第8軌道艦隊の先遣隊の暗号パルスを解読し、指定された座標へと向かうアークエンジェル。
そのブリッジでは先遣艦隊旗艦モントゴメリ艦長ーーコープマン少佐から通信が寄せられていた。
《本艦隊のランデブーポイントへの到達時間は予定通り。合流後、アークエンジェルは本艦隊指揮下に入り、月本隊への合流地点へ向かう。あとわずかだ。無事の到達を祈る》
コープマン少佐からの言葉に、クルー全員にとって安心感すら感じてしまう。
それぐらいに自分たちが今、孤独の存在ではないと自覚できるのだ。
すると、コープマンの隣にいる者が前のめりに話し出す。
《大西洋連邦事務次官、ジョージ・アルスターだ。まずは民間人の救助に尽力してくれたことに礼を言いたい。…あー、それとその…救助した民間人名簿の中に我が娘、フレイ・アルスターの名があったことに驚き喜んでいる。…できれば、顔を見せてもらえるとありがたいのだが…》
彼の言葉にマリューやナタルらは驚きの顔を浮かべる。
コープマンが横から気まずいようだが口を挟む。
《事務次官殿、合流すればすぐに会えますよ》
父親であるジョージ•アルスターが来ていることは、サイが自らフレイに伝える。
「え!?パパが!?」
「うん、先遣隊旗艦に乗って来てるよ」
「そう……パパが、嬉しい……」
フレイは安堵と歓喜が混じった涙を静かに流す。そんな彼女の肩をソッと乗せて彼女の涙を拭いてやるサイーーっと彼はキラはどうしたかなとフレイに問いかける。
「そう言えばキラは?」
「確か、あのプラントの女の子の所にシンラ中尉と居るはずよ?」
「そうか……」
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そのキラとシンラ、そしてラクスが居る部屋では……。
「シンラ様はーーナチュラルなのか、コーディネイターなのか、どちらなのかと思いまして……」
「え…?」
「………」
キラは思わずシンラの方へ向く、その本人はラクスを見つめて無言のままだった。
ラクスとしてはただの好奇心からの問い掛けであるが、キラもまたずっと気になっていたーーモビルスーツ•パワードに乗ってザフトのモビルスーツや、奪取された4機のXナンバー機体を簡単に撃退する程の腕前、アルテミスでもナチュラルとは思えない尋常とは言い難い身体能力、これでナチュラルだと言うならウソとしか思えない。
だがシンラが口を開き、語られた言葉は意外なものだった。
「それが……自分にも分からないんです」
「え……?」
「どういうことですの?」
二人はどういう意味か分からず首を傾げる。シンラは更にその理由を話す。
「自分は、幼少期の全ての記憶が無いんです」
「え………」
彼から語られた話にキラは目を丸くして、間の抜けた声を漏らしたのだった。
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その一方、クルーゼとアスランはプラント本国に一時帰還し、評議会へ出頭並びにヘリオポリス崩壊の事実確認の為の報告を済ませた。
その後、アスランの父でありプラント国防委員長を務めるパトリック•ザラより、ラクス•クライン失踪の報が伝えられた。
修理と補給を済ませたヴェサリウスは、既に二隻のローラシア級と合流を果たし、ラクスの捜索の為に航行中であった。
その際レーダーにて地球軍の艦艇を捕捉したと報告があがった。
その事でブリーフィングを行っている最中である。
「地球軍艦艇の予想航路です」
アデスが宙域図をモニターに表示させる。クルーゼは何か思考するように、顎に手を当てながら話す。
「あれが”足つき”に補給を運ぶ艦ならば…このまま見逃すわけにはいかないな」
「仕掛けるんですか?…しかし、我々には…」
アスランが言葉を遮って自分たちの本来の任務ではないのでは?と疑問を口にするが、しかしクルーゼはーー
「我々は軍人だ、アスラン。いくらラクス嬢捜索の任務があるとはいえ、たった一人の少女のためにあれを見過ごすというわけにもいくまい」
そこでブリーフィングは終了し、全艦の戦闘準備が行われる。
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所戻ってアークエンジェルのシンラたちが居る部屋。
彼から語られた話に、キラとラクスは眼を丸くして呆気になる。
だが直ぐにラクスは、シンラに対して哀れむように悲しげな顔をする。
「幼い頃の記憶を………お辛いでしょうに……」
「確かにそうですね、その為、自分がナチュラルなのかコーディネイターなのか、それともハーフなのかそれすら分からないのですが、しかしそれでも今の自分にとって些細なことだと思ってます」
「どうしてですか?」
隣に座るキラが問いかける。
「今の俺にとって何者なのかと言う疑問なんて、意味はないからだ。
俺は地球軍の兵士として戦場に身を投じている以上、いつかは死ぬ……だからーー」
「だから、知っても意味はない…ということですの?」
「そうですね」
「そんな……」
ラクスはそれを聞いて更に悲しげになり、キラもまたそんな悲しいことを言うシンラに対して、なんで?どうして?とそんな疑問を抱きながらシンラを切なげに見つめる。
キラは自分を大して大事に思ってないようなことを言うシンラの手を、彼女はいつの間にか握る。
「キラ?」
「どうして……?」
「え?」
「どうして!!シンラさんも生きてるのに!!こうして私と!ラクスさんと!言葉を交わしてくれてるのに!どうしてそんな悲しいことを言うんですか!?」
「キラ……」
シンラは自分からこれ以上何も言えない。自分はアズラエル財団麾下の兵士であり、ドクターからは"特別な存在"だとか、"最高の最上位の存在"だとも言われ続けてきた。
シンラはそれを地球軍にとって非常に貴重な生体CPUという意味で解釈し、自分はモビルスーツを動かすパーツーーまたは兵器の一種として認識し生きている。
だがキラから見るとシンラはーー
「それじゃあシンラさん、戦いに縛られた戦いの奴隷ですよ!!」
「……」
声を荒げるキラ。シンラはただ彼女を見つめるしかなく、何も言えない。
その彼にラクスは優しくも悲しい笑みで言う。
「シンラ様……戦いの終わりの先に、シンラ様の望む世界はあるのですか……?」
「それは………」
自分を見つめてくる二人の少女ーーその純粋であり、そして悲しくも必死に自分を思い訴えるその瞳に、シンラは眼を反らすしかできなかった。
その時だった、艦内に喧ましいアラートが鳴り響く。
ブリッジでは先ほどまでの安堵と歓喜に満ちた様相から一変、緊迫した雰囲気になっていた。
「モントゴメリより入電!ランデブーは中止!アークエンジェルは直ちに反転離脱とのことです!」
ロメロからの報告にマリューらの緊張感が増す。
そのモントゴメリでは敵を捕捉する。
「モビルアーマー、全機発進急がせぇい!ミサイル及びアンチビーム爆雷、全門装填!」
「熱源確認!!モビルスーツ!!数11!」
「ちぃ!!」
アークエンジェルと合流を果たそうとしていた地球連合軍第8軌道艦隊先遣隊旗艦ーーモントゴメリの艦長であるコープマン少佐は唇を噛み締めた。
こんなタイミングでザフトが来るなど思いもしなかった、しかも数も数で只事ではない。
こっちの戦力は戦艦のネルソン級に駆逐艦のドレイク級二隻とモビルアーマーってだけ、これでは間違いなく全滅必至だーーだがアークエンジェルをこの戦闘に巻き込むのは避けたい。
だが既にモントゴメリの随伴艦であるドレイク級バーナード、ローは敵のモビルスーツ部隊に包囲され、船体各所で炎上し始めている。
その中で、モントゴメリに乗艦しているジョージ•アルスターが冷や汗を流し1人ぼやく。
「奪われた味方機に落とされる………そんなふざけた話があるか!」
アークエンジェルでは、チャンドラより戦闘による熱分布が検出したとも報告が上がり、まさか先遣隊が敵と接触したのかと察した。
「敵の戦力は!!」
「イエロー257、マーク40にナスカ級1!ローラシア級が2!熱紋照合…ジン11!!それと…これは…X-303、イージスです!」
トノムラの索敵結果に誰もが息を呑む。迫ってきているのがクルーゼ隊だと分かった。
ナタルに呼ばれるマリュー、ここは先遣隊の言う通り反転離脱して生き延びるべきなのだろう。
しかしこの時、シンラに言われたことを思いだす。
艦長がその優しさを捨てず、冷血になりきれない代わりに自分がなります……それもキラや皆を守る死神として。
当然ラミアス艦長のことも、全力で守ります……俺のこの手、多くの人間の血で染まったこの手でーー俺はその為に存在しているんですから
「(シンラくん……)ーー総員第一戦闘配備!アークエンジェルは、先遣隊援護に向かいます!」
マリューの指示のもと、戦闘の用意が行われる。
≪総員、第一戦闘配備!繰り返す!総員、第一戦闘配備!≫
艦内にロメロのアナウンスが流れ、アークエンジェルに身を寄せる民間人らの喜びの表情が、これから戦いが行われると知って不安と恐怖に変わる。
そしてその知らせはシンラたちが居る部屋にも届けられ、キラはシンラの軍服の袖を掴み、ラクスはハロを両手に乗せてシンラの隣にすり寄る。
シンラは険しい顔になって立ち上がる、二人は不安げに彼を見つめるが彼は何も言わず部屋を出ようとする。
「……キラ、先に行ってる」
「は、はい……私も行きます」
「ああーー貴方は、この部屋から出ないでくださいね?」
「はい……お気をつけて……」
ラクスに向き、この部屋から一歩も出ないように伝え、彼はすぐに部屋から走って出ていく。
キラも立ち上がり、ラクスに自分も出撃することを伝える。
「私も行ってきますね」
「はい……キラ様もお気をつけて……」
「キラ様なんて、なんか痒いです。キラと呼んでください、同い年の女の子なんですから………」
「えぇ、では……キラ、お気をつけて……」
「はい」
彼女も出撃の為に部屋を後にする。1人残されたラクスは両の掌にハロを乗せて言う。
「歌いましょうか……ハロ」
「マイド!マイド!」
ブリッジでは敵艦隊が多いことにナタルは難色を示していた。
「敵は我々より勝った戦力なのですよ!どうするんです!!」
「考えがあります!ーー格納庫のエイダさんに繋いで!!」
「は、はい!」
ロメロは端末操作し、ブリッジと格納庫との回線を繋ぐ。
《はい、こちら格納庫》
「エイダさん!アルテミスの時みたく、この状況をパワードの装備で打開できる!?」
《………出きるわ》
「なんだと!?」
モニターに映るエイダの言葉に耳を疑うナタル、だがマリューは驚きはせず「やはり」と思った。
マリューはアルテミスの脱出の際、パワードの新形態であるシュナイダーをその目で見て驚愕したのは記憶に残っている。
あのあとで彼女はエイダに直接問いただし、パワードは五機のXナンバーの全ての開発データを素にしているのだから、当然ストライクの換装システムも読み込まれていると言われた。
「その装備は前回のーー」
《いえ、シュナイダーは見た目通り完全近接特化型だから、艦隊戦には不向きよ。
でもーーある別のウェアならば多勢に無勢の状況を打開できるわ》
「それをお願いします!!」
《了解、すぐに取りかかるわ》
ブリッジとのやり取りを済ませたエイダは、溜め息をつき直ぐに顔を引き締めてスタッフに指示して自分の繋ぎ作業服の袖を捲る。
「ウェア換装よ!!"イェーガー"を使うわ!!」
スタッフ一同、皆「え!?」って顔になって驚愕する。
「本気ですか!?宇宙用のは最終調整終わってますけど、テストすらーー」
「文句言わない!!やるのよ!!」
「い、イエス!マム!!」
部下の文句に対してエイダはキッと眼を鋭くしながらこれを一蹴する。
余りの形相にスタッフ一同男女問わず、皆慌てて敬礼して作業に入った。
その間、ムウの乗るメビウスゼロが出撃する。
「ムウ•ラ•フラガ!出る!」
その後、パイロットスーツ姿のキラが格納庫へとやってきた。
「遅いぞ!嬢ちゃん!」
「すみません!!」
既にメビウスゼロは出撃したのは分かった、しかしパワードは未だ格納庫にある。
シンラのことを思い耽るが、直ぐにコクピットに入る。
ストライクを起動させ、通信機からミリアリアが状況を教えてくれた。
《敵はナスカ級1、ローラシア級2にジン11機。それとイージスがいるわ。気を付けて!》
「うん!(アスラン……貴方も来るの?)」
ストライクはカタパルトに移動すると、エールを換装し出撃する。
一方、シンラもパイロットスーツで格納庫へと到着。
「シンラ!」
ドクターがシンラに気付き近寄る。
「いいこと?イェーガーはかなりパイロットの負担を無視した換装装備だから、気をつけるのよ?」
「了解です」
シンラはパワードのコクピットに入って、各種システムを起動する。
その時、通信にサイが映りこむ。
《シンラ中尉、先遣隊にはフレイのお父さんが乗っているんです!どうかお願いします!!》
「了解だ、任せてくれ」
それと同時にパワードはカタパルトへと移動し、そこでアルテミスの時と同じくウェア換装が始まる。
《パワード!ウェア換装、イェーガースタンバイ!》
パワードの換装作業が始まるーーパワードの頭部とバックパックが、胴体部分である大型部から切り離され、新たに胴体となるパーツと連結する。
その姿ーー刺々しくした様な鋭角なデザインが特徴、シャープかつ洗練され、頭部、両前腕部外縁、肩部装甲ブロック両端、膝部装甲ブロックから下腿部前縁、前足部及び踝部に至るまで、機体各所にセンサー及び空力制御の為のブレードが配されている。
背部にはX字状の4基のブースターユニット、腰後部に扁平した跳躍ユニット、両肩部にはそれぞれのサイドバインダーの大型ビームバスター、そして頭頂部のトサカはシュナイダーと同じく前斜めに鋭く尖って、顔はツインアイではなく虫のような単眼・複眼。
機体色はディープブルー、この姿のパワードは高機動戦闘特化型形態ーーパワード•イェーガー。
《カタパルト接続、システムオールグリーン!パワード!発進どうぞ!》
「了解ーーシンラ•ユーリ、パワード•イェーガー、出る」
虚空の宇宙を蒼き狩人が飛ぶ。
次回予告
銃火飛び交う虚空の宇宙。
見えたはずの救いの手は無残に落ち、そこには敵意渦巻く意志のみ。
キラを求めるアスランの手が、シンラに対し殺意の牙となる。
散りゆく命の悲惨さに、シンラの中に秘められた衝動が目覚める。
次回、機動戦士ガンダムSEED OVERLOAD『目覚めし牙』
その矛先、何処へ向く!ガンダム!