行方不明となったカガリの帰還から数日が過ぎた。アークエンジェルはアラスカ本部への航路を進み、現在太平洋を進んでいる。
だが.....
「回避!」
ブリッジにマリューの声が響く、それと共に戦闘の揺れが起こる。それはバスターがガンランチャー、収束火線ライフルの順で連結させた広域制圧モードの対装甲散弾砲でアークエンジェルに攻撃していたのだ。
「くっ!!バリアント、ウォンバット、てぇ!」
CIC指揮のナタルの指示で反撃をするが、これを難なく回避する。次いでデュエルがアサルトシュラウドの装備である115mmレールガン・シヴァで仕掛けてくる。
アークエンジェルの装甲に幾つか着弾、更にブリッツも攻撃する。イージスも続くように攻撃し、アークエンジェルの対空砲を二つ破壊する。
「イーゲルシュテルン、4番5番、被弾!」
「くっ」
トノムラから挙げられる被害箇所の報告に、マリューは苦虫を嚙み潰した顔になる。
本来、海上の飛行など出来ない筈のザフト側の四機のG兵器のモビルスーツたち。
それがどうして飛行できるのか、その理由は四機が下にして乗っている兵器にある。
グゥル...正式名称は「モビルスーツ支援空中機動飛翔体 グゥル」。
機体上にモビルスーツを乗せて搭乗MSからの無線コントロールにより、強大な推力を活かし飛行する。武装として6連装ミサイルランチャー2基を装備している。
そのグゥルに乗るデュエルが接近してくる、近い距離でアークエンジェルを仕留めようと向かってくる。
「足つきぃ!ここでぇ!!」
っとそのデュエルに猛スピードで突っ込む機影...パワードが通常形態の姿で、デュエルに襲い掛かる。
パワードの通常形態・ゼロは単機で大気圏内での高速飛行を可能にできる。
「デュエル...!」
シンラはモニターに映るデュエルを鋭い目つきで睨みつつ、そのまま攻撃を開始する。
「っ!!パワード!!貴様ぁ!!!」
自身に接近してくるパワードに気付き、イザークの怒りのボルテージが跳ね上がる。デュエルがビームサーベルを抜いてパワードを斬り裂こうと迎え撃つが、それよりも先にパワードがデュエルの頭上を飛び、からのキックを食らわせデュエルをグゥルから落とす。
「邪魔だ」
「なぁにぃ!!?」
度肝を抜かれるイザークのデュエルに、パワードがビーム刃と実体の刃を合わせ持っている二刀流の大きめな剣•デュアルセイバーを取り出し、両腕を切り裂きそのままデュエルを海面に蹴り飛ばす。
「イザーク!!」
背を向けているパワードにブリッツがビームライフルで仕掛ける為銃口を向けるが、まるで後ろに目があるのかと思う位、ブリッツがライフルを向けた同じタイミングでパワードが大出力ビームライフルを向けてくる。
「無駄だ」
「何?!うああああ!!」
ニコルは驚愕するがそれが仇になり、ブリッツより先にパワードがビームを発射しグゥルを破壊、重力下での単機飛行能力がないブリッツは海面に落下するのであった。
「ニコル!!クッソ!!相変わらず化け物かよっ!!!こいつは!!!」
アークエンジェルに攻撃していたバスター、しかしイザークとニコルが無力化された為6連装ミサイルポッドでパワードに攻撃、だがそのミサイルをキラが乗るエールストライクがビームライフルでそれらを全て撃墜。
「シンラはやらせない!!」
「す、ストライク!!この!!」
94mm高エネルギー収束火線ライフルでエールストライクを攻撃するが、しかしキラに目が行っている所為かムウのスカイグラスパーの存在に気付くのが遅れてしまう。
「とぉぉりゃぁぁ!!」
スカイグラスパーが装備しているランチャーストライカーのアグニが、バスターを乗せているグゥルの左翼部分に命中、バランサーがやられて思うように飛行がままならない。
「くそ!!チョロチョロ飛んでやがるくせに!!」
「キラ!!」
「はい!少佐」
バスターの隙が見えた。エールストライクがビームサーベルを抜いてバスターに仕掛ける。
「近接武器がないなら!!」
思いっ切り強くビームサーベルを振り下ろし、バスターの右腕を斬り裂いた。
「マジかよ!?」
ガンランチャーを使用不可能になり、94mm高エネルギー収束火線ライフルで反撃するが一発も当たりはせず、ストライクはシールドで防ぎながら飛行制御を巧みに操作しつつアークエンジェルの甲板へ戻った。
「そこ!!」
キラは甲板に着地した直後、バスターのグゥル目掛けてビームライフルを発砲。見事に直撃してバスターは脆くも海面に落ちていく。
「(こ、これほど腕を上げてるなんて…キラ…)」
キラの巧みな操縦技術に驚くアスラン。だが同時に争いが嫌いだった彼女がここまで戦いに染まる姿に、胸が痛む気持ちになった。
その時、イージスのモニターにパワードが映る。
「パワード!!...死神ぃ!!」
アスランはビームライフルでパワードに攻撃を仕掛け、複数発砲する。だがそれを難なく回避し、不規則で尋常じゃない軌道でイージスに急速に接近してくる。
「イージス、このままやる」
右腕部のシールドラッチに備え付けられた大出力ビームサーベルを展開、日本刀のように湾曲している大きなビーム刃でイージスに襲い掛かる。
「貴様だけは!!」
イージスもビームサーベルを展開してパワードに迎え撃ち、互いのサーベルがぶつかり合い鍔迫り合う。鍔迫り合うパワードとイージス、そこでシンラは態とレバーを下げて機体をずらす。
それが原因でイージスのサーベルが空を切り、隙が出来てしまう。そこへパワードがイージスの頭部目掛けてシールドで突き飛ばす。
更にコクピットに蹴りを入れて、吹き飛ばした。
「ぐぅう!!!」
あの機体性能も計り知れないが、パイロットも自分よりも遥かに力量が確実に上を行っている。アスランは悔しさが募るも、このままアークエンジェルや奴を見逃すなどしない。
絶対にここで仕留めなければならない、アスランがもう一度仕掛けようとした時である。
「領海線上に、オーブ艦隊!」
アークエンジェルに接近しつつある水上艦隊を見つけたとサイが報告する。カズイは「あっ!助けに来てくれたの?!」っと希望に満ちた歓喜の顔を浮かべるが、この状況にマリューは不味いと顔を険しくする。
「領海に寄り過ぎてるわ!取り舵15!」
どうして?という顔になるカズイとトール、だがマリューの危惧は正しい。オーブは地球連合に加盟していない独立の中立国であり、自国の領海に他国の戦艦やモビルスーツが領海近くまで戦闘していれば、自衛の為に軍を出すのは当然のことである。
「これ以上寄ったら、討たれるわよ!」
「そんな....」
希望に満ちていた表情を浮かべるカズイに対し、マリューは残酷な現実を突きつける。その時、ブリッジの出入口が開いた。
「構うことはない!このまま領海へ突っ込め!オーブには私が話す!」
「カガリさん...」
必死に訴えるカガリに、マリューは啞然としたがそこへチャンドラから報告が飛び込む。
「展開中のオーブ艦隊より、入電!」
その回線からオープンチャンネルで、展開中のオーブ艦隊から流れた。
《接近中の地球軍艦艇、及び、ザフト軍に通告する。此方はオーブ連合首長国第二護衛艦隊、指揮官のトダカ一佐である。貴官等はオーブ連合首長国の領域に接近中である。速やかに進路を変更されたい。我が国は武装した船舶、及び、航空機、モビルスーツ等の、事前協議なき領域への侵入を一切認めない。速やかに転進せよ!》
これ以上は間違いなく、外交問題となる。戦闘から退場させられ潜水艦のボスゴロフ級に戻ったイザークとニコルは悔し顔になり、アスランもこの状況に忌々しげに見つめる。
だがオーブ艦隊の砲塔は間違いなく彼らに向けられている。
《この警告は最後通達である。本艦隊は転進が認められない場合、貴官等に対して発砲する権限を有している》
だがこの警告に否を申す者が一人...カガリである。彼女はカズイからインカムを奪い、オーブ艦隊に通信を試みる。
「この状況を見ていて!よくそんなことが言えるな!アークエンジェルはこのまま領海に入る!だが攻撃はするな!」
《な!?なんだお前は!》
カガリが通信に割り込み、艦隊指揮官に食いつく。向こうも戦艦に子供が乗っていることに驚きつつも、子供相手などと突っ撥ねようとするがカガリの訴えの声は止まらない。
「お前こそなんだ!お前では判断できんと言うなら行政府へ繋げ!父を…ウズミ・ナラ・アスハを呼べ!....私は…私はカガリ・ユラ・アスハだ!」
「カガリさん!!」
彼女がオーブ代表の娘と知っているマリューやナタル、格納庫にいるエイダ、戦闘にいるシンラやムウ以外の者たちは、この言葉に驚愕する。
そしてアークエンジェルと交戦しているアスランも....。
「(カガリ...?)」
《…何をバカなことを、姫様がそんな船に乗って居られるはずがなかろう!仮に真実であったとしても、何の確証も無しにそんな言葉に従えるものではない!》
「なんだと!!」
艦隊指揮官は彼女がオーブの代表の一人娘だと信じ切れず、疑い続ける。カガリも艦隊指揮官のトダカに「石頭め!!」っと文句を言おうとした時、彼女の護衛であるキサカが彼女からインカムを取り上げる。
「自分はオーブ連合首長国陸軍・第21特殊空挺部隊に所属のレドニル・キサカ一佐だ」
《キサカ一佐!?どういうことだ》
通信モニター越しでトダカ一佐はキサカの顔を見て、顔見知りの反応をする。トダカ一佐がキサカに説明を求め、
キサカは冷静に説明をする。
「カガリ様はある事情から、アフリカの反ザフト勢力と共同で活動していた。その後、アフリカ方面のザフト勢力の戦力低下を鑑み、連合軍のアークエンジェルに乗船して行動を共にしている」
キサカとトダカの会話にマリューが割って入る。
「トダカ司令、小官は本艦アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアス少佐です」
モニターに映るトダカにマリューが話す。
「小官らはカガリ嬢がアスハ前代表の身内であることを知りませんでした。ですが、彼らがオーブの関係者であると知り、我々への支援を条件に乗船を許可しました。その時点では具体的な内容については相互に決めていませんでした。
しかし、その後にカガリ嬢が兵器を無断使用し、一時行方不明になる出来事がありました。その際にオーブ本国での補給を得ることをを条件にカガリ嬢の捜索を行いました。
以上が、オーブ方面に航行していた理由であります」
マリューの内容にトダカは目を閉じて何かを考える素振りを見せる。その間にもパワードはイージスと戦闘している。
ビームライフルの撃ち合いを行う中、アークエンジェルは今も領海近く飛行している。
そしてトダカが目を開き、マリューに問いかける。
『……なるほど、全てが明確ではないし、真偽のほども疑問の余地が残る。だがとりあえず事態は了解した。それで、貴艦は我が国への入国を希望するか?』
「はい、こちらは今の戦闘で損害が出ました。整備補修ができないまでも、態勢を立て直す時間を得るためにも、本艦は貴国への入国を希望します」
マリューの交渉は上手いやり方ではないが、こちらにカガリがいる限り交渉は可能であるし優位に立てる。通信記録からも偽物とは今更言えないと思える。
仮に疑っても、少なくとも本国に確認はするはずである。それにこの艦にはオーブですら厄介な人間が乗っている、もし何かしらの強行を行うならブルーコスモスが黙っていないかもしれない。
『わかりました。本国に確認します。とりあえず、現海域で待機されたい』
その間、残った敵機であるイージスはパワードに押されつつある。やはり機体の性能とパイロットの力量の差が圧倒的な為、他の三機が既に戦線離脱したのも災いしてもうイージスに...アスランに、パワードを抑える力は残っていない。
「くそ!!死神!!」
睨みつけるアスランにロックオン警報が鳴る。その方角を見ると、そこにはビームライフルを此方に向けているストライクがそこにいた。
「き、キラ!?」
「....アスラン」
彼女が今、自分に狙いを向けている。それがアスランにとってショックであるが、キラは覚悟しているとはいえ幼馴染であった彼に対し申し訳ないと言う気持ちがない訳じゃない。
でも彼女はアークエンジェルを守る為に銃口を向けている。
そこへボスゴロフ級に帰還しているニコルから通信が...
《アスラン!!帰還してください!!》
「....了解っ」
アスランはストライクを悲しい目で見つめた後、今度は目の前にいるパワードに対しては憎悪にも似た感情で睨んだ末、撤退していった。
漸く戦闘が終了し、ひと段落を着いた。だが今はオーブとのやり取りである、戦闘が終了してから約一時間が経過した。
オーブ艦隊からの新たな回答がでた。とりあえずアークエンジェルはオーブ第二護衛艦隊の監視の下、オーブの本国で軍事施設が集中するオノゴロ島に向かった。
オノゴロ島...本島の南方に位置する島。軍事の中心地であり、国防本部と軍事産業の中枢であるモルゲンレーテ社の本社及び工廠が存在しており、厳重な警戒態勢が常時敷かれ人工衛星からの監視も不可能な高いセキュリティを誇る。
港の北側の岸辺山肌にはモルゲンレーテ秘密ドックへの入り口が存在し、アークエンジェルはそこからオノゴロ島へと秘密裏に入港した。
入港直後、会合の場が設けられることとなった。マリュー、ナタル、ムウ、そして今回エイダを混ぜた4人は通された部屋にてある人物と対面する。
オーブ国代表――ウズミ・ナラ・アスハと....。
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一方、オーブ領海から離れた海域の水中、アスラン率いるザラ隊の面々を乗せたボスゴロフ級の一室にて、イザークの怒鳴り声が木霊する。
「こんな発表!素直に信じろって言うのか!」
彼が机の上にある書類を乱暴に叩き付けた。その内容には我が国の領海侵犯した地球軍艦アークエンジェルは既にオーブから出ていったと言うことが書かれていた。
だがそんなものを彼らは一人も信じちゃいなかった。
「足つきは既にオーブから離脱しました。なんて本気で言ってんの?それで済むって、俺達バカにされてんのかねぇ。やっぱ隊長が若いからかな」
などとアスランに対して嫌味を言って見下し笑いを浮かべるディアッカ。だがアスランは腕を組んでそれを聞き流して冷静な姿勢を崩さない。
「ディアッカ!」
ニコルがアスランを擁護すべくディアッカを諌めようとするが、アスランが口を開いた。
「そんなことはどうでもいい。だが、これがオーブの正式回答だと言う以上、ここで俺達がいくら嘘だと騒いだところで、どうにもならないと言うことは確かだろう」
「なにを!」
冷静なアスランにイザークは気に入らんと怒りを向ける。だがアスランは尚も説明する。
「押し切って通れば、本国も巻き込む外交問題だ」
だがそれをイザークとディアッカは納得など出来ない。なのでアスランは....
「カーペンタリアから圧力を掛けてもらうが、すぐに解決しないようなら、潜入する」
「足つきの動向を探るんですね?」
ニコルの問いにアスランは首を縦に振る。相手は仮にも一国家。確証もないまま、自分達の独断で不用意なことは出来ない。
ヘリオポリスの時とは訳が違う。オーブの軍事技術の高さや軍の規模も言うまでもないだろう。表向きは中立だが、裏はどうなっているのか計り知れない、厄介な国である。
アスランの姿勢にイザークは先ほどの怒りの表情が消え、透かしたような笑いを浮かべる。
「ふん!オーケー従おう。俺なら突っ込んでますけどねぇ。流石、ザラ委員長閣下の御子息だ。ま、潜入ってのも面白そうだし、案外奴らの....あのストライクのパイロットの顔を拝めるかもしれないぜ?そして、パワードのパイロットの顔もな」
「....」
そう言ってイザークはディアッカと共に部屋から出ていく。
アスランはイザークの言葉に思い考える。確かに潜入出来さえすればそこで彼女...キラと直接会える。
「(キラ....)」
彼女の名を心に呟くのであった。