先の戦闘の勝利を手に入れたアークエンジェルの面々。
彼らは今、レジスタンスの基地に戻りサイーブらと戦いに勝ったことへの祝杯に興じていた。
「明けの砂漠に!」
「勝ち取った、未来に!」
杯を一同に掲げてコツコツとカップを当て合う音が鳴り、グイッと注がれている飲み物を飲む。
マリューは良い飲みっぷりを見せるが、ナタルは弱いのか酒の強さに負けて噎せてしまった。
それを見ていたサイーブたちは可笑しく笑って楽しんだ。
同じく酒を楽しんでいるムウが、真剣な顔で此れからの彼らレジスタンスの今後を憂う発言を口にした。
「でも、まだ大変だなぁ、あんた達も。虎が居なくなったって、ザフトは居なくなったわけじゃない。奴等は鉱山が欲しいんだろ?すぐ、次が来るぞ?」
明るい雰囲気に水を差す口振りに、サイーブは持っていた杯を置いて代わりに傍らに置いていた銃を手にした。
「その時はまた、戦う。戦い続けるさ!俺達は。俺達を虐げようとする奴等とな!」
決して支配など許さない、屈しない、負けないと彼らはそう胸に誓いサイーブの言葉に同調するように杯を高く掲げる。
「父さん!戦士を送る祈りをするって、長老が」
「ん」
サイーブの息子・ヤルーが父を呼びにきた。宴の席ではあったが彼ら一同にして移動し、祈りを行う場所へと向かう。
弔砲が基地内に響き、皆先ほどのにぎやかな喧騒があったとは思えない静けさの中、長老が散っていた戦士たちの名を呼び上げていく。
彼らに倣い、そしてこの戦いで散った者たちを弔うべくマリューたちアークエンジェルクルーの皆も祈る。
「戦い続ける、か」
その中で一人呟くムウは満天の星空と自分たちを照らす月明かりを見つめた。
──────────────────
祈りが終わりアークエンジェルへと戻るマリューら、そこへエイダが両腕を組んで待っていた。
マリューはいぶかしみながら、彼女に近づいた。
「どうしたの?エイダさん。貴女、祝杯にも来ないで」
「そんなのはいいわ。それよりも、"彼ら"をどうするのかよ」
"彼ら"──その言葉にマリューは難しい顔になった。ムウもこれは不味いと思い、話を切り止めさせようとする。
「まぁまぁ!その話は後日…」
「貴方は黙ってなさい」
「サー!マム!」
「………はぁ」
余りの気迫に思わず敬礼して黙るムウ、それを見て情けないと呆れてため息を吐いたマリューは、顔をキッと鋭くさせてエイダに強く言う。
「"彼ら"──アンドリュー・バルトフェルドとその連れの件に関しては、既に決まったはずよ?」
「だとしても敵指揮官である人物をみすみす生かすなんて愚の骨頂、しかも相手はゲリラ戦のエキスパートとも言われた男……危険だわ、排除すべきよ」
「それでも──シンラくんが願いでたことでもあるわ」
「…………」
エイダはそこで黙りマリューを睨む。二人が言い争いをしてる最大の理由、前回の戦闘で倒した砂漠の虎こと、アンドリュー・バルトフェルド──彼はあの時死んだのではなく、乗っていたモビルスーツを地面に叩きつけられて気絶してしまう。
目が覚めた頃にはアークエンジェルの者たちや、レジスタンスたちに囲まれ万策尽きたと言う状態だった。
レジスタンスの皆は砂漠の虎に深い恨みがあるため、此処で殺すと殺意高々に声を上げる者が多かった。
だが────
「………彼らを、捕虜にしてください、マリューさん」
「シンラくん………」
キラの胸の中で眠っていたシンラが眼を覚め、彼女に支えられながら苦しげにマリューに嘆願する。
「戦闘は終わりました……彼らは敵兵でありますが、しかしもう戦う意思は残っていない……」
「………そうね。シンラくんの、言う通りね」
彼のこの言葉に誰も言い返すことなど出来ず、バルトフェルドらはアークエンジェルの営倉に勾留することに決まったのだった。
レジスタンスらは納得できないと声を荒げる者はいたが、サイーブが──
「俺たちは自由が欲しかったはずた。おまえたちは虐殺がしたかったのか?」っと鋭い眼をしてその言葉を投げ掛けると、レジスタンスの仲間たちは萎縮しもう誰もバルトフェルドたちを殺せとは言わなくなった。
そうしてバルトフェルドたちのアークエンジェルへの勾留は確定し、現在二人は営倉にいる。
だがエイダは未だ納得はしていない、シンラが例の覚醒状態でバルトフェルドを仕留め、彼の新たな経験値になって欲しかったのだ。
「どう言おうと、彼らはもう捕虜です。以上」
「………では、彼らが、逃げたしたその時はどうするの?」
「逃げ出す?どうやって?営倉にいるんですよ?」
首を傾げるナタルがエイダにそう尋ねた。営倉に閉じ込められれば簡単には出られることは万が一にない。
それこそ見張りの人間からキーを奪って逃げるか、それか、誰かが手引きして営倉から出す以外にない。
前者は気を付けるとして、後者に関してはハッキリ言ってまずあり得ないだろう。
そんな敵兵士でありザフトの名将でもある砂漠の虎を営倉から出す人間など、アークエンジェルにいるはずがない。
「そうそう!杞憂杞憂!さぁさぁ!船にもどろう!」
「そうね」
「はい」
三人はそのまま艦に戻るべく向かっていく。
「確かに、そうかもね。でもあり得ないことだって起きるはずよ」
その背中を見ながらエイダは一人呟く。っとそこへ──
「待ってくれ!」
「え?」
マリューを呼び止めたのはカガリであった、彼女は真剣な顔でマリューらに近づいてきた。
「どうしたの?」
訝しげに問いかけるマリューにカガリは強い眼差しで口を開く。
「私をアークエンジェルに乗せてくれ」
「え?」
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その頃、アークエンジェル艦内ではシンラがある場所へと向かっていた。
前回の戦いから暫し休んだ彼は何を思ったのか、その場所に---営倉がある捕虜収容区にたどり着いた。
「これはユーリ大尉!どうしてここに?」
「.....少し彼らと話がしたいので、席を外してくれませんか?」
突然の申し出に見張り員は「え?」と首をかしげる。なんでいきなりそんなことを言うのか理解できなかったが、この申し出を素直に許すのは不味いと説明するも――
「万が一相手が暴れた場合、自分なら彼らを直ぐに制圧できます。それに責任は自分が持つので...お願いします」
「わ、わかりました。で、では席を外しますね」
見張り員はその場から出ていく。そしてシンラは営倉の中に目を向けつつ、独房に近づく。
すると中にいる人物――前回の戦いでシンラによって敗北し、アークエンジェルに捕虜となった男・アンドリュー・バルトフェルドが話かけてきた。
「おう、青年」
「......」
シンラは目を細める。何せ目の前の独房に閉じ込められている男は陽気に此方へと片手を上げ、胡坐をかいていた。
「.....アンタ、自分が捕虜だって自覚あんのか?」
「ん?別に僕らは好きでこうなってる訳じゃないしなぁ~。なぁ?アイシャ」
「ふふ、そうね。アンディ」
っと別に何ともないようにバルトフェルドは、自分と共に同じ独房に入れられた恋人であるアイシャに問いかける。
その恋人である彼女も今自分が置かれている状況に悲観など一切せず、ただ優しく笑みを浮かべてバルトフェルドの隣に寄り添っている。
「で?どうしたんだい?何しに?」
「........アンタたちを気にかけにきた」
「....それだけ?」
「ああ」
キョトンとするバルトフェルドとアイシャ。自分たちを倒して捕虜にした男が、突然にそんなことを言ってくればそりゃそうなる。
すると――
「プ!フハハハハハ!なんだね、それはぁ!ハハハ!」
「ふふふ、可笑しいわぁ~」
自分たちを倒しておいて、その上自分たちを気にかけにきたと聞かされれば笑いもするが、笑われる側としては機嫌が悪い。
「.....俺じゃない。アンタらを気にかけてるのは、キラだ」
「ほう?お嬢さんか」
そう。バルトフェルドたちを気にしていたのはシンラ――ではなく、キラである。彼女はバルトフェルドたちのことを敵という認識を強く持つことが出来なかった。
バルトフェルドの為人のせいなのだろう。だが此処にその彼女が居ないことにアイシャが気になった。
「だけどそのお嬢さんが居ないようね?」
「彼女には内密で来た。正直敵であるアンタらと会わすのは気が引ける」
「ふ、過保護だねぇ」
バルトフェルドはシンラのキラへの過保護ぶりに嘲笑する、その態度に眉間に皺を寄せるシンラ。
「なんだ」
「君は彼女を大事にしてるようだね」
「それがどうした」
何を言いたいのか、何かを探るようにバルトフェルドは問いかける。
確かにシンラはこれまでずっとキラのことを守り、庇うなどしてきた。
だがそれは周りからしたら異常なぐらいの過保護、または執着と言っていいだろう。
「いやなに、彼女がコーディネーターだと知った時は多少ビックリしたが、この目で彼女を見て思ったのは.....彼女、元々軍人じゃない――そうだろ?」
「......」
「沈黙は肯定だぞ、青年」
図星を突かれた、バルトフェルドは瞬時にキラが軍人じゃないと断定したのだ。それをシンラは否定も肯定もせず沈黙するが、それがバルトフェルドにとっての欲しい答えとなる。
「......彼女は、元々は中立コロニーの住人で、ただの女学生だった」
「...そうか。それは難儀だったようだね」
その返答にシンラの神経を逆撫でした。
「...何が言いたいんだ?アンタは」
「君と彼女は、恋人かね?」
「.....それは」
言葉が詰まる、キラとは男女間の距離感がかなり近い方だった。そして遂に地球に降りてから男女の関係になり、身体まで重ねた。
シンラは目を逸らしてしまう。
「....か、彼女とは、その、恋人....じゃない」
「ん?」
「あら、そうなの?」
意外な言葉にバルトフェルドとアイシャは耳を疑う。特にアイシャから見てシンラとキラは恋人そのものに見えていた。
だがシンラはキラに対し恋人のように告白をした訳じゃない。確かに彼女にそうなってほしいと思うこと一瞬あったりするが、しかし自分は地球軍に属しましてやブルーコスモスの特務兵士でもある。
そんな自分がずっと彼女と一緒にいられるなど、夢のまた夢と言える。
「....俺は、地球軍の兵士だ。戦いの場に生きることしか知らない。俺は今まで沢山人を殺している....だから」
「だから、彼女とは結ばれてはいけない?そう言うのかね?だが彼女は既に地球軍に属しているようだが?」
「....俺が所属する部隊の司令官に嘆願する。その人にかかれば、彼女の除隊も可能だろう」
「はぁ~、....君は不器用な男だな。つまり君らの今の関係は共依存ということか」
「....」
バルトフェルドに言われるも、シンラは言い返す言葉がなかった。確かに自分とキラは互いに依存し依存し合ってると言っても過言ではない。
寧ろ今までそうやって来たのだ、しかしいつまでも彼女をこの戦争に巻き込み続けてはいけないと叫ぶ己が心の内にいる。
「....可哀想ね」
「ん?アイシャ?」
「....なに?」
っとアイシャがシンラに対し、憐れむように呟く。
「貴方、誰かを愛したことがないのね...だから何れ彼女を手放すことも考えてる。それは....身勝手なエゴね」
「....失礼する」
これもただ言われるだけでシンラは背を向けて、その場から出ていこうとする。だがバルトフェルドが呼び止める。
「最後に.....君はそう判断しているが、それが彼女の思いを踏みにじることになりかねないぞ?」
「....」
「残酷なことに繋がりかねない....肝に銘じておいた方がいい」
「.....機会があったら、また来る」
それだけ言ってシンラは出ていった。その背中を見てバルトフェルドは険しい顔をし呟く。
「....それに何よりも、君自身が壊れてしまうということにもなりかねないぞ?青年」