バナディーヤの街で一時の休息を浸っていたシンラとキラ、そこにサングラスの男が割り込み、更にはブルーコスモスを信奉する武装集団が現れる。
武装集団の殆どをシンラ1人によって殲滅したため事なきを得たが、しかし自分たちに絡んできたそのサングラスの男こそが砂漠の虎•アンドリュー・バルトフェルド、その人であった。
「いやぁ~助かったよ。ありがとう」
バルトフェルドは陽気に笑みを浮かべてシンラたちに話しかけてくる。
対してシンラはキラを庇うようにして、バルトフェルドと睨む形対峙する
「…………」
無言で鋭く睨むシンラ。それに引き換えバルトフェルドは未だ陽気な素振りを崩れることはなかった。
「そんな殺気ぶつけないでくれ、何も君たちを取って食うなんてことはしないさ。
ただお礼がしたいのさ」
「……お礼だと?」
いきなりの言葉に更に疑いを向ける、だがバルトフェルドは話しを続ける。
「先ほどの連中はブルーコスモス、反コーディネーター思想の者たちだ。
連中の目的は私の抹殺だろうなぁ。しかしそれを君が阻み助けてくれた──その礼をさせてほしいのさ」
「…………」
「では着替えを用意する。さっきの騒ぎの時に君のガールフレンドがチリソースとヨーグルトソースで汚れてしまっているしな」
「…………」
「え、えっと……」
先ほどのいざこざでキラの服が、ケバブのソースによって汚れてしまってベタベタしてしまっており、特に胸辺りなんかは服と肌が密着してしまってその素晴らしいスタイル浮き彫りになっている。
中でも胸の辺りが透けて下着が見えてしまっている。
キラはようやくそれに気付き、頬を赤くしながら胸を両腕で隠して恥ずかしくて顔を俯いてしまっている。
「…………わかった。但し1人だけ帰らせてくれ」
「ああ。構わないよ」
「……っと言うことだ。君は一足先に帰れ」
シンラはカガリを帰らせることにした。こんな状態のキラを1人するわけにはいかない、更にこの状況でザフトがカガリに何かするとは考えにくい。
しかしこの決定に当の本人は納得していなかった。
「ふざけるな!!私1人だけなど!!」
「ここで彼らが何かするとは考えにくい。仮にそうだったとしても、守る対象が1人であれば俺もかなり動いて暴れられる」
「守ってもらうつもりはない!!自分の身は自分で………」
「さっきまで何もできずにいた奴に、敵陣の中で何ができるって言うんだ?ただ殺られる的にされるだけで邪魔になる」
「そ、それは………くっ!」
何も言い返すことができず、諦めて頷くしかなかった。
カガリを1人帰らせたシンラとキラは、バルトフェルドが乗る車に乗るであった。
彼らを乗せた車はバナディーヤの町の中でも大きい屋敷に到着する。
屋敷に入ると見た目と同様に、内装もまた豪華である。
その時二人の前に1人女性がやってきた、細身のスタイルと長い黒髪が際立つアジア系コーディネイターの美女、姫カットに近い前髪両端のひとふさを金色のメッシュで染め、色白の肌に映える鮮やかなルージュをさしているのが特徴。両肩と背中が露出したチューブトップと足首丈のレギンスを掛け合わせたようなフロントジッパー式ジャンプスーツを普段着を纏ってキラを興味深くにこやかに見つめる。
その女性をバルトフェルドは紹介する。
「彼女はアイシャだ。私の自慢の女性だよ」
「この子ですの?アンディ」
「ああ。彼女をどうにかしてやってくれ。チリソースとヨーグルトソースとお茶を被っちまったんだ」
「ぷ、あらあら~、ケバブねー」
キラに近づくと肩に手をかけて促す。シンラもあとに続こうとしたが、女性によって止められた。
「大丈夫よ、すぐ済むわ。アンディと一緒に待ってて」
「いや、だが……」
しかし結局キラは彼女によって連れていかれてしまったのだった。
「おーい、君はこっちだ!」
一室に入ろうとするバルトフェルドに呼ばれ、キラを心配するシンラは渋々と部屋に入る。
入るとそこは広い一室、高価な絨毯が敷かれ、その上に上等なソファが二つテーブルを挟むように置かれ、壁には暖炉も設置されている。更にその上には化石のレプリカが飾られている。
「僕はコーヒーには、いささか自信があってねぇ」
バルトフェルドは自らブレンドした珈琲をテーブルに用意する。
そのまま立ち尽くしているシンラに──「まぁ、掛けたまえよ」っと、彼にソファーに座るよう促す。
彼は渋々とバルトフェルドとテーブルを挟む形で向かい合い座るのだった。
その時にシンラの視界に飾られているレプリカが入る。
「エヴィデンスゼロワン。実物を見たことは?」
「ない」
即答で無感情で答える。興味がないのを直ぐに気づくバルトフェルドは肩を竦めて苦笑いを浮かべるが、話を続けた。
「何でこれを鯨石と言うのかねぇ。これ、鯨に見える?」
「………さあ。…じゃぁ、何ならいいんだ?」
「ん~~…、何ならと言われても困るが…、ところで、どう?コーヒーの方は」
「悪くない」
シンラの好評にバルトフェルドは笑みを浮かべて、自身も珈琲の香りと味を楽しんだ。
静かで何とも言えない空気の中で、バルトフェルドは口を開いた。
「まぁ、楽しくも厄介な存在だよねぇ…これ」
「………厄介?」
「そりゃぁそうでしょう。こんなもの見つけちゃったから、希望って言うか、可能性が出てきちゃった訳だし」
なんの事かと訝しむシンラに、バルトフェルドは真剣に告げる。
「人はまだもっと先まで行ける、ってさ。この戦争の一番の根っ子だ」
「…………」
その時、ドアをノックする音が鳴り、アイシャが入ってきた。
「アンディー」
「おやおや!」
アイシャの手に引かれ、空色のキャミソールドレスを着た髪も後ろで纏められ、ポニーテールの姿のキラが入って来た。
胸の谷間も見え、艶やかで正に美女。
彼女はモジモジとしつつもシンラの傍らまで歩み寄り、頬を赤くして上目遣いで彼に見上げる。
「ど、どう……かな?変じゃない?シンラ…」
「…………」
開いた口を閉じることが出来ず、シンラは驚いたように眼をみはった。
「お姫様が君を求めてるぞ?青年」
バルトフェルドとアイシャは面白いモノを見ているのか、笑みを浮かべている。
そこでハッとなり、シンラは徐に口にする。
「す…凄く、綺麗だよ………キラ」
「ッ!、嬉しい……」
互いに赤面してしまう二人、バルトフェルドとアイシャは可笑しそうに笑い始めた。
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一方、アークエンジェルでは皆それぞれやることをやっていた。
その中でマリューは1人休息時間であり、彼女は格納庫まで足を運んでいた。
艦長と言っても元は技術士官であった彼女、格納庫の雰囲気が心地好く思う。
「ん?あれは…」
マリューの視界にエイダが二人の男たちと何か話していた。
その男たちはアークエンジェルのクルーではなく、外見的にレジスタンスの人間っぽいが、何やら彼女は命令しているようにも見えた。
「…………じゃあ、連絡頼むわよ?」
「「了解です」」
男たち二人はすぐさま走り去っていく。そしてエイダはマリューに気づいたが、彼女は素知らぬ振りして自分の持ち場に戻ろうとするのである。
しかしマリューはそれを止める。
「待って!エイダさん!」
「………なに?わたし仕事があるんだけど」
「今の二人、レジスタンスの人間よね?どうして彼らに命令してたの?」
エイダは顔色を崩さず、マリューに向き直る。
「………貴女が知る必要はないわ。彼らはレジスタンスではないわ、こちらの潜入工作員、ただそれだけ」
「潜入工作員って!アズラエル財団の!?」
「さぁ、どうなのかしら?」
全く手の内を明かさないエイダ、マリューは一瞬苛立つが冷静になり、別の話を切り出す。
「………なら、別に聞きたいことがあるわ───シンラくんのことよ」
「まぁた、あの子を道具しているとかそんなの?しつこいわよ?貴女」
「地球に降りて直ぐ、シンラくんの身体を少し調べさせて貰ったわ」
「………………………なんですって?」
初めてそこでエイダの声音が、冷たく心臓を締め付けられそうな感じに聞こえる。
だがマリューは気にせず話を続ける。
「彼の血中酸素濃度が通常の人間の10倍以上だったわ」
「………………………」
「更にそれだけじゃなく、彼には遺伝子調整を受けた痕跡もない。
にもかかわず、これまでの彼の戦闘能力はどうやったら説明がつくのかしら?」
そう問い詰めるマリューに、エイダは鋭く射殺すように睨む。
そんな中、バナディーヤから戻ってきたカガリが急ぎ息を切らしてやってきた。
「き、キラと!あ、アイツが!砂漠の虎に捕まってる!!!」
その言葉にマリューは驚き、エイダも眼を大きく開いて焦点があっていなかった。