地上に降りたアークエンジェル…彼らに休みなど与える暇すらないのかと言わんように、ザフト地上軍アフリカ方面部隊指揮官「砂漠の虎」と異名される男•アンドリュー・バルトフェルドがその牙を剥いた。
これの撃退に当たるシンラとキラ、そこへ謎の集団が二人に助力する形で敵部隊を追い詰めた。
「ーーーダコスタ撤収する。この戦闘の目的は達成した。残存部隊をまとめろ!」
「了解!」
出撃させたモビルスーツ隊が残っておらず、戦闘ヘリしか現行戦力として残っているのみ。
このままでは確実殺られるのは自分たちだと直ぐに知るや、バルトフェルドは副官のダコスタに撤退命令を下す。
ジープに乗り込み部下たちと共に逸速く引き上げる中、バルトフェルドだけは後ろを振り向き先ほどまで戦った相手•パワードとストライクに鋭く眼を向けるのであった。
その一方、アークエンジェルでも敵が退いていくのを確認していた。
「敵機が撤退していきます!」
チャンドラの報告にブリッジクルー全員一安心と安堵する。
その直後、トノムラから報告があがる。
「フラガ少佐より入電です。敵母艦を発見するも、攻撃を断念。敵母艦はレセップス!」
「レセップス!?」
トノムラからの報告内容にマリューは驚く。だがそれに分からずナタルはマリューに問いかける。
「レセップスとは?」
「アンドリュー・バルトフェルドの母艦だわ。敵は、砂漠の虎と言うことね」
マリューの話にナタルら正規クルーらは息をのむ。まさかラウ•ル•クルーゼに続き、またもザフトで名高い人間が自分たちの前に立ち塞がることにこの先の不安が募る。
だがもう一つの問題が残っている、それは戦闘中突如として自分たちに助力してきた集団である。
そこへチャンドラより例の者たちから、通信が寄越される。
内容は艦長と話がしたいとのことである。
「味方…と判断されますか?」
「少なくとも、銃口は向けられてないわね。ともかく話してみましょう、その気はあるようだから。後はお願い。ハァ……」
シートから立ち上がりマリューは艦橋から出ていく。
既に帰投したムウが、ライフルを持った兵士達と共に集まっていた。
「やれやれ…こっちのお客さんも、一癖ありそうだな。俺、これはあんまり得意じゃないんだけどね」
銃を見せつけてホルスターに納めるムウ。マリューはそんな彼のその姿にふっと微笑んだ。
少し緊張が解れた、彼なりにこの張り詰める空気を和ませる意図だったのだろう。
しかし気を引き締めてマリューはハッチを開放して外へ出る。
夜の砂漠の強い風が吹く。砂が舞う中、戦闘用格好の集団が集まっており、その中でも髭を生やし、頬に大きな傷跡がある男が先頭に立っている。
マリューとムウはこの人物がリーダーと直ぐに気づく。
「助けていただいた、とお礼を言うべき何でしょうかね。地球軍第8艦隊、マリュー・ラミアスです」
「あれー?第8艦隊ってのは全滅したんじゃなかったっけ?」
っと、男の隣にいた少年が嘲笑して馬鹿にするように問いかけてきた。
「…」
思わずマリューはその少年を睨みつけると、男が少年を「アフメド」っと威圧しながら睨み黙らせる。
男は再びマリューに向き直る。
「俺達は明けの砂漠だ。俺はサイーブ・アシュマン。礼なんざ要らんが、分かってんだろ?あんた方を助けた訳じゃないーーこっちもこっちの敵を討ったまででねぇ」
厳つい顔で笑みを浮かべつつ親指を立て、後ろを示すように向ける。
「砂漠の虎相手に、ずっとこんなことを?」
レジスタンスなのに良くやるなと感心すら覚えるムウに、サイーブは眼を向ける。
「あんたの顔はどっかで見たことあるなぁ」
「ムウ・ラ・フラガだ。この辺に、知り合いは居ないがね」
彼の名を聞いてサイーブは「おお!」っとまるで有名人に会ったかみたく声を挙げる。
「エンディミオンの鷹とこんなところで会えるとはよぉ」
「「!」」
マリューとムウは驚く。砂漠でずっと戦い、宇宙での状況を知るはずのないと思っていた彼らの情報通に。
「情報もいろいろとお持ちのようね。私達のことも?」
「地球軍の新型特装艦アークエンジェルだろ。クルーゼ隊に追われて、地球へ逃げてきた。そんで、あれが…」
「X-105。ストライクと呼ばれる、地球軍の新型機動兵器のプロトタイプだ。
もう1機、あれは知らないな…見たこともないぞっ」
サイーブの言葉に男勝りな少女が割り込むように口を挟んできた。
金髪、琥珀色の瞳、凛々しい目付きのその少女は、ストライクとパワードを見つめる。
特にパワードに対しては自分が全く知らない物だと、睨むように見ている。
そんな彼女を置いておいて、サイーブは話を続ける。
「さてと、お互い何者だか分かってめでたしってとこだがな、こっちとしちゃぁ、そんな厄の種に降ってこられてビックリしてんだ。こんなとこに降りちまったのは事故なんだろうが、あんた達がこれからどうするつもりなのか、そいつを聞きたいと思ってね」
「力になっていただけるのかしら?」
協力してくれるのかと問いかけると、サイーブはそれならばと言う。
「へ!話そうってんなら、まずは銃を下ろしてくれ。あれらのパイロットたちも」
「…ふぅ…分かりました。ユーリ大尉、ヤマト少尉、降りてきて」
マリューの指示の下、コックピットからシンラとキラが出てきた。
ラダーに掴まり降りてきた二人は、マリューやサイーブたちの前までたどり着きヘルメットを取る。
するとキラの顔を見た途端、レジスタンスがどよめく。
「ああ?あれがパイロット?まだ嬢ちゃんじゃねぇか。ほんとかよ…」
「うちの娘と同い年か、おい」
レジスタンスの大人たちは、ジロジロとキラを見つめる。
先ほどサイーブに叱られた少年アフメドや若い青年たちなどのレジスタンスらは、キラの顔とパイロットスーツから伺える彼女のスタイル見て興味津々である。
彼女はその好奇心な視線に嫌気を覚えたのか、困った顔を浮かべてシンラの背後に隠れる。
「ああっ!」
外野が騒ぐ中で先程の少女が、キラを見て大きな声をあげた。
少女は目を見開き、息をのんでいる。すると突如駆け出してキラの前に行く。
「くっ!お前…!!」
「ぇ?」
「お前!!…お前が何故あんなものに乗っている!?」
そう怒号を挙げて彼女はいきなりキラに殴ろうとして拳を振り上げたが、それをシンラが眼にも見えぬ速さで瞬時に腕を掴み阻んだ。
「ええい!離せこの馬鹿っ!」
「………」
自分に対して怒りを向ける少女に、シンラは氷の如く無表情で告げる。
「……お前こそキラに何する気だった」
「は、離せよ!くそ!!」
シンラの握力に振り切れない少女は、彼の力による痛みで顔が歪む。
その時、キラがその少女の顔を見て思い出す。
それはヘリオポリスにてザフト襲撃の際に会った少女であった。
あの時キラは、もう1人しか入れなかった脱出シェルターに乗せてあの時の娘だと気づく。
その後にキラはストライクへ乗る羽目になったのだった。
キラは急ぎシンラに抱きつき止めさせる。
「シンラ!やめて!その子、ヘリオポリスで会った子なの!お願い!!」
「……分かった」
キラの懇願を素直に聞き入れ彼の拘束から解かれて、痛がる手首を庇いつつシンラを睨んでくる。
そこへサイーブが「カガリ!!」っと呼びかけると、彼女はそのまま渋々と仲間のところへ戻っていく。
マリューは彼女を見た後、シンラに近寄る。
「シンラくん、大丈夫?」
「はい艦長。自分は何も。ただあの子の様子が余りに子供過ぎて……」
「いいのよ。キラさんも大丈夫ね?」
「は、はい!」
「…何なんだ?」
っとムウが頭を掻きながら先ほどの少女•カガリが去っていった方へ見つめてぼやく。
それに対しマリューも同意するようにため息を吐くのであった。
その後、アークエンジェルはサイーブの案内の下、彼等の拠点に身を寄せることに。
そこでマリューやナタル、ムウの三人はサイーブから地球軍宇宙港基地ビクトリアが3日前にザフトによって陥落したと聞かされる。
どんどんと地球軍のラインが引き下がり、ザフトが勢い詰めている。
それはアークエンジェルも他人事ではない、山脈ルートは越えるには難所であるし、ジブラルタル方面も艦の陣容では無理である。
地図を見ながら考えるサイーブはあっさりと口にする。
「…なら頑張って紅海へ抜けてインド洋から太平洋へ出るっきゃねぇな」
彼の話にマリュー達は真剣に考える。
「太平洋…」
「補給路の確保無しに、一気にいける距離ではありませんね」
「大洋州連合は完全にザフトの勢力圏だろ?赤道連合はまだ中立か?」
などと考える三人にサイーブは呆れたように口を開いた。
「おいおい、気が早ぇな。もうそんなとこに心配か?」
「ん?」
「ここ!バナディーヤにはレセップスが居るんだぜ?」
「あ…頑張って抜けてって、そういうこと?」
現状の敵である砂漠の虎率いるアフリカ方面部隊が居ることに忘れてたのか、三人はため息を吐き肩を落とすのである。
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マリューらが話す中、キラは先ほどの少女•カガリと話していた。
「…さっきは、悪かったな。殴ろうとして……」
「ううん、いいよもう。それより手は大丈夫?」
「ああ。あの男!強く掴みやがって!!」
思い出すだけでも悔しそうにするカガリ、彼女に思わずキラは吹き出して笑った。
「何がおかしい!」
「ごめんね、だって……」
顔を赤く染めて怒るカガリ、謝りながらもそれでも可笑しくなってしまうキラ。
するとカガリは、怒りを納めてキラから目をそらして話す。
「………ずっと気になっていたんだ。あの後、お前はどうしただろうと…」
「あぁ、うん……」
「なのに!こんなものに乗って現れようとはな──おまけに今は地球軍か!!」
カガリに怒られる筋合いないのだが、しかしキラは俯いて呟く。
「…。いろいろあったの」
「ぇ?」
「………」
その時、キラの脳裏にシンラと医務室での出来事を思い出すとカガリには見えないように顔を俯かせつつ、その表情は顔を赤くしておきながらも嬉々としていた。
その後すぐ顔を上げて何ともないように振る舞う。
「いろいろね…。貴女こそ、なんでこんな所にいるの?」
「ぇ!」
「オーブの子じゃなかったの?」
「それは…ぁ…んっ…えっと…」
キラに問いかけられ、カガリは焦るように口淀むのであった。
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その一方、シンラはと言うとラクスが居る部屋にきていた。
戦闘後大事ないか心配で来ていたのだ。
「そうですの。戦いは終わりましたのね」
「えぇ、一先ずは……。その、それで戦闘があったので何か身体とか異常は……」
「大丈夫です。シンラはとても優しくて私…すごく嬉しいですわ」
「………」
ラクスは現状保護という扱いだが、しかし彼女は地球が敵対するプラントの最高指導者の娘という立場である。
そのせいか、このまま彼女を地球軍本部連れていけばどうなるかなどたかが知れている。
しかし自分の直属の上司である人物であれば、何とか出来そうではあるが今自分たちが居るのはザフトの勢力圏、自分たちも他人事ではない。
その時、ラクスが徐にシンラの手に触れてきた。
「ら、ラクス…?」
「私…少しも不安ではないのです。シンラと、シンラの傍にいると凄く安心するのです……」
「……そ、その、とりあえず、ラクスのことは何とかするので待っててください…」
ラクスに手を触れられ眼を反らすシンラは、キラのことが頭に過り話題を切りやめようとした。
「敬語」
「………は?」
敬語を話す自分に彼女は頬を膨らましてふてくする。
「敬語、しないでくださいませ。シンラが年上なのですから……」
「あ、はい……じゃあなく、わかったラクス…これで、いいかな?」
「はい!」
シンラは頭を掻いて自分は本当に感情的になってきていると思うのである。
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一方、アークエンジェルとの戦闘から引き上げたバルトフェルドは、乗艦であるレセップスの自室にて抽出していたコーヒーをカップに淹れて香りを嗜んでいた。
「隊長、ダコスタです。失礼します」
「ん」
ドアを開けると、ダコスタは凄まじい匂いが彼の鼻を襲い堪らず押さえた。
「んっ!…隊長…換気しませんか…?」
「そ~んなことわざわざ言いに来たのか?」
「い、いえ…そう言うわけでは……出撃準備、完了しました!」
敬礼し報告するダコスタ。バルトフェルドは抽出していたコーヒーをカップに淹れ、その香りを嗜み味わう。
「はいはい。あんまりきついことはしたくなかったんだけどねぇ。ま、しょうがないか」
「ぁはぁ?」
「んーいいねぇ。今度のには、淡い粉を少し足してみたんだが、これもいい…………さて」
バルトフェルドは出撃準備を終えたパイロット達の前に立ち、命令を下す。
「ではこれより、レジスタンス拠点に対する攻撃を行う。昨夜はおいたが過ぎた。悪い子にはきっちりとお仕置きをせんとな」
「目標はタッシル!総員、搭乗!」
虎の牙またも剥かれる。