り羽織る。

 それから、仕事道具。

 

「……」

 

 手に取ったのは、三十センチほどの細身の円筒だった。片方は穴が開いており、もう片方はカラビナが付けられベルトから提げられるようになっている。

 手慣れた様子で時継は、これを腰の左側から提げた。

 そして向かうのは、事務所の一階。車庫兼シェルターに置かれた一台のトライク。

 舗装路のみならず、山だろうと砂漠だろうと荒野だろうと草原だろうと岩山だろうと、乗り手の力量次第でどこまでの走破可能という化物マシン。

 何故こんなものを持っているかといえば、仕事の報酬だったりする。

 ハンドルの中央に設けられた指紋認証機能に親指を押し当てれば、車庫内にエンジン音が響き渡った。

 フルフェイスのヘルメットをかぶり、座席へと跨ってエンジンを一吹かし。同時に、シャッターが開いていく。

 半分ほど開いた所で、もの凄い加速をもって飛び出していくトライク。

 

 閻野空継、十六歳。職業、傭兵。この学園都市キヴォトスに置いて珍しい、ヘイローを持たない少年である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連邦生徒会首席行政官兼連邦生徒会長代理、というクソ長い感じの羅列を背負う事になった七神リンは既に途切れた端末を置いて眼鏡を額へとずらすと目頭を揉んだ。

 元々治安の悪いキヴォトスの行政は、かなり大変なもの。胃壁と睡眠時間を削って何とかなるような状況で、生徒会長の失踪は連邦生徒会の機能不全を起こしていた。

 結果、更に荒れたキヴォトス。最早世紀末。

 そんな中で彼女が打った布石は、ささやかなものだ。劇的な変化こそ起こさない。しかしその一方で淀みなく回る歯車の隙間に入り込む小石程度の役割は果たせるかもしれない。

 

「はぁ……」

 

 重い溜息と共に気持ちを切り替えて、リンは椅子より立ち上がる。

 向かうのは、連邦生徒会のロビー。そこに、本日着任する()()()先生が居るという事だったから。

 その短い道すがらに思うのは、先程の電話の相手。

 

(実力は申し分ないんですけどね……)

 

 喧嘩が起きると、手よりも先に引き金を引かれる方が速いキヴォトスに置いて、ヘイローを持たないというのはそれだけでディスアドバンテージだ。

 それでも傭兵業などという鉄火場一直線の仕事が出来ているのは、偏に強いから。

 彼は“貸し”があると言っていたが、リンからすれば損得勘定を抜きにして運用できる鬼札としての認識が強い。

 言ってしまえば、私兵だろうか。ただ、ソレをリン本人は愚か仕事を任される彼も一言も口にしない。

 

 今後の動きを考えながら、扉の前で少し前髪の位置を修正してから、リンはロビーへと足を踏み入れた。

 近代的な、そして無機質な静けさのある部屋。その設置されたソファの一つに誰かが眠っていた。

 綺麗なストレートの肩甲骨辺りまである長い黒髪に、白いワイシャツ黒のスラックス、それから、座って眠っていても分かるプロポーション。

 ここキヴォトスにも、スタイルの良い少女たちは多い。リンとてその一人。

 だが、目の前の女性はまた違う。大人の女性としての完成された雰囲気というものがあった。

 

(この人が……)

 

 気持ちよさげに眠っているが、しかし状況は逼迫している。

 意を決して、リンはその一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街を疾走する一台のトライク。

 前輪が二本、後輪が一本のこのバイクと車の中間のような乗り物は、乗りこなすには相当な度胸と体幹、それから腕力が必要だった。

 

「治安、悪くなったな」

 

 段差を利用してトライクを跳ねさせて、近くの壁を無理矢理に走りながら空継は眼下を見下ろす。

 中々に凄まじい光景だ。ビルの壁面を走るトライクは、自然と注目を集め。同時に向けられるのは不良たちの銃口。

 

「撃ち落として身包み剥いでやれ!」

 

「おい、アレって鉄火屋だよな!?」

 

「構うもんか、ぶっ放せ!!」

 

(面倒くさ)

 

 アクセルを更にふかして加速させた空継は、左手をハンドルから放すと腰から提げた細長い円筒へと手を掛けた。

 取り外し、そのまま口に咥えると再び左手をハンドルへと戻し、勢いよく空へとトライクを引っ張る。

 当然、壁面を走っていたトライクは、宙を舞ってそして重力に引かれて車輪の面から道路へと落ちていく。

 その空中で再び左手を放した空継は、咥えた円筒を空けた手で掴んだ。

 

光刃(こうじん)、展開」

 

 鈍い音と共に、円筒の穴が開いていた部分より発生するコバルトブルーの光。

 光の剣身は、八十センチほどの長さで止まり、同時にトライクも着地。凄まじい速度で道路を走っていく。

 当然追いかけてきた銃口から放たれる鉛弾が彼を襲うが、これを時継は左右への車線変更で回避。

 それでも避けられないものは、光の剣身で切り払っていく。

 

 これこそ、閻野空継の持ち合わせた()()()()()。そして、彼がこのキヴォトスで生きていける理由でもある。

 

 キヴォトスには、何人かの最強が存在する。

 最優の最強、持久戦最強、接近戦最強、神秘最強等々。

 

 その中で選ぶのなら、閻野空継は守戦最強、といった所か。銃弾飛び交う戦場で、彼は碌な手傷を負った事が無い。

 傭兵業ではあるが、その仕事内容の大半が護衛である事からもこの面が高く評価されている証明と言える。

 弾丸を切り払い、投げられた手榴弾を蹴り返し、空継の視界に漸く連保生徒会の本部が見えてくる。同時にその中へと入っていく数人の生徒たちの姿も。

 彼女らの後を追うように到着した空継は、光刃を収めて円筒を腰から提げ直してビルの中へ。

 

「どーも、羽川さん」

 

「!閻野君?何故、連邦生徒会に?」

 

「仕事です。どうにも、面倒な事になってるみたいですね」

 

 黒い翼をもつ色々と大きな女生徒へと声を掛けた空継。

 羽川ハスミ。トリニティ総合学園の三年生であり、正義実現委員会に所属する結構な武闘派。

 仕事柄、各学園の荒事担当とは顔を合わせた事のある空継としては、顔馴染みが居て少し気が楽になったというもの。

 

「羽川さんは、ここに何をしに来たんです?」

 

「……現在のキヴォトスにおける治安状態について、連邦生徒会の見解を直接聞きに来た次第です。正義実現委員会としても、トリニティの一員としても」

 

「まあ、確かにここ最近は治安が悪いですからね。ここに来る道中も、チンピラが屯してましたよ」

 

「貴方が突っ切ったのなら、鎮圧も終えた、と考えて良いでしょうね」

 

 情報交換を行う二人。

 彼らだけではない、この場には他に三人ほど集まっている。

 彼女らは彼女らで言う事があって集まっていた。その言葉をぶつける先は、エレベーターと共に降りてくる。

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