シンラとキラがバルトフェルドの屋敷に連れてかれたと言うカガリの衝撃的な報告は、瞬く間に艦内に広まっていた。
だがそれはカガリの早とちりのようなものだが、だがアークエンジェルの面々はそんな事など露とも知らなかった。
ニュートロンジャマーの影響により、まともな通信など出来ようはずもなくムウは焦り、シンラたちとは別行動で武器商人と弾薬補給の為に商談を果たしていたナタルもこれには驚き、キラの友人のミリアリアたちも心配して、シンラの上司であるエイダは落ち着きがない。
マリューもまたシンラとキラがこのまま帰ってこないのでは?もう二人は既に砂漠の虎によって命を奪われたのか?
そんなマイナスな思考しか出てこない。
だがそんな時だった、二人が無事に帰ってきたのは。
皆帰ってきたシンラとキラを心配し、その無事に安堵した。
「ったく!心配させやがってこいつぅ~!」
ムウがシンラの首に右腕を絡め、左手で彼の頭をグリグリと押し付ける。
「しょ、少佐!やめてください!なんですか!!」
ムウからの絡みにめんどくさく反応するシンラ、そんな彼を見てキラやマリューは笑みを浮かんでいた。
「でも良かったわ。本当に」
「か、艦長にも、ご迷惑を!」
ムウに絡まれながらマリューに対して詫びを入れる。そんな彼の無事に謝罪なんていらないと首を左右に振り、気にしないでと優しく言ってあげた。
そこへエイダがやってきた、皆誰もが何故か息をのむ。
マリューはエイダを睨む中、彼女は気にせずシンラの傍らまでくると彼の頭をソッと撫でた。
「ど、ドクター…」
「良かったわ、シンラ……無事で」
微笑む彼女。今まで厳しい1面しか知らなかったアークエンジェルの面々からしたら、この光景は思いもよらぬモノであった。
まるでそれは、行方を心配していた息子と再会できた母親のようである。
それからキラは、ミリアリアたちと安寧の時間に浸っている。
「キラァ!!」
「もう!!心配かけて!!!」
「ごめんね?ミリィ、フレイ」
友人であるミリアリアとフレイに抱きしめられるキラ。ミリアリアの目には既に涙が溢れていた。
キラが砂漠の虎に連れてかれたと聞いてから居ても立ってもいられず、ただ祈り続けていた。
「でもほんと、無事でよかった」
「ああ。そうだな」
「うん」
サイやトール、カズイもキラの無事に喜んでいる。そこへカガリがやってきた。
「おまえ…その無事で、良かった」
「うん、カガリもごめんね。心配させて」
「いいって!別に……」
一方シンラは一人になって、艦内の展望エリアで考え事をしていた。
「………」
「こんな所で考え事?シンラくん」
「…艦長」
振り返るとマリューが優しく笑みで彼の隣に立つ。二人して何か言うというわけではなく、そのまま展望から見える砂漠の景色を見つめる。
すると最初に口を開いたのはマリューであった。
「…………危険な目に会わせてごめんなさい、シンラくん」
「………え?」
いきなりの謝罪にシンラは間の抜けた声を漏らす。
「わたし…貴方に少しでも息抜きになると思ったの…でもまさか、こんなことになるなんて思わなくて………ほんとにごめんなさい」
「………艦長、謝らないでください。今回のは想定外のことですから」
「でも、襲ってきた武装集団は、貴方と同じ…………」
シンラとキラが無事に帰還した後、彼はマリューとムウ、ナタルそしてエイダに自分がバナディーヤで起きた事を報告した。
ブルーコスモスの武装集団を殲滅した事を、そして砂漠の虎と接触してしまった事も当然話した。
マリューとムウ、ナタルは驚愕する一方、エイダは難しい顔を見せた。
当然であろう、何せ同じブルーコスモスに属する者たちを殺したのだから。
だがシンラは、殺した相手に自分が何者かなど悟れてはいないと伝える。
「………確かにそうですが、しかし向こうは暴走して、此方の生命すら脅かす可能性が高かったので……なので自分は自衛をしたにすぎません。それに自分が此処で死んでは、パワードを動かすものが居なくなります」
「シンラくん…」
「俺は、言うならばパワードを、モビルスーツを、動かすデバイス…」
っと無表情にまるで冷たく答えるシンラの口を、マリューが突然人差し指を当てて止めた。
そんな行動をとったマリューの顔はとても悲しい表情をしていた。
「………そんな、自分をそんな風に言わないで…お願い………」
「………す、すみません…」
などと何とも言えない空気になり、マリューも自分が今何をしたのかハッとなって急ぎシンラから少し離れた。
「ご、ごめんなさい!!いきなり、こんな!!」
「い、いえ…か、艦長は悪くないですよ」
「「………」」
何とも言えない二人、何故か二人して顔を赤くしてしまっている。
少し時間が流れる中、徐にマリューが口を開いた。
「…………ねぇ、シンラくん」
「は、はい………」
「その、良かったら……だけど、二人の時に名前で呼んでくれるかしら…」
「名前、で、ですか?」
いきなりの申し出に動揺するシンラ、マリューは恥ずかしげにチラチラと覗かせる。
「わかりました。じゃ、じゃあ……マリューさん、っと呼びます」
「えぇ…よろしくね」
マリュー自身どうしてこんな事を言ったのか、自分でも分からない。
しかしシンラに対してこんな風に接する自分を悪いとは思わなかった。
するとシンラの足下に何かがコツンとぶつかる。
「ん?これは………」
「シンラくん?」
「ミトメタクナーイ」
それはラクスがいつも一緒にいる丸いペットロボット•ハロである。
それをシンラは拾い上げた。
「こいつは………」
「ラクスさんが連れている………」
「ピンクちゃーん、どこに居るのですかー?」
「ん?」
っと其処へ本来部屋に居なければならない筈のラクスが、ハロを探し歩いていた。
するとラクスが来たことに気づいたハロは、すぐさまラクスの手のひらにジャンプする。
「ダメですわよ?ピンクちゃん。勝手に」
「オマエモナー」
「ラクス、見つけた?ハロ」
「キラ」
っともう一人、キラがやってきた。彼女が来てシンラはどうしてという顔になるが、実はキラは先ほどミリアリアたちと艦内食堂で楽しんだ後、ラクスの部屋に遊びに来ていた。
二人っきりで楽しく話していた中、ある話をしていた矢先にハロが跳び跳ねながら部屋から出ていったのだ。
まるで誰かを探すように艦内を跳び跳ね移動し、その終着点がシンラがいる展望エリアである。
「ラクス、部屋から出たらダメじゃないか。戻らないと」
「ごめんなさい」
「シンラくん。いいわ、わたしが許します」
マリューが優しい笑みでラクスが此処に居ることを許した。
「シンラ!ラクスに冷たい!」
「……いや俺はその、すまないラクス。良かったら一緒に居よう」
「っ!はい!」
ムスッとした顔でキラがラクスに抱きつきつつ、シンラに苦情を入れる。
シンラも悪いと思いラクスに共に居ようと告げると、ラクスは心より喜んだ。
マリューはそれを見てクスクスと嬉々としていた。
それからは四人で話すことに。
「でもキラとシンラにケガがなくて良かったですわ」
「ほんとに無事に帰ってくれて嬉しいわ」
ラクスとマリューに言われてシンラは申し訳ないと感じ、キラもシンラと同じく感じていた。
「でも、敵の指揮官、なんていうか不思議な人だった。ね?シンラ」
「そうなの?」
マリューが首を傾げつつシンラに問いかける。彼は真顔で首を縦に振り、自身が対峙した時の印象を素直に伝えた。
「はい。軍人と言う割には陽気な男でした。しかし豹変したように突然虎のように睨みをぶつけてきたんです。でもまた陽気に戻るなど同じ軍人とは思えない男でした」
「アンドリュー・バルドフェルド....隙がない男だと言うことね」
「その方、ご存知ですわ」
ラクスがシンラとマリューの会話に混ざる。彼女のバルドフェルドを知っていると言う言葉に「え?」っと口から漏らす。
「知ってるの?ラクス」
「はい。その方の副官にあたる方が、わたくしの父と親交がありまして。お話しする機会の際にそのバルドフェルドと言う御方の話も聞き及んます」
キラの問いにラクスは笑みを浮かべ、スラスラと話してくれた。
「………アンドリュー•バルドフェルド…か」
っと自身の敵である人物の名を口にし、シンラの顔が険しくなる。
それをラクスがコツンと彼の眉間をつつく。
「ダメですわシンラ。そんな怖い顔しては幸せが逃げてしまいますわ」
「お、俺に幸せなど………」
「ダメよ、シンラくん」
幸せなどいらないと言おうとしたが、マリューが阻んだ。
「シンラくんはもっと素直になるべきよ。軍人として兵士として言う考えは分かるけど、貴方だって生きてるんだから……ね?」
「お、俺は………」
「うん。シンラも生きて此処に居るんだから、もっと自分の望むことを言って!」
ラクス、マリュー、キラの三人もそう言われるシンラ。
自分に戦い以外での生き方など考えたこともない、だが彼女らにそこまで言われて悪い気がしないと思う自分が微かにいた。
「……………」
それを物影からエイダが真顔で盗み聞きしていた。何を思ったのか、彼女は懐より正方形のアクセサリーを取り出して仕掛けのスイッチを押した。
そこには写真が入っていたのだ。それを見ながら彼女は一人語る。
「…………あの子はそんな安い未来に生きないわ。あの子は、シンラは、最上にして最高位の存在なのよ。
次元が違うわ───ナチュラルや私たちコーディネーターと同じ未来に生きるなどあり得ないのだから…」
そう口にしつつエイダはそのまま彼らに気づかれることなく、その場を後にしたのだった。