「シンラさん…………私、私!この船を降りたくありません!!ストライクからも降りません!!
「き、キラ……!?」
唐突な言葉にシンラは余りのことに唖然としてしまうのであった。シンラはてっきり、これで漸くキラが戦いから解放されると思っていたのに、当の本人はその嫌悪していた戦いに自ら残って身を投じようとしている。
一体どうしてなのかと彼の中で疑問が尽きず、彼女に問い掛ける。
「なぜだ...これで漸く戦いから解放されるんだぞ?なのに、どうして....」
今のシンラは余りのことに眼の焦点が定まっていないと自分でも気づいている。それぐらいに衝撃的だったのだ、しかしキラは必死そうな顔で訴える。
「だって!アークエンジェルにはストライクを動かす人がいないじゃないですか!!」
「それは、アークエンジェルは俺が守る。それにフラガ大尉だっているから....」
「で、でも!二人だけじゃ負担が大きいじゃないですか!!」
「このままこの船にいたら、間違いなく辛いことになる。否応なしに戦闘で人を殺すことになるんだぞ」
シンラの言う通り、このまま此処に居れば間違いなく人を殺さなければならなくなる。その度に彼女の精神が持たないし、壊れかねない。
彼女にはここに居て欲しくない、居てもよくはない。彼女に人殺しは似合わないし、やってほしくない。
「そ、それに!ラクスを一人に出来ません!彼女のことが心配なんです!!」
「キラ....」
たしかにラクスがこの船にたった一人残されているのはシンラとしても心苦しい。だがそれでもキラがそこまで残ってまで戦うという理由にはならないし、あってはならない。
それにラクスを理由にしていいものではない、ラクスも自分のせいでキラに戦いに身を投じようとするに抵抗を感じる。
「キラ、私のことはきにしないでくださいませ」
「で、でも!私は...」
未だに分かってくれないキラに、シンラは聞き分けてほしいと願うように言う。
「キラ、これはお前のためでもあるんだ....分かってくれ」
「わかりたくありません!!」
「キラ....」
未だに分かってくれず、尚も被りを勢い強く振って彼女は否定する。いつの間にか彼女の瞳は涙で潤み、その顔も悲しみに染まっている。
すると彼女は思わず立ち上がると――
「シンラさんは私に居なくなってほしいんですか!!?」
「そういうことじゃない、俺は!」
「もう、いいです!!」
「キラ!」
シンラが叫ぶ中、突然彼らがいる医務室のドアが開かれる。三人は思わずそこへ振り向く――そこにはマリューを伴うハルバートンがそこにいた。
「お邪魔だったかね?」
「あ、貴方は....」
ハルバートンは物々しい雰囲気を感じながらも医務室へと入る、その背後より複雑な顔でマリューもついてきた。
キラやラクスもシンラの後ろに逃げるように擦り寄る。その二人に安心を与えるかのように、ハルバートンが笑みを浮かべて敵意はないことを告げる。
「安心してほしい。私はただ、彼と話がしたいのだよ――だが君とも話をすべきだな、キラ・ヤマトさん、だね?」
「え?あ、はい...そうです」」
ハルバートンは目の前にいる青年の後ろに隠れるキラに優しい声音で尋ね、キラは恐る恐るそれに答える。
ハルバートンは手を後ろで組み、世間話をするように彼女に話し始めた。
「君のことも報告書を見ているんでね。…しかし、改めて驚かされたよ。君たちコーディネイターの力というものに」
ハルバートンからでたコーディネイターというワードに、キラは表情を硬くし強張る。ラクスはそんなキラの守るかのように彼女を抱きしめる。
「ザフトのモビルスーツにせめて対抗せんと造ったものだというのに....君らが扱うと、とんでもないスーパーウェポンになってしまうようだな、あれは」
キラは何とも言えずただハルバートンを恐る恐る見つめるしかなかった。だがハルバートンはそれを決して愚痴のつもりで言ったわけではない。
改めてコーディネイターという存在の大きさを知ったと、痛感していることを口にしているだけである。
初対面のハルバートンに何も言えないキラに、ハルバートンは機嫌を損なうこともなく、ただの子供として、あたかも父親が子を優しく見つめ見守るようなそんな眼をしている。
「…君のご両親はナチュラルだそうだな?」
「え?あ、はい...」
「どんな夢を託して、君をコーディネイターとしたのか…なんにせよ、早く終わらせたいものだな。こんな戦争は」
キラにそう伝えると、彼の顔が険しくなりシンラに振り向く。
「....そして君が、シンラ・ユーリ中尉、だな?」
「はい」
シンラは躊躇いなく返答する。ハルバートンはシンラに対し、懐疑的な眼で睨む。
「貴官はあのブルーコスモスのムルタ・アズラエルの直属部隊にいるそうだな?調べはついている」
「はい、そうです」
疑うように自身に睨むハルバートンに、シンラは怯むことはなかった。寧ろハルバートンがどうして自分にこうも睨むのかは何となく理解している。
するとハルバートンはそんな彼に対し、口を開いた。
「貴官がここまで、アークエンジェルとストライクを守ってくれたこと、感謝につきない。ありがとう、中尉」
「いえ...」
「しかし、だ....貴官はブルーコスモスだ。反コーディネイター思想の組織に属しているはずの君が、どうしてかね?しかもストライクにはコーディネイターの彼女が乗っている」
ハルバートンのシンラに対する当たりは厳しく、辛辣になる。
「過激にコーディネイターを嫌悪するブルーコスモスに属する君が、何故何の迷いなくコーディネイターの彼女をも守るんだね?」
「閣下!!」
語気が強くなるハルバートンにマリューが阻まもうとするが、しかしハルバートンは気にせずに言葉を続ける。
「君は何の目的でこの艦にいるんだね!」
「自分がこの艦にいるのは偶然で起きたことです――それに」
「それに?なんだね?」
尚もシンラを疑うように見つめるハルバートン、その彼にシンラは冷静に答える。
「自分は確かにブルーコスモスですが、しかし属してるだけでコーディネイターを嫌悪したり蔑視したりしません。
でなければ、俺は命懸けで彼女を守ったりしません」
冷静ではあるが、シンラの眼は鋭くハルバートンを睨んでいる。そのシンラを擁護するようにキラが声を挙げた。
「シンラさんは私やアークエンジェルを守ってくれました!!そんな彼を疑うなんて!!」
先ほどまでハルバートンに対し、少なからずの安堵感が消えてシンラを悪く言ってように見える彼に敵意が沸々と抱き始める。
ハルバートンはそんなシンラを擁護する彼女に驚いた顔になる。コーディネイターである彼女がブルーコスモスの彼を守るなんて、信じ難いものであっただろう。
だが彼を擁護するのはキラだけでなく、マリューもまたシンラの傍らに寄り、肩に手を乗せてハルバートンに言う。
「提督....彼は確かにブルーコスモスの兵士ですが、しかしそれでも此処まで間、彼のお陰でザフトの追撃を逃れることができました。私は彼のことを信じます...閣下がどう言おうと」
キラやマリューはシンラを守るようにし、ラクスも同じく彼の手を握りしめながらそっと彼の傍らに寄り添う。
三人の女性が彼を守る様子にハルバートンは無言でシンラを見つめる。そして――
「....どうやら、私は君を過剰に疑っていたようだ。すまない中尉」
「いえ....」
「出来れば君には、アラスカ本部までアークエンジェルを護衛してほしい」
「それは.....デイナ・ザールラント准将からの正式なものですか?」
「シンラくん....」
彼から語られた言葉にマリューは複雑な顔になる。その彼にハルバートンは「そうなのだな」と口にし、彼に返答する。
「いや、これは連合本部からの通達だ。これは流石にあのザールラント准将でも従わずにいられない」
「了解しました」
シンラはベッドから立ち上がり、敬礼をする。だがハルバートンは手で翳して制す。
「ではな、中尉」
「は!」
っとその時、医務室にハルバートンの部下が入ってきた。
「閣下、メネラオスから至急戻ってほしいと」
「分かった。ではな」
ハルバートンが居なくなって部屋には微妙な空気が包まれる。その中でマリューがシンラに話す。
「シンラくん...ごめんなさい、その」
「気にしないでください。こういうのは仕方ないことです」
「そう、ね....」
その時、艦内アナウンスが鳴る。
《艦長、至急ブリッジへお戻りください!》
「行かなくちゃ...じゃ」
マリューは医務室から出ていき、シンラとキラ、ラクスだけが残る。
__________________________
その頃、ザフト艦隊ではガモフのブリッジにてクルーゼがパイロットたちに説明していた。
「敵艦隊が衛生軌道上にいるタイミングで攻撃を仕掛ける。足つきを地球に降ろす前に何としても此処で落とす」
「「「「「「了解」」」」」」
彼の言葉にパイロットたちは勢い良く返事する。その彼らにクルーゼはあることを言う。
「足つきにはあのグリマルディ戦線の死神が居る。奴の所為で私の乗艦であったヴェサリウスを含め、三隻沈められた」
彼の言葉に皆ざわざわするが、クルーゼはそれを黙らすつもりで手を翳して静止させる。
「だが奴がいようとも、我らは何としても足つきを沈めなければならない、いいな!!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
「総員、出撃準備!!」
クルーゼの号令でザフトパイロットらは、一斉にブリッジから退出していく。その中で一人、クルーゼに訴える者が――
「隊長!!」
「ん?どうした?アスラン」
残っていたのはアスランだった。彼は先の第8艦隊先遣隊との戦闘でパワードによって、乗機であるイージスを大破されてしまい本人も頭と右腕に包帯が巻かれている。
痛々しい姿のアスラン、しかし彼はクルーゼに迫りながら訴える。
「隊長!自分も出撃させてください!!」
「アスラン、気持ちは分かるが....その怪我では無理だ。それにイージスはまだ修理中だから、君の機体はない」
「く!」
歯痒そうに悔しさによって顔が歪む。イージスが未だ戦闘に出せる状況でない、それに出せる状態にしたとしても本人は怪我人であるからして真面に戦えるとは思えない。
「君は今回、艦で待機してろ」
「しかし!!」
だが素直に引き下がることをアスランには出来ない。しかし隊長である彼から「もう下がりたまえ」と言われて、アスランは渋々とブリッジから退出することに。
「キラ....」
悔しさで募る彼は艦内の窓口から宇宙空間を眺めながら、彼女の名を呟く。
__________________________
一方、ザフト艦隊の存在を第8艦隊は察知し、メネラオスのブリッジでは騒々しくなっていた。
「ローラシア級6、グリーン18、距離500、会敵予測30分後です!」
「此方に向かってきているのか!!」
「はい!間違いありません!!」
ホフマンに対してオペレーターが確信を以て答える。
「くそ!こんな時に!!」
メネラオスに帰還したハルバートンはその報告を聞き、忌々しそうにしていた。
ザフト艦隊襲来はアークエンジェルでも察知していた。
「距離500、ローラシア級6!」
ロメロからの報告にマリューは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。
「メネラオスからのシャトルは!?」
「今居住ブロックの避難民を移動させ、乗船準備に入るところかと……」
「時間がないわ!急がして!!」
「は、は!!」
鬼気迫る勢いのマリューに、オペレーターのロメロは焦りを浮かべて通信で作業を急がすよう打診する。
その頃、医務室から出たシンラはキラと共に、ラクスを部屋まで送る所であった。
「シンラ、ごめんなさい。お身体がまだ治ったばかりですのに……」
病み上がりであるのに、自分の送りをやらせてることに対して申し訳ないと謝罪するラクス。
シンラは「気にしないでくれ」と口にして、笑みを浮かべてラクスに安心させる。
彼女はそんな優しさを見せる彼に、頬を赤くして笑みを溢す。
「むぅ」
それを見ていたキラは頬を膨らまし、自分も構って欲しいとせがむようにシンラの腕に抱きついてきた。
「お、おいキラ」
「シンラさん!ラクスだけじゃなく、私も!私も構って下さい!」
「おいおい…」
呆れるように口にするシンラ――その時、居住ブロックから艦内通路へと移動しているヘリオポリスからの避難民らが視界に入る。
その際、ふいに高くて幼い声が聞こえた。
「あ!」
母親と移動している幼女――その子は以前にキラやミリアリア、フレイと共にユニウスセブンに手向けの折り鶴を作ったあの幼女であった。
こちらを見て目を丸くしたと思いきや、母親と繋いでいた手を離すとこちらへやってきた。
無重力により浮いた幼女をキラは先んじて、胸で受け止める。
受け止め、抱き抱える形で幼女とキラは眼を合わせるとーー彼女はにっこりと笑い、肩掛けカバンから何かを取り出す。
取り出しながら、キラに対してこう言う。
「いままで、まもってくれて、ありがとー!」
子供らしいたどたどしく舌知らずな喋り方。彼女がキラに差し出したるは折り紙で作った花だった。
いきなりなことにキョトンとしてしまうが、しかしキラは「私にくれるの?」っと言ったら幼女は「うん!」っと明るく答えてくれた。
更に――
「はい!」
「私にもくださるのですか?」
幼女はラクスの分と言うように、色ちがいの折り紙の花を手渡した。
「うん!エヘヘ♪」
「ありがとう、大事にしますわ」
ラクスは心より嬉しいと顔に表して大切にすると誓った。
だが幼女はシンラにもまたの色ちがいの花の折り紙を手渡した。
「お、俺にも?」
「うん!」
まさか自分も貰えるとは思わなかったシンラ。啞然となる彼をキラとラクスは微笑みつつ見守る中、シンラは恐る恐る幼女の折り紙をゆっくりと受け取った。
「あ、ありがとう」
「うん♪どういたしまして!おにいちゃん!えへへ」
幼女は母親のところへ戻り、シンラたちへ小さく手を振った。そのまま母親に手を引かれて通路を歩く。
そんな親子の様子を見て、キラが口にする。
「あの人たち、地球に降りるシャトルに向かうんですね」
「ああ、アークエンジェルの格納庫にスペースランチでメネラオスに移動し、その後シャトルに乗り移って地球へ向かう」
「大丈夫、ですわ....きっと」
「うん」
ラクスの言葉にキラはそう言い聞かせるように頷く。シンラは去っていく親子の後ろ姿が見えなくなるまで見つめていた。
そこへ....
「━━キラ!」
「え?ミリィ!みんな!」
振り向くとキラの友人らがやってきた。キラは未だ自分と同じく軍服姿のままのトールたちに啞然となる。
「どうしたの?なんで軍服のまま...」
彼女自身、此処に残ると決めている。しかしトールたちは恐らく地球に帰る為にもうシャトルに向かっていったものだと思っていたが故にこれは驚かずにはいられなかった。
その彼女にトールは....。
「俺たちさ、残ることにしたから」
「え?」
「アークエンジェル、━━軍にさ」
トールに続くようにサイも笑みを浮かべて此処に残ることを伝えてきた。するとミリアリアがキラに一枚の紙を突きつけた。
「これ、持っていって。━除隊許可証」
未だ驚きを隠せないキラは目を見開いていた。皆の顔を見ると、決意したような顔をしていた。
「…残るって…どういう…?」
「フレイがアークエンジェルに残るから俺も一緒にって。だから志願したんだ」
「俺、出来ることをやろうと思って。お前が戦ってるとこ見て、思ったんだよ!だからアークエンジェルに残る」
「だから俺たちも…さ」
キラは再び驚く。まさかフレイがアークエンジェルに残ると思わなかった。彼女は先の戦いで父親を亡くしたばかり、それなのに自ら残ると決めたのだ。シンラもこれには同じく驚く。
そんな中、ミリアリアはキラに除隊許可証を持たせようとするが、キラはそれを逆にゆっくりと突き返す。
ミリアリアやトールたちは怪訝そうにすると、キラは彼らに語る。
「私....残ることにしたの」
彼女の言葉にトールたちは驚く。キラは戦いなんて嫌だと、此処に残るなんて考えてないだろうと思っていた。
だがミリアリアは何となく感じていた、ここ最近のキラはずっとシンラと一緒に居て、何か変わっていることを。
トールとサイは「どうして!」と声を出すが、ミリアリアは徐にキラを抱き締める。
「ミリィ……」
大切な友人である彼女に抱き締められたキラは、眼を丸くしながら彼女の名を呟く。
対してミリアリアは彼女に悲しげな笑みを浮かべて見せ、そのままシンラに顔を向ける。
「シンラ中尉」
「なんだ」
「どうか、キラを、私の大切な友達を守ってください……お願いします」
「ミリィ………」
ミリアリアの必死の訴えにキラを眼を潤ませる。ミリアリアからの願いに、シンラは首をゆっくりと力強く頷く。
「約束する。必ず彼女を守る」
シンラからの返答にミリアリアは納得し、キラから離れて恋人であるトールに顔を向けて「キラなら大丈夫」っと、そう言い聞かせる。
トールも「分かった」っと納得し、サイやカズイに顔を向けて頷き合う。
そしてトールもシンラに伝える。
「キラを、どうか、お願いします!」
「ああ、約束だ」
それを聞けて安心したトールたちは、そのまま自分の持ち場であるブリッジへと向かっていく。
彼らを見送った後、シンラは改めてキラに問いかける。
「……もう、後戻りはできないぞ」
「……構いません。自分で、自分で!選んだんですから!」
「…………分かった。じゃあ、俺も此処で君に約束する」
「え?」
シンラはキラと顔を向かい合わせながら、真剣な面持ちで彼女に伝える。
「俺は必ず、君を守る。何があっても、ずっと君の傍にいる……約束だ」
「シンラ、さん………」
彼からの愛の告白にも似た誓いの言葉に、キラは頬を赤くしながら瞳を潤ませる。
そんな二人にラクスが服の袖を両方掴んで、悪戯っぽく笑みを浮かべる。
「わたくしのことも、守ってくださいませんか?」
その彼女にシンラとキラは笑みを浮かべるのだった。