光刃閃く青春の都 作:イダイ
エレベーターを降りてきた二人の内、その片割れへと閻野空継は片手を上げた。
「どーも、行政官殿」
「ええ、お待ちしておりました
七神リンは頷きを返し、続いて彼の周りに居た生徒たちへと目を向ける。
「……お呼びしたのは、彼だけの筈ですが」
「首席行政官。連邦生徒会長へ会いに来ました。風紀委員長が、今の状況に対する納得のいく回答を求めています」
進み出たのは、大きな大きな中身がパンパンになるまで詰め込まれた医療カバンを肩から下げた眼鏡の生徒。
彼女だけでなく、空継を除いた面々は何れもこの場に現在のキヴォトスの状況に対する回答、或いは一定の解決策を求めてやって来たのだ。
(お偉いさんってのは、大変だ)
完全な他人事として、空継は顎を撫でる。この辺りは、個人業の気楽な所。
一方で、一斉に視線を向けられたリンは、心底疲れたようにため息を吐く。
「はぁ……何でこう、忙しい時に…………んんっ、こんにちは各学園の訪問者の皆様。随分と……いえ、ここに訪れた理由は分かっています。今学園都市内で起きている混乱の責任を問う為、でしょう?」
「そこまで分かってるなら、なんとかしなさいよ!連邦生徒会なんでしょ!?数千の学園自治区が大混乱の状況なのよ!?この前なんて、うちの風力発電所がシャットダウンしちゃったんだから!」
「連邦矯正局より、複数の停学中の生徒が脱走したという話もありました」
「スケバンなどの不良たちが登校中の生徒を襲う事案も増えています。治安の維持も限界になってきていますよ」
「戦車やヘリコプターなどの出所の分からない武器の不法流通率も2000%増大しています。兵器類の流通が増えれば、単なる不良の集団であろうとも明確な脅威となり、自治区経営に支障が出ています」
「ここに来る道中もかなり荒れてましたね。一般生徒じゃあ、切り抜けるのはまず不可能でしょうよ」
次々と矢継ぎ早に告げられるそれぞれの問題は、決して無視できることではない。
彼女らの自治区は、それぞれここキヴォトスでも最大級。生徒数も多く、その結果として治安維持系に駆り出される者達はきりきり舞いの状態なのだ。
しかし、どれだけ問題の解決を求められても、現状の連保生徒会は無力。
「それで?連邦生徒会長は、何処?何週間も姿を見せないなんて」
「……現在、連邦生徒会長は席に居りません。正直に言いますと、行方不明です」
「えっ!?」
「やはり、あの噂は……」
「結論から申しますと、現状の連邦生徒会はサンクトゥムタワーの最終管理者が居なくなったために、機能不全を起こし、行政制御権を失った状態です。認証を迂回し、どうにかできないか探っていますが、今の所その方法は見つかっておりません。ですが――――」
そこで言葉を切り、リンは隣へと視線を向ける。
「可能性は出来ました」
「……それって、隣の人の事?」
「はい。この方が、フィクサーとなってくれる筈です」
促されて一歩前に足を踏み出した女性。自然と、そちらへと視線が集まる。
「初めまして」
「“先生”として着任されます。鉄火屋さんを呼んだのも、この方の護衛を務めてもらう為です」
「へぇ?……どうぞよろしく、先生」
リンに言われ眉を上げた空継は、一歩進み出ると先生へと右手を差し出した。
武骨な手が握り返される。
「硬いね」
「はっは、まあ女子のまろい手と一緒にしてもらっちゃ困りますね」
「うん……頑張ってきた手だよ」
決して強くは無いが確りと握り返される手。空継の頬がヒクリと引きつり、気まずそうに眼を逸らす。
キヴォトスは学生の街だ。学生が運営し、政治を行い、戦闘を行い、全てが学生主体に行われている場所。
そこに割り込む大人は、決して善人ばかりではない。寧ろ、悪人の方が多いだろう。
仕事柄、悪い方に関わりの多い空継からすれば、真っ直ぐに見てくる目の前の女性は眩しいものに思えた。
手が離れ、一歩下がった空継が居心地悪そうにうなじを撫でる一方、ジッとその様子を見つめる目が一対。
しかし、状況は待ってくれない。
「んんっ!………話を続けます。先生は元々、連邦生徒会長の立ちあげたある部活の顧問として招聘されました。部活名は、連邦捜査部“
「うっわ、何考えてるんだあの人」
引いたように呟く空継だが、周りも少なからず似たような反応だ。
各学園の自治区の独立性というのは、言ってしまえば一つの国家と表しても決して大げさではない。だからこそ、政治的紛争や対立が後を絶たない訳なのだが。
そこに、連邦生徒会長のお墨付きを受けての強制介入。明らかに、荒れる事は明白。
「……反発が出る事は確かでしょう。こちらとしても、生徒会長が何故ここまでの権限をシャーレへと与えているのかは分かっていません。ですが、今は先生をシャーレの顧問として着任していただくという仕事を最優先にしたいと思います」
「私はそれで構わないけど……先に、連邦生徒会長を探すべきじゃ?大きな権利を捜索に回せれば、それだけ見つけられる可能性もあるよね?」
「……生徒会長からの指示なんです。シャーレの地下にとある物を持ちこんでおり、その機能があれば一先ずこの混乱を押さえられる、と。最優先としているのは、この為ですね」
「あ、ごめんね……」
「いえ……では、鉄火屋さん」
「うん?何です、行政官殿」
「貴方には、シャーレの部員が集まり運営に支障が出なくなるまで先生の補佐を御願いします」
「ずっとですかね?」
「とりあえず、2週間分の当番が埋まるまで、でしょうか。報酬は、そちらの設定した額を週刊で支払います」
「ふーむ……まあ、良いでしょう。貴女には、借りがある」
「助かります。直ぐに、ヘリを手配しましょう。シャーレの部室はここから約30キロ離れていますから。時間も惜しい事ですし、街を進めば先生への流れ弾が来る可能性もありますから」
言いながら、リオは端末よりホログラムの通信を呼び出した。
浮かび上がるのは桃色の髪をしたポテチを食べる少女だ。
『あれ?リン先輩、何か用?』
「モモカ、シャーレへと先生をお連れするヘリを一機手配してくれる?」
『シャーレ?……ああ、あの外郭地区の。そこ今、大騒ぎだけど?』
「……大騒ぎ?」
『うん、そう。矯正局を脱走した生徒が、不良やスケバンを引き連れて騒ぎを起こしてるみたいだよ。ちょうど、戦場になってるみたい』
「……戦場」
『巡航戦車まで持ち出したみたいでさー。連邦生徒会に恨みのある不良が先頭になって、シャーレの部室を占拠しようとしているみたい。何か大事なものがある、って情報まで漏れてるっぽいねー』
「…………」
絶句。心なしか、リンの纏った空気が冷えた気がした。
そんな彼女の肩に、手が置かれる。
「落ち着いてくださいよ、行政官殿。俺のトライクでそのまま送るって手もありますから」
「ッ……スー…………ふー……そう、ですね」
『あ、鉄火屋さん。こんにちはー』
「……そっちは相変わらず緩いな、由良木」
『それが私ですから………あ、デリバリー来た。落ちまーす』
割とふざけた理由で通信が途切れる。
リンの蟀谷に井桁が浮かぶが、首を振る空継を見て何とか意識を落ち着けた。
「…………問題が発生しましたので、別の手段を取りましょう」
「えっと、リンちゃん大丈夫?」
「誰がリンちゃんですか……コホンっ、幸いと言うべきかこの場には戦力があります」
「……え?何でこっちを見てくるのよ」
「鉄火屋さんだけでも先生を送ることはできるでしょう。ですが、それでは時間がかかり過ぎる、かといって、彼の乱暴な運転では外から来られた先生が耐えられません。ですので、皆様の力を貸していただきましょう」
スッと、リンは息を継ぐ。
「キヴォトス正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が必要です。その持て余した力を、存分に振るっていただくとしましょうか」
「あ、遂に本音出た」
「鉄火屋さん」
無言のハンズアップ。怒れる女性は触らぬが吉。
かくして始まる大行軍。最初の戦いが目前へと迫っていた。